よし、命賭けたから本気出してくぜ。
取り敢えず要塞の対岸に布陣してみたけどやっぱりデカい。そんでこれまた無駄に高い!城壁が。
手段問わずなら幾らでもやりようあんだけど、奪いとったらそのまま使いたいんだと。
門とか城壁は壊さないようにして落とせだなんて、雇い主の無茶ぶりに慣れたつもりだったが上には上がいるもんだな。
ミッドランドの阿呆共に負けず劣らずのイカレポンチぶりだぜコンチクショー。
「ガンビーノ、ボスコーン将軍の使者が文を持ってきたぞ」
「催促状か?」
「なんぞ硬くて長ったらしい文面じゃ」
「…要約しろ」
なんで階級が上の奴らは息苦しい儀礼やら礼儀を好むのかねぇ…理解に苦しむぜ。
「要するに『貴様の戦いを見させてもらう、期待してるぞ』って事じゃな」
あーハイハイ。つまりケツを叩きに来たってわけね。
こいつァぶっ刺される前に動かねぇとな。
「バーナー、ドルドレイを貰いに行くぞ」
「策があるのか」
もちろんある。
1つは要塞を大回りで迂回して背後の山に登ってパラグライダーなりパラシュートモドキ作って強襲するプチ空挺作戦。
まぁちょっと考えりゃ不可能だって分かるわな。
流石に毛布に兵士くるめて山から突き落とすなんてマネは俺には出来ねえ。
んだからこっからが大事な本命作戦。
昼間は俺たちが、夜はボスコーン将軍の軍が交代で要塞にハラスメント攻撃を仕掛けてじっくりと敵兵を疲弊させ、いい感じに敵がバタンキューしたら一気に殴り込むって作戦だ。
なんなら攻城塔に油満載した放水樽積み込んで壁にぶっかけまくって火ィつけて焼き払うって手もあんだけどな、さすがに外道かなって思ったから止めた。
ダメだな俺も、敵が目の前に篭ってるってのに情に負けて非情になりきれねえ。
「…ボスコーンとこに行ってくる。部隊集めとけ」
「うむ、よかろう」
ボスコーン陣営に向かいながらふと考える。
ドルドレイを落としたらやっぱり鷹の団が来るんだろうか。来たとしてちゃんと
ガッツに殺されるんじゃない、運命に殺されるんだ。
俺が死んだらガッツは泣いてくれるだろうか… と
〜〜〜◇ウィンター辺境伯◇〜〜〜
「報告致します!先程攻勢をかけてきていたガンビーノ傭兵団を撃退致しました。お味方の損害は軽微、現在は矢の補給と負傷者の後送中です!」
「あいわかった」
伝令兵が退出するのを見届けると同時に思わずため息がでた。友軍の救出に失敗した挙句、送り出した傭兵団が寝返ったのだからため息の1つも出よう。
寝返ったのだから攻めてくるのは分かるがまるで手応えがない。ガンビーノ軍はかように弱兵であっただろうか?
しかもこれで7日も攻めては退いてを繰り返すばかり、城壁を登るでもなく城門を打ち破るでもない。
ガンビーノ自慢の亀甲陣とやらで近づきながら矢を放ってくる程度。
昼夜問わず、裏切り者とチューダー軍が入れ代わり立ち代わり仕掛けて来るあたり焦っておるのだろうか…?
確かに兵は多少疲れてきておる様子だが。
…どうも腑に落ちぬ。
「旦那様、お飲み物をお持ちしました」
「む、あぁ入れ」
物思いにふけるのも程々にメイド長の持ってきたコーヒーを1口。
これだ、これが落ち着くのだ。
仮にもこの要塞の守備に着いていた連中だ、ここが難攻不落であることくらい理解してるはず。
何を企んでるか知らぬが無駄な事よ。
私は奴の首が落ちるのを待てば良い。この要塞を落とせずチューダーに始末されるか、部下に討たれるか戦で死ぬかの3択よ。
やはり教養のない者はろくでもない最後を迎えるものだ。
「まったく、愚かな男だ」
援軍が来たら挟み撃ちにしてやろう。
そして世に知らしめるのだ、ドルドレイ要塞は不落にして傭兵団なぞ国家の主力たりえぬ。とな!
……なんだ?…まだ夜も明けておらぬでは無いか。
何処からか聞こえる喧騒に目が覚めたがおかしい、部屋が外からの明かりで揺らめいている。
「…火、か?」
明るい。明るいのだ。
「!?燃えている?あれは…いや、まさか」
頭をよぎったのは『夜襲』、それもおそらく本気の攻勢であろう。閉じた窓越しに敵か味方か分からぬ鬨の声がハッキリと聞こえるのだ。
これは…まずい。
「旦那様!大変でございます、敵が!敵の大軍が城壁を乗り越えて城内に!」
突如ノックも無しに飛び込んできたメイド達、皆して顔色が悪く青ざめている。
「敵は!奴らは何処まで入ってきたのだ!」
「分かりません、あっちこっちで火の手が上がってまして…」
「あっという間でした…!あっという間に敵が城壁を乗り越えて来たのです!」
やられた!今宵は新月、こちらの壁上の松明を目印に夜陰に紛れて近付いたのだ!
考えうるに攻城塔に兵を満載して来たと言った所か。くそっ!
「お前達は敵がこれ以上侵入せぬように窓や扉を補強してこい!それから残った兵をかき集めて──
「大変でございます!内壁が突破されました!お逃げ下さい!持ちこたえられません!!」
指示を遮って駆け込んできた負傷兵が告げたのは城の陥落と同義の言葉だった。
…負けだ、もはや如何ともし難い。
手で払うようにメイド達を退出させて1人椅子に腰を下ろした。
勝てるはずだった。
よもやこの要塞がこんなにも容易く落とされようとは…。
不思議と心は落ち着いている。
ドカドカと近付いて来る乱雑な足音が聞こえ、開け放たれた扉から入ってきたのは、ガンビーノ傭兵団の将の1人。名は忘れたが知ったところで…だろう。
無念だ。
「テメーが辺境伯だな?俺はバーランってんだ。あっと!名乗らなくていいぜ、名なんざ聞いたって覚える気ねぇからな。首だけよこせや」
私は剣を抜きはなった男に最後に問うた。なぜかは分からぬ、聞きたかったのだ。
「最後に答えよ。なぜ寝返った、貴様らとてミッドランド人であろうに…故国を裏切ってまで何が欲しかったのだ」
「はあ?ンなもん知らねーよ、知らねーけど俺達はガンビーノに着いてくって決めた人間の集まりだからな。強いて言うなら "新しい世界" を見してくれそうだから。かな、ガンビーノはよ。それに俺はお前らみたいに国とか名誉なんて考えたこともねーよ」
バーランと名乗った男の剣が私の首を狙って振り下ろされる。
…やはり私には分からぬ事だ。
残念だ、このような最期を迎えるとは…
これ以上なく、残念だ。