《完結》『Hereafter Apollyon Online』~超高クオリティクソゲーの生産職で巨大ロボット造って遊ぼうとしてるのですが何故か勘違いされます~   作:西沢東

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世界最強

 第2世代獣人について『革新派』と日本政府に多くの情報はない。それは研究所の責任者とレイナともう一人の第2世代獣人により葬られている。故に当時直接研究に携わった者達しか真実を知る者はいない。

 

 ましてや『革新派』は中途半端に広い情報網を持つために漏れ出る真実を要らぬものとして処理してしまう。戦力誤認、この戦いの最大の敗因である。  

 

(敵は一人、緊急通信の応答無し。首の断面から見える部品を見るにこの死体は本物だ。一時間の間にこの二人と交戦し勝利した上で俺の元に辿り着く、つまり速度に特化していると見たほうがいい)

 

 グレイグは混乱する頭を無理やり現実に引き戻す。どのような異常な状態でも対応できなければ死ぬ、それが分裂体との戦いだ。既に2度の分裂体との戦闘経験を持つ彼だからこそありえない、という否定から入らずに思考を回すことができた。

 

(狙撃型の可能性もない、生首を持ってくる意味がないから。となるとこの路地裏はむしろ好都合、閉所ならば跳弾で死ぬ可能性が高い……!)

 

 既に亡き者となったルーカスへの攻略パターンを思い出しながら作戦を立てる。どこまで速くとも衝撃波が出て自身の肉体が損耗する音速までは至ることは合理的ではない。となれば銃弾で捉えることは十分可能であり、あとは選択肢を減らし手数を増やせば勝手に破滅に辿り着く。

 

 後ろに回した手で剣を引き抜くのではなく人造人間達に合図を出す。狭い路地裏、ゴミが散らかり鼠が音を立てずに逃げ去る中で白犬レイナは美しく笑っていた。

 

「作戦会議は終わったかな?」

「勿論、十分にな!」

 

 素早く人造人間達が縦に散開した。壁を蹴り一瞬で10メートル以上上まで到達し地上のレイナに狙いを定める。同時に彼女の背後から誤射対策の装甲板を構えた人造人間3人が現れドームのように取り囲む。その包囲から一歩下がったグレイグは合図代わりの消音器を発動した。

 

 消音器には様々な種類があるがこれは特定音波を発することで一部の音をかき消す装置である。その対象は勿論銃声。故に外に音は聞こえず死の嵐が路地裏に具現化する。

 

 対機械獣用の、2040年の戦車砲以上の威力を誇る弾丸の連射。消音器ですらかき消せない対象を抉り砕く破壊の鳴き声は多くの者に勝利を確信させ、疑念を捨てきれなかったグレイグだけが辛うじてその隙間から現実を見ることができた。

 

 まず引き金を引くその一瞬前に白犬レイナの体は消失した。消音器で消しきれないガントレットが骨を轢き潰す音に気が付いたグレイグが目にしたのは首を引き千切られる人造人間達の姿。

 

 更に壁が勢いよく左右に凹む。結果から推測すると恐らく壁を蹴りながら勢い良く地面に着地したのだろう。そして再び幾つもの首が遅れて宙を舞う。最後に地面が弾け数十メートルの距離を一瞬で詰めた白犬レイナの拳が対分裂体装甲板を正面から叩き破り包囲を完全に瓦解させた。

 

 わずか3秒にも満たない時間であった。辺りにはようやく落下し終えた生首と胴体を貫かれ崩れ落ちる人造人間達の山。そして一度死んでしまえばログイン制限が発生する。

 

「うん、中々。この速度で陣形を組んで射撃できるのは初めて見たかな」

「中々かよ、化物め」

「そういう君たちもかなり戦いなれてるじゃん、ほら」

 

 最後に一人残されたグレイグに向かい白犬レイナはひらひらと手をふる。その手にはガントレットを貫通し奥まで金属の刃が届いていた。グレイグの部下が残した最期の抵抗である。

 

「首を引き千切る、という行動に執着してると判断して首に刃物を仕込んだわけか。変な事ができる改造人間だね」

「おう、全身から刃を出すことができる改造人間なのさ。対人戦での強さはそこそこだったが、本当にいいやつだった」

 

 嘘である。部下の仕込んだ刃の真価はそこから滲み出る毒だ。体内に12種類の人工毒腺を保有する、という改造こそがその強さの源だ。だからこそ多種多様な毒に侵されたこの少女は死ぬはずである。故に時間を稼がねばならない。

 

 そんなグレイグの思考を嘲笑うかのように白犬レイナは突き刺さった刃を引き抜いた。その傷口は一瞬で再生する。

 

「まあ獣人という形式に落とし込んだ以上、私の戦闘能力は分裂体よりはかなり劣るんだよね。話を聞く限り産まれたての赤ん坊でようやく負けなくなるくらい」

「何の話だ?」

「でも代わりに分裂体を遥かに超える部分もある。例えばエネルギー効率、例えば機動力。そして例えば回復能力」

 

 致死量の100倍以上の毒が複数体内に入り込み、獣人も数秒で体調不良を発生し直ぐに死に至るはずであった。そのような光景を何度もグレイグは目にしている。

 

 にもかかわらず、目の前の女は一切の影響を受けていなかった。何秒経っても悠々とした表情を崩さない。

 

 グレイグは死を覚悟して単分子拡張刃を引き抜く。普通の直剣に見えるが切れ込みとそこから漏れ出す冷気がまともな兵装ではないことを示している。が、それでも目の前の化け物に向けるにはあまりにも心もとない。

 

(死ぬだろうな)

 

 ルーカスもデュランも、同じく専用兵装を保有している。だが殺された。それは即ち未来の自分を暗示しており、一方で希望を残していた。

 

『こちらエイデン。戦闘機発進。これより国会議事堂に向けて突入する』

 

 彼らのチームさえいれば暗殺計画自体は行える。だから自身がここでやるべきことは目の前の化け物の足止めである。文字通り足を切断することができれば最善だ。

 

 何故かわからないがこの女はルーカスの部隊、つまり政治家二人の暗殺も阻止するように動いている。オレンジは不可能でも、という希望を胸に決死の覚悟で刃を構えた。

 

「いざ」

 

 このグレイグは知らぬ事実であるが前回の、『HAO』内での戦闘では先読みと脚部の機構により彼女の圏内に入らずに一方的に戦えた。

 

 では今回はどうなのか。

 

 20mのリーチを誇る単分子拡張刃が開かれる。その鞘である直剣風の金属部が開裂し蛇腹剣の様な姿となりワイヤー状の真の刃を覗かせる。理論上全ての物体を切断できる最強の兵装、その真価はより格上の敵相手に発揮されるのだ。

 

 グレイグが息を吐き、肩でフェイントを二度かけた上で刃を振るう。人目を気にせぬその一撃は人気のない周囲の建物を両断し白犬レイナの両足を簡単に切り裂く。だが余りにもあっけない結末に安堵感を得ることは許されない。

 

 体がぐんと引かれる。その先には単分子拡張刃の側面を掴みじっくりと観察している女の姿があった。そしてその姿が膨れ上がる。

 

「こんな仕組みなのか。やっぱり人類は凄いよ、『UYK』を倒せる力がある。私が保証するよ」

「な、なんだそれは」

「なんだって失礼な。単分子拡張刃と尾葉直連結型脚部じゃないか。ほら、こっちのは君の仲間のだろう?」

 

 肉が膨れ上がる。青い、分裂体由来を示すその肉は急速に形を変えグレイグにとって見覚えのある形になるよう合成される。触覚のような突起が幾つもついたルーカスの足と、右手から伸びる見覚えのある直剣。隙間から冷気の漏れるそれを構えレイナは笑う。

 

 分裂体は道具を模倣する。それはUK-08であるように、あるいは核であるように。それと全く同じ現象がグレイグの目の前で起きていた。2060年製の叡智の結晶を掴み観察するだけで我が物とする。今目の前にいるのはただの第2世代獣人であると共に『革新派』の改造人間技術の結晶でもあった。

 

 これこそがオレンジ陣営が誇る最強勢力。彼女がいるが故にハイリスクなプランを取り続けることができる。第2世代獣人。

 

 グレイグが動く。だがそれより一手速く、グレイグよりも遥かに速い斬撃が彼を二つに両断した。腕の速度のあまり単分子拡張刃が断裂を起こしそのまま大地を駆け巡る。周囲の物体を一切合切切断する姿を眺めながら白犬レイナは両断されたグレイグを見る。当然喋ることも再生する事もない。そして最後の敵を倒すべく白犬レイナは手ごろなビルに目を向けた。

 

 

 ◇

 

「グレイグ、ルーカス、デュラン、応答しろ!」

「ダメです、全滅した模様!」

 

 自衛隊から奪取した戦闘機を飛ばし彼らは国会議事堂に突撃する。目指すはそこに集まっている政治家達。しかし他の仲間との通信途絶が悪い予感をエイデンに走らせ続ける。3台の戦闘機に乗り込んだ彼らは音速を越え大半の道のりを過ぎていた。高度10㎞の世界は地上を等しく見下ろす。

 

 迎撃のミサイルは向かってこない。責任の擦り付け合いがあるのは勿論、内部の協力者がスイッチを押させるのをあの手この手で妨害しているのだ。そもそも発射されないか手遅れに終わる、エイデンは地上の自衛隊からの通信の混乱具合を聞いてそう確信していた。

 

「間もなく突入。高度落とします」

「急降下はしないんだな?」

「はい、こちらの死亡率が上がりますしなにより迎撃されやすい。市街地の民間人を盾にします」

 

 戦闘機が気流に飲まれガタガタと揺れ、体の角度が傾き雲の下に降りてくる。無数に流れる警告の通信を意気地なしと鼻で笑いながらビルの窓が衝撃波で震えるほどの低空飛行を開始した。建物がハッキリ見えこちらを驚いた表情で仰ぐ民衆の間抜け面の博覧会のようだ。

 

 だからこそ気づいてしまったことこそが最大の不運だった。エイデン配下の人造人間、視覚と虚重原子の検知に特化した彼はそれに気が付いてしまった。

 

 遥か下からこちらに飛び込んでくる白い影に。

 

「警告、秒速160mで高虚重原子濃度の接近を確認! 恐らくカウンターの獣人です!」

 

 ビルの上をすべるように女は異常な速度で戦闘機に近づいてくる。進路を遮る形で突っ込んでくるその姿を見て死兵か、とエイデンは嘲笑いスロットルを上げた。速度もパワーもこちらが上。敗北する道理はない。

 

 国会議事堂突入まで残り12秒。女の体が跳ね上がる。ぶつかるだろうが確実に一方的に挽肉になると確信した。当たり前だが数十トンに及ぶ機体が音速で飛行しているのだ、何かが当たれば砕け散るのは当然相手の方である。ミサイルやロケットランチャーが未だに飛んでこず一人が走って来るだけの杜撰な防衛体制に人造人間たちは汚い笑い声を挙げた。

 

 が、次の瞬間刃がエイデンの足元から伸びる。その一人が問題だった。その一人だけは相手にしてはならなかったのだとエイデンは最期まで気づくことが出来なかった。なんてことは無い。レイナは音速で動く機体を完全に見極めたうえで突撃しただけである。飛びつき、機体の底面に向かい先ほど手に入れた単分子拡張刃を振り回したのだ。戦闘機は致命的な音を上げて爆散し、エイデンは回避の余地なく幾重にも切断され即死した。

 

 そして続く2機が遂に痺れを切らした自衛隊の戦車砲により破壊される。2040年製とはいえ十分な火力と照準技術により飛行中の機体を難なく落とした。そして離脱した人造人間たちは足元からの狙撃により次々に倒される。第1世代獣人、白犬アンナ率いる部隊だ。僅か数時間にて『革新派』の全戦力は2040年から撤退する事となる。

 

 以上が2040年側の『逆潜引用情報化計画』の顛末。伏せられていた白犬レイナというカードにより20年の準備と決意を蹂躙しただけでしかない。だが最後の懸念、Hereafter社の技術を2040年の『革新派』に回収されるという問題は解決していなかった。

 

「頼んだよ、皆」

 

 レイナは地面に凹みを与えぬよう疑似MNBを起動して着地し、もう一つの目的を達成するべくその場から離れるのであった。




Q 流石に戦闘機にジャンプは無理じゃね?
A 突撃寸前で高度下げてたから可能。

というわけで世界に向かって、Ver3.00に対しての手札オープン回でした。一切の準備なく分裂体もどきと戦えばそりゃ勝ち目はありません。無双させた理由については脅はk……交渉回にて。

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