《完結》『Hereafter Apollyon Online』~超高クオリティクソゲーの生産職で巨大ロボット造って遊ぼうとしてるのですが何故か勘違いされます~   作:西沢東

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尾行

 ヒニル君が俺の代わりに処刑されて早2時間。先ほどまで殺伐としていた屋上の一つ下のフロアは歓喜と談笑が飛び交う空間となっていた。

 

 最大の理由は勿論、金。借金まみれのこのクソゲーにおいて纏まった金が入るというのは大きい。一日利子10割、早く法律で取り締まられて欲しい。

 

 そしてそれと同じくらい重要なのが飯である。部屋の中には幾つか机が置かれておりそこには山盛りのレーションと水が積まれている。俺達から見ると余りにも侘しい光景ではあるがこの世界では最高の贅沢だ。非プレイヤーと思わしき人びとは発狂したかのようにそれらを貪っていた。装備に隠されていて今まで見えなかったが彼らの体は想像以上に痩せこけている。レーション生活はよくない、やはり野菜も食べるべきなのではなかろうか。それ彼らに言うと煽りになるんだろうけれど。

 

 だがその空気は一つの澱んだ空気に邪魔されている。要因はまさかのグレイグさんだった。パワードスーツを着込んで落ち込んだ様子でレーションをポリポリと食べている。……レーションってポリポリいうもんだっけ?大根スティックの音みたいだ、あれ美味しいんだよな。

 

 そんな風にぼーっと周囲に集う100人くらいの人間の群れを見ていた。前よりは減っていると感じるのは気のせいではなく恐らく死んだのであろう。そう考えているとレイナ、紅葉、眼鏡先輩と裏色先輩が近づいてくる。裏色先輩がレイナと紅葉の冷たい視線から逃れるように反対側に逃げていて、あー俺を売ろうとしたからかと理解する。仲間を売るのダメ、ゼッタイ。

 

「み……オレ……なんて言えばいいんだ?」

「お前でいいんじゃないですか?」

「ミカ、で通しとるけどまあ面倒やから困りますね」

「お、お前。それでアプデまであと三時間だがどうするんだ?」

「本当に言うんだつーちゃん……」

 

 眼鏡先輩が俺に対して聞いてくる。はて、何のことだろうかと思うものの先輩の視線は真剣だ。ついでに裏色先輩の表情は完全に怯えに染まっている。別に悪いことはしませんよ、というかすることないから寝ようと思っているし。もう9日の21時、0時になった瞬間アプデがあるわけだし3時間でできる事そんなにないよね。

 

 だが先輩の視線を受けて思い立つ。何故装備検査の時に俺を庇ったか。それはつまりこの時のためだったのか! 流石先輩策士である。その突拍子もない発想、見習いたいです。

 

「そうですね、やる事があります。……グレイグさんを〆ましょう」

「任せろ、タタキにするのは俺の得意分野だ」

「敵対行動そのものだけど、ここまでくれば問題ないか」

「せやなぁ。『焦耗戦争』の事を考えるとそろそろタイムリミットが近い」

「……どうしましょう、私どうすればいいの……!?」

 

 ◇

 

 そこから1時間。金の切れ目が縁の切れ目と言わんばかりに人々はこのフロアから立ち去っていく。まあヤクザまがいなことをしている集団なことはわかっていた、長居したいものではないだろう。そして数少ないグレイグに取り入ろうとしている者達も無視を決め込まれトボトボと扉の向こうに消え去る。

 

 続いてグレイグとその取り巻き3人が後ろを向いて通路に向かう所を俺たちは覗き込んでいた。因みに眼鏡先輩だけは別行動でApollyonを取りに行っている。俺のApollyonもそろそろ届くはずなのではあるがあともう少しらしい、そろそろ届かないかなぁ。

 

 グレイグさんの後ろを尾行する……わけではない。序盤だけ行き先が分かれば後は『教団』の皆さんが追尾を開始してくれるとのこと。それを俺たちは目的地まで向かって先回りしてやればいいわけである。そんなわけで一度牢屋にみんなで乗り込み商業地区まで移動した後、徒歩にて目的地に向かっていた。

 

 周囲はどんどん人影が減っていくのと同時に腐乱死体が路地裏に落ちているのが増え始めていた。人間らしく死にたい、資源になりたくないと一時期このような死に方が流行ったという話をこのVerで聞いた気はするが、これは酷い。意識を逸らすべく別の話を提供しようと俺は口を開いた。

 

「裏色先輩の使う超能力ってどんな仕組み何ですか?」

「虚重原子に励起するための特殊な電磁波を当てて反応を進行させてるわ」

「日本語でお願いします」

「うちが説明したほうがええか、空気中に虚重原子が混ざってるということはわかるな?」

「ヒッ」

 

 裏色先輩ビビりすぎです。それはそうとして何もわからない、というと同位体みたいなもんやと答えが返ってくる。それもわからない、と返すとしゃあないなぁと顔をほころばせて身振り手振りを含めて話を始めた。

 

「まず虚重原子ってのは不安定や。やから空気中にはごく少量しか存在できへん。『UYK』の呼吸により大分状況は変わったけど、それでもまあ大したことはない。……って話は置いといて、目に見えない物質がそこらへんに浮かんでると考えといて。で、それに電磁波を当てるんや。光との合わせ技の時もあるで」

「それで反応?が進行するのか」

「せや。光合成とかそうやろ、水と二酸化炭素を光のエネルギーを使ってブドウ糖と酸素に変えとるわけやから。エネルギーを与えると自発的に起こらない反応も進行するんよ。例えばそこの先輩やと銅の虚重原子に電磁波を当てて空気中の窒素と酸素を触媒的に虚重分子性を持つNOxに変換するんよ。それが安定な状態に戻ろうとする時に熱を吐き出す、いうわけや。そのための武装も持ってはるはずやで」

 

 そう言われて裏色先輩を見ると確かに袖の所に何かを射出するような装置があり、その管が指の先に繋がっている。よくわからんがあれから超能力パウダーをぶちまけるわけなんだな、と一人納得。原理は何も分からなかった。

 

「だから機械にも真似できるし装備による補強ができるわけだね。とはいってもその波長の再現や励起物質の特定と合成が難しいから上手くいかないわけだし、あくまで単純な現象に限るわけだけれど」

「強力な能力者は通常の分子を虚重原子に変換することすらできるんよね、裏色先輩はそこまでできるの凄いわ」

「私の能力まで特定されてる……!?」

 

 裏色先輩はさらに怯えた表情になる。単純な反応か、それなら予知とかも機械化できないのかな?と思いながら話をしているとレイナが急に飛び出し赤いナイフを引き抜く。紅の一閃が何かを弾くのを辛うじて目で追うことが出来た。……狙撃!?

 

 急に今いる薄汚い、腐乱死体が見える路地裏が暗く見えてくる。そして彼は静かに俺たちの前に現れた。不意打ちもせず、いや不意打ちをする必要がないからだろう。その傲慢が許される強さを彼は持っていた。

「何の用か分からないがお前ら、引用情報に成り下がるまであと2時間くらいなんだ。静かにさせろよ」

「尾行を付けていたはずやで」

「だからだ。こういった立ち回りをする奴はこちらの目的地に先回りしてくる、俺と異なるルートでな。そして土地勘が薄いと通る経路が逆に限られる。まあ尾行を使ってお前らを誘導、あとは俺の脚で走ればいい」

 グレイグさんが俺たちの前に立ちふさがる。服の下から覗く足は完全に機械化されていた。紅葉のものよりも更に殺意の高い形状をした、鋭利な刃がいくつも生えた形状。あれに掠ればタダでは済まない。

 だがそれよりも根本的に違う部分がある。その装備は明確に対人戦を想定した仕様をしていた。この破滅した世界で、機械獣と戦うためではない武装。ブレードを引き抜いたグレイグさん、いやグレイグが俺を指さし下品な笑みを浮かべた。

 

「オレンジ殺していい気分なんだ、折角だしお前ら殺してそこの嬢ちゃんは犯すか」

 

 いや俺殺されてないですし、そこの嬢ちゃんって裏色先輩じゃなくて俺かよ! そろそろ女装やめさせて欲しいぞ!


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