走れ走れオラ走れ!未来の王妃様の護衛だぞ!
丘など軽く駆け上がれ、そのまま加速して駆け下りろ!馬が潰れたら走ってでも着いてこい!
「ガッ、ガンビーノ!!二騎脱落したぞ」
「構うなっ!今はとにかく食らい付け!」
「あっ!アドン将軍がコケました!!」
「だからなんだ離れるんじゃねぇぞ!」
「大丈夫なのかよアドンの奴、ゼーハーしてるぞ」
「フル装備で参加するからだ。あんな重装で走ろうなんて馬鹿なんだろ、ほっとけ」
お見合い代わりにセッティングした鷹狩は思った以上に過酷なものになった。
事前に聞いてたように、なるほど、褐色美人にして長い黒髪を真後ろで纏めた細目なれど左右対称で美しい眉目秀麗な令嬢。
だが騎馬民族出身者だとは聞い無いんだが?
貴族令嬢とか嘘だろってくらいハキハキした性格。
しかも鷹を追って駆け出すほどに活発な方ときた。
傭兵あがりの俺たちより馬の扱いが巧みなおかげでヒョイヒョイ駆けて、護衛の俺らは着いていくのでやっと。
狩りも中盤という今、既に兵の2割とアドンが脱落しちまってる。
「ガンビーノ将軍、やはり楽しいな!」
「そりゃッ、何より」
「
「なに、まだまだ!」
「(クソッ、なんで俺が張り付かにゃいかんのだ!ガニシュカが横に居るべきだろうが!!)」
「おっ!見よ将軍、獲物が落ちたぞ」
「…落ちましたな」
獲物が落ちて初めて馬の足が遅くなった。
正直脱落5秒前って感じで威勢を張る余力すら残ってねぇ。
「(やっと…休め、る)」
取った獲物の血抜きとか下処理があるからな、俺たち護衛の貴重な休息時間だ。
ガニシュカはというと、丘5つ向こうの陣にふんぞり返って1歩も動いてないんだから驚きだろう?
何しに来てると思ってんだろうなアイツ。
「よし、馬を休ませろ。狩りはここまでだ、これ以上は馬が潰れちまう」
「将軍、少しよいか?」
「なにか」
「この鷹狩は将軍の発案だったと聞いたのだ、理由もな。私も貴族の娘、物心が着いた頃より政略結婚は覚悟していたのだがまさかこのような場を貰えるとは思っていなかったよ」
「左様で」
俺も政略結婚だから狩りも微妙な空気になるだろうと予想こそしてたんだがな、まさかガニシュカは動かないわ令嬢は突っ走るわ、こんな事になると思ってなかったぜ。
「それにしても将軍もなかなかの馬術であった、振り切るつもりで走った私に着いてこられたのですから」
「はっはは…」
「(はッ…。文句すら浮かんでこねぇや)」
未来の王妃の護衛だからと、これから帰ろうとしてたアドンまで参加させて、手隙の兵隊根こそぎ動員したというのに。
突っ走る気なら初めから言ってくれよ、そしたら軽装で来たものを。
「如何した」
「いやァ…さすがにこたえるな、と」
「将軍は御歳60であったか?少々無理をさせたようだな」
「はは…自分で思ってるより衰えたようで」
「それはすまなかったな。楽しくてつい、許せ」
「楽しまれたのなら結構、それと見合いの場はまた用意しましょう。今度は殿下を知れるような場を」
「いや良い。見合いの場を作り、私の為に足を運んでくださるお方だ。悪い方ではあるまい」
「…左様で」
貴族の色恋の感覚ってのは俺には分からん。
だが多分、こういう女が良き妻に、王妃になられるんだろうな。
「ではな、先に戻っておるぞ!」
「はァ!?護衛隊を置いてっちまったら…!」
「よい!はぁっ!」
「(良かぁ無いだろ……)」
みるみる小さくなる背を眺めながら、白髪ばかりになった頭を掻きながら腰を下ろした。
いつの間にかこんなに老いちまってたらしい。
子供が出来るとてめぇの歳を忘れるって言うがなるほど、人に聞かれてはじめて数え直すとはな。
そういや昔、ガッツも手柄を立てたと嬉しそうに俺の所に来てたっけか。
ガニシュカの陣に駆け戻ってく令嬢の背が小さかった頃のガッツに重なって見えた。
随分懐かしい光景に思いを馳せる。
「───うん。よしっ、馬の息が整った者から引きあげろ!忙しくなるぞ!」
「「「おうっ!!」」」
そのうち迎えに行くからな、ガッツ。