《完結》『Hereafter Apollyon Online』~超高クオリティクソゲーの生産職で巨大ロボット造って遊ぼうとしてるのですが何故か勘違いされます~   作:西沢東

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それいけ!融合型Apollyon!

 核と一口に言っても様々な種類がある。核ミサイルの中でも弾道ミサイルから核砲弾まであるが17式は近距離から遠距離まで全ての距離に対応する化け物である、らしい。あのミサイル発射口から出る核は威力自在飛距離自在という軍事関係者一同に土下座してもらわなければならない性能である以上、この距離でとる選択肢などわずかしかない。

 

 融合型を起動する、それだけだ。

 

「勘次、本当にこれがリアルってわかってるんだろうな!?」

「でも目的達成できないのが一番駄目じゃない?」

「オレンジに正論を吐かれるのは極めて腹立たしい、が、仕方がないか……」

 

 辛辣なセリフを吐き捨てたクーちゃんこと『海月』は周囲に触手を漂わせた上で『ファルシュブルー』の肩から降りる。テオも触手に掴まり着地し、融合型Apollyonを見た。この状況から逃げるのはまあ無理だ、核なんて即死攻撃を撃てる敵に背中を向ければ爆殺されて終わり。ならイチかバチかで、本当に目の前で命が失われるとしても立ち向かったほうがマシだ。

 

 まあ何よりも実感がわかないというのが事実だろう。いくら証拠があるとはいえ目の前に落ちている肉片が本当に命ある現実のものであるとは受け入れがたい。VR機器を介しているが故に感覚が制限されているのもその一端だ。

 

 そんなわけで本当の未来とやらであるはずなのに体はいつも通り軽快に動き出す。『ファルシュブルー』はその鈍重な装甲に見合わぬ軽快な動きで積もり積もった死体を飛び越え一気に宙へ跳ね上がった。

 空中から周囲を見ると改めてその惨状が理解できる。数百人以上の人間の死骸、散らばる無数の金属部品、そして砲撃痕であるクレーター。その中心に陣取る17式の左後ろに目的の融合型Apollyonは存在した。

 

 ボロボロである。装甲が剥がれ落ち金属の内臓が露出しているそれは巨大ロボットというよりは怪獣だとか地球外生命体だとか呼ぶほうが適切な有様だ。だがそれでもそこに勝機はある。かつて取りに行った修理部品の存在だ。

 

 詳しく説明を受けたわけではないがあれは戦地でも素早く融合型を動かせるようになる特殊パーツであるらしい。今回の作戦でわざわざ部品を持って無限地平線に挑むのは自殺志願ではなく持って行きさえすれば短時間で戦力にする機能があるからだ。

 

 なら完全に修理することはできなくとも片手だけ動かせるようにするだとかそういったことは不可能ではないはずだ、とテオの右手に握られた鍵とどこからともなく鳴り響く噴射音を尻目に考える。第一関門、部品をこちらまで呼び寄せる電波が妨害されないかという賭けには成功した。

 

 そして第二関門は部品の着地と使用を阻害されないことだ。動かない右腕部を無視し左手だけでUK-14を抜いて17式に向ける。UK-12の球のような体から無数に生える人間の手らしきものでありながら、無数の金属の目が張り付いているそれが一斉にこちらを見た。よし、この銃がやべえってことは知っているんだなこいつも。

 

 無数の手が一斉に迫る。それらは器用なことにあたりに落ちている金属塊や結晶樹を掴んだかと思うと風切り音とともにそれらを投擲した。

 

「やっば!」

 

 直観に従い全力で回避、しかし避けられなかった一発が迫りくる、が俺には隠し玉があった。コクピット内の紅いスイッチをONに切り替え大きくレバーを倒す。そして勢いよくブレードを抜き放ち近づいてくる結晶樹に剣の腹の部分を叩きつける。

 

 本来のブレードとしてはあり得ない運用であるが、6メートルはあるであろうその結晶樹はブレードとぶつかると異常な不協和音を奏で勢いよく逆方向に吹き飛ぶ。ついでに他の投擲物を巻き込んでがしゃん、と17式の体に叩きつけられるのを見て俺は満足げにうなずいた。その背後でブレードから排出された数十センチ四方のカートリッジがごとりと落ちる。

 

 これがMNBを利用した熱反応式指向性爆裂カートリッジだ。MNBによる大量の発熱を受けて爆発し特定方向へ一気に加速させることができる。今までの人工筋肉のみに頼った方法よりも遥かに威力が出て、しかもMNBの熱を利用するので冷却材代わりにもなるわけだ。唯一の難点はタイミングをミスるとエネルギーが変な方向に行ってしまうことだ、と3回転し無様に着地しながら思う。

 

 だが効果は絶大だった。17式がダメージを受けたわけではない。だが投擲で死ななかったことから面倒な相手だと判断したのだろう、完全に全ての目がテオ達から離れる。……いや、面倒な相手と認識したというよりは生け捕りを諦めたのか。いずれにしても融合型を蘇らせる隙ができるならば好都合だ。

 

 17式の上部から生えた砲塔がぎろりと動き赤熱を始める。MNBの冷却を待ちながら俺はじりじりと『ファルシュブルー』をテオ達の反対方向に向かわせていく。クレーターと無数の遺体の破片があるその区域は放射能検出装置でもあればビービーやかましく警告音を鳴り響かせるのだろうが残念ながら終末世界なだけはある、そのような機能は既に無いようであった。放射能で死ぬ前に機械獣に殺されそうだしな。

 

 視界の端に見覚えのあるコンテナが映る。特急便だなおい、とはいっても最低数十秒、着地して整備するのを含めれば数分はかかるだろう。うーん間に合うかなぁと思いながら続いて飛び込んでくる投擲物の群れを回避する。

 

 見立て通りと言えばそれまでであったがわざわざ通信をジャックして誘い込むという回りくどい真似をするだけのことはあり、根本的にこいつは遠距離特化のボスキャラである。あの無数の目で相手を観測し撃ち落とす精密ミサイルこそがこいつの本質である以上見かけ以上に時間稼ぎは可能そうであった。

 

 時たまカートリッジを使って拘束されているプレイヤーにぶつけたりと嫌がらせをしながら核を警戒する。だが17式は撃たない。一撃で粉砕する隙を見計らっているのだろう。無数の投擲物による破砕音が鳴り響く中、17式の背後でついに部品が到達した。融合型の内部にテオが潜り込む姿も見える。

 

 そして17式は次の瞬間全ての目を俺からテオ達の方に向けた。遅れて俺も何が起きているのかを理解し思わず硬直する。

 

 部品は宙に浮いていた。着地する前のコンテナの隙間から水銀の臓器のようなものがぐちゃりと流れ出て地面に落下していく。それらが大地に倒れこむ融合型に絡みつき、寄生、いや一体化していく。融合型Apollyonの装甲が至る所で不自然にぼこりと盛り上がり体内を犯していた。

 

 17式の背中の砲ががちゃりと変形し無数の爬虫類の足が大地を踏みしめる。だがそれよりも遥かに、あまりにも不自然な早さでその巨人はむくりと立ち上がった。頭部の装甲がバキリと音を立てて剥がれ落ちる。そこには見覚えのある、無数の皮を剥いだ機械獣の頭部が鎮座していた。

 


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