《完結》『Hereafter Apollyon Online』~超高クオリティクソゲーの生産職で巨大ロボット造って遊ぼうとしてるのですが何故か勘違いされます~   作:西沢東

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『戦闘バランス』
AP>第三世代獣人>能力者>改造人間>旧人(パワードスーツ)
上記のバランスは対機械獣についてであるが、やはり金がかかるだけありAPは強力である。紅葉が無料にしてくれているから良いもののまともにやれば一年は金策をし続けなければ修理できなかったと思われる。

因みにこのバランス、改造人間とパワードスーツはその機械獣に有効な装備をあとから追加できるという応用性については考慮されていない。


急展開

 ヒニルたちは怒っていた。2日に渡るスルー、見え隠れする影だけを追い気力と体力を消耗するだけの時間。配信の同時接続者数は200を割るような状態となっていた、オレンジと『HAO』という名前があるのにも関わらずだ。

 

 そしてそれはヒニルと協力者との溝を広げる事にも繋がっていた。ヒニルは思い通りにいかないが故に彼らに強く当たり、一方協力している視聴者側としては何故そんなことを言われなければならないのか、という不満がたまってしまうのである。

 

 この突撃は正にその隔たりを表すものでもあったのだ。ヒニルがその場にいないにも関わらずオレンジに直接攻撃するというのは配信の企画としてはあり得ない事なのだから。

 

「よし行くぞ、オレンジを倒して断」

 

 鋼光社前に集結していたのは実に20人に及ぶプレイヤーだった。全員が装甲型パワードスーツに身を包み機関銃を抱えている。Jankyと呼ばれるその銃は低価格高火力高故障を掲げる兵装だ。

 

 が、その力が発揮される前に5メートルもの長さを誇るブレードが彼らの首を切断する。その場にいる全員は驚愕していた。ブレードの大きさだけではない、APというものが動いていて、しかもいつの間にか背後を取られていたが故に。

 

「背後だ、撃てー!!!」

「硬いなぁお前ら!」

 

 相手が回避できなかったにもかかわらず一太刀目で2人しか倒せなかったことに舌打ちする。切り飛ばされた首は切断面と血を見せつけながら宙を舞っている。  

 

 それらが落ちる前に二太刀目を叩き込む。重装甲故に小回りがきかないのは同じ条件だ。しかし裏口からAPを移動させて背後を取ったこの差は極めて大きい。

 

 操縦桿を全力で前に倒し、思考をAPに合わせる。VR技術の応用という話は事実だったようで手を動かすと念じればそのように動く。

 

 だが違うのはそれが機械によるラグが発生するという点だ。先程の袈裟斬りから判断すると大体0.5秒ほどラグがあり、更にブレードの重さで想定の二段階下に攻撃が入ってしまった。故にパワードスーツの装甲板に引っ掛かり2人しか斬り飛ばせなかったのだ。

 

 だから。

 

「ーーー2つ上」

「剣より銃の方が上だ!!!」

 

 脚部関節が音を立てて人工筋肉による歪みを抑える。機獣油により滑らかに動いた腰が脚部の力をブレードにそのまま乗せ、それが先程とは違い装甲が薄い首に走る。

 

 とはいえ流石装甲型、100kgを軽く超える質量のブレードが人工筋肉により全速力になったとしても簡単に切断されてはくれない。首元の薄い装甲に当たったはずなのに火花と振動が飛び散り剣筋を歪める。

 

 それでもAPがブレードを振るった瞬間4人の体が両断された。両断された機関銃が飛び跳ね甲高い悲鳴を上げる。

 

 同時に全力でブレードを振るった代償に体が少し振り回されたが、その隙をつくことは許されなかった。

 

「意外と戦えるねAP。勿論彼らが初心者で中距離型なのもあるけど」

「さんきゅーやで、残りはこっちでやっとくな」

 

 彼らが背を向けた扉から意識の狭間を縫うように二人の少女が飛び出してくる。

 

 一人は素早く姿勢を下げて右側に滑り込み完全に死角となる位置からサブマシンガンを連射する。紅葉は『脚部改造:加速』を二段階初期スキルで習得していると聞いていた。それを活かしたアクロバティックな動きは敵を大いに惑わしていた。

 

 背後からの銃撃を装甲で防ぎ撃ち返そうと振り向いた瞬間に紅葉はその場所から消えている。他の取り巻きの影になるように滑り込ませその位置から関節に銃を連射、膝の部位から出血。

 

 対応しようにも圧倒的な速度で銃口を定めさせずに装甲の薄い所に射撃を行う、それが彼女のスタイルだった。

 

 確かに強い。強いがもう一方。

 

「ほい」

「ほい、じゃねえよ……」

 

 ぐしゃりという音と共に10個の塊が地面に投げ捨てられる。先程まで俺たちを殺そうとしていたプレイヤーの首だ。

 

 レイナは自分の役目は終わったとばかりに血に染まったナイフを拭う。実際何が起きていたかは俺視点から見ても辛うじてしかわからなかった。

 

 やっていることはナイフで首を斬り続ける、それだけだ。問題はその全ての動作が圧倒的な早さで行われていたためナイフの反射と飛ぶ首、動く影以外の何も見えなかったことである。

 

 紅葉や俺は隙がどうこうという話ができるがこいつは明らかにその次元を超えていた。多分20人全員レイナだけでどうにかなったのではなかろうか。

 

「いやー、身体能力が低いって困るね。倒すのに結構手間取ったよ」

「あてつけかオイ。で、ここから配信をオンにして目的地に行けばいいんだよな?」

「ここまで配信で流すと鋼光社とオレンジの関係が自明になっちゃうからね。オレンジ目当ての人がここに来続けると大変なことになる。きちんと調べればわかる、くらいにしておかないと」

「16時に突撃やで、頼むわぁ」

 

 参謀レイナ様の指示通り配信をつける。ヒニル君は待たされすぎて今、街の中央でブチギレながら報告を待っている状態とのことだ。そこに向かって一直線、俺が正面で陽動を行い二人が後ろから殺すという作戦で仕掛ければ良い。

 

 配信タイトルは、あまり乗り気じゃないので『オレンジ配信』でいいや。取り直したアカウントで保存してーーはいOK。

 

「気をつけてな、数の暴力は驚異やで。そこの人は当てはまらんみたいやけど」

「最強だからね。人類皆1レイナ以下の戦闘力しかないのを恥じるべきじゃないかな?」

「膝撃ち抜かれても同じこと言えるん?」

「リアルなら再生するから実質問題無し」

「ゲームの話しとんねんで……」

 

 そう言いながらレイナたちはカメラに映らないよう裏路地に去っていく。配信を開始しても特に喋ることがなかったので俺は無言でAPを走行させ始めた。

 

 APには静音モードというものがある。隠密作戦、特に聴覚にすぐれる機械獣対策として必ず実装されているものだ。それを利用しながら一歩一歩走る。

 

 流石に物珍しいのか見かけた人は目を見開いているのがわかる。見ろ見ろ、これがAP様だ!!! 

 

「えーっと、このまま商業区を過ぎて駅を越せば行けるんだな」

 

 APの歩行速度はかなり早い。車と並走できるくらいの速度をコンスタントに出せる、本来は輸送目的に使われていたものなのだ。だから思ったより早く目的地につきそうで、少し困ってしまう。

 

 コメント欄は既にお祭り騒ぎとなっていて

 

『オレンジ出た!!!』

『ヒニルとの件どうなったんだ?』

『なんか情報出るのか』 

『ログイン制限かかっててダルいです、アプデはよ』

 

 などと書き込まれている。俺は運営じゃないからアプデなんてできません、あと同接もう2000超えたのか早いな。ヒニル君に1割くらい分けてあげて欲しい。

 

 もう少し走ると駅にたどり着く。が、目的時間よりかなり余裕があった。先に行ってもどうなんだろう、そう思っていた所で俺は妙なものが目に入る。

 

 

 この駅はもともとあった駅が破損を繰り返した結果できた廃墟である。だからもう何もないただのオブジェだと思い込んでいたのだがそれは違ったようだ。

 

「地下……?」

 

 それは2階や3階ではすまないくらい下まで繋がる、かつてエレベーターのあった穴だった。

 

 ……ちょっとくらい寄り道してもいいかな? 

 

 ◇

 

 

 瓦礫が周囲を覆っている。既に盗掘者達が奪い尽くした跡がそこらかしこに点在していた。旧大阪駅の地下13階、とそこには書かれていた。

 

「いったぁ……。手の皮剥けるかと思ったぞ」

 

 足元には砂のようになってしまったかつて壁だったものが散らばる。全面にヒビが入っているような悪環境であるのに電気だけは不思議と通っているようで明かりがついていた。

 

 この街について気になった情報が一つある。

 

『この街は分裂体の死骸に着陸した』という噂だ。なぜ着陸したかはどうでも良い、本当に気になるのは『着陸するまでは飛行していたのか』ということだ。

 

 着陸なんて表現を使う以上この街はかつて何らかの方法で地面から離れていたはずなのだ。そしてその仕組みが残っているとすれば当然、地上ではなく地下にあるはずだと睨んでいた。

 

 そして目的のものはすぐに見つかった。そもそもメンテナンスが必要だ、こういった重要なものは。それ故にわかりにくい場所にはないだろうと思っていた。

 

 そこには大きな粗大ゴミがあった。盗掘者により部品は抜き取られ、幾度もの衝撃により穴だらけのプラントのような何かであった。かつて溶媒や特殊な原料を入れて何かを作っていたであろう装置だ。汚れを見るためなのだろう、本来の気持ち悪いくらいの白色は埃により隠れていた。

 

『マイナス質量物質生成プラント4』

『温度低下に注意!』

『ガス圧をチェック、金属部位の腐蝕も見逃すな!』

 

 反重力物質的なものをここでは使っていたらしい、と張り紙を覗き込みながら思う。例えば空気より軽い気体、熱されたガスは上に浮かぶ。気球などはその性質を使っているが、ではマイナスの質量のガスが存在すれば? 

 

 ……まあ実によく浮かぶのだろう、そんなものが存在するとは思えないけど。しばらく歩き回るとさらにいろいろ見えてくる。外れたガスの配管、人骨、巨大な圧力でねじ曲がった鉄骨。

 

「お、事務室か何かか?」

 

 そこだけ透明のガラスで仕切られた部屋を見つける。ガラスは全て割れていて扉は下半分が吹き飛んでいる。怪我すると怖いので破片を軽く避けながら窓から部屋に入った。

 

 休憩室だったのだろう、睡眠用の寝袋や椅子が逆さまに転がり暇つぶし用の本もいくらか置かれている。

 

『ガリー・ポッターと炎の核兵器』

『それゆけアンポンタン!』

『猿でもわかる結晶場理論』

『マイナス質量物質を用いた大規模宇宙航海の仕組み、実用化の展望について』

 

 ……わかっていたことだがコメント欄がうるさい。本を見た瞬間読め読めと騒いでいる。読んでほしいのは炎の核兵器が3割でマイナス質量が7割くらい。ただ炎の核兵器は人気作品であるため実際に本屋でよめば良いのでマイナス質量についての本を開く。

 

 同接数はいつの間にか30万を超えていてその皆が俺に何かを起こすことを期待している。が、一般人なのだ。興味だけは一人前の雑魚に過ぎないのである。

 

 本読んでも前回みたいにアプデできるわけねぇだろ……と思いながら俺は80ページ前後の薄い本を開く。でも万一アプデ来てログイン制限解除されたら気持ちいいな、とも思う。解除されたら被害者による本気のヒニル狩りが始まるだろうからな。

 

「カメラ写ってますよね。皆さんこれ録画して各自でスクリーンショット作ってください、またアップロードするの面倒なので」

 

 スペースイグニッション社なる会社が発行したその本をペラペラとめくる。ふむふむ、もともと『UYK』や機械獣に勝てないと判断した国は宇宙に脱出しようとしていたと。その際のサブエンジンとして期待されていたのがマイナス質量物質の生成反応で、しかし肝心の1億人が入るロケットなんて作れなかった。

 

 そこでまず破滅をあえて見逃して人口を減らした上で残った人材を打ちあげようと試みていた。が、結局上手くいかず地上300メートルに浮かぶのが精一杯だったとさ。

 

「あー、このマイナス物質作る施設が大き過ぎて打ち上げるのが無理だったのか。で、40ページからは詳細理論か。うーん何もわからん、興味のある人だけ撮影どうぞ」

 

 何もわからない残り半分を投げやり気味にカメラに写してゆく。最後まで写し終えた瞬間、あの緊急クエストと同じポップアップが出る。

 

『緊急アップデートが5分後の16時より実行されます。メンテナンス時間は20分ほどです』

 

 ……また何かしてしまったようである。が、考えるべきはそこではない。予定時刻の16時まであと5分しかないということである!!! 

 

 やべえレイナに怒られる! いやあいつ呆れるだけでそれ以外何もないけどそれはそれで心にくるんだ! と全速力でエレベーターのあった穴にたどり着き行きに取り付けていたワイヤーを引き戻すことで一気に上昇する。

 

 因みに紅葉についてはよくわからない。昔の話だし。そう考えると俺は今の紅葉については本当によく知らないな。あいつが怒ると……ねちねち言うのか、むしろ対応が優しくなるのか。その結果を確認したくはないものである。

 

 慌ててAPに乗り込みコクピットを閉じて視界を切り替えた瞬間、画面が黒くなり強制ログアウトの文字列が流れる。間に合わなかった……! 

 

 ……黒い画面とはいえ配信続いてるし、スマホに何か彼女達から連絡来てても怖いのであえてそのままログアウトせずに時間を潰す。

 

『やっぱこのゲームおかしくね?』

『ログイン制限解除キターーー!!!』

『やりやがったこいつ、お前がナンバーワンだ』

『ログイン制限でハメようとしてたヒニル涙目で草。このゲームアプデのタイミングでそれ解除されるんだぞ』

 

 流れるコメント欄をぼーっと見ながら時間を潰す。視聴者は30万人を超え大層盛り上がっているが俺は困惑と約束スルーによる恐怖でそれどころではない。好奇心出してすみませんでした、別にあなたのことを蔑ろにしているわけではなくてですね。しかし次のアプデ何来るんだろ、APまた追加されないかな。

 

 そんなことを思っているとついにアプデが終わる。今回は凄く早いなぁと思いながらログインボタンを押してーーーー黒い空が俺たちを迎えた。

 

「あえっっ」

 

 黒い空の下で次々とプレイヤーがログインし、ミイラのごとく干乾びて宙に浮く。重力はあるのか少しずつ倒れてはゆくのだがそれらのミイラは無限に増え、回転し、周りを跳ねていた。

 

 俺はその中で唯一立っていた。理由は勿論、AP内部は空気が遮蔽されているから。戦闘を想定したAPは衝撃を受けて密閉が無くなり酸欠、という事態を防ぐために極めて強固に作られている。だからこの()()()でも俺は生きていられた。

 

 

 分裂体もヒニルも、機械獣も『UYK』も、全ては置いていかれてしまった。空を見上げると無数の星々が映る。あの中のどれかがかつて俺たちがいた場所そのものであった。

 

 

 

 

『Ver-1.00にアップデートされました。

 ・虚重副太陽の形成に成功しました。

 ・イギリスと日本は宇宙への脱出に成功しました。

 ・2050年の破滅は回避されていません。

 ・2055年の作戦は成功率0%です』 


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