《完結》『Hereafter Apollyon Online』~超高クオリティクソゲーの生産職で巨大ロボット造って遊ぼうとしてるのですが何故か勘違いされます~   作:西沢東

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構図

「思ったより怪我してないんだな」

「逆だ、再生にエネルギー使い過ぎて動けなくなっているんだ。触手生えているのもその証拠だ、『SOD』としての能力を使用したから出てきてしまった」

「『SOD』って組織名なのか種族名なのかどっちなんだよ」

「どっちもだ。本来は種族名だったのが組織名として用いられているからな。だからオレは脱『SOD』した『SOD』だ」

「めんどくさっ」

 

 俺はマスクを着けていたからともかくテオは付けずに外に飛び出していた。しかし酸欠の様子がない。レイナと同じだから低濃度の酸素でも大丈夫なのか、と思ったら急に咳き込み俺の方に向かって合図を送る。もしかしてマスクか、と思い予備を投げつけると正解のようで直ぐにテオは顔に装着した。どうやら霧が喉にダメージを与えていたらしい。

 

 結晶樹の横に倒れた彼女を持ち上げ慎重に『ファルシュブルー』によじ登り、そして肩のくぼみに座る。彼女をそこに横たえたテオは発進してくれ、と俺に言った。いや、普通にそいつ乗せるの嫌なんだけど。

 

 マスクを通じた音声通話と『ファルシュブルー』のカメラが肩の様子を捉える。歩き出した『ファルシュブルー』の揺れによりようやく彼女は目覚めた。Ver3.00でログインした瞬間に俺を殺しに来た不届き者は、腰から生えた海月のような触手を少し動かし、テオに触れて驚いたような顔をする。

 

「テオか……?」

「クーちゃん、久しぶりだな」

 

 まさかのクーちゃん呼びである。もしかして元カノだったりするのだろうか、明らかに親密さの桁が違う。少し下世話ではあるがなるほどリスキルしてきたときにテオが庇ったわけだ、なんて思っているとクーちゃんの目が大きく開く。それはテオではなく、『ファルシュブルー』の機体を見てのものだった。

 

「オレンジ……! 貴様」

「はいはい負け犬は落ち着け、その戦いは『焦耗戦争』で終わっただろうが。ここにいるのは引用情報に成り下がるまでのカウントダウン待ちの人間と、そして本物の人間だ。それに暴れてもまた躱されるぜ」

「クーちゃん? の出自がよくわからないので解説頼むわ。急に出てきてライバルみたいな面されても困る」

 

 そう言うとクーちゃんは怒りと虚無をごちゃまぜにした表情のままテオの膝から体を起こして固まる。テオはどう返していいものか、と少し悩んだ後口を開いた。

 

 曰くこの金髪女、『SOD』の元幹部にして『焦耗戦争』の主導者の一人、『海月(クラゲ)』だとか。ただし敗北して捕らえられた後、戦力として使うべく爆弾を括り付けた上で運用していたらしい。確かに彼女の着る作業服にはいくつものベルトが巻き付けられており、黒い首輪が自己主張をしていた。

 

 『ファルシュブルー』の足を進めながら、少し話を聞いてみようかと考える。『HAO』が未来ならば近いうちに『焦耗戦争』とやらがおきるはずだ。ならばその情報を聞いておけば上手く立ち回れるかもしれない。例えばどこかの株を買うとか。

 

「『焦耗戦争』とやらは何で起きたんだ?」

「……それを私に聞くか?」

「オレが答えようか。結論から言うと起こさざるを得なくなった、というのが解答になる。『革新派』も鋼光社も上手いことやったもんだぜ」

「? 聞いた話と違うぞ」

 

 深い霧の中話もよく分からなくなってくる。テオに問いかけると想定外の答えが返ってきた。当たり前だが『SOD』は自殺志願者の群れではない。そしてHereafter社に反する組織であり、過去の栄光に縋る亡者共だ。そしてその機械獣としての性質を持つ体は素晴らしいサンプルだ。

 

 さてこうなると自身らは迫害され、捕まれば実験台にされる日々が続くのに反撃もできない状態となる。無限にフラストレーションが溜まる中で教義の過激化は止まるところを知らなくなる。そんな中で『HAO』が始まり彼らの神を殺すという宣言が鋼光社により発せられ、それに答えるようある仲間がぼそりと言ったのだ。

 

『警告を与えねばならない。我らが神を殺すなどと言う不届き者に』

『我々の迫害への報いを受けさせねばならぬ。正しい敬意を人々は持つべきなのだ』

『我らの案は彼らのものより優れている。実行する力を見せつければひれ伏して我らを救い手と崇めるだろう』

 

 その怒りに、その歪んだ自尊心につけ込むようなこの言葉たちはたちどころに『SOD』内部に広がり鋼光社への攻撃を行わざるを得なくなってしまった。裏で主導したのは言うまでもなく──

 

「『革新派』か」

「正解。迷惑な『SOD』の怒りを擦り付けてついでに鋼光社の弱体化も狙ったわけだ。それに対抗するかのように新技術展示会という罠を張ったわけだけどな」

「罠?」

「……各国要人や企業代表が来ていただろう。我々は力を見せつけなければならなかった。その時に最も最適なのは開会式か閉会式の、全ての重要人物が一堂に集まるその瞬間だ。私は誘導されているとわかっていながらそれを止めることはできなかった。当時の私もまた、歪んだ自尊心が暴走した一人だからだ」

「そうやって『革新派』により爆発した『SOD』を罠にはめて一網打尽にすることで『焦耗戦争』を抑え込むわけだ」

 

 『焦耗戦争』の開戦の由来は確か「未来改変信じないor許さない勢」VS「鋼光社等」であり、開戦の原因とかも有耶無耶になっていたみたいな説明を受けた記憶がある。実際は『SOD』が一番に突撃し、続いて未来改変を信じない者たちや利権に絡めとられた者たちが便乗し鋼光社を潰そうとしたとのこと。それをテロリストVS正義の鋼光社という構図で確定させてしまい、かつ一瞬で終わらせることにより便乗し大事にすることを不可能にしてしまうわけだ。まあテロリスト側につきたいやつはいないし、いても大義名分が立たないから長続きしないよな。

 

 因みに誘導しなかった場合対象がスペースイグニッション社やそのほか『革新派』の仲間を巻き込み全世界に被害が拡大するだけらしい。それを日本の鋼光社だけにターゲットを絞らせることで戦場をある程度抑え込んだのだ。まあ抑え込んだといってもたかが知れているとはテオの弁である。その表情、相当面倒な事態になっていたんだろうな……。

 

 ……ちょっとまてよ、それならバトロワとかする必要なくないか? あんだけ衆目集めるとむしろ都合の悪いこと起きるんじゃなかろうか。そう思った俺に対してテオは「多分だけどな」と言葉を続けた。そしてそれ以上は自分の目で確かめな、と教えてくれなかった。

 

「分裂体が『同期』できる理由を探りに行くのさ」

 


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