仗助と育朗の冒険 BackStreet (ジョジョXバオー) 作:ヨマザル
スタンド名:ザ・ハンド
本体:虹村億泰
外観:人型
タイプ:近距離 特殊攻撃型
性能:()内は特殊能力の性能
破壊力 - B(A) / スピード - B /射程距離 - D / 持続力 - C(E) / 精密動作性 - C / 成長性 - C
能力:右手で掴んだ物体を空間ごと削り取る 。削り取った物体は消滅する(行き先不明)。この能力を応用して、対象物や自分を瞬間移動させることも可能。
スタンド名:アース・ウィンド・アンド・ファイア
本体:ヌ・ミキタカゾ・ンシ(支倉未起隆)
外観:無し、本人と同化している。
タイプ:一体化型
性能:破壊力 - C / スピード - C /射程距離 - 無し / 持続力 - A / 精密動作性 - C / 成長性 - C
能力:自分の体を変化させる。複雑な機械や、変身前の本体以上の力は出ない。人の顔真似はできない。(そもそもスタンドなのか不明)
スタンド名:カントリー・グラマー
本体:ネリビル
外観:大型の犬程度のケンタウロス。ただし、下半身は猫で上半身は人型。
タイプ:中距離 特殊能力型
性能:破壊力 - D / スピード - C /射程距離 - B / 持続力 - C / 精密動作性 - B / 成長性 - D
能力:動物と会話する能力。命令に従うよう訓練された動物を支配することもできる。一度に支配できる動物の量は限られる。
「YIYAAAAAAAAAXTU!」
ネリビルが言葉にならない絶叫を上げ、頭をふりまわし、身をねじった。
だが、まったく体を動かせていなかった。
バオー・ドッグは、後足代わりの触手をネリビルに巻き付け、動けないように押さえつけていた。
そのうえで、自分の前足で、ネリビルの残った左腕を押さえつけている。
そのネリビルの左腕が、無残にもグズグズに溶けかかっている。
しかも体の溶解は左腕から、徐々に胴体に向かって進捗していく……
ジュワワワァァッ………
「いいッ、痛アアアィイイイイッッ! ワタシィのッ!」
ネリビルがすすり泣く。
そのとき、ネリビルを溶かそうとしているバオー・ドッグの上に、唯一五体満足な別のバオー・ドッグ ――もう一匹の黒毛の大型犬だ―― が伸し掛かり、 その頭を齧りとってしまった。
頭を齧りとられたバオーは、ゴロリと倒れたが、それでもまだビクビクと体を痙攣させていた。
「ギギィイイイイイイ―――――ッ」
間一髪助かったネリビルは、判別不能な金切り声を上げて跳ね起きた。
そして、渓流の水をはね散らかして、川の上流へと走り去って行った。
そのあとを、傷ついたバオー・ドッグ達がゆっくり追いかけていく。
「うげぇぇぇええええ」
億泰がブルッと体を震わせた。
「敵とはいえ、嫌なものを見ちまったぜぇ~」
「バオー……まさか……」
スミレも、真っ青な顔で身を震わせた。
「とにかく、今のうちに逃げましょう」
未起隆は靴に変身して億泰とスミレの足をくるんだ。
すると、億泰とスミレの足は勝手に動きだした。
靴を通して未起隆の力が伝えられ、二人の脚力も大幅に向上している。
億泰とスミレは、木の上から大きくジャンプして、その場を逃げ出した。
◆◆
一行は短い休憩を何度か入れながら、もう大丈夫と思えるまで、道なき山森の中を必死に進んだ。
ようやく人心地がつき、足を止めたのは、三人が戦った渓流から1峰は越えた、山の山頂近くだった。
崩落でもあったのか、この上は岩肌が垂直に切り立っている。未起隆の力を借りても、これ以上は登れそうもなかった。
「ミキタカゾ、ありがとう」
岩肌にもたれて息を整えながら、スミレが言った。
「億泰は怪我しなかった?」
「余裕っす!」
億泰は胸をはった。
「この億泰に任せなさい。あんな奴ら、粉々に削り取ってやりますぜ」
「削り取るって……ねぇ、それがさっきあんたの隣で戦っていた怪人の能力なの?そもそもあの怪人は誰?」
スミレが興味深げに尋ねた。
「……億泰君とあの怪人はどんな関係な訳?」
「怪人?もしかして、このザ・ハンドのことかぁ~」
億泰が自分のスタンド:ザ・ハンドを出現させてみせると、スミレは そう、それよ と、うなずいた。
「ん~~っ いざ説明しろって言われると、なかなか難しいなぁ」
億泰が、首をひねった。
バフッ!
スミレと億泰、二人の靴が膨らみ、はじけ、未起隆が姿を現した。
「スミレ先輩……その怪人は……怪人であって怪人ではありません。あれは億泰さんの持っている超能力です。……僕達は、それを『スタンド』って呼んでいます」
億泰にかわって、未起隆が説明をはじめた。
「スタンドは二つとして同じものはなくて、それぞれ異なる超能力と、違う名前が付いています。ザ・ハンド……それが、億泰さんのスタンドの名前です」
「……ミキタカゾ、あんたも億泰の……スタンド?が見えてるの?」
「ええ」
「あんたのその不思議な『能力』も、スタンドなの?」
「……どうでしょう、私の星では特に特別な『能力』じゃあないですからね」
「………イヤ、ところで、スミレ先輩、あんたこそ、俺のスタンドが見えているのかよぉ~~」
「見えるわよ 」
「じゃあ、あんたももってんだな、スタンドを」
「……そういう能力は私にはないと思うわ」
私は見るだけよ……とスミレはつぶやいた。
「今まで……そんなスタンドっていうモノは見たことないわ。……私の力はスタンドじゃあない と思うわ」
「いやいや、『スタンドはスタンド使いじゃあないと見えない』んすよ。先輩も、やっぱりなんかの力を持ってるんすね!。俺たちと同じだ」億泰が喜んだ。
『同じじゃあないと思うわ』と、言うスミレの声は、もちろん億泰の耳には届いていない。
「ところでスミレ先輩」
未起隆が口を開いた。
「あのおばさんが話していた『組織』とは何ですか」
「おぉ、俺も興味あるぜぇ~~あのオバサン、スミレ先輩にいかにもワケありってかんじだったしよぉ。あの犬っころもおっかし~~ぜ。普通、あんなに体を削られたら、もう死んじまうだろ」億泰も同調した。
組織ってなんだ?
バオーってなんだ?
億泰と未起隆は腕組みをして、スミレの様子をじっと見ている。
コ" コ" コ" コ" コ" コ" コ" コ" コ" コ"
「ゴメン……言えないわ」
スミレは顔をこわばらせ、首をふった。言えば、二人を完全に巻き込んでしまう。
確かに二人を荷物運びとして、育朗の探索に調子よく利用している自覚はある。だが、それとこれとは次元の違う話だ。二人を、これ以上巻き込むわけにはいかない。
「僕達があのおばさんに襲われたのは、その組織が関係してるんですよね。だから僕達も、敵の事を知った方が良いと思うんです」
「駄目よ。……私達のせいで、アナタ達をこれ以上危険な目に合わすわけには行かないわ……だから明日の朝になったら、アナタ達はもう帰って。……心配ないわ、私も、自分の身ぐらい守れるのよ」
スミレはそう言うと、背中に担いだ長い袋から、猟銃を取り出してみせた。
「私の父はマタギなの。私も銃の撃ち方は知ってるってわけ」
「そりゃあすげえな……でもよぉ~~ッ、あのバオーって呼ばれてた犬っころ達にゃ、銃なんてきかなそうだったぜ。ありゃあ相当な強敵だよ」
「それに今更逃げ出したって、その……『組織』が僕達を放っておいてくれませんよ。まあ、僕はいざとなれば宇宙船に乗って帰れるからいいんです。……ですが、お二人はそうはいかないでしょう?。それに、スミレ先輩をほっとけません」
「億泰、ミキタカゾ……有難う」
スミレは目蓋を強く擦り、ニッコリと笑った。
「でも、もう少し待って……考えさせてよ」
億泰と未起隆は顔を見合わせ、仕方がない と言う風にうなづいた。
「わかりました。話せない事情があるのでしたら、今は『組織』のことは言わなくてもいいです。でも、僕たちが、スミレ先輩を置いて先に帰ることもしません」
未起隆の言葉に、スミレはうなづき、ただ『ありがとう』と言って、微笑んだ。
「……おお、雨が降って来たみたいだな。よっ……よし、この俺がシェルターを作ってやろう」
スミレの笑顔を見て、なんだか落ち着かない気分になった億泰は、慌ててスミレから背を向けた。
ソソクサとザ・ハンドを出現させる。そして億泰は、切り立った崖をスタンドで『削り』始めた。
「俺が、ここに寝床を削りだしてやるぜぇ」
「……スゴイわね……あっという間にトンネルができていくわ」
スミレが目を丸くした。
「へっへぇぇ……後30分もかからないうちに、彫り終わるぜぇ~~俺のザ・ハンドは便利だろ?」
億泰は真面目に洞窟作りに取り組み、ザ・ハンドの空間をえぐり取る能力で、あっという間に三人が快適に一晩を過ごせそうな洞窟を作り上げた。よく見ると、それぞれの個室、空調用の窓までできている立派な洞窟だ。
スミレと未起隆はすっかり感心して、億泰の掘った洞窟を見て回った。
「億泰さんの能力、サバイバル向きでとても便利ですね」
未起隆が大真面目に言った。
「僕もお役にたたねば……そうだ、皆さんの毛布に変身しましょう。僕が皆さんを暖かく包みますよ」
「そうね、それは確かに暖かそうだけど……」
スミレが少し引きつった笑顔で言った。
「でも……私、寝袋を持ってきているから、遠慮しておくわ」
◆◆
その日の夜。
「へぇええええ、きっれ~な星だなぁ」
億泰はすっかり感心して、空を見上げていた。
そこには、巨大な天の川が広がっていたのだ。
「杜王町では、こんなにきれいな星みられないからな~~」
「私の子供の時に住んでいた所を思い出すわ」
スミレが言った。
「人気がいないから外から光が入らないし、星がよく見えるわね……きれいね」
「スミレ先輩はどこの出身なんですか」
「私は……すっごい田舎に住んでたわ。人なんて、私とおじいちゃん、おばあちゃん以外は全然いないのよ。人より、熊や狸の方が多いんじゃあないかしら?でも、ここからそんなに遠くないわね。そう……ここから平泉の方角に20Km位行った所よ……」
「それは……スゴイところですね」
「そうなのよ。フフフ……懐かしいなぁ」
「おばあちゃんとおじいちゃんに、会いたいんですか」
「あら……いやね、おじいちゃんとおばあちゃんの家には、毎月会いに帰ってるわよ。いい高校が近くになかったから、しかたなく都会に出てきただけだったしね」
「じゃあ、懐かしくないんすか?」
億泰には、話がよく理解できなかった。
「フフフ……小さいとき、彼とこうやって星を見たなぁっておもったのよ」スミレが言った。
「ほんの短い、ほんとに少しの間だけだったけど、二人でいろんなところに行って、星を見たなぁ」
「……そうっすかぁ……」
「いやーほんとにきれいですね」未起隆が言った。
「僕も、ちょっと宇宙船に帰りたくなりましたよ……知ってます?宇宙には空気がないから、本当に星が近くに見えるんですよ」
――――――――――――――――――
翌朝、スミレはみんなより早起きして、コーヒーを入れていた。朝早起きしてコーヒーを飲むのは、スミレの習慣であった。
あたりを跳ね回るインピンをあやしながら、スミレはコーヒーを片手に外の景色を見ていた。
すると突然、ポン とスミレの額から何か、チョウのようなものが飛び出した。
「これは……?」
スミレはびっくりして、コーヒーカップを取り落した。すぐに気を取り直すと、地面に落ちたカップには目もくれず、そのチョウを観察し始めた。
アゲハチョウ大のそのチョウは、黒のような、紫のような、そしてときに白い色に光りながらパタパタと飛んでいた。
不思議なことに、スミレには、次にこの蝶がどこに行くのか、なんとなくわかることに気が付いた。
しばらく蝶を観察し、ついにスミレは、これが自分の能力の形……つまりスタンドだという事がわかった。
チョウは、ひらひらっとスミレの周りを飛び、またスミレの額に止まった。
すると……蝶を伝わり、スミレはビジョン(幻視)を見た。
ビジョンは、スミレに、今自分たちがいる深い森を上空からの俯瞰で見せた。
まるで渡り鳥のように、ビジョンはその森を海岸に向って飛んでいく。
すり鉢状の谷の奥に、洞窟が見える。
その洞窟に入り、奥に突き進んでいくと……地下水脈があった。
その先に 懐かしい 『彼』が静かに眠っているのを、確かに『感じた』のだ。
……ビジョンが消え、視界が元に戻った。
スミレは割れたコーヒカップの上で、岩山の上、『昨晩億泰が削った洞窟』の入り口に立っていた。
「見えたわ!東よッ!ここから東に行った所に、育朗がいるのが見えたわ」
スミレが、晴れやかな声で歓声を上げた。
「それは良かった。スミレ先輩、おめでとうございます」
未起隆の姿は見えない。だが、まるでスミレの声をじっと聴いていたかのように、すかさず未起隆の祝福の言葉が返ってきた。
ブルンと、億泰が削り出したシェルターを塞いでいたテント地の隔壁と、寝袋 ――中にはまだ億泰が眠っている―― が、大きく揺れた。 そして、その二つの形が崩れ、溶けあわさり、未起隆が姿を現した。
突然寝袋から放り出された億泰が、ぶつぶつと文句をこぼした。
「痛ぇし寒い……未起隆よォォ~~。お前、変身を解く前に起こしてくれよぉ~~」
すみません。恐縮する未起隆に、億泰は、なおもブツブツと文句をこぼしつづけた。
そんな億泰を、スミレがたしなめた。
「億泰、男が細かい事をグズグズ気にしなさんな」
「いや~確かにそうなんだけどよぉ~」
寒いんだよぉ、と億泰がこぼした。
「見えたのよ、目指す 人がッ!」
スミレが億泰の腰を叩いた。
「こうしてはいられないわよ、さっさと荷物をたたんで、出発しましょうッ」
「了解です」
未起隆が、てきぱきとあたりの荷物をまとめ始めた。
「さぁ、億泰さん、さっさと行きましょう」
「ちょっ……ちょっと待てよ、俺にも準備ってもんが少しはあるんだよ」
「ほらほら、男でしょ。てきぱき行動できないと女の子にもてないわよ」 スミレがズケズケと言った。
「……余計なお世話っすよ……」
と、外にいるものに気が付いたスミレの顔色が、不意に嫌悪にゆがんだ。
「ちょっと、いゃあああああああ!あれを見てよ、気持ち悪い」
スミレが指さした先には、まるで、雲のような、真っ黒に蠢く塊が地面を覆い、あちこち動いていた。
よく見ると、それはネズミだ……ネズミの大群が、森の中を所狭しと走っていたのであった。
「気持ち悪うッ。なんなのよ、あんなにいっぱい」
「……あの、ネリビルってオバサンの能力……確か、『動物を操ること』でしたよね」
未起隆が言った。
「あの量のネズミから隠れて行動するのは、まず無理でしょうね……」