仗助と育朗の冒険 BackStreet (ジョジョXバオー)   作:ヨマザル

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川尻早人 その2

「アンジェラ、今お前が食べているのは、俺と早人の『お袋』が作ってくれた『昼飯』スよぉ――」

仗助が指摘すると、アンジェラは少し赤面した。

そして、今度は『いま食べているごはんが、どれだけおいしいか』力説し始めた。

仗助はげっそりとした顔になりつつ、アンジェラの長い話にウンウンと相槌を打った。

この昼飯は、本当に二人の母親、川尻しのぶと東方朋子が作ってくれたものだった。

色々あって、今は仗助の家と早人の家は家族ぐるみの付き合いをしていたのだ。

 

母子家庭で、一緒にいない父親をまだ愛している。

境遇に少し似たところがある東方朋子と川尻しのぶが知り合い、仲良くなったのは、必然だったのかもしれない。

二人は、杜王町で開かれた母子家庭家族の自助会で知り合ったらしい。そして、知り合ってすぐに意気投合し、家族ぐるみの付き合いをしていた。

今回のキャンプの件も、母親同士のつながりがあったからこそ、なのだ。

「仗助さん、杜王町で伝統の食事と言えば、芋煮会だよね〰」

早人が強引に話題を変えた。仗助と同じように、アンジェラの長話に辟易としていたのだ。

「芋煮会は………僕も、母さんと……父さんと、それから学校の友達と一緒に、毎年やったよ。近くの河原で、楽しかったなぁ」

「俺は今も毎年やっているぜぇ〰〰」

仗助が、ポンと早人の肩をたたいた。

「早人よぉ、今年はひとつ一緒にやってみよォ――ぜ。康一やユカコ、それから億泰の野郎も一緒にだ」

 

「アラ?おいしそうなお話ね」

シンディが仗助たちのテーブルにやってきて、話に割り込んだ。

果物くれてありがとうね。おいしかったよ。シンディは早人の頭を撫でてくれた。

「シンディさん、この調査が終わったら、その……あのぉ…芋煮会をしませんか」

早人が、勇気を出して提案した。

 

「ふんっ」

アンジェラがわかりやすくそっぽを向いた。

ピューっと仗助が口笛を吹いた。

「芋煮会?」

シンディが小首をかしげた。

「えっと……」

言葉に詰まった早人が、年上陣に助けを求めた。だが、アンジェラはそっぽを向いている。仕方がなく、仗助がコホンと咳払いして芋煮会とは何か、の説明を始めた。

「……なるほど、面白そうね」

仗助の説明を聞いて、シンディがうなずいた。

「面白いっすよ、それで……えーと……」

ちょっと慣れない英語を話し疲れた仗助は、助けを求め、隣に座っていた日系二世のヨーコと言うSW財団の女性に、日本語で話しかけた。

「いや、いいアイデアと思うんすよ。どうっすか、SW財団の皆さん、今度一緒に芋煮会やりませんか」

「??」

突然仗助に話しかけられたヨーコは、おどおどと『何を言っているのかわからない』というしぐさをした。

「彼女は、日本語がわからないんだ」

ヨーコの隣に座っていた、デビットと言うSW財団の戦闘員の男が言った。

「産まれも育ちもアメリカの、日系二世なんでね……日本のことはほとんど知らない」

「ああ……失礼しました」

頭を下げる仗助に、デビットは気にするなと手を振り、黙々と朝食を食べ続けた。

「私、両親が生まれ育った国に来れて、うれしいです」

ヨーコが仗助に英語で話しかけた。仗助にもわかるように、ゆっくり、簡単な単語を選んで話してくれている。

「日本に来て、すぐここにきてしまったので、まだ日本の町を見たことはないんですが……でもここは緑が多くてきれいなところですね」

「……そうっすね。調査に一区切りついたら、杜王町を一巡り案内しますよ」

「素敵、ありがとうございます」

ヨーコは、仗助にピョコンと頭を下げた。その背後で、アンジェラが鼻を鳴らしている。

「できれば日本料理も食べてみたいわ。私たちの研究所の近くにも、光瑠って日本食屋があるんですが、そこはレパートリーが少ないの」

「そうね、この調査が終わったら『みんなで』食べに行きましょうね」

シンディが言った。

その後、ピーターと名乗るSW財団の研究員も、会話に加わった。仗助たちは、それぞれの国の料理のこと、このあたりの見どころの話、研究員達それぞれの故郷についてなど、和やかに語り合った。

     ◆◆

昼食後、仗助とアンジェラは、早人と一緒に渓流で釣りをしたり、不思議な地の調査をしたり、と再び忙しく動き始めた。

渓流のそばの、小さな山のようにそびえる大きな岩の上が、仗助が調査を担当している不思議な現象を示す土地であった。

「いやぁー肩がこるぜー」

仗助はノートとスコップを放り投げると、調査の合間に一息をつこうと大きく伸びをした。岩の上から、渓流を見下ろす。

足元ではアンジェラと早人が、胴長 (長靴とゴム製の長ズボンが一体化したような防水具)をはいて、渓流の流れに立ち、竿を振っているのが見えた。

少し離れたところには、非番のデビットが竿を振っているのも見える。

デビットはすっかりリラックスした表情で、釣りを楽しんでいるように見えた。

よく見ると、時折デビットは、釣りに慣れていない早人とアンジェラに、竿の持ち方、えさのつけ方、魚がいそうなところなどを教えてくれているようだ。けさ話した時はぶっきらぼうなタイプかと思っていたが、デビットは、思いのほか面倒見がよい人のようであった。

と、早人の竿がクィッと上がった。

魚がかかったらしい。だが、しばらく釣竿と格闘していた早人が、ふいに あーあ と天を仰いだ。ばらしてしまったのだろう。

「仗助さんッ、見た? 今の大きかったんだよ。惜しかったなぁー」

早人は大きな声で笑った。その声は少しだけ、11歳の少年らしいイキイキさを取り戻つつあるように見えた。

アンジェラも、仗助の視線に気づき、手を振っている。

「アンジェラ、交代するぜー」

仗助は、崖にしばりつけた縄梯子を降りた。

よろしく、とアンジェラが仗助の手をとって、縄梯子から降りるのを助けてくれた。

「釣れたか?」

「私は全然よ」アンジェラが言った。

「それはともかくこの渓流、とっても冷たいのね、でもきれいだわ……」

「仗助さん!早く来て、今、デビットに教わったとうりにやってみたら、一匹釣れたんだよッ」

早人が叫び、魚籠を持ち上げて見せた。

少し離れた上流にいたデビットも、早人の方を向いて親指を立てている。

「おぉースゲーな 早人よぉ〰〰俺が初めて釣りに行ったときは、何にも釣れなかったんだぜー」

ふと、仗助には、魚籠を持ち上げ大声を出す早人の姿に、子供の頃の自分がダブった。

初めて良平じいちゃんと釣りに行ったのも、こんな渓流だったような気がする。そのときは、まったく釣れず、こっそり魚屋で魚を買って帰ったのだった。

もちろん、母親にはすぐばれて、それからしばらく 仗助と良平じいちゃんはずっと母親にからかわれっぱなしだったのだが。

(良平じいちゃんとも、こうやって釣りしたよなぁ……魚を釣っては大騒ぎして、魚が逃げると文句言われたっけな)

「仗助さんッ!」

「おお〰〰すぐ行くぜ、まってな――」

明日からは禁漁日である。この、ほとんど人も来ない、名も知れぬような小さな渓流ではあっても明日からは釣りができない。

(今度、康一や億泰と一緒に早人も連れて、海釣りにでも行くか)

仗助はそんなことを思いながら、胴長に足を通した。

     ◆◆

そうして、キャンプを始めてから、二日目の夜になった。

その時、早人は食卓を囲むアンジェラの弾丸トークに、苦労して突っ込みを入れているところだった。

仗助は少し離れたところで肉を焼いていた。焼きすぎると肉は固くなる。仗助は、うまい肉が焦げ付かないように、一言も口を利かずに集中して、肉に火が入っていくのを見守っていた。

ふいに、リリリと鳴いていた鈴虫の声が、止んだ。

時を同じくして数人の人影が、現れた。人影は、キャンプ場を見下ろすことのできる小高い場所に、立っていた。

「……誰」

アンジェラとの話を途中で止め、早人は声を潜めた。

「わからないわ、たぶん、道に迷った登山客だと思うけど……念の為、早人君は私の後ろに……」

弾丸トークをやめ、アンジェラが油断なく身構えた。

早人は素直にアンジェラの背後にまわり、近づいてくる男達を観察した。

「こんな夜に、なんか用っスかぁ」

俺が行きます。近づいてくる男達に対応しようとしていたデビットを抑え、仗助が、懐中電灯を掲げながら慎重に人影に近づいて行った。

仗助は男たちと何やら話している。

男達は仗助を取り囲んでいる。

ゴウッ

 

と、風が男たちの背後から、キャンプ場に向かって吹いた。

 

何か腐ったようなにおいが、男たちから匂ってくる。

何?このニオイ……早人が顔をしかめた。

コ" コ" コ" コ" コ" コ" コ" コ" コ" コ"

「……お前、東方 仗助だな……死ね……」

男の1人が、もそっと言う声が、風に乗って早人の耳に入った。

 

今、死ねって言った?どういうこと……早人は唖然とし、聞き間違いではないかと再び耳を凝らした。

コ" コ" コ" コ" コ" コ" コ" コ" コ" コ"

「……アイツら、何かヤバいワッ!…………仗助っ!」

アンジェラはテーブルにあったリンゴを取り、仗助を囲んでいる男に向かって投げつけた。

そのとき、早人には、アンジェラの体がかすかに発光したように見えた。

バシュッッ

アンジェラが投げたリンゴは、仗助を取り囲む男の1人に命中した。

当ったリンゴは不自然にバウンドし、アンジェラの手元に戻って来る。

「あんた達、いい加減にしなさいよ」

アンジェラは早人を背中にかくまいながら捲し立てようとして―――男の異様な様子に気がつき、口ごもった。

┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨

男の肩、リンゴが当った辺りから、煙が立ち登っていた。

それは……話に聞いていたゾンビ(屍生人)が、『波紋』を受けたときの症状にそっくりであった。

「!?波紋入りのリンゴでダメージを受けるなんて……あなた達……まさか……」

アンジェラが、信じられないというように、よろめいた。

「娘ぇ……波紋使い……かぁ」

男が判別不明な唸り声をあげた。

仗助に背を向けて早人とアンジェラにおそいかかるッ!

「BuooooooOOOOoo!」

男は、人とは思えぬほどの高さまで空中に飛び上がった。

だが、その体が空中にあるうちに、不意に男は不自然に止まり……そして後方に投げ飛ばされた。

「おおっと……お前たちの相手は俺っスヨ」

仗助が、男達と、早人とアンジェラの間に立ちふさがっていた。

(やっぱり仗助さんだ。仗助さんが守ってくれたんだ)

早人には、仗助のスタンド:クレイジー・ダイヤモンドは見えない。

だが見えなくとも、おそい掛かってきた男を仗助のスタンドが投げ飛ばしたことはちゃんと分かっていた。

(仗助さんは、絶対に助けてくれるんだ)

早人にとって東方仗助は、完全無欠のヒーローなのだ。

     ◆◆

「邪魔するなぁ!」

別の男が、仗助に殴りかかった。

 

ゴギィッ

 

人間にはあり得ない程の打撃に、防御したクレイジー・ダイヤモンドの右手が揺らぐ。

「!?グレートなパンチッスねぇ」

と、仗助は男がパンチを放った左腕が不自然にねじれている事に気がつき、顔を歪めた。

「おい……大丈夫か、おめー……腕が千切れかかってるじゃねーか?」

男はクックッと笑った。

「東方仗助、ただの血液袋の分際で、お優しい事だ」

「頭いかれてるのか、てめー」

もうやめだ、傷を直してやる。

仗助は、クレイジー・ダイヤモンドの腕を男に向かって伸ばした。

タ ー ン!!!

突然デビットが、仗助を押しのけて拳銃を発射した。

男は頭部に数発の銃弾をくらって、後方に吹き飛んだ。

「仗助君、下がりたまえ」

デビットは拳銃を構え、群がる男たちにその銃口を向けた。

「おい!止めろッ!」

仗助はクレイジー・ダイヤモンドを使って、デビットから拳銃を取り上げた。

「ここは日本だぞ、いきなり銃を撃つんじゃねー」

「馬鹿な、あの男は危険だ」

「うるせーぞ、この人殺し野郎ッ!」

仗助は、デビットの腹を殴った。

デビットはうめき声をあげ、腹をおさえて膝をついた。

「仗助君、危険だ。あの男に近づくなッ!」

「うるせぇ――ッスよォォ」

仗助は、デビットの拳銃を壊した。

そして、デビットの警告を無視し、銃撃の傷を『直す』ために、『倒れている男』に近づいていく。

不気味なことに、仗助を取り囲んでいるほかの男たちは、仲間が撃たれたというのに何の反応も示していない。

男達はただ後ずさると、仗助から距離を置き、遠巻きに取り囲んでいた。

「おい、大丈夫だ……お前の手を『治して』やるよ」

だが、クレイジーダイヤモンドで男の手を治療する前に、銃撃を食らった男が飛び上がった。

「ひゃひゃひゃああぁああい!」

頭部から血を流しながら、男が叫んだ。

「血だあ。お前達の血を1人残らず吸ってやるうぅぅ!」

「うぉぉぉ!」

完全に不意を付かれ、仗助は男の一撃を喰らい、吹き飛ばされた。

男の叫びに反応して、男のそばでぼうっと突っ立っていた数体の者たちも、絶叫を上げながらおそってきた。

「なんだっ?ドラララッ!」

わけもわからないまま、クレイジー・ダイヤモンドが、男たちを跳ね飛ばす。

「仗助君……早く逃げろ!」

後ろからデビットが叫んだ。

「オッサンこそ、大丈夫か」

仗助は、よろよろと立ちあがったデビットに、肩を貸して立ち上がらせた。

「ほら、拳銃を返すぜ……さっきはすまなかったな」

「……なかなかいいパンチを持ってるな、君は」

デビットはにやりと笑って、軽く仗助の腹を殴る真似をして見せた。

「まだよ、まだあの男たちが立ち上がるわッ!」

アンジェラが、叫んだ。

「ギャァァアアアア!」

クレイジー・ダイヤモンドの攻撃で吹き飛ばされた男たちが、ふたたび立ち上がる。

そして、外の森からも新手の男たちが姿を見せた。

男たちは奇声を上げ、キャンプにおそいかかってくるッッ

「イャアアアアアアア!!!」

SW財団の1人が、捕まった。

ヨーコだ。

ズズズズ…ズゥ――――ッ

足首をつかまれたヨーコは、驚くほどの速さで、地面を引きずられた。

襲撃してきた男達のほうに、引き寄せられていく……。

「やめてっ。助けて!」

ヨーコは恐怖に顔をひきつらせながら、仗助たちに助けを求めた。

「ウォオオオッッ!ドケェ、このやろォッ」

「ヨッ、ヨーコォォォォッ!」

仗助とデビットは、襲ってくる男たちを蹴散らしつつ、ヨーコに向かって必死に走るッ!

 

だが……

「ぎぃやああああああぁぁつ」

ヨーコは男たちにつかまり、噛みつかれた。

腕を、肩を、顔を……生きながら、絶叫を上げながら、ヨーコが、男たちに噛み千切られていく………

ギャアアア!

皆が見ている前で、ヨーコは何度も噛みつかれ、絶叫を上げ、あっという間に血だるまになった。

「ああぁぁ……ヨーコが、イヤぁッ!」

シンディが嘆いた。

『ドララララッ!』

「くそお。傷は直したが、遅かったか……」

群がる異常者共を跳ね飛ばして、なんとか仗助達がヨーコのもとにたどり着いたときには、ヨーコは、もうこと切れていた。

仗助は、そっとヨーコの傷を直した。

デビットが沈痛な表情で、亡骸を肩に担いだ。

 

「何なんだ、こいつらよォ……異常だぜ。だがもう遠慮はいらねー……早人よォ、しっかり守ってやるから、目つぶってろ!こんなスプラッタを見るんじゃねーぞ。夜寝れなくなるぜー」

仗助がスタンドを出現させるッ

『ドララララララララララララララララァ!』

仗助のクレイジー・ダイヤモンドが手加減なしの全力のラッシュを繰り出し、異常者どもを蹴散らすッ

 

「Guyiiiiiii!」

クレイジー・ダイヤモンドのラッシュを受けた異常者共は、まるでビリヤードの玉を散らすかのように、吹き飛んでいくッ!


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