ドルドレイ脱出から7日間にわたる強行軍の末ミッドランドの田舎のとある小さな港町《ルデール》にたどり着いた。
山育ちで海を知らないロシーヌは砂浜に寝転がってこれから乗る船を眺めながら足を波に浸して遊びだした。
さすがは子供、体力が違う。
「わぁ…大っきい」
「だろう?この辺りでこれ程のモノを持ってるのは俺だけだって言っても過言じゃねぇくらいだ」
「でも見聞きしてた形には似てないって言うか…なんか歪な感じがするね」
「初めて現物を見りゃそう思うのかもな」
「早く乗ってみたい!どんな感じなのかすっごい気になるんだけど!」
「昼前には乗れるさ。それまではシス達と寝てこい」
「はーいはい。ちゃんと起こしてね〜」
「起こすのはカルテマにでも頼めよ」
海を見るのも初めてらしいロシーヌにはデカい船は新世界を見たのと同然だろうな。
山奥じゃあ海の話が届くことすら稀だろうし。
いやぁ〜それにしても子供らしい、可愛い反応してくれるじゃんかロシーヌ。
パパん嬉しいぞ!
「ガンビーノ、見てきたぞ」
「んぉ!?…ああアドンか。」
やっぱりプライベート以外であの子と関わるのはやめた方が良いかもな…。
そのうちボロが出そうで仕方ねぇ
「船はもう少しで出港できそうだったぞ、あとは食料の積み込みだけで終わりだな」
「そりゃなによりだ」
「で〜…聞きたいんだが何で船から側面砲を外したんだ?あれでは戦えんではないか」
「近代化改装と言え、改良だ。改良」
「んむ…そう…なのか?」
心配性なヤツめ。
側面砲の代わりに厚さ1.5㍉の外張り装甲付けて、船首と船尾には自走砲に使ってた固定砲を計8門据え付けてんだ。
これを改良と言わずになんて言おうってんだ!
しかも!しかもだ。
マストのてっぺんにある見張り台には伝声管まで整備して索敵、伝達を確実に底上げしてある。
強いて言うなら動力だけは無理だったくらいか。
さすがに砲塔の据え付けは大変だったぜ。
載せすぎると装甲やら積載やらで船が沈みかねなかったからな、最終的には船首に2×2の4。船尾に2×2の4で落ち着いた。
ああ…金が足りねぇ…。
「改良と言うならそうなのかもしれんが何で一隻だけなんだ?他はむしろ悪化してるでは無いか」
「悪化とか言うなボケ、運ぶだけの船に武装なんざ要らねぇだろうが。軽くなったぶん速度が出るんだから文句言うんじゃねえよ。泳がすぞ」
「わ、私は何も言っとらん!」
ったく、資金だって無限じゃねえんだ。
改良出来たのは旗艦になるこの一隻だけ、残りは非武装の改造商船(輸送船)になるのは必然だろうに。
一時期ウチの代名詞だった自走砲なんて費用削減の為に艦砲に転身させたんだからな!
持っていけない台座を焼却処理して海没させてまで…
くうぅ…(泣)
ダメだダメだ、思い出したら鬱になるわ。
「アドン、船酔いする奴は輸送船に乗せろ。酔わない奴らは俺と旗艦に乗るように伝えとけ」
「あいわかった」
よし、俺も一眠りしておこう。
ミッドランド最後の睡眠ってなw
「大丈夫?ロシーヌ」
「大丈夫だよ母さん!船って凄いね!風も気持ちいいし水の上にいるってまだ信じられないもん!」
「落ちないでね。ところでアドン、バーランは?」
「今頃あっちの船で死にかけてるのではないか?」
「あ、船酔いの薬渡すの忘れた…」
「おーおー、生き地獄へようこそってか?はははっ」
夢にまで見たクシャーンへの亡命。
それが叶ったんだ、悔いは無い。
この地とも暫くの別れ…か。
元気にしとけよガッツ、俺より先にくたばったら殺しに行くからな。
じゃーな、クソッタレのミッドランド!