ボスコーン将軍、ゲノン総督の戦死を皮切りに形勢は完全に逆転してしまった。
言うて初めからコレが狙いだった俺からしたら願ったり叶ったりなんだがな。
ただ最近ヤル気満々なミッドランド正規軍から罵声を浴びせられたり、寝込み襲われたり、盾持って近づいて来られたりと熱烈な猛アタックを受けている。
連中は過剰って言葉を知らないらしい。
「良いねぇ、
俺もそれなりに場数を踏んできてるがここまで凄まじい数の総攻撃を受けたのは初めてだ。
今まではせいぜい2〜3軍団規模だったのに今回は参戦した貴族共が根こそぎ動員してきてるらしい、10軍団くらいは居る。
カラフルな津波って感じだな。
何色もの旗がたなびいていて、その旗の群れにパラパラと矢を放つ味方。
残ったミッドランド軍の連中はメンツを掛けて来てるから簡単には引き下がらない。
おかげでジリジリと距離が縮まっている。
「なにを悠長に眺めておるのだガンビーノ!早く防がねば!ええい、なんなのだあのやる気のない反撃は!」
「いいんだよアレで。今じゃアイツらくらいだぜ?真面目に戦争してんのなんてよ」
「突撃してきたミッドランド兵を慈悲もなく射殺しておった者が何を今更…言ってる事とやってる事がまるで違うではないか」
「そりゃーおめえアレだよ、城壁狙って来るヤツらが悪い。初めから罠を狙って来てりゃ死なずに済んだんだからな」
「な、なに!?」
あの罠は時間稼ぎの為に置いてただけだからな。
撤去する事を考えてなかったもんだから、代わりに必死こいて撤去してくれてるミッドランド軍に感謝してるってのはマジな話だぜ。
「ま、まぁ良い。だが抜かれたらいかにする気だ!アレを防ぎきる兵力などこの城には残っておらんのに!!」
「はぁ?誰が守るっつったよ。俺は初めから籠城する気なんて微塵も持ち合わせちゃいねぇんだ」
「まさか城を捨てる気か!?」
あ、そういやアドンに計画の事言ってなかったわ。
てへぺろっ(ノ≧ڡ≦)☆
「俺たちは最後に一戦してこの城を去るつもりだ、次の行先も決まってるしな」
「……はァ!?」
当然だろう、こんな死ぬ価値も無い戦で死んでやるなんて正気の沙汰じゃねえ。
それで得するのは首級をあげれるミッドランド側だけで、俺たちゃ死に損。
三十六計逃げるに如かずってな。
「〜〜ッ、逃げるとしてっ!逃げるとして何処に行くと言うのか!此処で籠城して本国からの援軍を待つのが定石ではないか!!」
分かってねぇ、分かってねえな素人め。
俺たちは包囲されてんだ、伝令なんか出せねーしこっちの主将と指揮官が討たれた話はすぐにチューダー本国に伝わるだろうよ、でだ。
本国のお偉いさんはどう考えるかだ。
俺なら救う為に兵を出すとかはしねえ、そのまま籠城を命じて反撃部隊の集結と補充の時間稼ぎに充てる。
要は捨て駒にしちまうんだ。
「いいかアドン。もう俺達に生き残る道なんて残っちゃいねえ。いや違うな、あるにはある。だがそれはマトモな道じゃねぇ茨の道だ。この泥沼の戦争から1抜けする為の一縷の望みにかけたんだ、生き残りたきゃ着いてこい!死にたきゃ残って苦しんで死ね!」
「貴様ッ!貴様が本気で守ればこのドルドレイは落ちぬはずではないか!なぜ逃げるのだ!何のためにここまで来たというのか!」
「俺たちはクシャーンに亡命する」
「亡命…? クシャーン?」
初めからクシャーンに渡ることが目的だったんだ。
それが叶うところまで来れた、今更やめられるもんか!
「よく聞けアドン、この戦争は講和なんて出来ねぇ。国益を賭けて始めた戦争で、ミッドランドもチューダーも、とっくに利益を上回る損害を抱え込んじまってんだ。
いや、それ以上に積み重なった死体と怨みが多すぎる。どっちかが滅ぶまでこの戦争は終わらねぇんだよ!」
「だから…逃げるのか?茨の道を行くと言うのか!?」
「道は道だ。茨の道でも道だからな」
「───ぬぅ」
罠の殆どを取り外したのか敵のミッドランド軍の鬨の声が強くなってきている。
もう時間がない。
「来るのか、来ねぇのか!今、ここで決めろ!アドン!!」
「〜〜〜ッ」
「どうすんだ!!」
もう行くしかない。
討って出るタイミングは逃せないからな。
「行く!行くぞ!私も共にクシャーンへ行く!」
「ならすぐ隊を集めろ!一点突破で港まで突っ走んだ。港に船が来てるはずだからな、最後の戦だ。最高の一戦をして行こうじゃねーか」
「うむ!」
兜を取って緒を締める。
ここで生き残れば俺は運命の呪縛から解放されるんだ、必然気が引き締まる。
「野郎共出るぞ!決戦だァ!!」
誰にも邪魔をさせるものか。
俺はもう───