《完結》『Hereafter Apollyon Online』~超高クオリティクソゲーの生産職で巨大ロボット造って遊ぼうとしてるのですが何故か勘違いされます~   作:西沢東

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Q そういえば奏多ちゃんなんでグレてるの?
A 色んな要因あるから面倒なんだけど、最大の理由はオレンジに告白して振られたからです。


Re:君と言葉を、最期に

 未来の俺。確かにそうだ、未来の紅葉と、未来のレイナと出会っている以上そういうこともあるのかもしれない、と心の片隅では思っていた。

 

『マジでゴメンって消すのだけは……』

 

 だがこんなのだとは思わなかった。世界の破滅に対抗しているはずなのにスーパーメカバトル5で落ち込み続けているその姿勢。やっぱこいつ俺だ、そんなことされたら他の思考すっ飛ばして落ち込んでしまうわ。

 

 そしてその言葉に反する姿。片目を上から包帯でぐるぐる巻きにした痛々しい姿。よく画面を見ると右手の人差し指から手首にかけて治りきらない火傷の跡が残っており左手の中指は第一関節の先は失われている。一体どれだけの戦いを乗り越えたのか、どれだけの地獄を見たのか俺には想像すらできない。ただその傷を負ってなお生存しているこの姿が「俺はやった」という事実を突きつけていた。

 

 画面の向こうの俺は気を取り直すようにぱん、と顔を叩いてから口を開いた。

 

『まあいいか、『引継ぎ』をしよう。今回は恐らく紅葉から『固定』が終わった後この動画を渡す、ということは不可能らしい。というわけで今俺の目の前にいるのはまだ『固定』されていなくて、捨て駒になる可能性のある奴だと仮定して話を進める。そろそろ俺も限界が来ている、多分近いうちに死ぬのは避けられなさそうだからな』

 

 ごくり、と唾を飲む。周りで見ている紅葉も奏多も何も言わない。そうだ、俺は明日起きたら『固定』された、2060年に引用情報になり果てる世界にいるかもしれないのだ。『HAO』は起動せず、その事実に気づいた人の一部は絶望し混乱の最中に突き落とされる、終わりの約束された人生。

 

『お前に頼むことは一つ。やるべきことをやって次に繋げる。もし幸運にも『固定』されなかったのならばそれらを背負って結果を出す。本当に辛かったのはVer1.08やVer2.00の俺だ。もうここまで道筋とサポートが付いているならば問題ない。全力で走れば結果が必ず付いてくる、これほど楽なことはない』

「でも俺のせ」

『でも俺のせいでって言うんだろうな。それは違う。責任問題は究極的には意味がない。結果を出せ、それで全てが変わる。俺を見ろよ、予言者なんて祭り上げられたゲームが上手いだけの一般人。撮影時は2052年だが信じられるか、まだ皆俺の事を本物の能力者だって信じているんだ。そして俺が先頭で走り続けるからこそ人は希望があると信じて付いてくる。象徴になるんだ、未来を変える存在として』

「……俺にはできない」

 

 録画なのにまるで俺の言葉を見通したかのような言葉に、画面の向こうの俺を直視できずに視線を逸らす。俺のせいで荒廃した世界。人一人すらいない破滅。もしもっとマシに動いていたならば、少なくともこのVerの人々はもっと長く生きることが出来た。俺は今どんな表情になっているのだろう。紅葉と奏多から心配するような視線が飛んでくる。

 

 だけどどうしろというんだ。昨日まで一般人だった奴が、混乱の中心的人物となって。画面の向こうみたいに傷つきながら破滅の約束された世界で戦い続ける。自分の周りの人物は誰一人として救われず、引用情報として無惨に消える。落ち込む俺に対して静かに室内に言葉が満ちていく。

 

『俺も初めは無理だって思っていた。3日で終わった『焦耗戦争』の後『HAO』が更新されないことでこの世界が『固定』されていると知った。国の取り調べや他企業の追手から逃げ回りながら、終わっていく世界を見ていた。こんなに自分が信じていた世界が脆く崩れていくとは思っていなかった。国家同士の戦争、進化していく分裂体』

「……」

『でも見ていて思ったんだ。つまらない。淡々と逆転もなく破滅していく人類を眺めるとか退屈にも程があるだろ? でももし自分が動いて逆転の目を作れるのなら。その一助となれるなら。そう思っていたら体は動いていた』

「……」

『初めは痛いし怖かったさ。状況によっては人を殺す必要もあったし仲間が死ぬこともあった。日々が地獄っていうのはこういうことなんだろう。俺が手を下しても人は死ぬし下さなくても人が死ぬ。なんとか救助した人たちが翌日分裂体にひき潰されて海辺に肉片が散らばっていた時の気持ちが分かるか?』

「知るかよ……」

『でも俺はやったんだ。この動画がきちんと届いている、ということはやり遂げたんだ。()()()()()()()()()

「知るかよそんなこと! そんなことを言われても俺は!」

 

 動画の声に思わず絶叫する。なんでそんな目に遭わなければいけないんだ。地獄を見る必要があるんだ。普通にゲームをやっていただけなのに、どうしてこんなことになるんだ。意味不明すぎる。大体俺がやる必要はないじゃないか。予言者は人類に失望したとかいって適当に隠居か自殺でもしておけばいいんだ。なんで未来を背負って戦わなければいけないんだ、そこまで傷ついて!

 

 紅葉が身を乗り出して俺の右肩を静かに叩く。それで少し落ち着く。そうだ、どんな選択をしても紅葉は俺の味方をしてくれるはずだ。だからやらないという選択も十分に残されているんだ。救いの手の重みを右肩に感じながら言葉の続きを聞く。

 

 

『紅葉にスーパーメカバトル5の試作版を遊ばせてもらえるって言われてさ……』

「紅葉ぁぁぁ!」

 

 ちゃうわ救いの手やないこれ、脅迫の鎖や! 大急ぎで紅葉を見ると悪戯っ子のような表情をしていて、肩にかかった手は万力の如くその場所を離れようとはしない。にしてもダメだろ俺に対してその脅迫は、ジョーカー過ぎるんだって。ロボゲー大好きなんだよ!

 

『この左指を失った戦いもさ、紅葉が言ったんだ。アーマードギアの開発者がそこにいて、助ければ新作作ってくれるかもって言われて……』

 

 うんそりゃ地獄に身を投じるわ。一般市民じゃいくらやっても達成しないであろう目標に地獄とはいえ短期間で到達できる可能性があるんだから。俺の大好きなロボゲー、しかし一向に新作が発売されないそれが開発される未来があるのなら身を投じる。しかも『引継ぎ』を使えば開発途中だったとしても意味が生まれてくる。

 

 ようやく今までのVerの謎が解けた。紅葉とレイナのサポートがあれば確かに戦闘については誤魔化すことが出来るだろう。しかし英雄的な立ち回りについてはどうなのか。何故未来になってもなお予言者という化けの皮が剥がれなかったのか。

 

こいつ(紅葉)(ロボゲー)で釣って操っていたからだ。

 

『本当に紅葉酷いからな! こいつこの状況に持ち込むために『革新派』が『焦耗戦争』について隠蔽してくれているのを逆に妨害して共倒れさせたからな。この破滅、5割分裂体と『UYK』の仕業で残り5割が紅葉だ』

「半々かよ最悪すぎるだろ」

『しかもこの前徹夜でゲームやった結果この傷負ってそのせいで紅葉にスーパーメカバトル5が消された……鬼……』

「その傷徹夜のせいなの!? 命かける戦場で何やってんだ。……でもそっか、地獄だけじゃないんだ」

 

 酷い話である。偉大な予言者とやらの実情がこんなものだとは誰も思いはしないだろう。だから安心できる。こいつは間違いなくもう一人の俺で、そのルートは俺が走る事が出来るものだと。俺が出来たからお前も出来る、それが真であると。画面の向こうの俺は親指を立てて笑う。

 

『大丈夫だ! 俺達にはVer1.08からVer3.00までのオレンジ対応マニュアルがある! 何を思っていようと最終的には餌に釣られて動いてるさ、馬鹿だから気が付かない』

「その馬鹿のせいでどんな目にあったと……」

「まさか思わんかったわ、『固定』されてからが本番やったなんて……。マニュアル何回修正したらええんや……」

「さては俺やらかしたな?」

 

 そう聞くと二人は凄い勢いで首を縦に振る。もうどう反応していいか分からない。脱力すればいいのか、俺が何をやらかしたのかを興味本位で聞いてみるべきなのか。ただ俺の中で絶望感というものは薄れていっていた。画面の向こうの俺はコホンと咳ばらいをし腕を大きく広げた。自信を胸に漲らせ彼は俺を説得していた。画面の向こうの男はいかなる理由があれど、この絶望に対して前に進んだのだ。

 

『因みにVer3.00じゃあApollyonの大会、Apollyonグランプリってのがあったらしい。破滅しない世界で、純粋にロボットの操縦技術を競い合うんだ。本当にゲームのように、誰の命も失わず遊べたんだ。俺の心残りがあるとすればそれだ。『固定』されなかった俺、それを叶えてくれ』

「最高じゃん、絶対出場してやる眼鏡先輩と組んで」

「それは卑怯すぎるで。人力チートや」

『そして最後に。俺たちを踏み台にすることを躊躇うな。俺がログインしてから計9回か。確かに人類80億と考えると700億近くの人間を生贄にするわけだ。この点では間違いなく『HAO』は悍ましい仕組みだ。しかし一方でそれらは破滅までの10年しか生きることはできない。対して一度でも破滅を乗り越えられたのならば80億人の多くが先に進める。90年人類が存続すれば80×90=7200で元は取れるんだ。暴論だろ。でも他の計画では成しえない。80億の大部分を犠牲として先に進む計画ではあり得ないほど未来が広がっていくんだ』

「……」

 

『そして俺たちのやっていることは当然褒められたことではない。予言者であるだなんて嘘をついて周囲を騙し地獄に付き合わせている。この罪を償うのは土下座では到底不可能だ。結果。世界を救ったという結果がこの嘘を上から塗りつぶすんだ。だから過去の俺にこれを言って終わろうと思う。――()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 その言葉を何度も反芻する。ここからの俺は『固定』されれば物理的に地獄を見るし、『固定』されなければ自身は未来を引用情報化した者達の一端であるという認識を持って生きる事になるだろう。

 

 だがそれから逃げてしまえば、目の前の男に、そして引用情報化された人類に顔向けできなくなる。物理的に生きても精神的に死ぬのだ。ならば立ち向かうしかない、泥を啜ってでも道を踏破するしかない。だから俺は立ちあがって、聞こえてはいなくても画面の向こうに向かって宣言した。

 

「任せろ」

 

 『HAO』最終アップデートまで残り3日。終わりはすぐそこだ。


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