《完結》『Hereafter Apollyon Online』~超高クオリティクソゲーの生産職で巨大ロボット造って遊ぼうとしてるのですが何故か勘違いされます~   作:西沢東

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レンズ

『こちら人工惑星『オーサカ』所属宇宙軍量産型Apollyon第3部隊、目的地点に到着した』

『こちら人工惑星『ロンドン』所属宇宙軍混成第2部隊、了解した。現在の目標観測データを送信する。戦闘開始まで後1分もない。気を抜くな』

『勿論だ、死ぬ気で整備してくれた田中社長に顔向けできねえようなことはしねぇよ』

 

 これはVer3.00と呼ばれる世界の物語。空に煌く『虚重副太陽』に背を向けながら3騎の量産型Apollyonが宇宙を舞う。量産型Apollyonはどれも薄いオレンジ色をしている。『虚重副太陽』の光に紛れるようなそのカラーではあるがその反面機体の威圧感は凄まじい。アンバランスな小さい腕、肥大した機動用の脚部、背中についた航空用の虚重水素ブースター。背中には巨大な砲を一丁背負っておりその脇には作業用アームとショートブレードが格納されていた。

 

 かつて月と呼ばれたその地域を彼ら『革新派』は支配下に置いていた。だがそのためには以前のVerより更に勢いづいた鋼光社に頼らざるを得ず、結果として人工惑星『オーサカ』を丸々引き渡す羽目になったわけだが、それでも着々と『革新派』はその野望に向かい足を進めていた。

 

 そして今回に限り彼らの目的は一致していたし、足を引っ張りあう余裕すらなかったとも言える。デブリの影に量産型Apollyon達が身を隠した瞬間目的の生命体は姿を現した。

 

 彼らの眼下には絵の具をぶちまけたかのようなおどろおどろしい色の混ざり方をした星、2060年の地球が映っている。そして地球を遮るかのようなその影は蛾のような姿をしていた。胴体に十文字に痛々しい傷跡は2055年の露払いにてつけられたものだ。足の代わりに金属の触手が生え、獲物を求め星の間を飛び回っているその生命の名を月の『UYK』と言う。

 

『目標確認。作戦開始まで後5秒。4、3、2、1、』

 

 彼らは月の『UYK』に散々苦しめられてきた。人工惑星という破滅した地球から逃れる手段を得たことで少なくとも人類が全滅することは避けられたはずであった。しかし現実は月の『UYK』による襲撃が全てを台無しにしている。2055年の作戦の前、討伐戦が行われ深手を負わせることが出来たがそれ止まりでしかない。だから2060年、プレイヤーがログインしてくる前にもう一度処理する必要があった。

 

 広大な宇宙には破滅した地球、廃棄された人工惑星『パリ』のデブリ、それに隠れるApollyon達。『虚重副太陽』と人工惑星『ロンドン』。そして月の『UYK』が漂い、その虫のような独特の口が粘液とともにがばりと開く。そこから見えるのはかつて仲本豪の使用していたガトリングレールガンのようなものであったが、しかしその大きさは常軌を逸していた。全長100m以上、口径1mを超えるそれは自身の触手を質量弾として音速の何倍もの速さでばら撒く殺戮兵器である。戦車の口径が2040年代でも15cm程度であったことを考えればどれだけの威力であるかは誰しも察しがつくであろう。

 

 その砲は人工惑星『ロンドン』に狙いをつける。月の『UYK』は未だに恨んでいるのだ。己がまだ小さいときに月そのものを太陽とする『虚重副太陽生成計画』により全身を燃やされ苦痛を与えられたことに。その造られた太陽がエネルギーを人工惑星に与えどれだけ多くの人間を救おうとも月の『UYK』にはただの放火でしかなかった。

 

 砲塔が熱を帯び薄っすら紫に変色する。金属の体が縮こまり数少ない人類の生存圏を消し去ろうとしたその時。

 

『0。アンカー射出!Apollyon隊機動開始!』

 

 デブリの影から3発の弾丸が飛び出す。不意打ちの射撃は狂いなく月の『UYK』に命中し体の奥深くに刺さる。

 

 だがそれだけだ。起爆するわけでも毒が回るわけでもなく。疑問を抱いた月の『UYK』がその虹色に怪しく輝く複眼を向けると飛び出すApollyonの姿があった。彼らは全員MNBを用いたうえで宇宙航空用ブースターを起動し3方に散る。宇宙空間は重力が無く力がかかった方向に進んでいく。そしてMNBにより1㎏未満に削減された重量であればApollyonの背中に外付けできるブースターでも十分に亜音速に近い速度を維持することができた。

 

 しかし当然ながらそんな機動をすれば中の人間はシェイクされて死亡するしかなくなる。故に。

 

『脱出成功。遠隔操作に切り替える』

 

 そもそもApollyonにわざわざ人が乗る意味はない。Apollyonの最大の利点は滅茶苦茶になった地球の地形を人や物を輸送しながら突破できる点にある。だからこそコクピットという最も安全な場所に乗り込むのだ。逆に言えばそういった制約がなければVer2.01でヒニルがやったような無人機で全く問題ないのだから。

 

 量産型Apollyonがアンカーに引っ張られ月の『UYK』を中心に円軌道を描く。3台はそれぞれ直角になるような軌道を取ることで月の『UYK』に狙いを定めさせないでいた。Apollyonが銃を構える。『鋼光社製融合型Apollyon用燃焼兵器UK-17』は液体酸素を燃焼させ劣化ウラン弾をアンカーの方向に向けて射撃を開始した。

 

 宇宙空間では音が響かない。しかしまるで音が鳴っているかのように錯覚するほどの破滅的な軋みが月の『UYK』から生まれ、金属の内臓がぼろぼろと零れ落ちる。その中には先ほどのガトリングレールガンやUK-16などコピーした道具の群れもまたここに入っていた。

 

 月の『UYK』は聞こえない悲鳴を上げ全身を大きく旋回させる。臓物が千切れるのも気に留めないその動きはアンカーで固定されたApollyon達を振り回し、姿勢を歪め互いに衝突させようとした。またあの生き物だ、あれらがまた私を苦しめる。許してはならぬと全身全霊を込めて。

 

 が、それより早くアンカーを巻き上げApollyon達が接近する。Apollyon達は触手に攻撃されることも顧みずMNBの出力を上げ加速を開始した。体に張り付いたApollyonは背中に折りたたまれた刃を引き抜き射撃の傷跡をえぐり出そうと人工筋肉を限界を超えて稼働させ肉を裂く。だから当然の如く槍のように触手の群れがApollyonのはらわたに突き刺さり、そして彼らの保有するフラッシュグレネードが自動で起爆した。暗い宇宙を一瞬だけ閃光が覆う。

 

『陽動ご苦労!』

 

 閃光の後に来たのは同じく閃光、しかし圧倒的な熱量を持つ灼熱であった。月の『UYK』が最期に見たのは皮肉にも自らを燃やしたあの虚重副太陽の光である。

 

 

◇◇◇

 

 

『ご苦労様だった、鋼光社の諸君』

 

 労いの言葉は敵対する『革新派』の人間でありながら真であった。月の『UYK』の亡骸の遥か後方には巨大で半透明な装置があった。彼らはこれをただレンズ、とだけ呼んでいる。虚重副太陽のエネルギーを一点に集め照射する、単純でありながら恐ろしい威力を秘めた熱線兵器である。威力を高めるべく虚重副太陽近辺に配置された補助レンズが熱線を集めて送り威力を高めていたのだ。

 

『味付きレーション一つでも奢ってくれよ』

『勿論だ、地上に着いたら準備しよう。何せこれでようやくプレイヤーがログインするための資源を送ることが出来る。そっちに有機物系を依頼したが大丈夫か?』

『ああ、集めておいた有機物はコンテナに詰めおわっている。これでスムーズにログインが可能になるはずだ。前回までは影響力がたかが知れていたが今回のオレンジ文書のせいで人が押し寄せるだろうからな。以前のようにあり合わせではどうにもならないだろう』

『同感だ。こちらも金属資源の準備は終わった。出来るだけ性能の良いものを準備しておいたからプレイヤーの助けになるだろう。予言者様の作戦が上手くいってほしいものだ』

『お前も予言者様を信じてるのかよ、『革新派』の連中はスルーしてるのかと思ってたぜ』

『そんなわけなかろう。ましてや今回は『無限地平線の攻略』だ。上手くいけば世界救済が大幅に早まる』

 

 無限地平線の攻略を宣言した予言者様の実態は知らぬが仏と言う奴であろう。無限地平線を攻略したいとぼやく勘次にカナが嫌な笑みを浮かべながら動画のアップロードを勧めただけであり、肝心のカナも面白くなればいい、ついでに皆が困っていると楽しいという馬鹿みたいな理由であったりする。

 

 だがその言葉は確かに世界を動かした。

 

 無限地平線。地球の『UYK』の弱点と思われる場所。2055年の作戦現場であり、生存可能区域から大きく離れているため通信も出来ず情報を遺すことの出来なかった区画である。故にこの段階においても完全に未知の空間でしかなかった。

 

 それを攻略するという宣言は重い。事実『革新派』は予言者の未来予知により無限地平線の攻略が可能になる可能性を捨てきれず2055年の作戦が失敗した後も着々と2060年に向かい力を蓄え続けてきたのだ。

 

『そういや2040年側は例の新技術展覧会か。あれを発端に『焦耗戦争』が始まったんだよな』

『同時に海底調査も行っていたと思う。そうか、向こうは『HAO』と現実の両方で無限地平線を攻略することになるんだな。そこまで考えているとは流石予言者だ』

『さて、ログインまで時間はないし互いに地上への降下準備に入りますか。じゃあ回収艇がそろそろくるんで通信を切る。奢り、忘れるなよ』

『忘れないとも。ではまた』

 

この6時間後、地球に向けて3本の柱が撃ち込まれる。さらに12時間後、プレイヤーのログインが開始された。

 

『Ver3.00にアップデートされました。 

・6か国が宇宙への脱出に成功しました。

・無限地平線近辺に新規都市が出現しています。これによりリスポーン地点が変更されます。

・期間限定イベント『無限地平線攻略』が開催されます。

・小型化によりパワードスーツと義体にもMNBの搭載が可能となりました。

・補助脳の拡張によりスキル取得制限が改善されました。

・2050年の破滅は回避されていません。 

・2055年の作戦は成功率7.12%です。』

 

『無限地平線攻略篇:深界潜航/霧限登惨』開幕。




というわけで次話より3章が始まります、大変お待たせしました。いよいよ『UYK』に迫っていきます。話全体としてはようやく50%、折り返し地点と言ったところですね。2章でシステムはある程度説明できたと思うので3章はもう少し分かりやすい話になるかと思います(オレンジが変な事しなければ)

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