「はあ、兵の動員?」
「うむ。お前の隊と私の領内から動員すれば反抗的な近隣の領の1つや2つ、制圧は難しくないだろう?」
「……?」
お前は何を言ってるんだ?
戦争ってもんはそんな『おめぇシバくぞ』みたいな軽い感じで起こしていいものじゃないんだ。
アホ言ってると殴るぞ?おん?
「止めておくべきでしょうな、負けが見えてる」
「そんなことは無い!歴戦のお前達と私の兵を使えば民兵の訓練が終わるまでは戦える。訓練さえ終われば軍として投入して問題あるまい?所領が増えれば周りへの圧力も容易になろう」
「いや、そういう事じゃなくてなァ…」
いくら何でも急ぎすぎなんだよ。
勢いで開戦して運良く勝っても得られるのは多少の領土と権益、それと領民からの恨みくらいだぞ?
誰が新しい土地を治めんだよ、殿下自らか?冗談だろ。
納税渋る領民をどうやってなだめる?武器持って蜂起したら?今のガニシュカ殿下の元にソイツら抑え込める人材がいるはずねぇ。
しかも仮に負けてみろ、殿下も俺も仲良く晒し首だろうぜ。
そんな行き当たりばったりな戦争なんて何処ぞの戦争大好き少佐ですらやりたがらねぇよ、多分。
だけどまぁ、あれもダメこれもダメと言ってちゃ何も出来ねえ、ここは『待て』と『良し』で譲歩すべき…なんだろうなぁ。クソっ!
「…殿下、戦争したいのであれば俺の開戦工作を待って頂きたい。戦争を泥沼化させない為と速やかな帰順の為に。期間は…そうだな2年は待って頂きたい」
「2年!? 2年も待つのか!」
「ええ、その間に "全て" 済ませてしまおうかと」
「……何が欲しい」
「2年間の内政権限とそれに必要な金を」
「内政権限だと?お前は仮にも武官だろうが、はいそうですかと私が渡すと思うか?それに内政はダイバの人選で
「それは知ってますがね、それじゃ力不足なもんでウチの人間を使いたいんですわ」
「…力不足か」
実際、渡すしかない。
力不足ってか知識不足な以上、人を変えるしか手がないんだから。
戦争慣れしてる俺がここまで従軍を渋ってる以上、開戦は強行できない。
それでも戦争の準備はするって言ったんだ。
他にマトモに戦える武官がいない今、俺の意見を呑むしかない。
ま、『仕方ない』って事だ。
「渡して貰えりゃ完璧な戦争をお見せ出来るんですがねえ」
「……チッ!…2年だ。2年後、お前が僅かでも権限返上を渋った時は覚悟しておけ。惜しまず殺すぞ」
「ええ、もちろん。殿下はそれでいいんですよ」
いらない心配してる必死具合はかわいいと言うか、可愛げがあるって言うべきか。
見てて楽し…おもしろ…悪くない。
あ〜、やっぱり俺は甘いんだろうなァ。
☆
「殿下…」
「ダイバ、苦言はもう聞きたくないぞ」
「お聞きを殿下、ガンビーノを信じすぎてはなりませぬぞ。確かに戦争において奴ほど頼れる者は居ませんでしょうが、奴は何か危うい感じがするのです」
「──、何の話だ」
「何が、とハッキリ言えませぬがこの老骨。まだ目は衰えておりませぬ」
「……」
「殿下」
「わかった。わかったわ、もうよい。暫く見張りを付けておけばよいのだろう」
まったく、なんでこの2人は仲良く出来ぬのか…。