《完結》『Hereafter Apollyon Online』~超高クオリティクソゲーの生産職で巨大ロボット造って遊ぼうとしてるのですが何故か勘違いされます~   作:西沢東

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因みにver2.00で初めて生産された『鋼光社製融合型Apollyon用燃焼兵器』シリーズは2047年のUK-09です。というのもver 1.08の情報でUK-08の完成版の設計図が手に入っていたからです。こんな感じで技術革新の速度はよくわからない感じになっています。


再会、そして別れ

 そのまま眼鏡先輩は次々と機械獣を吹き飛ばしてはレールガンで仕留めている。あの吹き飛ばし、実は他のプレイヤーが追撃しやすいようにするための配慮らしい。なるほど、空に叩き飛ばされるのであれば誤射の心配は減るし反撃の心配も薄く正確に狙えるというわけだ。そうすればするほど今度は眼鏡先輩の赤い機体は吹き飛ばすことに集中できる。

 

「気をつけてや、あのドラゴンっぽいの脅威度8あるから」

「脅威度が良くわからんが、例えば昔倒したスパイラルカナブンは?」

「あれは脅威度1や」

「滅茶苦茶強いじゃねえか」

 

 俺だって生身で機械獣倒せるもん、と張り合おうとする気持ちが一瞬で萎える。あれ一撃で倒すのにお膳立てしまくってもリテイク複数回必要だったからな。そんなことを思っていると左前から魚型機械獣が走り込んでくる。そう、走っている。爬虫類的な特徴は足だけでそれ以外はほぼ魚である。そしてそのヒレに当たる部分にはそれぞれ『鋼光社製融合型Apollyon用燃焼兵器UK-08』が存在していた。

 

 って前Verの分裂体と同じことしてるのかよコイツ! と思って武器を構えようとする前にミシリ、と何かを開く音がする。レイナがいつの間にか機械獣のヒレの部分に飛び掛かり無理やりUK-08を引きはがそうとしている。どこからともなく引き抜いたナイフで金属の肉の流れに沿って刃を走らせ、気持ちの良い音と共に右側のUK-08がはじけ飛ぶ。

 

「前回の討伐戦の影響を受けすぎてるよね皆!」

「ホントやで、これで売り上げ落ちたらどうしてくれるんや!」

 

 ヒレでの砲撃をすぐさま諦めた機械獣は鋭い牙にてレイナをかみちぎろうとする。それを見た紅葉が回り込むように逆側から接近する。義足に仕込まれた火薬が炸裂し彼女の体を一気に前に吹き飛ばす。そのまま数十センチの距離まで接近した紅葉は右手に仕込まれていた機構を開放する。手のひらが開裂し腕が一気に数倍まで膨れ上がり、その正体がようやく浮かぶ。

 

 パイルバンカー、と呼ばれるものである。

 

 背中に装備していた黒い金属棒をその中心にセットし機械獣の足に向ける。

 

「発射!」

 

 そして機構が開放される。装填された黒い金属棒は熱と圧力により本来の姿である赤熱したらせん状の短槍としての姿を現し、過剰電力が周囲にスパークを放ちながら加速され弾丸として発射された。先ほどとは打って変わった暴力的で甲高い悲鳴を装甲が上げ、足の神経系ごと骨を打ち砕く。そして足を失い姿勢を崩した機械獣に俺が借りた対機械獣用アサルトライフルの弾を叩き込む。……うん、俺のやってること機械でもできるのではなかろうか。早くApollyonの修理が終わる3、いや2日後になって欲しいものである。

 

「作業的すぎないか?」

「逆や、機械獣をこの数倒すのに一々死線潜ってたら命のバーゲンセールにもほどがあるで。機械的に、工場のパンにあんこを詰めるように機械獣を倒すんや」

 

 そう言いながら紅葉は次の敵に接近し、左手を開放して何やら射撃を始める。まあMMOの狩りってそういうもんだよな、と思いながら俺も銃を構える。因みにその後ろでは今度は5体くらいポンポンと機械獣が空に吹き飛ばされて袋叩きにされていた。……その機体後で乗らせてくれない? 

 

 ◇

 

 あれから2日がたった。機械獣狩りは順調で入って来る収入で借金を返し終えたくらいである。眼鏡先輩、本当にありがとうございました。でもこのクソシステム、また借金地獄に突き落とそうとしてくるに違いない。その時は紅葉に頼むか……なんて思っているとダン、と机を叩く音が聞こえる。

 

「クソっ、アップデートまで時間がないはずなのにどうしてオレンジは動かないんだ!」

 

 ブチギレているのはヤクザっぽい男、グレイグ。動いてるんですけどね俺、というかなんで狙うんだ、善良な一般予言者だぞこちとら。

 

 それにビクリと周囲はするものの原因は解決しない。休憩室の空気は最悪になってきた中、いきなり口を開いたのはまさかの裏色先輩だった。

 

「変装している、って可能性はどう?」

 

 思わず体がビクリとする。おいおい何をバラしているんだあんた、まさか敵なのか……!? そう思っていると横に座っていた眼鏡先輩までも乗っかってくる。

 

「ああ、やはりそうだろう。でなければおかしい。予言者は常に最速で動くからな」

 

 いやそのオレンジ君Apollyonをぶち壊して修理にメチャクチャ時間をかけているんですが。そう思っているとグレイグさんは「……判別方法はあるんですか?」と返す。眼鏡先輩にだけ敬語なあたりどんだけ尊敬してるんだよお前。

 

 それに対して「『獣殺し』だ」、と眼鏡先輩は答える。なるほど、確かにあんな変態銃使う人少ないだろうし識別にはなるだろう。しかし今俺持ってるんですが、というか見つかりかねないんですが! 

 

「まずはここにいる人間から調べたほうがいいだろう」

「そうですね、オイ! お前ら並べ! 投げたやつは後ろめたいことがあると言ってるようなもんだ!」

 

 グレイグが俺たちを無理やり一列に並べる。その状態で一人ずつ身体検査を行おうとしていた。だがその中で眼鏡先輩はしれっと俺を列の先頭側に回し紅葉とレイナを後ろ側に移動させる。これは本気で殺す気なのかもしれない。そう身構えている俺に対して手を伸ばして服の中を弄ってくる。

 

「そういう趣味なんですか」

「……いや、配慮が足りなかったな」

 

 そうか俺が女装しているせいで女性の体を男が触りまくる様子にも見えるわけか。眼鏡先輩の指がポケットを通り過ぎ脚の付け根のホルダーに辿り着く。『獣殺し』のある場所に。そして脚の重さがふっと軽くなった。覚悟を決めて俺は前を向く。

 

「何もなかった、不躾に触って申し訳ない」

「はい……?」

 

 脚の感触を確かめる。確かにそこには『獣殺し』は存在しなかった。にも関わらず告発の声はない。裏色先輩が目を丸くしている横で眼鏡先輩は次々に身体検査をしていく。20分ほど身体検査が続いた後にゴトリと何かが落ちる音がした。

 

「これは何だ?」

「え、え、おい何でだよ!」

 

 無骨で人を殺すには余りにも過剰な殺意を秘めた金属塊、『獣殺し』が地面に落ちる。その銃についた傷は見覚えがあり紛れもなく俺の所有するものであった。

 

「俺はヒニルだぞ! 知ってるだろ、配信者の!」

 

 ついでに男の方にも見覚えがあった。確かにログイン制限解除されたしオレンジ狩り再開してもおかしくないよな。一ヶ月前のこと引きずるなよ、とは思うが。

 

 グレイグが腰から長いブレードを引き抜き他のプレイヤー達もそれぞれの武装を構える。武器を俺も構える、すまん犠牲になってくれ。あとさっきの眼鏡先輩の立ち回りようやく理解できたよ、ありがとうございます。

 

 俺から盗んだ銃をまるでヒニル君から出てきたかのように装うマッチポンプ、普通であれば成立しない。指紋だとか過去のアリバイとか諸々でヒニル君が予言者ではないことは容易に判別できるだろう。

 

 しかしヒニル君はヒニル君である。前調べたら再生数が悲惨なことになっていて生活が成り立たなくなったと噂の、再生数のためならなんでもできる男である。急にコマンドを開いたかと思うと恐らく配信開始を選択、そして胸をはって叫んだ。

 

「そうだ、俺こそが予言者あいたたギャア──ー!」

 

 再会から一分足らずの別れであった。……うん、予言者名乗ればそりゃ目立つし数字も取れるかもしれないけど、この状況だとその前に殺されるよね。


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