猛火の城だ。
ミッドランドに伝わる大昔からの言い伝えにあんな感じの都市が燃える話があった。天使に焼き払われたという伝説だ。
あいにく目前の惨劇は我々のボスが引き起こした物なわけだが。所詮戦争の一面だと片付けるにはあまりにも
野戦に敗れて傘下に降った己さえも幸運だったと思える程に。
人が
「他人事ながら恐ろしいな」
「あらぁ。一軍の将ともあろう方が尻込みなさるの?」
!?
いきなりの独特なオネエボイスに思わず体がビクッと反応してしまった。
この口調、妙に艶やかな声音、ああ。君か
横目で捉えた姿はよく知るクシャーンの将軍、転属で来たクシャーン人の中で唯一将軍として指揮権を与えられた
彼女は2連の指揮官だから本来はここに来るはずないんだが…
「ナバーラ、アンタの持ち場はここじゃ無いだろうが。暇だからとこんな所まで足を運んで……攻撃命令が来たら出遅れるぞ」
「あらぁ?心配してくれるのかしら。嬉しいけど無用な心配よ、そこまで馬で来たんだから」
まぁ暇だからな。
普通攻城戦となれば俺たち歩兵は盾をかざして命をかけて波状攻撃を仕掛けるもんだ。
だがガンビーノが指揮を執るようになってからは制圧戦が殆どになってきている。そのおかげで攻撃開始から5日が経った今日まで誰1人として死んでいない。(迎撃で数人負傷したとは聞いたが)
「んで?俺が昼寝よろしくサボってた事でも報告するかね」
「んふふ。やぁねぇアタシそんなに性格悪くないわよ、ちょっとからかいに来ただけなんだから」
十分いい性格してるだろうに。って言葉はポイ捨てしといて取り敢えず『横来いよ』と手招きしておく。
悪い女…うん。悪い女じゃないんだが癖が強い奴だからな
ガンビーノ以外じゃ俺が1番話しやすいって思ってんだろうなコイツは。性別のちぐはぐに戸惑う男連中や「ええっと…(´・ω・`;)」って話づらそうにする女連中とは確かに噛み合わないだろうし。
「なんで俺の所に…バーランとかカルテマとか、2連連中に絡んでりゃ良いだろうに」
「んふふふふ。分かってるでしょうに嫌ねぇ」
「言ってみただけだ、お前こそ分かって言ってるだろ」
「ええ勿論、言ったでしょ?からかいに来たって」
「はっ(w」
本当に遊びに来ただけかよ。
目の前じゃデケェ城塞都市が黒煙を巻き上げて燃え盛ってるってのに、コイツと居るとまるで平時の一コマのような錯覚に陥ってしまう。
なんだかなぁ。
「ガンビーノ閣下が怖い?」
「…なに?」
「そんな顔してたわよ。彼らへの同情ってよりは我が身じゃなくて良かったとか、そんな感じのね」
俺がガンビーノを?
まさか。ガンビーノの怖さは戦った時に体験してる。敵にはどこまでも苛烈で部下にはやけに世話を焼く。
だが──
「そうだな、俺は怖かないが危うい奴は何人かいるな」
「そう。でもそういう子たちをなだめ、抑えて解きほぐすのも私達の仕事のウチよ」
分かっているさ。
俺でさえガンビーノが何を目指して戦い続けてるかまだ見えてこないんだ。付き合いの短い、今を生きるので精一杯な連中がガンビーノを畏怖する気持ちも分かる。
実際、ガンビーノと同じ先を見えてる奴は最古参の人間くらいだろう。
「うん?てことは俺を心配して声掛けてきたのか?」
「んふふ。どうかしらね」
「おいおい、ホントにからかいに来ただけかよ」
…いや待て。おかしい
なんでわざわざ自分の隊から離れてまで俺のところにナバーラは来たんだ?暇だったから?そんなはずない。
軍規で待機命令が出てるうちは指揮下の隊から離れちゃいけない事になってる。
いくら転属間もないとしても軍規を知らないハズはない。
「お前…なんか大事な話があったりするのか?」
「ん〜〜。不安要素に留まるくらいだけどね。ちょっと気になる適度の事よ」
「なんで俺なんだ。ガンビーノに直接伝えりゃいいだろうに、どうして遠回りな事を」
「アナタが1番現実的な相手だから。バーランもカルテマもガンビーノに寄りすぎてるわ。たとえ伝えても『ガンビーノなら何とか出来る』って油断しかねないもの」
なんだそれは。
その言い方、まるで──
「確実じゃないけど、情報が外に流れてる感じがするのよ」
「裏切り者か」
「アナタが内側を、アタシが外側を。協力してくれない?」
こりゃバレたらバーラン辺りにシバかれかねないな。
だが、そうだな。
ガンビーノがこのまま何事かで死ねば俺たちは不慣れなクシャーンの大陸でバラバラに四散しかねない。
結末は野垂れ死にか野盗落ちかぐらいだろう。
仕方あるまい。
「
「ありがとうね。アナタなら引き受けてくれると思ってたわ…またねヴァランシャ♡」
「(ゾゾワッ!!)」
さすがにノンケの俺に投げキッスはキツい。
大丈夫だよな?俺そういう方面で狙われてたりしないよな?
はあぁ…。こいつぁまた1波乱ありそうだなあ