《完結》『Hereafter Apollyon Online』~超高クオリティクソゲーの生産職で巨大ロボット造って遊ぼうとしてるのですが何故か勘違いされます~   作:西沢東

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『SOD』とは

「意味が分からないですわ! あなたが先陣を切れば初日に物事が全て終わったのに……!」

「仕方がないじゃろ、そもそも隙間がないし無くすために奴らは式を省略した。そんなこともわからんとは、これだから礼儀知らずの若造共が」

 

 開会式が終わり、各国の要人がホールを離れた少し後、マンホールを下った先にある地下水路。とはいっても所詮は下水を流すためのものであり豪雨や氾濫があまり起きないこの地域ではその大きさはあまりにも小さい。

 

 だがその中で蠢く複数の影があった。彼らは地下水路を歩いてきたのではなく、自ら地下水路を作り出してきた。40歳ほどの背の低い太った男の能力だ。土を液状化し様々な形に変換することができる。『土竜(もぐら)』と呼ばれるその男は無秩序に伸び散らかす髭を撫でながら不機嫌そうに言い返す。

 

「儂の体験してきた戦いでもそうじゃ。兵力のそろわぬ時に奇襲をかけると死ぬ。機を見るだけではいかんということすらわからんとはこれだから餓鬼は」

「『土竜』!」

「ふんっ」

 

 一方怒りをあらわにするのが『蜻蛉(とんぼ)』だ。闇に紛れるための迷彩服を着ているものの、その所々に和風の刺繡が施されており、口調と共に彼女の出自を物語っている。既にその家は消滅したが。

 

 元々『蜻蛉』はせっかちで、そして何より自分を自分たらしめる力の根源への崇拝がある。だからこそ彼女は『土竜』との会話を一瞬で打ち切り自身が『SOD』で唯一尊敬できるとすら言える人物を探し、今まさに隠し通路から入ってくるのを見つける。『土竜』より大きい、170cmほどの身長とくびれた体を勢いよく回転させ、その場にいる最後の一人に呼びかけた。

 

「お姉様! 『土竜』に対し制裁を! この者は反逆者を一網打尽にするチャンスを無視し作戦を台無しにしたのですわ!」

「『海月』! お前からこいつに年寄りへの敬意というものを教えてやれ!」

 

 『蜻蛉』が叫ぶと同時に『土竜』が負けじと声を張り上げる。しかし目の前で仲間割れが発生しているにも関わらず『海月(くらげ)』は平然としていた。整った顔かたちではあるものの筋肉質で190を軽く超えるその体は見るものを圧倒する美しさがある。何より『海月』の髪は薄い金色、正確には黄と白が混じったものであった。これは神により近づいている証であり、崇拝を集める記号である。

 

 『海月』はじろりと二人を睨み、表情を変えずに端末を取り出した。

 

「妨害にあっていたようだが本日ようやく彼女が到達する。対策無しに白犬レイナという怪物がいる状況で攻め込むのがどれだけ無策か理解はしているな? また『土竜』、アタシは敬意とは敬うに値する行動を見せつけることで自然に生まれるものであると考えていたが」

 

 『海月』の言葉に二人はうっと言葉を詰まらせる。この二人からしても彼女の功績は認めざるを得ないものがある。『基底崩壊』による組織内の秩序崩壊を防ぎ纏め上げ、小規模な抗争においても幾度と勝利を納めいわゆるマフィアとして裏社会に影響力を持つようになったのは『海月』の実力に他ならない。

 

 そして最も重要な話であるが彼らは厳密には能力者ではない。この地下水路を掘ったのも、生身で異常な警備をかいくぐり偵察を行えたのも能力によるものであるが彼らは『基底崩壊』以降の能力者とは大きく性質が異なるのだ。

 

 言ってしまえば彼ら『Subordi(眷属たち)nates』は機械獣としての性質を持って生まれている。ロシアは人工的に獣人を生み出したが、それ以前に同種の存在は確かにあったのだ。そんな彼らは己の持つ能力により時に栄華を極め時に迫害され、密かに歴史を紡いできた。例えば『土竜』の家系は古くより建築家の一門として、『蜻蛉』は統治者としてその正体を隠し過ごし続けていた。それらはドワーフや妖精などとおとぎ話に紛れ世界の陰に隠れた『UYK』の痕跡、天然の獣人であるのだから。

 

 『海月』の臀部からは幾つかの金属製の触手が伸びており、その目の前に立つ『土竜』の両腕は人ならざる金属の厳つい腕となっている。『蜻蛉』もその背中には薄い透明な金属羽根を折りたたみ『MNB』と最近は呼ばれている能力で飛翔することができる。

 

 そういった人外達が『基底崩壊』後に迫害から逃れるために『UYK』に縋り、崇拝を始めたのだ。かつての規模に比べれば遥かに小さくなるが、教義と迫害されているという連帯感は以前より遥かに組織内部の繋がりを強くしていた。

 

「焦るな。神の裁きに抗う者達を許してはならないが、その前に我々が死するのは神の意図の外だ」

 

 故に彼らは2050年の破滅を自身らを迫害し地球を汚した人類への裁きであると認識している。だからこそ彼らは幾度となく未来を変えようとするHereafter社、スペースイグニッション社。そして何よりオレンジを許してはおけないのだ。

 

 『土竜』と『蜻蛉』は先程の喧嘩腰とは打って変わって冷静になり、土を変換して作られた鈍い銀色の金属椅子に座りこむ。そして床に紙の地図と名簿を取り出す。地図には複数のポイントと矢印が新技術展示場最奥のホール、先ほど開会式を行った場所に向けて描かれている。名簿には日本以外も含む様々な名前が並んでおり横にはEやCといったアルファベットが並んでいる。

 

「Cが3級じゃったか。今見ても信じられん、あれだけ力を誇った我らが気が付けばこの程度の能力に成り下がっているとは」

 

 『基底崩壊』が発したSi虚重原子群により多くの能力は効果の低下並びに不発化が発生した。虚重原子反応が空気中のSi虚重分子と副反応を起こし目的反応の進行を阻害するためだ。これによりかつては強力な能力を保有する者たちが警官にすら敗北する状態となっている。『蜻蛉』の金属羽根も『基底崩壊』に適応できておらず起動するたびに自壊する欠陥品に過ぎない。

 

「気に食わんがあの女に頼るしかないようですわね。目には目をとは言いますが、気分が良くないですわ」

「気に入らぬのであれば抜けてもよい。破滅がまた近づくがな」

「……それはいたしませんわ。彼らは未来予知の恐怖を理解していません。使用者を死に近づける装置を民間人に使用し、いたずらに裁きの力を増やすだけの愚行だけは止める必要がありますわ」

 

 そして彼らも恨みだけで『HAO』を止めるつもりはない。論理的な理由がいくつもある。

 

 まず『HAO』を利用することにより『UYK』並びに分裂体が『同期』を行う。これを繰り返すことにより破滅はより悪辣に人を殺す形へ変貌していく。今はまだよい、だがいずれ人類の進歩より破滅の進化の方が早くなる。そうなれば人類は詰んでしまう。勝ち目はない。

 

 仮に鋼光社の言う通り2040年までの殺害に成功したところで今度は分裂体の暴走が始まる。彼らは各国の利害調整や破滅を信じないものたちの隙間を搔い潜り46体の分裂体と『UYK』を同時に殺害しなければならない。当然彼らの『同期』による対策を乗り越えて、だ。

 

 そんなリスクだらけの賭けを行うのはHereafter社の精一杯であるだろうが『SOD』には許容できることではない。故にテロを起こしてでも止めるのだ。要人が集まり、一度に大きな被害を与えられるからこそ行う意味がある。そして。

 

「やるぞ。我らの正義のために。真の箱舟を作り出すために」

 

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