《完結》『Hereafter Apollyon Online』~超高クオリティクソゲーの生産職で巨大ロボット造って遊ぼうとしてるのですが何故か勘違いされます~   作:西沢東

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動画撮影

「……とまあ、こんな風に倒すわけさ」

「いや意味わからないんだが。なんであの硬そうな機械獣が一瞬でスパイラルポテトみたいになるんだよ!」

「だってカッコいいかなって」

「んなわけあるか」

 

 1秒にも満たない時間でカナブンの機械獣が分解される。分厚い装甲は何事もなかったかのように切り落とされ断面だけを晒すこととなっていた。それでもまだ動いてはいるがレイナは既にその場から離れており反撃の目はない。……機械獣ってプレイヤーが10人がかりでも負けるんじゃなかったっけ? 

 

「怪訝な顔をするな、君のお陰だよ」

「俺?」

「そう俺君俺君。君がマイナス質量物質のデータを持ち込んだからこそ装備の質が飛躍的に上がっている。ミスリル加工された刃物があるだけで本当に変わってくるからね」

「ここだけ聞くとファンタジーっぽいな」

「ミスリルは2iの虚電荷を持っていてかつ平面構造を取る影響で薄く加工するのが容易なのさ。だから刃物にもピンポイントの補強にも使える」

「うわでたよよくわからない設定。もう少しないのか、単分子ブレードみたいなの」

「それじゃあダメだったんだよ。仮にできても量産が無理なら話にならない」

 

 そう言いながらレイナはブレードを返してくる。そう、5メートルはあるAP用のブレードだ。この重量を右手一本で担いでスパイラルカナブンを作るんだから理不尽としか言いようがない。明らかにプレイヤーのレイナよりスペックが上がっている。第二世代がどうこうという話は嘘ではなかったようだ。

 

 因みに獣人、遺伝子改造にしては強すぎないかと思っていたのだが何と虚重原子なるものの変換反応を体内で起こせるらしい。例えば酸素を吸ってエネルギーと二酸化炭素と水を吐き出すように獣人は虚重原子を吸って別の虚重原子とエネルギーを得るとのことだ。仕組み的には人間よりむしろ機械獣よりだ、とレイナは話していた。

 

 それなら後天的に付与できないかと聞いたが体がそういう作りになってしまっているせいで新しいエネルギー経路を入れられないらしかった。チクショー、俺の獣人パワーを持った旧人になる計画(さっき考えた)が……。

 

 レイナが手招きするのを見てカメラを付けたまま俺はスパイラルカナブンに駆け寄る。どうやら遊びでやったわけではないようで彼女は断面図を見せながら俺に構造を解説してくれた。

 

「まず脳は普通の生命体と同じ、というかほぼ全て普通の生命体と同じと思った方が良いよ。例えばカナブンならここ」

「グロテスクだな……」

「で、ここ見たらわかるんだけどこの正面右下から右目を射撃するとこう、こう通って脳まで直撃することが出来るんだ。人類は初期、ここを狙うために弾をばら撒く戦法をとっていたよ」

「今やこんな姿だけどね……」

「特に触手が結構装甲分厚いから正面に固められたらお手上げなんだよね。だから回り込むことが容易な近接戦も好まれてる」

「切れ味落ちたりしないのか?」

「落ちるよ。だから初めから刃を少し潰しておいて鈍器のように使うんだ。とはいっても虚重金属製ならそこを気にする必要はない。このブレードもそうだろう?」

 

 レイナによる機械獣の狩り方講座が続く。ただ話が脱線するのでこれは別途まとめ動画にしたほうが良いのかもしれない、そう思いながらカメラを向ける。断面を見る限り本当に生体が機械に置き換わっただけの姿だ。そういや機械獣ってどうやって子供産むんだろうね。もしかしてコウノトリが運んでくるとか? 

 

 さて、それじゃあ俺もやってみるかとAPに乗り込もうとしたところでレイナに手を掴まれる。優しいその手はしかし鋼のごとくピクリとも動かない。

 

 何だよ、AP取ってこないと何もできないんだがと目で訴える俺にレイナは笑顔で言った。

 

「じゃあ生身で倒してみよっか」

 

 何で!? 

 

 

 ◇

 

 

 俺の生身の装備は二つ。一つは初期装備の弱っちいハンドガン『BeansGun』。機械獣相手にはあまりにも貧弱だが嫌がらせやとどめを刺すのには使えなくもない。そしてもう一発が紅葉に貰った単発の大口径拳銃である『獣殺し』だ。これは鋼光社製がハンドガンで機械獣を倒すというコンセプトのもとに製作したロマン銃。

 

 正直言おう。パワードスーツも無い生身で勝てるとは全く思っていなかった。

 

 先ほどと同じカナブンの機械獣が迫る。ここ一帯は彼らの生息地であり容易にレイナがトレイン(敵の誘引)することができるのだ。

 

 しかもそれが2匹である。普通に考えれば勝てるわけなどない。だが今までの12回の試行で分かったことがある。本質的にこの世界が、そしてプレイヤーたちが窮地に陥っているのは敵が強いからではない。情報が共有されず相手の事から目を背けるからなのだと。

 

 背後は見ないようにする。そこにあるのは動画撮影のために犠牲になったカナブンたちの死骸だ。既に11回失敗していて弾薬も尽きそうになっているがレイナによる救助で撮影を続行していた。

 

「APの動画は撮れたんだろうけど本人の動画も必要だろう?」

 

 見透かすような言葉を思い出しながら12回目のトライが始まる。息を整えて両手で『獣殺し』を構える。この銃の反動は片手で抑え込むことは不可能だ。逆にそれだけの威力がある銃弾が目から脳にめがけて一直線に飛び込んだら。

 

「鱗の大地は良い意味で戦いやすくなることもある。段差が地面に多いからそこを理解しておけば登るときには体が上向きに。下るときには下向きになると容易に想像がつく。また大きな段差なら遮蔽にすらなりうるんだ」

 

 機械獣が奇怪な鳴き声を上げ俺に迫る。だが俺は怯えずに『獣殺し』を構え、待つ。カナブンの姿勢が足元の段差で少し傾いた瞬間俺は引き金を引いた。悲鳴を吹き飛ばすけたたましい銃声が辺りに響き渡る。銃弾は見事にカナブンの目を貫通し脳まで到達、関節部から紫色の液体がはじけ飛ぶ。

 

 一体目を倒したからなんだ、と言わんばかりにもう一匹の機械獣がこちら目掛けて走って来る。本来はゆっくりした動きのはずであるのにゴキブリの如く異様な速さである。単発式である『獣殺し』をVR西部劇でやった通りの片手リロードで装填、その隙に左手で『BeansGun』を構え発砲、段差を乗り越えようとしたカナブンの腹に命中。

 

 ダメージはないが痛みで咄嗟に姿勢を下げる機械獣。だがそれは俺の思うつぼだ、なんせ俺から見て目と脳が再び一直線になる。片手でリロードした『獣殺し』の排熱の残滓を感じながら両手で銃を構え、再び目に向かって射撃。早打ちの技術がこのゲームで役に立つとは思わなかった。

 

 10メートルまでたどり着いていたカナブンは大きな悲鳴を上げる。当たるわけがない、本来は。だが機械獣が人間より遥かに大きなサイズであること、地面の起伏により速度が限られていること、そして奴らが一直線にしか進んでこないこと。ここまで要件が揃っていて落ち着いていれば12回もあったら一回くらい成功するだろう。

 

「はいカット」

「倒せるもんだなぁ、対策知っていると」

「武器も技も人間も揃ってて、何なら核爆弾もあって、何が起こるかのデータも集まりつつある。なのに世界の破滅が回避されないのは情報共有の無さ、そこから引き起こされる過剰な恐怖。人は群れて立ち向かうから強いのに恐怖と利権で引き裂かれればどうしようにもない。その象徴こそがあの融合型Apollyonだしね」

 

 よし、と俺の頭をレイナが撫でてくる。いやぁ、あのスレで書かれていた内容は一体何だったんだろうか、機械獣倒すの本当に簡単である。ただ奴らの大きさのせいで上を向かれると一切脳に攻撃が届かなくなる、という致命傷はあるけど。

 

「こういうの冒険者ギルドで教えてもらえないのか?」

「教えてもらえる可能性もある。ただこういった弱点を突く戦法は相手に思考を回す余裕が出て来てから生まれたんだ。昔は今のプレイヤーと同じく如何に火力だけで押し切るか、という点しか考えてなかった。だから知っているのは本当に限られた人物だけだと思う」

「お、ということはこの情報世界初になるかもしれないのか。ちょっと動画カットして投稿だけしてくる」

「OK。じゃあ後で」

 

 そう言って俺はログアウト、すぐに動画を投稿する。あの態度的にあまり時間を空けるとまた俺をロックしかねない。

 

 

 そしてその翌日。掲示板で俺は世界最強のプレイヤーということになっていた。……なんで?




『スパイラルカナブン』
カナブン+触手+爬虫類の見た目をした機械獣。メイン部位がカナブンでレイナにスパイラル(隠語)されたのでスパイラルカナブンと勘次の中では呼ばれている。スパイラルポテトに謝れ。結晶樹の内部を通る金属溶液を摂取し生きる。光に呼ばれる性質もあるので時たま行商人のAPに向かって悪意なく飛び込んできたり。弱いけど迷惑。


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