仗助と育朗の冒険 BackStreet (ジョジョXバオー) 作:ヨマザル
「なんですって……こんな山奥に……」
スミレが、顔をこわばらせた。
「おお……、隠れてこそこそ覗き見るなんざ、ろくな奴じゃあないに決まっているぜぇ。だから、そいつの相手は俺がてぇ〰ねぇ〰にしてやらねーとなぁ。未起隆、お前はスミレ先輩を守るんだぜ~」
「わかりました」
未起隆はうなずき、再び彼の持つ能力、アース・ウインド・アンド・ファイヤーの力でロープに変身した。
未起隆の変身したロープは、暴れるスミレを捕まえ、木の上に引っ張りあげた。
インピンもちゃっかり億泰の肩から飛び出して、スミレの肩に飛び移っていた。
「ちょっと、ミキタカゾッ、億泰君、突然どういう事よッ!」
スミレの抗議の声が頭上から響いた。
「未起隆、わかってんな?スミレ先輩をそっから出すんじゃねえぞ」
億泰はそう言い捨てると、バシャバシャと渓流を踏み越えていった。
「おう……、出て来いよ。出てくる気が無いんなら、こっちから行くぜッ」
ザ・ハンドの右手で、何もない空間をえぐるッ!
バシュッ!
次の瞬間ッ、億泰の目の前に 、唸り声を上げている3匹の犬たちが『現れた』。
犬たちは、ザ・ハンドの『空間を削り取る』能力によって、潜んでいた草むらから引きりだされたのだ。
その犬 ――二匹の黒犬と一匹の白犬―― は、しばらくきょとんとしていたものの、すぐに我に返り、億泰めがけおそい掛かって来た。
「ガルルルルルルッ」
「バウッ!」
だが、強力なスタンド使いの億泰に取って、犬など相手にならない。
億泰は素早くザ・ハンドを操り、おそい掛かってきた犬たちを『少しだけ』手加減して、蹴り飛ばした。
スタンドによる目に見えない衝撃を受け、犬たちが弾き飛ばされる。
だが、犬達は怯む事もなく、すぐに立ち上がり、再びおそってきたッ!
「よせよ、オラぁこう見えても犬好きなんだぜぇ~~」
億泰は気の進まない様子で、犬たちを再び蹴散らしていく。
何度か効果のない襲撃を繰り返すと、犬達は攻撃しても無駄なことを悟った。
そして犬達は、攻撃する代わりに、億泰を遠巻きに囲んで、低く唸り始めた。
「オイ、もういいだろ。犬っころの陰に隠れてないで、出てこいよ、てめぇ」
億泰は、犬達が隠れていた茂みに向かって、どなった。
「隠れんぼがしたいんなら、俺のザ・ハンドが引きずり出してやるぜぇ」
「わかったわよ。待ちなさい、自分から出ていくわよ」
せっかちねェ と茂みから姿を現したのは、ヒスパニック系の中年の美女であった。
「君が虹村億泰君ね、レポート通り、中々強力なスタンドを持っているのね。……それに、けっこう鋭いじゃあない。私の存在に気が付くなんて」
女は、まっすぐ億泰に向かって歩いて来た。
「私の名前はネリビル。初めまして」
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「お~う、こんな山奥で俺たちに何のようだ?」
「ごめんねぇ、悪いけどアナタには用が無いの。……私の任務は、その女の子を連れて帰る事よ。邪魔しなければ、何もしないわ」
ネリビルは、スミレと未起隆が隠れている木を見上げた。
「そう、あなたのことよ。スミレちゃん」
「あなた…もしかして?」
木の上にいるスミレが、おびえた声で言った。
「そうよ、私はあの組織の人間よ」
ネリビルは、組織の名前は口にするな……とスミレに警告し た。
「お友達を死なせたくは、ないでしょう?」
「おいおい、何言ってるんだよ」
億泰がザ・ハンドの右手を構えた。
「邪魔するなと言われて、はいそうですかって、素直に言う事を聞くと思ってんのかよ、このダボが」
「やっぱり……そうよね」
ネリビルもスタンドを出現させた。下半身が猫を思わせる四足の獣に、ヒト型の上半身が乗っかった大型の犬程度の大きさのスタンドだ。
「これが私のスタンド、カントリーグラマーよ。能力は動物の支配♡……」
ウフッと、ネリビルが投げキッスをした。
「そりゃあ強そうな能力だなぁ」
億泰はせせら笑った。
「おりゃぁ、子どものころ、トムとジェリーって話が好きでよう。町を歩いている猫やなんかと話が出来たらいいなぁって、 ずうっと思ってたぜぇ。お前、うらやましいスタンドをもってんなぁ~~~」
「そぉよねっ。やっぱりアナタも、そう思うでしょう〰〰」
キャーっと、ネリビルが嬉しそうな叫び声をあげた。その直後に、 邪魔するなら許さないわよ と、冷酷さを剥き出しに、億泰を睨み付けた。
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「それはこっちのセリフだぜ ぇ」
億泰は、ザ・ハンドを再び出現させた。
「犬っころを引っ込めろ。大人しく言う事を聞きゃあ、削らないでやるぜ」
「フフフ。甘く見ないでね」
《ギィイイイイッ!!》
カントリーグラマーが叫び声をあげた。
「バォーよ、目覚めなさいッ!」
ネリビルの命令に、3匹の犬が一斉に体を震わせた。
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「え……『バオー』ですってぇ!?嘘でしょ……」
スミレが、木の上で身をこわばらせた。
「オイオイ、たかが犬っころを操る能力で、このザ・ハンドをどうかできるって思ってるのかよォ~~」
億泰は笑って、一歩下がると、渓流の水面を蹴った。
飛び散るしぶきが犬たちの目に入る。
目つぶしだ。
そして億泰は、ネリビル目がけて走り出す。
「もちろん、はなからアンタみたいな筋肉バカと、直接やりあおうなんて、思ってないわよッ」
ネリビルは、カントリーグラマーを肩に乗せた。
そして、ネリビルは億泰に向って、パチッと言う音が聞えそうなほど大げさにウィンクを決めた。
体を震わせている犬達の背後に、隠れる。
「おいッ。よさねーか……犬を足止めにするなんて、卑怯な奴だなぁ、お前はよお~」
億泰が苛立たしげに言った。
「あら、アナタこそ、この子達の戦闘力を甘く見ているんじゃあない?」
ネルビルは、もう一度ウィンクを億泰に決めて、嘲った。
ドンッ!
犬達は億泰たちの見ている間に、見る見るとその姿を変えていった。
四肢が、胴体が、首が、犬達の体が、大きく盛り上がっていく。
「Gryuuuuuuuruuu!」
まるで何かにかみつくように、犬が口を大きく開けた。
口の中で牙が伸びていくのが、見えた。
「Barururururu!」
犬たちの額、首、四肢の毛皮がまるで風船のように膨れ、弾けた。
その下から、硬質の甲羅のようなものが現れるッ!
「……嘘ッ、本当にこの子達は、『バオー』なの……」
目の前で起こっていることをようやく受け入れ、スミレが喘いだ。
「億泰君、逃げてッ!!」
「なんじゃあ、こいつら?……しかしやることにゃ変わりねーゼ」
ガオンッ
億泰はザ・ハンドで空間を削り、3匹の近くに瞬間移動した。
「かわいそうだが、今度はこっちから行くぜぇ~~」
「ダメッ!」
スミレが叫んだ。
「億泰君、絶対にその犬達に触れてはだめよ!体が溶かされるわッ」
「喰らえ!」
しかし、スミレの警告は、億泰に届かない。
億泰のザ・ハンドが、犬達を削ろうと右手を振り上げるッ!
ビュウンッ!
「!?ウォッ!」
ザ・ハンドによる攻撃を繰り出そうという直前、その3匹が、同時におそってきた。
かろうじてザ・ハンドで身を守ったものの、億泰は先ほどとはまるで次元の違う、そのスピードに冷や汗をかいた。
手加減はできないッ!
ガオンッ!
再びおそってきた一頭 ――白犬だ―― の腹を、ザ・ハンドの右腕が削り取った。
Gyan!!
白犬が悲鳴を上げた。
「くそ、やっちまったぜ……」
億泰が嘆いた。
ところが……
腹を削り取られた白犬が、平然と立ち上がった。
ブチュツ、ビュ、ビチチ…チ……ィ
見ると、ザ・ハンドが『削った』白犬の腹から、大量のピンク色の触手が飛び出していた。
触手はうねり、のたうち、白犬の腹の傷をふさいでいく。
白犬の傷が、グングン再生していく ……
「なんだぁ?こりゃ~」
この犬もスタンド使いかよ、と億泰は毒づいた。
「気を付けて……この犬はもう『バオー』っていう……恐ろしい生物兵器に改造されているの……また来るわよッ!」
木の上からスミレが叫んだ。
「ヴァルルル。ヴァルッ!」
億泰に向かって、バオー・ドッグが一斉に飛びかかってきた。
バシャンッ!
「うぉっ!しまった……」
億泰は飛び掛かってくるバオー・ドッグ達を迎え撃とうとして、……足を滑らせ、渓流に尻もちをついたッ!
「うぉおおおおおお!」
動けない億泰をかばって、ザ・ハンドが三匹のバオーの前に立ちふさがるッ!
一匹目ッ!近づいてくる前に蹴り飛ばすッ
二匹目ツ!右手で削り取るッ
三匹目ッ!間に合わない!
「ぐぉおおおおおおおおおッ」
「ギャアルルルッ」
「うぉおおおッ、あっぶねェェェ~~ッ」
ギリギリのところで、ザ・ハンドは、最後の黒犬の突進をまともに受け止めることに成功していた。
だが、最初に蹴り飛ばされた一匹、黒犬:バオー・ドッグが再び立ち上がった。
大口を開けて、億泰にかみつこうとするッ!
「億泰ッ!イヤアァ」
「うぉぉおおおお!」
だが、あわや億泰の顔面がかじり取られる寸前、ザ・ハンドは黒犬を捕まえ、空中に引っこ抜いた。
「追撃だぜ」
億泰が放り投げた黒犬の両足を、ザ・ハンドで削るッ。
「Gyiiyaaaaaaaaaaa!」
両後足を削られた黒犬が前足だけでもがき、立ち上がろうとする。
「……おいおいおい、まだ立ち上がるのかよ」
億泰が、嫌そうな顔をした。
白犬と同じだ。
黒犬の、ザ・ハンドに両足を削られた傷が、見る見る『治っていく』のだ。
失った後足の傷口が盛り上がり、足に代わって『ピンク色をしたタコの触手のようなもの』が生えてきていた。
「こうなりゃ、完全に削り取る必要があるワケだな……厄介だぜ……」
「ああぁあ、どうすればいいのぉ」
木の上のスミレは、武器となるものを取り出そうと、大急ぎで抱えていた荷物をほどき始めた。
「こうなったら、私が何とかしないと……」
と、スミレの動きを、未起隆が止めた。
「待ってください、いい手を思いつきましたよ」
未起隆はそういうと、木から飛び降りた。手には、スミレの痴漢撃退用スプレーをにぎっているッ!
「億泰さん、鼻をつまんでくださいッ!」
未起隆は億泰とバオー達の間に飛び込み、バオーの鼻先ににスプレーを振りかけた。
プシュゥウウウウウウッ!
「ギャルルルルゥゥゥゥゥ!」
スプレーをまともに喰らったバオー達が、悲鳴を上げて跳ね回る。
「今のうちです」
未起隆は億泰を捕まえると、再びロープに変身して、グイッと木の上に引っ張り上げた。
「こらっ、落ち着きなさい」
ネリビルが、鞭を振り上げた。
「お前たちッ!……カントリー・グラマーが優しく命令するだけじゃ、だめなの?だったら、この鞭を食らわせてあげるわよ」
ところが、すっかり混乱した一匹が、ネリビルの腕に噛みつき、……手首を引きちぎった。
「◆$#@!!!! いぁああああああああッ!!!!!」
ネリビルが絶叫を上げて、倒れた。
すると、もう一匹もクルリと振り向き、ネリビルに唸り声を上げた。
「私を守りなさいッ!」
ネリビルの悲鳴に、残った一匹は反応した。
その一匹が、他の2匹におそい掛かった。
三頭のバオー・ドッグは、互いに戦い始めた。
「いってぇ、どういう事だ」
億泰が、首をかしげた。
「同士討ちよ」
スミレが言った。
「ミキタカゾ……あれは…… 」
「そうです。スミレ先輩が持っていた熊除けのスプレーです。犬は感覚が鋭いから、きっと効果があると思っていましたよ」
「おおお……、未起隆、なんだかわからねぇが、ありがとうよ。助かったぜェ」
億泰が礼を言った。
「イヤアァァァ!!」
と、背後から、ネリビルの悲鳴が再び響いた。
「おい、見ろよ……いや、スミレ先輩は目をつぶってくれ」
「うっわぁ……クソババァの腕が溶かされている…………あれは……あれは、バオーの能力の一つよ」
スミレは億泰の警告を無視し、ネリビルを見た。目にした凄惨な光景に吐き気を覚え、口を押えた。