おーー真っ青な空。
眩しくておめめシパシパすんぜコンチクショー。
「ん、起きたかガンビーノ」
おー、ウルバンじゃねーか。どうしたよ?そのクマ
目を開けたら俺は荷馬車の上にいた。
周囲に広がる景色に見覚えなんかない。
「ウルバン…今どの辺だ」
「ちょっと待てよ、地図がこのへんに……」
かなり体がしんどいが今は気にしてる場合じゃねえ。なるべく急がねーと追っ手なり待ち伏せに会う可能性が高くなっちまうからな。
いくら隊長クラスが平気でも兵隊は違う。
ここまで来て無駄死になんて俺が許さねぇ。
「手ぇかせウルバン。寝てる場合じゃねぇ」
頭をあげた瞬間、視界がぐるっと回って吐き気を覚えた。そういや頭に矢が当たったんだっけか。
よく生きてたな俺
ダメだ頭グッラグラで立てねぇや。
「あ〜寝てろ寝てろ。えっとな、今はもう少しで折り返し地点に到着するって所だ」
「随分早ぇな。俺はかなり寝てたのか?」
「いや2日くらい寝てた。ここまでは強行軍で来たんだよ。ほら、前にアンタが言ってた… "しゃりょーか" だっけ?あれでな」
しゃりょーか…?何言ってんのお前。
俺そんな意味わかんない事言った覚え無いんだけど。
「なんだよ覚えてないのか?まさか記憶が飛んだのか?歩兵を荷馬車なり幌馬車に乗せて移動させるってアンタが提案したんじゃないか」
ああ!思い出した。『機械化歩兵』の話か!
そうだそうだ伝わりやすいように "車輌化歩兵" って言ったんだった。
「そういやそうだったな。て事は今はバーナーが仕切ってるのか?」
「いや…モス爺は戦死したよ」
死んだ…?バーナーが?
「じゃあ今は誰がこの軍率いてんだ?」
「前衛はバーランが、ここ中列はカルテマ、最後尾はアドンが率いてるよ。敵襲の際は各部隊が相互支援する形を取ってるから心配はない」
そりゃ頼もしいこって。
「モス爺の最後…聞くか?」
「いや、必要ねぇ」
あの爺のことだ、自ら好んで殿を引き受けたに違いない。
「老いて床で朽ちるなど耐えられぬ」って事ある度に言ってた奴だ。戦場で散れたなら本望だろうさ。
「ウルバン、伝令出してひとまず折り返し地点で休ませろ。こんだけ進んだなら追い付かれる事もねぇはずだ。馬が潰れちゃ目もあてらんねぇしな」
「あいよ」
そういや折り返し地点ってどんな所なんだ?
野営は仕方ないとしても都市部だったら避けなきゃいけなくなるから困んだよな。
「地図かせ」
「ん」
えーとこの赤いラインが進んできた道か?って事は今この辺だから───
おぉん?此処ってたしか……
〜〜〜◇霧の谷◇〜〜〜
結局、妖精なんか居なかったんだ。
分かってた。でももしかしたら、見つけられたら何か変わるかも知れないって縋りたかったんだ。
結局何も変わらない。
この山に囲まれた小さな村で、蔑まれながら私は死んでいくんだ。
「いらない…こんな世界、消えちゃえばいいのに」
雨も止んで薄霧の出てきた草原に体を投げ出して空を見上げた。
もし羽があったら、私は自由になれたのかな
もし私がお父さんの娘だったら、愛して貰えたのかな
もし妖精が居たら、私は救われたのかな
答えなんて出てくるわけが無い。
もう夜も更けたけど私が居なくても両親はきっと心配なんかしてないだろうな。
むしろお父さんは私の悪態つきながら泥酔してるはず。
泣くのもとっくに飽きて涙も出てこない。
ぼうっと空を眺めてた時だった。
「……誰!」
なんか聞こえた。
ぬかるみを近付いてくる足音が確かに聞こえた。
霧と暗がりで姿は見えないけど何かが、誰かがいるのは気配でわかる。
間違っても妖精なんかじゃない
「こいつァ驚いた。まさか
何…コイツ。
盗賊?人攫い?こんな山奥の滅多に人が来ない所に?
まあ、何でもいいか。
「なにアンタ、人間?それとも化け物の類い?盗賊でも人攫いでも人殺しでもなんでもいいけど私なんも持ってないから。なんならどっかに売り飛ばしてみる?」
「…あいにく俺ァ妖精には縁遠い人間でな。お前に夢を見せてはやれねぇ」
妖精…夢…?どうして知ってるの?
一言も言ってないのに。
「その縁遠い人間が私になんの用?てかアンタ何者?」
「俺か!俺ァガンビーノってんだ。人攫いだけはまだした事ねぇけどな、盗賊とか人殺しに関しちゃ否定はしねえ」
ああ、追われ者が逃げ込んできたって訳ね。
確かに人の出入りのないここは隠れるのに都合のいい場所だろうし。
「ふーん、で?その犯罪者を見ちゃった私は口封じされる感じ?……殺るなら苦しまないようにしてくれる?」
別に好きで死にたいんじゃないけど痛いのはいや。
どうせ私じゃ大人の足から逃げきれないしね。
「ガキを殺す気はねぇよ。むしろ俺はお前を連れていこうと思って来てんだ」
「は?」
「絵本に出てくるような夢のある人生は諦めろ。ただ俺はお前にこの世を、広い世界を見せてやれる。こんな閉鎖的で寂れた村から出て大海を見ようじゃねぇか」
何を…言ってんのこの男。
私を連れて行く?この村から出られる…?あの同じ事の繰り返しみたいな毎日から解放される?
「アンタは…犯罪者なんじゃないの?」
「いや、俺は傭兵だ」
傭兵…。
確かに人殺しだし盗賊と変わりない連中だって聞いた事があるけど…。
どうだっていい、こんな所から出られるなら!
「行く。連れてって!ここに未練なんて無いもの」
「任せろ、人攫いは初めてだが上手く連れ出してやる。それとお前はこれから俺の娘になるんだ」
「…はぁ?なんでそうなんの」
「俺んとこは圧倒的に男が多い、いくら子供でも女が1人ふらついてていい場所じゃねーんだ。だから俺の娘になれ。手ぇ出そうとするバカはいなくなる」
あー、そういうことね。
あれ?て事はこのガンビーノって結構上の人間なの?
「ねぇ…最後に1度だけ村に行っていい?」
「構わねぇけど何しに戻るんだ?」
「友達に一言だけお別れ言っときたいの」
「そうか、なら言ってこい。俺達は谷の出口で待ってるからな。…いや途中に迎えを出しておく、お前と同じ女だから安心しろ」
「ありがと」
「んじゃ、さっさと行ってこい」
差し出された手を掴んで私は立ち上がった。
ゴツゴツした大きな手の感触が夢じゃないって頭の中で興奮気味に暴れてる感じがする。
ガンビーノと名乗った男が霧の中に消えていくのを見送って村へ走った。
見つけた。見つけた!
妖精じゃなくて傭兵だったけど、私は見つけたんだ。
自分の歩く新しい道を!
ジル!私行ってくる!
宝物も全部あげる!またいつか会いに来るよ。絶対!
どこに行っても友達だからね、ジル
〜〜〜◇???◇〜〜〜
「ほう…さすがは因果律に嫌われし男よ。まさかあの子まで因果より解き放つとはな」
彼の者が持つ物とは別のベヘリット。
本来であればここで使われたであろうもはや無用の卵。
「面白い…奴らの憤る顔が見れぬのが惜しいが…」
……カロン
「いずれ相見えようぞ、ガンビーノ」
ほのぼの回はいる?
-
いる!
-
いらん