早歩きでシスのテントに向かいながらウルバンから状況を聞きだす。
「で?シスの容態は?」
シスの危ない時に傍に居てやれなかった。
焦りと怒気を抑え込む。運命がどっちに転ぶか分からないのがもどかしい…!
待ってろ…シス、今行くからな。
「大丈夫だ峠は越えた。越えたが体力が戻ってないから起きんのは無理だな。それと─」
あー…とまた言い淀むウルバン。
「なんだ!?なんかあったのか?」
「あ、あぁ…まあ言うより見てくれた方が早いわ」
こっちはそんな余裕無いんだ!と怒鳴りたい気持ちを押し殺しながら歩幅を広げる。
気づけば走り出していた。
「シスッ!!」
シスは寝ていた。いや、さっきまで寝ていたようで俺の声で起こしちまったらしい。
首だけ動かしてこっちを向いた。
「…ッ、よく…よく頑張ったな…。シス」
泣きそうになる。
後ろにはウルバン以外にも部下がいるのに。
「ガンビーノ」
「あぁ、俺だ。帰って来たん、だ…ぞ?」
今なんて?
「シス?」
弱々しい笑みで俺を見るシスの瞳を見つめ返す。
聞き違えた?いや、まさかそんな。少なくともガッツの声じゃない。ガッツは軍医の所で感染してないかチェックされてるはずだからな。
じゃあ今のって……。
「…ガンビーノ」
「……ッ!」
間違いねぇシスの声だ、滅茶苦茶驚いたじゃねぇか!
ちくしょう言葉が出てこねぇ。
シスが生きてた、言葉も…戻った、のか?
予想外の事に思わず硬直しちまった。
「おぁえり、ガンビーノ」
馬鹿野郎ッ…!そりゃあ俺のセリフだ!
シスを引き寄せてギュッと抱きしめる。ダメだ、涙が溢れて止まらねぇ。
「シズゥ…ゥッ、あ"ぁ、ただッいま……ッ」
それからどのくらい泣いてたかは知らねぇ。
落ち着いた時には俺とシスの2人だけになっていた。きっと気を効かせてくれたんだと思う。
「落ち着いたならちょっといいか?ガンビーノ」
テントの外からウルバンが呼んできた。
「今は休めシス。また後で来るからな」
頷いたシスをそっと寝かせてテントから出る。
暫く歩いた所でウルバンが口を開いた。
「シスの言葉の事なんだがな」
「ああ、なんか知ってんのか?」
「シスが言葉を忘れた原因、覚えてるよな?」
勿論だ、自分の子を流産しちまったショックで気を病んじまったんだ。
「正直言うと言葉を取り戻す前兆はあった。ガッツの名前を呼んだことだな、アレは思うにシスなりの愛情表現なんだよ」
「…だとして、急に言葉を取り戻した理由は?まさかペストにかかったおかげだ、とかほざくわきゃねぇよな?」
「怒るなよ?ガンビーノ。言っちゃ悪いが俺はペストのおかげでもあると思ってんだ」
「……」
分からない。
何をどうしたらペストのおかげになるってんだ。
「これは俺の予想だけどな、シスは幸せだったんだと思うぞ?子を亡くしてもアンタが傍に居てくれて、ガッツを拾った後も変わらずに2人を愛した。だから彼女はそれを手放したくなかった。その想いが、感情がシスの心をコッチに呼び戻したんじゃ無いかね」
「死の間際に生を願ったから…って言いたいのか?」
「あぁ、だけど心の病は俺の専門外なんでね。あくまで俺の予想でしかないんだぞ?ガンビーノ………え?おいガンビーノ!?」
「ごッ…こっち見んじゃねぇ…」
運命が変わった。
シスが
悔いは無ぇ。
「…。また泣いてんのか?」
「うるぜぇッ!歩哨にでも立っでろッ!」
きっと今の俺は人に見せれねぇ顔になってんだろうな。
「あいよ…俺はなんも聞こえなかったぜ、悪ぃなボス。無駄に付き合わせちまって」
ウルバンの足音が遠ざかっていく。
声を押し殺すのも限界で声を上げて泣いた。泣き崩れるなんて初めてだった。嬉しかった、ただただ嬉しかった。運命が変わった事がじゃない、家族が無事だった事が無性に嬉しかったんだ。
話の長さ調節に御協力を(今は大体1500くらい)
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これでいい
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も少し長く