方陣。またの名をテルシオ。更に分かりやすく言えば『馬刺し量産陣』だな。
馬刺しは好きか?好きなら集まれ俺が奢ってやるぜ。
明日はちょっと固めなお肉が沢山手に入るからな♪
皆でファイヤー囲んでズンドコパーチーといこうじゃないか!
安心しろ、相手は戦争ガチ勢の紫犀聖騎士団って事で伝令は非効率だから手旗信号を取り入れてある。あぁミリオタ諸君、言うでない。素人用の簡易的なシロモノなんだからな。
おかげで連携が早くなって何とか数の差を埋められている。27000 VS 5000 の戦闘だ。
「ずっこい」なんて言ってくれるな。コッチが5000なんだから。
いやぁ…笑いこらえんのも一苦労ってもんだなこりゃ。顔がニヤケちまうわ。
ふははははー、勝ったな風呂はいってくる。
酔わない程度に酒を飲みつつ櫓から布陣を眺め悦に入ってると、本陣の方から渋い顔したバーナーが近づいて来るのが見えた。
まいっちゃうぜ、せっかくの酒が不味くなるってもんだ。
「ガンビーノちょっと来てくれんか」
さすがに10年以上の付き合いともなると声音だけで良い報せか悪い報せか分かるようになるらしい。
んでこの感じは悪い方だ。
「…いい眺めだぞ。死と生存をかけた布陣がよく見えるからオメーが上がってこい。何があったかは…一応聞いてやるよ」
「そうか、そっちに酒はあるか?」
珍しいな。普段ならこんな時には呑むなって説教カマしてくる奴が…。
まあ怒られたからって止めれるもんじゃねえけどな。
「強くはねぇけどそれで良けりゃくれてやるよ」
バーナーは黙って上ってきた。
そんで何も言わずに酒を受け取ってグイッと煽る。多少の不満や疲弊じゃ顔にも見せないバーナーが、だ。
それ程の悪報…どうしよう、聞きたくねえ。
「……」
「……」
こういう時、なんて切り出すべきか俺は知らない。なにせ俺にはコミュ力なんてステキなスキルは備わってないからな。
だから待つ。バーナーが話す気になるのをひたすら待ち続ける。
でも体冷える前には話して欲しいかな(笑
「……布陣を解けと言われてな」
ん、今なんて?
「反対したんじゃが奴ら、騎士の誇りとやらが勝利より大事らしい。儂らは前衛の任を解かれる事になった」
…成程な、コイツがしかめっ面になる訳だ。
冗談じゃねーぞ。いや、冗談にしても悪質だ。
今回の救出作戦に投入された騎士団はたったの1個。数は500程度でチューダー騎士団の4分の1以下。
ソイツらの誇りとやらの為に死ねと!?何言ってんのお前。
いや、バーナーが悪いわけじゃないか…。フフッ、どうにも俺は人の縁には恵まれてないらしい。
「そりゃ…嗚呼、最悪極まる命令だな」
「どう見るガンビーノ、この戦負けかのう?」
はっきり言って数も軍事力も勝る相手に正面衝突戦なんて無謀でしかない。
誰が言ったか、『無能な上官は敵より怖い』だっけ?まったく骨身にしみるぜ。
「まあ負けるだろうな。ここで負けたらドルドレイ要塞まで敵は行くだろうが向こうにゃあの敵を食い止められるだけの戦力が揃ってねえ。だから城も取られて俺たちゃ大敗して終わりよ」
スっと手で首を落とすジェスチャーをしてみせる。
良くて敗走、最悪は包囲殲滅される。分かんだろ?
「もし退くならば早めに言ってくれ。その時は儂が殿を務めるからな」
「いや、しなくていい。そうならねぇ様に俺が何とかする」
「……出来るのか?」
できるさ、俺にとって団員は家族同然なんだ。
情も感じない他人を切り捨てんのに迷いも罪悪感も恐れもない。俺は、俺自身とコイツらの為なら大抵の事は出来る。
例えそれが外道でも、悪党って言われようとも俺は躊躇うことは無い。
「任せろ」
お前らのボスは我儘で強欲なんだ。
そんな俺だが家族は絶対に見放さねぇ。ましてや無駄死になんて絶対させねーからよ。