仗助と育朗の冒険 BackStreet (ジョジョXバオー) 作:ヨマザル
スタンド名:ウィスパー・イン・ザ・ダーク(WitD)
本体:栗沢スミレ
外観:アゲハチョウ大の美しい蝶
タイプ:特殊能力型
性能:( )内はスタンド能力(ビジョン)の性能
破壊力 - E / スピード - E /射程距離 - C / 持続力 - C(E) / 精密動作性 - A(E) / 成長性 - B
能力:未来に起こり得る危険・や人を含む生物の行動等 を映像化してみることができる。
クリーチャー名:バオー・ドッグ
性能:破壊力 - B / スピード - B /射程距離 - C / 持続力 - D / 精密動作性 - C / 成長性 - C
能力:寄生虫バオーが寄生した犬。ただし、今回億泰たちが遭遇したバオー犬の寄生虫バオーはオリジナルから生殖能力が取り除かれた『改良』型。オリジナルに比べ、パワーが弱く、発現できる武装化現象も少ないが、その分安定しており傷の回復力も強化されているらしい。半年程度の寿命と想定されている。
1999年11月3日: [M県K市、K山 (杜王町から150Kmほど北)]
ちょうど億泰がカフェ・ドゥ・マゴでスミレと話をしていた頃、川尻早人は、とある森のキャンプ地の周りを探検していた。
杜王町に生えている木々は、まだ紅葉真っ盛りと言うわけではない。だが杜王町からだいぶ北に上ったこの辺りでは、木々はすっかり秋深くなっていた。気温も下がってきており、少し肌寒いほどだ。
早人がいる森は、人里から遠い場所にあった。
この辺りにはめったに人も来ない。
だから森が荒らされていないのだろう。早人が周囲を少し探すと、食べられる木の実や果物がなっているのを、簡単に見つけることが出来た。
「私の育ったアメリカ南西部の森とは、違うわね……でも、とっても豊かで美しい森ね」
早人の後ろを歩いていた、SW財団職員のシンディ・レノックスが言った。シンディは美しい金髪をポニーテールにまとめた、容姿端麗の調査員だった。
シンディは、英語がわからず首をかしげる早人を見てにっこり笑った。そして、今度は日本語で「キレイナ モリ ネ」とゆっくり言い直した。
「この時期は、食べられる果物や木の実がたくさんあるんだよ」
早人は笑った。
「もう少し取ったら、仗助兄ちゃんのところに戻ろうよ」
早人は、東方仗助の誘いをうけて、杜王町から北側にある森の中でキャンプをしていた。
ひそかに憧れている東方仗助に声をかけられたとき、早人はとても嬉しかった。だが一方、母親を1人置いてキャンプに参加することにどうしても気が乗らなかった。
その母親が、どうしてかキャンプの話を聞きつけ、『必ず行くべきだ』と早人の背中を押してくれたのだ。
「あっアケビだ」
早人は、木のツルにたくさんのアケビがなっているのを見つけ、顔をほころばせた。
しかしアケビの実は、早人の手が届かない高さになっていた。
早人が困っていると、シンディがにこっと笑って木に登り、アケビを幾つか取ってくれた。
シンディがとってくれたアケビを一つかじり、早人は、このアケビが大好物だった父親のことを思い出した。
(そういえば、三人で森にハイキングに行ったことがあったな。その時は、父さんがアケビを見つけて大喜びしたっけ)
早人はクスリと笑った。
(それで、危ないからやめなさいっ……てとめる母さんを振り切って、父さんは木に登ったんだっけ。結局、木から落っこちちゃって……でもアケビのツルを掴んでたからお尻を打っただけですんだんだ)
――決して理想の家庭ではなかった。だがそれは、父と、母と笑い合った数少ない大事な思い出――
たまらなく、また父親に会いたい。
でも、もう会えない。
早人はそっと涙をぬぐい、先を行くシンディを追いかけた。
――――――――――――――――――
チチチチ……
森深い山奥で鳥が鳴いていた。鳥は、めったに人の来ないこの地にいる人物を警戒して、鳴いているのだろう。
その森のただ中にある、渓谷に埋もれた大岩の上に、東方仗助はたった1人、立っていた。
今年、杜王町から150㎞程北に上った地に、隕石が落ちた。
幸い人家のない森の中であったため、死傷者こそなかった。
だが、隕石が落ちて以来、人知れず、その地で色々と不思議な現象が起こっていたのだ。
仗助は、その現象の調査を、《生物学上の》父親:ジョセフ・ジョースターから依頼されたのであった。
調査に加わってくれれば、謝礼も出るという。
金欠でこまっていた仗助にとっては、謝礼の話は切実であった。渡りに船とばかりに、そしてちょっとした親孝行のつもりで、仗助は、SW財団主催の隕石調査に参加する事にしたのであった。
「こいつは、グレートだぜ」
仗助は、大岩の上にしゃがみ込んだ。そして、ナイフを取り出して、地面から掘り出した果物を輪切りにした。断面を確認して、ため息をつく。
果物の外観は確かにミカンであった。だが、輪切りにした『中身』は、ミカンとレモンが混ざり合っていたのだ。
ミカンもレモンも、昨晩地面に埋めたときは、至極普通の果物であった。それが、この地面に埋めて一昼夜も放っておくと、一つに融合してしまうのだ。
何度試しても同じことが起こる。しかも仗助のスタンド:クレイジー・ダイヤモンドの『直す』能力を使っても、一旦融合したモノを元々のモノに戻すことは出来なかった。
それは、まさに『奇妙な』現象であった。
「これ……本当に、不思議ね」
背後からピョコンと現れたアンジェラ・チェンが、仗助の背中に飛びつきながら言った。
「ここにスケボーとサーフボードを埋めたら、スノーボードになったりするのかしら。三輪車とバイクを埋めたら、サンドバギーになったりしてぇ」
「懐中電灯とピストルを混ぜたら、光線銃になったりしてなぁ」
仗助はへらっと笑って、さりげなくアンジェラを背中から降ろした。
「ちょっとぉ、仗助ぇ……冷たいじゃあない」
仗助の背中から降ろされたアンジェラは、ぷうっと頬を膨らませた。
「師匠に言いつけちゃうわよ。師匠の息子がどんだけ一番弟子に冷たく当たったか……ある事ないこと、こと交えて細かく説明しちゃうから」
アンジェラは、ジョセフ・ジョースターに言いつける予定の内容をまくし立てはじめた。
機関銃のような勢いだ。
その様子に、仗助はげっそりとした。
「……ジジイが師匠だなんて、お前が勝手に言っているだけだろうがよぉ〰〰」
「ちょっとぉ……そんなことないわよーだ。――証拠を見せてあげる」
仗助の反論を聞き、アンジェラが奇妙なリズムで呼吸を始めた。
コォォォォォオオオオ
心なしかアンジェラの体が、ボウッと微かに光っているように見えた。
アンジェラは、仗助の手からミカンとレモンが融合した謎の果実をひったくった。それを大岩の下に、躊躇なくぽぃっと放り投げこむ。
「おいっ!」
「大丈夫よ………見てて」
放り投げられた謎の果実は、大岩の下に生える茂みにあたると、なぜかバウンッと不自然に跳ね上がった。
そして果実は、またアンジェラの手に戻った。
アンジェラは、戻ってきた果実をピンと人差し指ではじく。すると、謎の果実はまたしてもスーパーボールのように跳ねた。
しかも、岩にぶつかったわけではない、今度は柔らかい雑草に触れ、またハジキ帰ってきたのだ。
再び跳ね返った謎の果物は、今度は 仗助の手にもどってきた。
不思議なことに、その果実を仗助が受け止めた瞬間ッ、ビリッと電気マッサージを受けたような衝撃が、両手に伝わってきた。
イテッ
驚いた仗助は、謎の果実を取り落とした。
バウンッ、バウン
果実は、不自然なバウンドをしながら大岩の下に落ち、そして地面を転がって川に落ちて、流れて行ってしまった。
「!?おいッ アンジェラ、おめーよぉー」
邪魔すんなよ。貴重な試料を落としてしまった仗助が、軽く怒った。
アンジェラはペロッと舌を出した。
「ほーぅら、見た?これが師匠譲りの技……仙道よ。仙道は、波紋のエネルギーを使う技術……太陽や生命のエネルギーと同じエネルギーを、体内で増幅させる技術よ。スゴイでしょー? これでわかった?私は師匠の一番弟子なんだからねッ」
アンジェラはそう言って胸をはった。
そして、自らのスタンド、――スケボーの様な外見をもつ――を、出現させた。
「ちょっとスケーター・ボーイで見回りをしてくるわッ。またね、 仗助」
アンジェラはひらひらと手を振ると、 スタンドのスケボーに乗った。そしてスタンドの力で木を垂直にかけあがり、梢の向こうへと消えて行った。
「ふぅ――。……相手すんのもメンドクサイ奴っすねぇ……承太郎さんじゃあないが、ヤレヤレっすよー」
仗助は、アンジェラが去っていくのを見て、ホッとため息をついた。
アンジェラ・チェンは、ホンの2週間前に、ぶどうヶ丘大学に台湾から留学生としてやって来た女性だった。
理由は分からない。だが、アンジェラは転入そうそう、仗助に過大な興味を示していた。そして 、暇さえあれば高等部にもぐりこんで、仗助をおいまわしていたのだ。
それからというもの、いつも一緒につるんでいる億泰の不機嫌そうな顔、同じクラスの女子の冷たい目にさらされ、仗助は居心地の悪い日々を過ごしていた。
可愛いいと言えなくもない年上の女性に、追い回されれば、ちょっとはうれしい気持ちもある。だが、そのアンジェラは、カナリうざいおしゃべりであった。正直、『残念な女性』なのだ……。
仗助は、山岸由花子にストーキングされていた頃の広瀬康一の気持ちが、少しだけわかったような気がしていた。
彼女が仗助の《生物学上の》父親、ジョセフ・ジョースターの知り合いである事を聞いたのも、うんざりした気分に拍車をかけていた。
そんなアンジェラが、つてをたどってこのSW財団の調査に同行する事を知った時は、唖然としたものだ。
まあいい、仕事に戻ろう。 仗助は頭をかきながら、手にしたノートを開いた。
「オレンジとレモンの実験か……なになに、まず『埋める深さを変えてみる』 と、それから『埋める場所を変える』、最後に『埋める時間を変える』……と、それから『深さ、場所、時間の違う、色々な組合せを試す』 と。 さらに、木と鉄を埋めてみる。百円玉と十円玉……そのほか『思いつく限りの色々なものを埋めてみる』……と………しかし参ったぜ、割のいいバイトだと思ったけどよぉ〰〰」
メンドクセーな。
仗助はブツブツ言いながらも、ノートの指示に従って真面目に試験を始めた。
オレンジとレモンを埋め、記録をとる。
掘り出したオレンジとレモンのアイノコを ビニール袋に入れ、ラベルを付けて分類していく。
埋めた時間を、ストップウォッチで計り、記入する。
面倒な作業だ、だが、面白かった。
仗助にも、『謎や冒険に首を突っ込む』性分が受け継がれているのだ。
「仗助さん、食べ物をたくさん見つけたよ」
仗助が仕事を開始して、半時間程経ったころ、早人が顔を出した。 早人の後ろからは、シンディも顔を出した。
「おぉぉ早人ォ――。お前、仕事が早いじゃねぇか」
仗助は、早人が取ってきた森の食べ物を見て、顔をほころばせた。
「うまそうだなぁ……お前、ただの都会っ子ってわけじゃなかったんだな」
「まぁね、良く小さいころ父さんと森に来てたんだ」
早人が胸をはった。
「早人君のおかげで、おいしそうな果物がたくさん取れたの。助かったわ」
シンディが早人の肩を叩いた。
「いやぁー、シンディさんもお疲れ様です」
仗助が拙い英語で礼を言うと、シンディは 気にしないで とひらひらと手を振った。
「美しい森ね、私も森の中を散歩できて、楽しかったわ」
「そうっすね、こんな森にこんな奇妙な土地があるなんて、思ってなかったっス」
「あら、手をすりむいてるわよ」
シンディは、仗助の人差し指に擦り傷があるのを見つけた。ポケットからカットバンを出して、クルリと傷口に貼り付けてくれた。
「気をつけなさい。ここは奇妙な土地なんだから、傷口から変な菌が入り込むかもしれないわよ」
仗助の指にカットバンを巻くシンディからは、ふわっと、石鹸のにおいが香った。
「……ありがとうございます」
仗助は、真っ赤な顔で礼を言った。
(うわあーいい香りだ。……なんてキレ―な人だ。しっかも、優しくて美人のおねー様かぁ……)
「仗助兄ちゃん……そんなにデレデレしてたら、アンジェラが怒るよ」
「なっ……お前、ませてんなぁー」
仗助は、早人を軽く小突いた。
「だが、俺がアンジェラに怒られる理由はねぇぞ」
「……そりゃあ、仗助兄ちゃんには、そうなんだろうけどさ……」
そろそろ朝飯の準備をしなければならない。 仗助は、早人を連れてキャンプ地に戻った。
早人は、はしゃぎながら走っていく。
(どうやらキャンプに連れてきて正解だったみたいだな)
仗助は早人の様子を後ろから見て、ほっと胸をなでおろしていた。
なんといっても、早人はつい数か月前に父親を失ったばかりだ。口には出さないが、つらい思いを抱えているに違いなかった。
仗助には、早人の気持ちが痛いほど想像できている『ツモリ』であった。
なぜなら仗助も、父親代わりであった祖父、東方良平を失った記憶があったからだ。東方良平は、『日本犯罪史上最低の殺人鬼:片桐安十朗』と、奴のスタンド:アクアネックレスによって、つい最近、殺されていた。
仗助にとっては、彼を子供の頃から慈しみ、守り、教え育ててくれた東方良平こそが、《本当の父親》だったのだ。
その《本当の父親》を失った時の悲しみ、怒り、むなしさは、今でも仗助の胸の奥に燃えている。
このキャンプを通じて、早人の心も少しは軽くしてやりたい。
仗助は、心からそう思っていた。
――――――――――――――――――
キャンプ地は、K山の山中にわずかになだらかになった斜面を見つけ、作ったものであった。
周囲はうっそうと森が囲んでいるが、キャンプ地は比較的乾いており、清潔であった。近くの渓流から、川の水が流れる音が聞こえる。
あわててしつらえたにしては、快適なキャンプ場であった。
早人と仗助は和やかに火を起こし、肩を並べて早人が採ってきた山の果物を洗った。そして、火の上にフライパンをかざして、朋子としのぶ が用意してくれた食材を、暖めていった。
アンジェラが帰って来るのを待って、三人は、一緒のテーブルで、昼食をつつき始めた。
三人の隣では、SW財団からやってきた研究Gr.が、同じように昼食を取っていた。
今回の調査はまだ予備的な調査と言う事であった。だが、アンジェラを含め、SW 財団からは5名の研究者が派遣されていた。
SW財団のリーダーはアリッサ・アッシュクロフトと言う知的な感じのする美人だ。
だが実は彼女は、ちょっと仗助が苦手なタイプの女性であった。彼女は、仗助が苦手だった小学校の時の厳しい担任に、どこか雰囲気が似ているのだ。
仗助の視線に気が付いたのか、シンディが仗助にウィンクを飛ばした。
それをみて、アンジェラがむっとした。アンジェラは、仗助の皿からハンバーグ(しのぶが作ったもの)をひったくり、大口でほおばった。
「おい、俺の皿からとるなよォ〰〰」
「あら、気が付いたの。シンディさんに夢中で、気が付かないと思ったわ。それにしてもシンディ姉さんって、ほんとに美人よね。うらやましいわ……」
アンジェラはいかにシンディが美しいか、とうとうと語り始めた。正直、ウザイ態度だ。
「……なぁ、かんべんしてくれよ」
「何をかんべんするっていうのよ」
アンジェラが、仗助を睨みつけた。
「……ねぇアンジェラ、ご飯を盛り付けるの手伝ってよ」
早人が文句を言うと、アンジェラは『台湾では朝ごはんは全部外食なんだ』と言い返した。
だから、ちゃんとした家では、朝ごはんの盛り付けなんてしないんです。
おしゃべりなアンジェラは、聞かれてもいないのに、台湾のおいしい朝食店のメニューを説明し始めた。 豆乳スープと揚げパン、汁ソバの数々、握り飯、チャーハン。
いつの間にか、早人はごくりと生唾を飲み込んで、アンジェラの話に聞き入っていた。