《完結》『Hereafter Apollyon Online』~超高クオリティクソゲーの生産職で巨大ロボット造って遊ぼうとしてるのですが何故か勘違いされます~   作:西沢東

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1ピース目が修正されました

 公開されたバトロワ表を見たが何もわからない、というのが本当のところであった。だってほとんど知らない。海外勢っぽい名前が複数載っているが聞いたことありません。誰ですか皆様。

 

 結局本当にあの一瞬で開会式は解散となってしまいすぐに紅葉は俺を会場から連れ出していた。なんか声をかけられたが紅葉に腕引っ張られてたんだ、すまんな見知らぬ人たち。そんなわけで会場外に出た俺たちは時間つぶしがてらに展示を見て回ろうとしていた。もちろん目的は決まっているのだが。

 

「試合は3日目なんだよな? ならまずは実物大Apollyon!!」

「言うと思ったわ。まあそれくらいの時間ならあるからじゃあ行こか。第3展示会場やからすぐそこや」

 

 紅葉の言う通り本当に目と鼻の先に会場はあった。直方体型の即席ホール。コスプレはそのままなので視線を無限に集めて恥ずかしい。しかし思ったより人混みが少ないなと思い聞いてみると妥当な回答が返ってきた。

 

「入場制限かけとるからな」

 

 よく見ると会場の観客は全員リストバンドを装着しておりそれぞれにタイムリミットが表示されている。イベントでたまに見る装置で滞在時間を制限することで会場内の人数をコントロールする手法だ。あれ、俺たちは? と思って右手を見るといつの間にか銀色のバンドが服の袖にピン止めされている。どうやらこれがVIP用のものらしく時間制限は無さそうだ。

 

 レイナ、俺、紅葉、カナの4人で会場内に入ると人混みの中で複数の大きな人影に視線が吸い込まれた。見覚えのある機械の足で立ち、搭乗者を待つ巨人がそこにいた。赤色の単眼が鈍く光り人工筋肉が露出している。それぞれの関節は分厚い固定具で留められており、装備を接続するための端子の上にカバーがされていた。4メートルほどのその巨人は武装を換装する前の骨格の姿で立っていた。

 

 会場は即席のものらしくきわめて簡素であり、辛うじて取り繕っているカーペットとむき出しの床が対照的である。だがそれは仕方がないと目の前にある12機の量産型Apollyonの群れは思わせる。

 

『量産型Apollyonの優れている点の一つは製造の容易さです。既存の車両、重機、義肢の部品をそのまま流用することが可能です。そのためオレンジ氏により製法が公開されてから早2か月でこのように大量生産できています。現在鋼光社はこの他に32機の量産型Apollyonを保有しています』

 

「マジかよ……」

 

 冗談ではなかった。あれは間違いなく俺が自分の手で改造したこともある量産型Apollyonそのものだ。パネルには『量産型Apollyon』とだけ書かれており、商標登録の申請中である旨が書かれている。量産型Apollyonブースにてスピーカーから機体の解説が朗々と流れだしてくる。俺はそれをただ茫然と耳にしていた。

 

『また本製品の最大の特徴として装備の換装システムが挙げられます。掘削機から運搬用の荷台まで腕に対して簡単に接続することが可能です。これらもまた既存の重機等に対応できるよう複数の規格に対応しており運用コストを大きく下げることができます』

 

 全て知っている。既知の情報であり『HAO』が現実とコラボしているというのは本当であるようだ。……本当にか? 全ての前提が食い違っている気がする。確かニュースでRE社が訴訟がどうとか騒いでいたが、あんなことがあれば逆に製品の質が落ちるだとか認可が取り消されてしまうだとかするのではなかろうか? あれは不運だとか読み間違えたとかではなく、例えば鋼光社とHereafter社による共謀、いやでも真面目に考えれば意図的に流出させたら敗訴確定? 

 

 頭の中が再びグルグルと回りだす。混乱した様子の俺を見てカナはニヤニヤし、レイナはただ首を傾げ、そして紅葉は複雑そうな表情をしていた。

 

「夢のリアル巨大ロボットじゃないのかな?」

「そうなんだけど、なんでこんなにゲームそのままなのかなって疑問がでてきたんだよ。だってロボアニメを商品化したら普通はプラモデルとかフィギュアなのに、これは明らかに企業向けだと思ってさ」

「えーっと、でも勘次君は発売されたら買うんやろ?」

「間違いなく。これのために家を探すまである」

 

 断言するとせ、せやねんなと紅葉が少し引いたような表情になる。でも俺みたいな趣味を持たない人はあまり多くないはずである。こびりつく違和感、しかし解決しない謎。何というか、パズルの1ピース目の配置を間違えてしまっているせいでいつになっても誤った完成図ができてしまっているような、そんな感覚。

 

 それを引き裂いたのは目の前の3人ではなく背後からかけられた声であった。

 

「失礼します、オレンジ様でしょうか?」

「はい、そうです?」

「本日本ホールの管理を担当しております佐藤と申します。試合開始前の練習として操縦体験を優先的に行って頂くことができますが、いかがしましょうか?」

 

 そこにいたのはスーツを着て『会場見回り中』と書かれたタスキをかけた、サングラスにスキンヘッドの大男だった。その低音に一瞬ビビるものの、警備の人なら逆にこういった見た目の方が安心できそうだと立て直す。因みに他の女性3人はビクリとすらしていない。心臓金属製かよ。

 

 そして俺の答えは勿論決まっ……「こんなに早く出会えるとはオレは本当に幸運だぜ」思考が完全に停止する。2度目だ。カナに続き、『HAO』内で初めて出会いその後にこちらで顔を合わせた人物。きっとこいつは俺と気があうのだろう。華奢な体つきに青いロングの髪を持つ、男か女か迷う彼はにやりと俺を見て笑った。

 

「初めまして。テオだ。とはいってもその表情だと会っているのか?」

 

 その軽薄そうで意志を秘めたその声に茫然となる。本当に『HAO』とは何なのか。ただのシミュレーションか他の何かなのか。混乱する俺の頭と裏腹に口だけは無言の時間を埋めようと空回りし続ける。

 

「あー、何か似たやつは居たけど」

「おいおい、こっちはわかっているんだから誤魔化さなくてもいいぜ」

「オレンジ君、行くで」

 

 コスプレを継続したままであったことが幸いして俺の表情が見えなかったことが唯一の救いであった。テオは答えをただ告げた。パズルの1ピース目が間違えていると。お前の前提、ゲームが実は〇〇だったなんて空想じみたことがあり得るわけがない、というそれ自体が間違いと思考のずれの入り口であったと。

 

「『HAO』は本物の未来と接続している。オレはどうだ、楽しくしてたか?」

 


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