《完結》『Hereafter Apollyon Online』~超高クオリティクソゲーの生産職で巨大ロボット造って遊ぼうとしてるのですが何故か勘違いされます~   作:西沢東

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ダンディー

 一旦建物を降りてプレイヤーの人込みに紛れてテオと歩く。その中でまた先ほどの話を思い出す。融合型Apollyon。レイナの説明によると分裂体と機械獣のキメラを巨大な人型にしたものだったか。融合型の残骸が凄まじくグロテスクであったことは確かに覚えている。脳のある場所に無数の小さな金属製の頭蓋骨があるのだ、勘弁してほしい。

 

 しかしあれはハリボテではなかったのか、そう聞くとレーションを齧っていたテオは当然のように答えた。

 

「そりゃ融合型Apollyonも進化したからだ。MNB搭載型は歩く要塞だ、あいつがいるだけで分裂体のヘイトは全て引き付けられるし本体の性能も十分だから便利なんだぜ」

「聞いてた話と本当に違うな。研究者が恐怖の上にたどり着いたとか言ってたけど」

「『革新派』にも色々あるんだよ。融合型ApollyonはそもそもEUのプロジェクトの残骸で、それを無理やり形にしたのがEU出身の『革新派』メンバーなんだ。獣人とかはロシアの『革新派』メンバーだな」

「つまりEUがチキンってこと?」

「以前はな。……お前のお陰だよ」

「?」

 

 テオと同じく口にレーションを加えながら頭に疑問符を浮かべる。レーションが不味いという話は過去のもので大分改善されているようだが、融合型Apollyonも改善したのか。しかしそれと俺が繋がらない。

 

 お味は牛肉風ではあるもののパサパサした感覚が違和感を掻き立てる。味覚再現ここまでしなくていいのに、とむせる俺に水を差しだしながらテオは答えた。

 

「お前だよ。ただの個人と1企業で未来が変えられることを証明した。2年かけてVer1.06にしかたどり着けなかった彼らには青天の霹靂さ」

「でもVer1.08でもまだでくの坊だったぞ?」

「本当に彼らの意識が恐怖、そして人工惑星からズレ始めたのはVer2.00、2055年の作戦成功率が0でなくなった時だったんだ。お前分かってるのか、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「なんだそりゃ」

「スペース社長は知らんが『革新派』の多くが人工惑星に期待するのは技術の革新と、何より『UYK』からの逃避だ。無理ゲーから逃げることが出来てしかも人類の先導者になれるわけだから乗るしかない。一方で地元愛が凄い奴とかは宇宙に逃げずに済む方法を『革新派』に入りながら探していたりするんだ、それができるのならば別に宇宙に拘る必要もない」

 

 人工惑星とやらは宇宙に人間を逃がす計画だと雑な説明をされる。つまり『UYK』から逃げて新天地で無双しようぜ派が『革新派』……だったはずが可能性が広がって揺れていると。しかしこのVer設定、やはり一つ一つが平行世界という設定なんだな。あまりにも今更の理解をしながらテオの話に相槌を打つ。

 

「それで融合型を強化したのか」

「EU勢が頑張ったからな、本来の計画にかなり近いスペックを得られているはずだ。オレもVer3.00の成功率を知らないから何とも言えないが10分の1くらいはそいつらの努力によるものだ。オレは嫌いだがな」

「?」

「こっちの話だ。あと他のモノも色々改善されている、例えばレーションには人肉まで入っていたとか」

「やっぱそうなのかあれ。確かにヤバい空間だったよな、勝手に借金させてきやがるとかクソすぎる」

「今回は外部からの食糧調達が困難な環境での資源システムが構築されている。前回のデータを元に大きく調整が入ったんだ。最も分かりやすいのが炭素と水出発の虚重分子による触媒的変換でグルコース等の分子変換が可能になったという話だな。炭素棒と水を詰め込めば砂糖やら何やらが造れるようになって大分楽になった。この二つなら破滅前に宇宙に打ち上げておくのも容易だからな」

「でもここ宇宙じゃないだろ?」

 そう、ここは宇宙ではない。無限地平線があることからわかるだろうが地球の、恐らく日本だ。だからこそ今の話は答えになっていないと思ったのだ。そう聞き返した俺にテオは背後を指さすことで答えた。そこには広場があり、プレイヤーがいて、そして柱が3本突き立っている。確かそのうち1本はロケットだったか。では残りの2本は何なのか。

 

 その答えは直ぐに柱から出てくる。柱は傍から見ると灰色の円柱にしか見えない。だが遠目から見ても電柱などとは比べ物にならない半径数メートル、高さ30m超えの物体である。そこに昇ることが出来るように階段がらせん状に設置されていてNPCらしき人物がそこを歩く。そして当たり前のように何もない柱にたらいを乗せるとそこから立方体型の何かが出てきて……!?

 

「あの柱にも同じシステムが組み込まれている。元々は日本勢の『革新派』が開発したものでそれを『教団』が借り受けている形だ。だからここでは人肉を食べる必要などない。水は再生する必要があるが、地上なら雨が降るからな。除染すれば問題ない」

「『革新派』と『教団』は敵対してるんじゃなかったのか?」

「はぁ、それもお前のせいだろうが。無限地平線の調査は必須だ、2055年の作戦は成功させなければならない以上それは間違いない。そして最も早い段階で最も確実に調査する方法は多重予知能力者、予言者オレンジの力を頼る事だ。今回に限り『革新派』と『教団』の目的が一致している」

 

 いや知らんが、と脳内で答える。しかし確かに前Verと比べるとかなり改善されていそうだ、と周囲を見渡す。確かVer1.08ではNPCは数百人は流石にいるか、という程度のものであった。しかしこの基地単体で3000人以上いることは明らかで、基地は地上に複数あってさらに宇宙の人工惑星にも人がいる。話を聞く限り人口は人工惑星の方が多いだろう。そう考えるとVer1.06の頃と比べると状況はかなり改善してきていると言えるのだろう。

 

「っと、目的地はもうすぐだ。お前にとっては既知のメンツが揃っているぞ」

 

 テオが右斜め前の大きな建物を指さす。他の建物が2階建てがほとんどで結晶樹を素材にしているのに対してこの鈍い金属の建造物にその様子はない。恐らく跡から見るに機械獣の外殻を素材とした装甲で覆っていると言った所だろう。俺も『ファルシュブルー』を注文した時に検討したから多分そうに違いない。

 

 しかしテオの言う見覚えのある、とは一体どういうことだろうか。その答えは意外と直ぐに帰ってきた、眼鏡を掛けた30手前のしかし貫録を感じさせる男。大きな傷跡が額から右目にかかるように存在し、無頓着に作業着を着ているがその腰には拳銃がぶら下げられていた。髭が少し生えていたりと俺の知っている姿とは少し異なるがその名前を確かに知っている。

 

「久しぶりだなオレンジ」

「仲本先輩!?」

 

 ダンディー眼鏡先輩がそこにいた。

 

 

◇◇◇

 

 

 

仲本先輩。同じ大学の先輩にしてゲーム仲間でもある人だ。しかしやっぱり知り合いがNPCになっているのを見ると運営への呆れがわいてくる。……というか真面目にこの精度のNPC作るのどうやるんだろう。シミュレーションどうこうと言うには余りに違和感なく、自然と知り合いと同一人物だと確信が持てるこの技術はやはりおかしい。

 

そんな疑問を再び覚える俺を他所に二人は親し気に話し始めた。

 

「仲本、オレンジを連れてきたぜ」

「感謝する。――5年ぶりに彼の顔を見て少し安心した。俺たちの行動は確かに次へ繋がるんだな」

「まだこれからだぜ。無限地平線を攻略してからが全ての始まりだ」

 

 顔見知り、という表現は微妙であろう。二人の心を許した感じはそれこそテオが言っていた戦友、という言葉がぴたりとあてはまる。……というか眼鏡先輩の所属は一体どこなんだ? そう思っていると眼鏡先輩の後ろにある扉からひょこり、と見覚えのある姿が出てきた。白い髪の毛に獣人特有の耳を持つ、ボディースーツを纏った女性。

 

「いらっしゃっていたのですね。お久しぶりですお義父様」

 

 なるほど、仲本先輩は『教団』所属なのか。だからこの建物から出てきたわけか、と悪戯娘を見る。おしとやかな空気纏ってるけどこの前の動画アップロード事件忘れてないからな、要領を得ない曖昧な言葉で紅葉に怒られる羽目になったんだからよ。あと激辛から揚げロシアンルーレット事件。

 

 しかしこうなると後三人くらいいてもおかしくなさそうだが、と周囲を見渡す俺を見て少し仲本先輩は少し寂しそうな表情をした。

 

「鋼光君も白犬君も、そして君も2055年の作戦で死んだ。2060年に向けての戦力として残された俺やカナ君、愛華くらいだ、ここにいるのは。愛華は今第7基地の方へ出向いているが」

「なるほど、じゃあ向かうのはここにいる4人なのか?それともプレイヤーを募るのか?」

「融合型Apollyonに興味ありすぎだろお前、まあ前もそうだったけどよ。結論から言うと他プレイヤーだと足手まといになるし仲本はしばらくこの街の統率をしなければならない。NPCだとか言いながら殺人する奴が出るだろうしな」

「だからカナ君とテオ、そしてオレンジで回収に行ってもらいたい。回収用の装置はあるよな?」

「問題ないぜ」

 

 テオはそう言うと腰から一本のスティック状の物体を取り出した。青白いその本体にディスプレイが付いている。テオはこれを鍵だと言った。

 

 融合型Apollyonの修理部品は質量という意味でも機密と言う意味でも重い。そのためそれぞれの部品は機械獣に食べられないよう分裂体の部品を混ぜた装甲で覆い大地に投下。鍵の電波を受信し、融合型Apollyonに取り付けるためのMNBを利用して再び浮かび上がり部品を待つ者達の元まで行くのだ。ただしこれは2055年までの仕様であったらしい。

 

 電波というものは意外と遠くまで届かない。世界が金属の鱗に覆われた今ならなおさらである。そして鍵1つで部品を手元に呼び寄せる為に、街同士での通信を可能にするために至る所に撒かれていた中継機はこの5年で軒並み動かなくなってしまったようなのだ。大地の侵食には勝てなかったらしい。そんなこんなで電波の届く場所まで向かい部品に向かって鍵をポチっと押さなければならないのだ。

 

「……って鍵の所に部品は飛んでくるなら俺たちが鍵持ってったらその場で屈伸して終わりにならないか?」

「そんなバカなことは流石に無いぜ。移動可能な地点は鍵、そしてそれぞれの基地だ。だから基地を指定すれば問題ない」

「なるほどな。いやゲームであるじゃん、セーブポイントを上書きしてしまったせいで死に戻りによる場所移動が失敗する、みたいなさ」

 

 テオはそれを聞いて納得したようなしないような微妙な表情をする。そういうのがないのならまあいいんだけど。という事は部品回収して、ロケット回収して……ちょっと待てそもそも融合体ってどこにあるんだ? 聞いてみるとミサイル着弾地点の近くらしい。なるほど、部品とプレイヤーの軍勢を2055年の作戦の際に置き去りにされた融合型Apollyonの元に飛ばすことで何とかするわけなのか。

 

 まあ作戦は一先ず理解した。攻略戦本番前の前哨戦としては十分なものあだろう。きっと中ボスとか出てくるに違いない。そのためにはやるべきことがある!

 

「そのためにまずは俺のApollyonの整備だな!」

「え?」

「どうしてですか?」

「いやどうしてって……?」

 

 が、皆の反応が薄い。解せぬ、極めて合理的な発言をしたはずなのにこの扱い。仲本は合点がいったかのように頷きながら「忘れてるかもしれないが」と前置きして説明してくれた。

 

「機械獣は電気を求めている。例えば石油や虚重金属などの発電器官を回すためのものやあるいはバッテリーそのものなど、電気そのものを食べることもある」

「つまり?」

ご飯(Apollyon)を機械獣に見せびらかすべからず、だ」

 

 なんてことだ、と俺は膝をつく。返してくれ、俺の『ファルシュブルー』を。まだ見ぬApollyonを。というか生身の戦闘出来ないんですが、死ねという意味なのでしょうか。

 

 こうして俺たちはまさかの生身での大地探索に赴く事になってしまったのである。

 


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