《完結》『Hereafter Apollyon Online』~超高クオリティクソゲーの生産職で巨大ロボット造って遊ぼうとしてるのですが何故か勘違いされます~   作:西沢東

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カオスはそこに

「……倒したわね」

「……冗談でしょう。この結末は意味が分からない。我々が2年かけてできなかったことを1週間で?」

 

 もはやおなじみとなった物がない部屋にて公安6課の二人が驚愕の表情で画面を見つめる。それは配信だった。オレンジの、ではない。そもそも今回、未島勘次は配信を行っていない。つまりそれを撮影しているのは無数の一般プレイヤーたちである。

 

 どこの配信も大きな差はない。演説を聞いて、戦って、負けて。最後に量産型APに乗ったオレンジが一人で分裂体を倒したというだけのもの。最後の突撃でオレンジとレイナ以外のプレイヤーは前に進むことが出来なかった。だからこそレイナを映すこともできず量産型APの可能性とオレンジだけが強調される映像となっていた。

 

 問題はそれだけではない。機械獣の倒し方動画などを除きオレンジのチャンネルは原則BANされている。今のアカウントも過去にBANされた人物であるという理由で再度凍結されかねない。故に無数の無関係なプレイヤーたちによりオレンジの姿が拡散されている、というのは重要なことであった。

 

 公安6課の二人は沈黙する。想定外が彼らの脳を蹂躙していた。

 

「……分裂体を融合体無しで倒せた例ってデータあったっけ?」

「核を使用した例ならいくつか。あとは追い返した記録だけです」

 

 勿論分裂体を倒せないのには大きな理由がある。それは2050年の破滅により大体の設備や人員がダメになった、ということだ。ミサイルを撃つのにも発射の制御、部品の交換、必要な原料の調達と人員は無数に必要だ。しかし旧大阪市という人数制限と資本主義、スポンサーの優遇という概念が邪魔をした。

 

 つまり、本当に公安6課と国は分裂体を過剰に見積もり過ぎているのだ。様々な制限のある旧大阪市を日本国の総力を挙げた姿であると勘違いしている。だからこそこの映像は意味不明なのだ。

 

「……やはりオレンジ、未島勘次は能力者でしょうか?」

「間違いないわね。何の補助も無しにこの立ち回りと強さは理解不能すぎる。転写に対する反応と弱点発見も早すぎるしね。それにもし能力者じゃないとしたら私たちはクビよ」

「それはそうですね。では報告書を書くので後程確認をお願いします。能動的多重未来予知能力者、オレンジ」

「立ち回りも考えないといけないわね。未来を読まれることを考えると迂闊に手出しはできない、かといって無干渉で放っておくにはリスクが高すぎる」

「ええ、下手に指名手配でもしようものなら未来を読まれてその前に他国に逃げられます。……彼は大学入学が決まっていましたね。そこにつけこむしかないでしょう」

 

 二人はドツボに嵌ってゆく。何度も言うが未島勘次は能力者などではない。ただ積み上げられてゆく状況証拠がその考えを意識の外に追いやってゆく。だがそれにはもう一つ、願望に近い思いも理由としてあげられる。

 

「彼なら2055年の作戦も乗り越えられるのかな……」

「『UYK(ウューカ)』。星命体。惑星、衛星が生命としての性質を備えた結果、でしたか」

「そう。生命の定義、その一つは代謝をするということ。それが私たちにとっては酸素や水、炭素を介して行っているように『UYK』は虚重原子、特にIironine(虚重鉄) Complex (錯体)を用いてエネルギーを得ている」

「大気が生命なんて変な話ですけれどね」

「逆よ、昔から言われていたじゃない。世界は亀と象により支えられているって。爬虫類的な特性とあの触手を象の鼻と解釈すればそれっぽいでしょう?」

「でもあれは大地をささえているだけで、大地そのものではないですよ」

「『UYK』は元から存在したものではなくて星が存在慣性により生命としての性質を帯びただけだからね。大気や地面という膜で体を覆い、溶岩や地震という形で長い間活動し続けている星は実質代謝している。それが最適化されて、生命のように自己の拡大と繁殖を行えるよう体を作り変えてゆく。もっと昔は小さくて、地球全体からしたら一部だけの変化だったのよ」

 

 人類からすればどうしようにもない話であった。自分達が住んでいる大地がただの都合のよい土と金属の塊ではなく星命体に変化してしまう。人類は地球の支配者ではなく『UYK』の寄生虫に成り下がってしまうのだ。『UYK』に振り回され、あっさりと全滅する。それが破滅である。

 

 だからどうしようにもない。そういった意味では虚重副太陽生成計画による地球脱出は極めて正しい判断であった。月が星命体としての性質を、あんな短期間で得る事さえなければ。

 

「……でも10年後には『UYK』=大地、の方程式が完全に成立してしまうわけですね。なんとかして、2055年の作戦を成功させるカギを得なければ」

「ええ。2050年に倒すには問題があまりにも多すぎる。象徴がいない、国同士のいがみ合い、国民の不信という政治的問題。それによる武力の低下、何より急所の不在」

 

 無限地平線という『UYK』の数少ない弱点が2050年以前で存在しないのは最大の不幸である。無限地平線以外で『UYK』を倒そうとするなら核爆弾だけで地球の中心まで掘り起こす必要性がある。だがそれは不可能である上仮にそんなことが起きれば地球は放射能により破滅するだけだ。故に人類は2050年の破滅を受け入れた上で戦う必要がある。人類の人口を大幅に減らし、代わりに融合型Apollyonを得て『UYK』を倒す必要があるのだ。

 

 そう信じている。

 

 端末が通知を表示する。そこに流れる報告を見て二人は沈黙した。その沈黙は数十分戻ってくることはなかった。

 

『鋼光社、2050年までに『UYK』討伐を行うと宣言』

 

 

 

 その日、記者たちは動揺していた。鋼光社はパワードスーツや義肢における第一人者である。しかしその発表の時でさえ自分たちを呼んだことはない。にもかかわらず今回は会見に呼ばれている。それはすなわち、それ以上の何かがあるという事だからだ。

 

 会見場に沈黙が漂う。その視線の中心に鋼光社社長、鋼光大地はいつも通り覇気のない、穏やかな様子で座っていた。紅葉の父に当たる彼は「皆さま集まったようですので」と自然に話を切り出した。

 

「当社が開発した若返り・不老化技術についてフリーライセンスにすることを公表します。只今をもってインターネットに情報を公開致しました」

 

 誰も何を言っているのか理解できなかった。鋼光社が義肢技術と過去に培った製薬技術を生かした、若返りの研究を大学と共同で行っているのは知られていた。だがそれは開始段階であって、ましてやフリーライセンスにしてよいものではない。こういった技術は独占することにより利益が出て投資した分が返ってくるのだ。

 

 意味が分からないと記者の一人が立ち上がろうとする。だがそれを制するようにもう一言、鋼光社長は付け加えた。

 

「並びに当社が培ってきた義肢技術、パワードスーツ技術、並びに量産型APの技術も同様にフリーライセンスと致します。個人情報の含まれる部分以外につきましては同じくホームページにて無料で誰でもご覧になれます。勿論ご利用は自由に」

 

 付け加えてはならない言葉だった。鋼光社はこの瞬間、過去に培った技術を全て放出してしまったのだ。急いで端末を操作し事実であることに気が付いた者は困惑で目を白黒させる。その場にいる本人以外誰も意味が分からなかった。

 

「……あの、何をおっしゃっているのでしょうか?」

「もう一度言いましょうか。当社が開発した」

「それはいいんです!何故このようなことを発表されたのか聞いているのです!私達をからかっているのですか!?ほら色々あるじゃないですか、利益相反取引とか!」

 

 記者の一人が問い詰める。当然だ、会社として利益が無さ過ぎる。だがそれに対して飄々とした様子で鋼光社長は彼らにとって意味の分からないことを返答した。

 

「予言者が現れました」

「は?」

「予言者は我々に技術を共有することを命じました。そうでなければ我々はこの事態を乗り越えられないと仰って下さった。ならば私たちはそれに従うのみです」

「……病院に行った方がいい、あなたの頭はおかしくなっている」

「予言者は未来を見ます。それらは全て破滅しています。しかし乗り越える術はある。必要なものは情報の共有なのです。くだらない目先の利益の為に人類は停滞してはならない。だから我々が先陣を切った、次はあなたです。混沌の中にこそ真の未来があるのですよ」

 

 記者は気絶しそうな様子だった。だがそれを見て鋼光社長は成功だ、と内心ほくそ笑む。数日前の、紅葉との話し合いでこれは決められたことであった。

 

『紅葉、それは流石に無理だ』

『いや、できる。この状況に絶望している奴は無限におる、その中でうちらが先陣を切ることで一種の宗教を作り上げるんや。そこらの開祖より遥かに実績がある。それに無理に見えるからこそ意味があるんや。周囲はそれが可能になる理由が裏にあると思い込むんやから。そうすれば本当の意味で破滅を破壊する者(Apollyon)による最強の勢力ができる』

 

 紅葉は未島勘次という男を信じている。正確には鋼光紅葉と白犬レイナというサポートがついた彼を、だ。未島勘次の好奇心や直感、そして何より鈍感さは本物だ。故に人が目を付けない所に飛び込んで行き、今後も様々な隙間をついてやらかすだろう。それができるよう暴力と組織で補佐するのであれば面白いことになる。その証拠は15年後の自分がVer1.08の自分が遺してくれていた。紅葉はレイナと勘次が街の外にいた間、引継ぎをしていたのだ。一周前の自分の記録を確認して、確認して、策を練って。

 

 そして人類がどうしようにもない状態にある、という一点については鋼光社長も同意見だった。だからこそあまりにも唐突かつ奇策ではあるもののこの予言者作戦に賛成したのだ。『HAO』を知っている者ならば予言者とオレンジを直ぐに結びつけるだろう。だから意味の分かる人間であればこの言葉に食いつくはずなのだ。

 

 この作戦には2つの意味がある。一つは未島勘次の安全を確保すること。『2050年の未来を予知し動き、破滅を回避しようとしたが馬鹿にされた賢者』としてのポジションを手に入れてしまうのだ。少なくとも逃げ出す事しか考えていない政府よりは遥かに信頼されるだろう。そしてもう一つが紅葉の言った勢力作りである。

 

 まだ見ぬ勢力は無数にある。未来を知り、動けない既知の勢力も無数にある。鋼光社を無私の企業である、と一連の行動で認識させることにより協力を取り付けやすくするのだ。オレンジへの勘違いはそれにより拍車をかけ、さらに話を加速させるはずだ。

 

未来(Hereafter)は暗い。だからこそ先に進むには仲間が必要です。当社は協力者を募集しています。個人でも、企業でも。予言者の元に集い、情報を共有し世界を救うのです。我々の目標は2()0()5()0()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

「いやー、やっておるのう鋼光社」

「我々の方針とは完全に一致しています。博士、便宜を図ってはいかがでしょうか?」

 

 多種多様な機械が並んでいた。無機質なそれらは全て脳を模倣していた。能力者の、受動的未来予知のためのものだ。改造人間には二つのコンセプトがある。鋼光社の人間としての拡張、そしてHereafter社の能力の共有、定式化というものだ。

 

 遥か地下深く、そこにHereafter本社は存在した。博士と呼ばれた太った男は髭をいじりながらふむ、と斜め上を見る。彼こそが『HAO』における未来の観測並びに固定、挿入技術を定式化した男である。

 

「私たちの目的である、国家を離れた立場にての未来改変は成功し始めている。アップデート告知は出したか?」

「はい、鋼光社の情報公開と共に未来が大きくズレたのを観測しました。現在Ver1.09として案内を出し終えたところです」

「ふむ、これでも大きく変わらんか。いや、不老化により金だけもっている無能が増えたのか……?まあいい、アップデート作業を開始しろ」

 

 男たちは余裕そうな表情で語る。今までの2年間、彼らは国に拘束され続けた。だがそれから開放されてはや一週間でこの成果である。量産型Apollyon、月の『UYK』、マイナス質量物質、若返り、分裂体の討伐。

 

 膠着していた未来が変わろうとしている。破滅を乗り越えられるかもしれない。ただし彼らの余裕はそこではなく、未来を観測する技術を自分たちが独占しているという事に起因する。

 

「予言者オレンジには新たな勢力として我々の未来の為に働いてもらわなければな、ハハハハハ!」

「もし不味い事態となれば私たちが回収すれば良いわけですしね。能動的多重未来予知能力者、使い道はいくらでもあります」

 

 笑いがHereafter社内に溢れる。そしてこの笑みはすぐに悲鳴にかき消されることとなる。その叫びは一か月に及ぶメンテナンスの始まりを告げていた。

 

「未来が改変されて行きます!現在の観測値とズレすぎていて補正が効きません!」

「急いで補正を戻せ!測定器がエラーを起こすぞ!」

「ダメです!A-07番までブラックアウトしました!」

「今都市が見えました!崩壊していません!」

「嘘、2060年なのに大阪市が浮遊している……!」

「誰かがアップデート中に未来を変えました!そのせいで演算が……!」

 

 数少ない生身の測定器も報告を行う。完全に意識の外に追いやってしまっていた話だった。アップデート中に未来が変わる出来事が発生するだなんて、起きてもまれだと勝手に思っていた。博士はサーバー室に走り込み、機能不全に陥った装置の群れに絶叫する。確かにこの舞台を作ったのは彼だ。

 

「誰だ、こんな真似をしたやつはーーー!」

 

 

 

 

 

「よし。これでホライゾン社とガリゾーン社の情報アップロード完了!ロボゲーの始まりだ!!!!!」

 

 だが世界を動かすのはこの馬鹿に他ならない。

 

 

 

『Ver2.00にアップデートされました

・大阪市について

 ・終末管理局が成立しました。

 ・マイナス質量物質生成装置は無事です。

 ・武装が追加、変更されます。

  ・量産型Apollyonの有効性が認識されました。

   ・システムが変更となります。機体を選ぶのではなく基準機体を元に部品を組み替えていく形となります

     ・RE社製Arm-RE011が追加されました。

     ・RE社製対分裂体用ロケットランチャーRE01が追加されました。

     ・RE社製ガトリングアームRE01010が追加されました。

     ・RE社製肩部小型ミサイルRE11が実装されました。

     ・RE社製頭部マシンガンRE01が追加されました。

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・2050年の破滅は回避されていません。

・2055年の作戦は成功率0. ᦲᦲᲖၦ■■%です』


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