《完結》『Hereafter Apollyon Online』~超高クオリティクソゲーの生産職で巨大ロボット造って遊ぼうとしてるのですが何故か勘違いされます~   作:西沢東

34 / 111
オリジナルパーツ

 当然娘など身に覚えがない。そもそも晩婚化が進む昨今であるが一方でこれはおかしい。第一、目の前の少女の年齢を考えると赤ん坊の時に子供を儲けていることになる。んなわけないに決まっている。俺達の後ろにいた裏色先輩が何かに気が付いたように恐る恐る口を開いた。

 

「……何歳? というか第何世代なの?」

「今年で28歳になります。世代という意味では私を表す言葉はありません。しいて言うならば第3世代の試作品、でしょうか」

「私より詐欺ってる!?」

 

 よくわからないが裏色先輩は崩れ落ちる。ついでに俺もビビる、なんせ見た目と年齢が思ったよりも乖離している。と思ったが2060年のレイナは40代間近のはずだったのに肌とかはほぼそのままだった。傷で風格が出ていたからあまり気にならなかったが獣人の見た目は思ったよりも変わりにくいのだろう。

 

 確かに身長は俺より高いし見た目の若さは化粧などの装飾の薄さによる雰囲気が大半を占めている。ああ、派手な裏色先輩が20歳ちょいくらいだったのでそれを基準に考えてしまったのかと一人納得。確かにポイントポイントで見れば大人びている所は多い。どことは言わないけど。

 

 彼女はこちらをうるんだ目で見てくる。しかし当然といえば当然だが見覚えがない。何となくレイナに似ている気がするが赤と金のオッドアイは違いを強く主張してくる。だが明らかに俺の血は入っていないのだけは確定だ。

 

「覚えがないんだけど、お父さん?」

「はい。『焦耗戦争』の際に研究所で実験を受け続けていた私をお義父様お母様が救ってくださったんです。こんな地雷のような存在なのに子供として迎え入れて下さって……」

「義理か、流石にビビった。因みにお母様は?」

「白犬レイナです。お母様とは遺伝子の多くを共有しているので実の母親と言ってもいいような状態です。アンナおばあさまにも良くして貰っています」

 

 ……年上の娘が突然現れお義父様と呼ばれる。人生でまずない状況である。ゲームのやりすぎかもしれない、と思ったがよく考えなくても今まさにゲームをやっている。となればいつも通りのイベントであり受け入れたほうがいいのだろうと頷く。彼女はぱぁっと頬をほころばせてぐっと手を握る。よほど嬉しかったらしい。

 

 名前を聞いてみると『未島カナ』とのこと。勘次の「カ」とレイナの「ナ」を合わせたと自慢げに胸を張るカナちゃん。……ちゃん? 年齢俺より上だけど。しかし苗字が未島なのを考えるとシングルファーザーなのか、あるいは本当にレイナと結婚したのか気になるところだ。しかしまさか誰と誰が付き合ってるんだろう、なんて思考を自分に対して使うことになるとは思わなかった。因みにどうして場所が分かったんだと聞くと部下に聞いたとの事。あの水売りの兄ちゃん、俺の事チクってやがったのか、捕まるわけじゃないから別にいいけど。

 

「『焦耗戦争』か、詳しく知らないんだよな」

「つーちゃん知らないんだ。あれね、各国の事情を知っている人間が総崩れになった状態で『予言者』を擁する勢力とそれを排除したい反超能力主義者や単純に思想を危険視した国家や組織による戦争なのよ。なんせ未来を知らないあるいは信じない人ばかりが上層部に残り、しかも民間人にも被害がでたから気が付けば発端はうやむやになり大規模な戦争に変貌していったんだ。破滅がくるまで大地を自ら焦土にし資源と人材を消耗して」

「よく知ってるな」

「え、あいやその」

「端末からそんな情報まで引き出していたのか。流石だ」

「……でしょっ!」

 

 背後で行われている会話を聞き何となく状況を理解する。『予言者』とやらを発端に戦争が始まりそのごたごたの中でカナを救出、しかし収まらないまま2050年を迎え世界崩壊、という設定らしい。確かに試合中にもそんな話でたかもしれない、集中してないから対戦相手の話も全く覚えてないけど。

 

 だがそうなるとこの技術力は何なのか。以前と比べてむしろ大分改善しているように思える。食事事情とかクソシステムは問題だが生存している人数が段違いだ。前の旧大阪市では市場が人でにぎわう、というには閑散としていたしな。

 

 背後でバカップルっぷりを見せつけている二人もいるし娘なる存在もいるが……まずやるべきことは勿論ロボの改造である! 娘と言うならきっとロボ愛も受け継いでいるに違いない! 

 

「え、私はそこまで……」

 

 苦笑するカナに肩を落とし端末に向き直る。四脚型にタンク型、あと4輪。でもやっぱり二脚が一番か。ってMNB搭載ブレードもある。高いが気になるな、あと他には、と見ていたところで端末がもう一台隣から差し出される。そこにはオレンジと黒を基調とした機体が映し出されている。脚部は『鋼光社製機動特化型F式脚部3型』、腕部を『RE社製射撃戦用高稼働腕部RE-10101』、MNBリアクターを『鋼光社製F式用高出力MNBリアクター』とF式、すなわち飛行用に調整している。装備は『鋼光社製融合型Apollyon用燃焼兵器UK-10』のみという漢気溢れる機体である。

 

「お義父様が最期に使われていた機体です。ブレードを外して無限地平線を素早く突破することに特化させています。どうでしょう、是非こちらの機体を使ってみませんか?」

「誰がこの機体を用意するんだ?」

「我々『教団』が用意します」

 

 カナが体を近づけてくる。服がぴっちりした戦闘用のスーツであること、そしていい匂いに混じる汗の感じが否応なしに性を意識させる。こんな娘がいたら他の男にはやらん! と親馬鹿になってしまいそうだ。だが残念、ロマンは共有できていないようだと俺は首を振る。

 

「いや、やはり機体は自分で組むに限る。最強の完成系より微妙なオリジナルだ」

「でもこのままここにいると『革新派』が」

「まずは種類か。うーん、やっぱブレードと砲が気に入っちゃったんだよな。これを両立するならJ式とN式だけど、J式のリアクター重いし燃料いるなぁ。しかもJ式で射撃しようとすると命中精度が凄いことになりそうだしなぁ」

「お義父様のスイッチが入ってしまいました、どうしましょう……」

「アイカには助けられてるよ」

「でしょ、つーちゃん!」

 

 周囲にカオスが積み上げられているようだが関係なく部品を発注していく。その中で一つオーダーメイドという項目に目が行く。調べてみると設計書を提出すればその通りにオリジナルパーツを造ってくれるサービスのようだ。白紙のページを開いて書いてみようとすると手が何かに押されるように動く。『Apollyon整備士』による《整備:Apollyon機体》《改造:Apollyon機体》の力がイメージ通りのものを書かせてくれるが同時に少し脳に痛みが走る。これはゲーム内のものではなくおそらくリアルの方だ。

 

 端末に手書きで書き込みを続けていると遂に堪忍袋の緒が切れたらしいカナが俺の腰を掴みお姫様抱っこの状態になる。が、大事なのは設計を続けられることだ。なんか頭痛いのが収まらないけどまあいいか。オリジナルパーツが造れるという圧倒的神要素を今すぐにでも試してみたいのだ! 

 

「もう、夢中なのはわかりましたから続きは鋼光社でやりますよ! あ、ご友人のお二方もよければこちらへいらっしゃってください。『革新派』による予言者狩りが来るかもしれませんので」

「えーっとここをこうして、あー部品干渉するなぁ」

 

 裏色先輩が何故かびくっとするのを思考の外に追いやり、娘の腕の中でオリジナルパーツの設計を続ける。……やっぱりカナとの関係が複雑すぎる。運営、何故こんなNPCを登場させたんだお前。




運営「お前が勝手に助けて娘にしたんだろうが」

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。