今1度ハッキリ言っておくが、俺は無神論者だ。
誰が何と言おうと、なんなら神本人が俺の目の前に降りてきて『私はここに居る』と行ったとしても、俺が信心に目覚める事は無い。
だが実はそれっぽい存在は居るんじゃないか?と。
無神論者ですら神の存在を疑いたくなる程、運命とかいう
だから…そう、気の迷いだったんだ。
覇気も権力もないガニシュカ王子を前にした時、配下としてじゃなく、父親として、出来の悪い子ほどかわいいと思う感覚に襲われちまったのは…。
☆
「我儘に生きろだと?」
「そうです殿下。もっと我儘に生きてください」
ガニシュカ王子の執務室。
ここで俺はやらかした。ガッツを1人前に育てあげると決めたかつての熱が再燃して口が滑っちまったんだ。
あくまで下っ端として、今後増えていくだろう配下の1人として生きれば楽だってのは分かってるんだけどな。
打算じゃねえ、感情に負けたんだ。
「どうせなら奔放な感じでお願いしたい。食器は基本銀で統一したうえで装飾にこだわるんです、殿下は王族ですからね。権力が無かろうと我儘が通らないなんて事はないでしょう。ついでに城下にも遊びに行っていただきたい。買い物するなり建設現場を見物するなりご自由に。嗚呼、伝言ゲームはご存知で?文官共が仕事と勘違いしてるアレは、あんなのはアテになりませんのでね。信じないでください。あんなので自分らの生活が左右されるなんて民からすりゃたまったもんじゃありませんよ」
「お前が私の生き方を決める気か?力こそ無いが貴様の傀儡になる気など毛頭無いぞ」
声音こそ怒りを感じるものの、目はどこか冷めたものを感じさせてくる。
ろくな生き方が出来なかった者の目だ。
捨てれる物は全て捨てた、そんな生き方をしてきた人間特有の空気。
「ご冗談を。あくまで手っ取り早く殿下の足場を固める方法の1つを提示しただけ、俺は玉座に興味なんざ無いんでね…いやホントに。傀儡なんて金積まれてもいりません」
にやけ顔で降参のジェスチャーをして見せて無反応なあたり、冗談が通じないタチらしい。
実際、今俺が作りたいのは顔の見える指導者だ。
情報が集まる酒場でさえ、王家の人間の顔を知る者が一人もいないなんて考えものだ。当然悪い意味で。
民の為、国の為、平和を勝ち取る為に。
どんな大義名分を掲げた戦だろうと真っ先に駆り出されて死にゆくのは俺たち国民だ。
戦争に勝ったところで末端の一兵卒はちょっとばかしの金を渡されて『はいお終い』。
負けた日には目も当てられねぇ。
誰の為に死ぬのか。
何の為に死ぬのか。
それも分からず死んでいくなんて哀れがすぎる。
そんな死に方したくないと戦を拒めば拷問と死が待ち受けている。
そんな国が一枚岩になれるものか。
こんな国の民が、王に国に忠誠なんて誓えるものか。
基盤だ、まず土台を確かなものにしなきゃいかん。
ガニシュカ殿下が街へ行くようになれば民は王子の、後の王の顔を知れる。
王子の言動が見えれば人となりが分かる。
そうなれば多少の情も湧いてくる。そうすりゃ国の頂点と基盤が繋がって万々歳よ。
後はガニシュカ殿下の心次第。
虐げられた痛みを周りへ振り撒くか、仕舞い込んで時間をかけて癒してゆくか。
どちらにせよ傍で見守っていく必要がある。
ガニシュカ王子が歩む道はきっと血が流れる、覇道だろうと王道だろうと血濡れた道なのは変わりない。
そんないつ足を取られるか分からない道を1人でゆく必要は無い。
滑って転んだ時に手を貸す人間の1人くらい居てもいいじゃないか。
「さて、ぼちぼち動きますか殿下」
「ガンビーノ。疑わしき時は殺すぞ」
「そんな日は来ませんがねぇ」
「…外に行くんだったか?」
「ええ、釣りなんかどうです?いや、今なら旅芸人が見れるかな」
「貴様が楽しみたいだけじゃなかろうな」
「ふっはははははッ」
「貴ッ様!(図星か!)」
「良いじゃねぇか楽しんだ方が、気楽でいい」
「無礼討ちにしてやる!そこで待て!!」
キッツい冗談言ってらっしゃる(笑)
……冗談だよな?