《完結》『Hereafter Apollyon Online』~超高クオリティクソゲーの生産職で巨大ロボット造って遊ぼうとしてるのですが何故か勘違いされます~   作:西沢東

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2040年視点です。


閑話 虚像を作る者たち

「なんであんな銃にしたんだい?本来遠距離射撃用の武器を無理やり中近距離用に改造しスペックダウンさせるなんて意味が分からないじゃないか」

 

 分裂体との戦いの前日夜、リアルにて白犬レイナと鋼光紅葉は通話をしていた。今回は完全に置いてきぼりであるレイナ、すなわちログイン規制により『HAO』に入れない彼女はスナック菓子を頬張りながら画面の向こうの紅葉に問いかける。紅葉は憂鬱そうに端末を覗きしゃべりだした。

 

「勘次君には象徴になってもらう必要があるからなぁ」

「象徴?」

「……今回の勘次君は2055年の作戦に参加できていない。その前に死んでるんや。未来の事を知りながら放置していた悪人として民衆につるし上げられてな」

 

 沈黙が二人の間を覆う。レイナの手が止まり紅葉は苛立ちを隠せぬ様子で端末を荒く机の上に放り投げた。

 

 人は原因を、自らの怒りを押し付ける生贄を常に求めている。例えば政治、人種、宗教。そしてこの場合では未来を知っていたかもしれない人間に向かったわけだ。最も派手な動きをした未島勘次という男に。

 

「これは向こうの、Ver1.08のうちの遺したデータに書かれていて向こうのレイナも肯定しとる」

「……彼は逃げなかったのかい?」

「逃げられなかったんや。もし逃げるなら旧大阪市外やけど、あの世界で海を渡って海外に逃亡するのはほぼ不可能や。それなら皆が前向きになれるよう怒りを引き受ける、なんて格好つけて死んでいったらしい。結果はあれやけどな」

「向こうの私は何をしていたんだ」

「うちもやけど、共犯扱いで厳重な監視や。仮に助けに行っていたら人類の敵扱いで必死に逃げ回る人生が確定してた。勘次君はそれを望まなかったけれど、向こうのうちらは本人の意思を尊重してしまったことを心の奥底から後悔していた」

「……彼が何をしたっていうんだ」

 

 レイナが弱々しく呟く。間違っても未島勘次は悪事を犯してなどいない。いや事故にあった会社は複数あって累計被害額は1兆に届きそうだという噂も確かに聞いたが意図的に無視しよう。その会社たちならともかく見知らぬ他人に断罪される理由など存在するわけもない。

 

 そしてこの状況で処刑されるということは2050年までならともかくそれ以降を考慮にいれるとレイナと紅葉だけで勘次を守るのは不可能であるということだ。彼女たちは民衆の恐怖と愚かさをなめていたのだ。

 

 だから、と紅葉は声をワントーン上げた。

 

「勘次君を象徴にしてしまう。虚像を作って拡大させ、処刑などありえない所まで引き上げるんや」

「……まってくれ、それだと結局同じ結末にならないか?」

「象徴の方向性や」

「?」

「今の勘次君は未来を見るだけの謎の人物扱いや。しかしこれが破滅を打開するために動きまわる人間で、既得権益に邪魔された結果が2050年やとしたら?」

「……無能な権力者と弾圧される賢者の構図になるわけか。なるほど、そういうストーリーを私たちで仕立て上げるわけだね?」

 

その通り、と紅葉は指を鳴らし幾つかの資料を画面に共有する。内容を見てレイナは頷き、すぐに自分のPCに保存した。中身はシンプル、オレンジという神輿をいかに作り上げるかというものだ。

 

『HAO』が映し出す未来はそれ以降に『HAO』で起きたことを加味しない。例えば今回なら未島勘次が公開した情報はAPとマイナス質量物質についてだけで、それ以降は『HAO』では何も起きなかったものとして扱われる。つまり2040年のこの2件の話をわざわざ2050年に持ち出し処刑しようとする奴らがいたということになる。

 

そうなると今からオレンジを隠そうとしても逆効果になりかねない。現在は変えられるが過去は変えられない以上、確実にこの2件は掘り出されてしまうだろう。

 

ならばそれ以上の成果と権威で殴り飛ばせばよい。

 

「だから敢えて近距離用の銃に変えてもらったんや。あれで先陣を切ることで分裂体に立ち向かっているという認識を与えるのが目的その1」

「そしてリアル側で例の手札を切ることでオレンジの方針、存在を脳裏に刻む。確かにここまでやればわかっている人間からすれば理解不能のmobではなく世界を救おうとする1勢力として扱われるね。いやよく考えるよこんな計画」

「色々大変になるけどここまでやれば少なくとも2055までは生き延びれるはずや。もし戦線から脱走して戦力も警備も激減した旧大阪市に潜伏できるなら更に未来が生まれる」

「うーん、何かイメージが違うな。というか目的がネガティブで小さすぎる。どうせならドンと大きな花火を上げてみないかい?」

 

紅葉の頭に疑問符が浮かぶ。今度はレイナがワントーン声を上げて言った。

 

「予言者オレンジは未来改変により世界を救うのさ」

「……アホか」

「アホじゃないさ」

 

レイナは帽子を脱いで姿勢を楽にする。

 

「今の話だと2050年の処刑を避けるだけで結局2055年には死ぬ。分裂体と戦うイメージをつけるならなおさらだ。そして作戦の成功率は0%のまま」

「……でもどうしようにもないやん、あんなの」

「だからかき混ぜる。今の案より更に虚像を引き上げて予言者オレンジの物語に世界を巻き込んでしまうのさ。少なくとも2050年までなら私が守る、彼が死ぬことはない」

「自信満々やね」

「核と第二世代以外ならなんとでもして見せる。私の兄弟は世界を滅ぼしたんだ、逃げるくらいならどうってことはない」

 

レイナの表情に虚勢はない。少なくとも暴力という一点においては彼女はまごうことなき怪物だ。絶対の自信を持つだけの理由はある。

 

紅葉はため息をついて方針の修正にかかる。残る一日、ただ二人だけの会議で世界の命運が決まろうとしていた。

 

 

 

 

【オレンジ】HAO攻略本スレpart170【分裂体討伐】

 

776 名無しのプレイヤー

いよいよ明日か

 

777 名無しのプレイヤー

作戦概要的に俺たちはオレンジと一緒に突撃すればいいだけだよな?

 

778 名無しのプレイヤー

>>777 多分そう。というか参加に挙手してるのが4桁に達している時点で複雑な指示は無理だからな。ネトゲ民がそんな軍隊みたいな動きできるとは思えん

 

779 名無しのプレイヤー

まあ装備も何もかもバラバラだしまともに作戦とか立てようがないだろ。とりあえず誤射しなければ許されるはず

 

780 名無しのプレイヤー

過去データ見るに4桁でも追い返すことしかできてないっぽいんだが実際どうなんだ?

 

781 名無しのプレイヤー

オレンジがアップロードしてた対分裂体用のやつ、確認したけど確かにあれならいけそうではある。火力がえげつない

 

782 名無しのプレイヤー

武器屋が使えないから装備の更新ができない……

 

783 名無しのプレイヤー

>>782 そりゃそうだろ、今は夜だぞ常識的に考えろ

コンビニ基準の奴多いよな、まあゲーム的には常に開いていて欲しいけど

 

784 名無しのプレイヤー

>>783 首吊って死んでた( ;∀;) 気のいいお姉さんだったのに……

 

785 名無しのプレイヤー

>>784 ごめんなさい

 

786 名無しのプレイヤー

自殺者増えてるから早めに装備更新は終えていた方がいいな。あるいは盗むか

 

787 名無しのプレイヤー

盗むのはちょっと……

 

788 名無しのプレイヤー

初心者でもこのイベント参加していいんですか?

 

789 名無しのプレイヤー

>>788 いいよ、死ぬけど

 

790 名無しのプレイヤー

俺の知り合いの墓ができてる……やっぱり未来だ……

 

791 名無しのプレイヤー

他サーバーからプレイヤーの応援って頼めないのか?

プレイヤー数が足りないなら増やせばいいだろ?何人来るのか知らないけどさ

 

792 名無しのプレイヤー

汚染された海を越えられるのなら可能。なお機械獣

 

793 名無しのプレイヤー

>>792 それ機械獣というより機械フィッシュだろ

 

794 名無しのプレイヤー

まあ集合時間守れば大丈夫でしょう、知らんけど

 


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