仗助と育朗の冒険 BackStreet (ジョジョXバオー)   作:ヨマザル

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虹村億泰 その2

「なんですって……こんな山奥に……」

スミレが、顔をこわばらせた。

 

「おお……、隠れてこそこそ覗き見るなんざ、ろくな奴じゃあないに決まっているぜぇ。だから、そいつの相手は俺がてぇ〰ねぇ〰にしてやらねーとなぁ。未起隆、お前はスミレ先輩を守るんだぜ~」

 

「わかりました」

未起隆はうなずき、再び彼の持つ能力、アース・ウインド・アンド・ファイヤーの力でロープに変身した。

未起隆の変身したロープは、暴れるスミレを捕まえ、木の上に引っ張りあげた。

 

インピンもちゃっかり億泰の肩から飛び出して、スミレの肩に飛び移っていた。

 

「ちょっと、ミキタカゾッ、億泰君、突然どういう事よッ!」

スミレの抗議の声が頭上から響いた。

 

「未起隆、わかってんな?スミレ先輩をそっから出すんじゃねえぞ」

億泰はそう言い捨てると、バシャバシャと渓流を踏み越えていった。

 

「おう……、出て来いよ。出てくる気が無いんなら、こっちから行くぜッ」

ザ・ハンドの右手で、何もない空間をえぐるッ!

 

バシュッ!

 

次の瞬間ッ、億泰の目の前に 、唸り声を上げている3匹の犬たちが『現れた』。

犬たちは、ザ・ハンドの『空間を削り取る』能力によって、潜んでいた草むらから引きりだされたのだ。

 

その犬 ――二匹の黒犬と一匹の白犬―― は、しばらくきょとんとしていたものの、すぐに我に返り、億泰めがけおそい掛かって来た。

「ガルルルルルルッ」

「バウッ!」

 

だが、強力なスタンド使いの億泰に取って、犬など相手にならない。

億泰は素早くザ・ハンドを操り、おそい掛かってきた犬たちを『少しだけ』手加減して、蹴り飛ばした。

 

スタンドによる目に見えない衝撃を受け、犬たちが弾き飛ばされる。

だが、犬達は怯む事もなく、すぐに立ち上がり、再びおそってきたッ!

 

「よせよ、オラぁこう見えても犬好きなんだぜぇ~~」

億泰は気の進まない様子で、犬たちを再び蹴散らしていく。

 

何度か効果のない襲撃を繰り返すと、犬達は攻撃しても無駄なことを悟った。

そして犬達は、攻撃する代わりに、億泰を遠巻きに囲んで、低く唸り始めた。

 

「オイ、もういいだろ。犬っころの陰に隠れてないで、出てこいよ、てめぇ」

億泰は、犬達が隠れていた茂みに向かって、どなった。

「隠れんぼがしたいんなら、俺のザ・ハンドが引きずり出してやるぜぇ」

 

「わかったわよ。待ちなさい、自分から出ていくわよ」

せっかちねェ と茂みから姿を現したのは、ヒスパニック系の中年の美女であった。

「君が虹村億泰君ね、レポート通り、中々強力なスタンドを持っているのね。……それに、けっこう鋭いじゃあない。私の存在に気が付くなんて」

 

女は、まっすぐ億泰に向かって歩いて来た。

「私の名前はネリビル。初めまして」

 

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「お~う、こんな山奥で俺たちに何のようだ?」

 

「ごめんねぇ、悪いけどアナタには用が無いの。……私の任務は、その女の子を連れて帰る事よ。邪魔しなければ、何もしないわ」

ネリビルは、スミレと未起隆が隠れている木を見上げた。

「そう、あなたのことよ。スミレちゃん」

 

「あなた…もしかして?」

木の上にいるスミレが、おびえた声で言った。

 

「そうよ、私はあの組織の人間よ」

ネリビルは、組織の名前は口にするな……とスミレに警告し た。

「お友達を死なせたくは、ないでしょう?」

 

「おいおい、何言ってるんだよ」

億泰がザ・ハンドの右手を構えた。

「邪魔するなと言われて、はいそうですかって、素直に言う事を聞くと思ってんのかよ、このダボが」

 

「やっぱり……そうよね」

ネリビルもスタンドを出現させた。下半身が猫を思わせる四足の獣に、ヒト型の上半身が乗っかった大型の犬程度の大きさのスタンドだ。

 

「これが私のスタンド、カントリーグラマーよ。能力は動物の支配♡……」

ウフッと、ネリビルが投げキッスをした。

 

「そりゃあ強そうな能力だなぁ」

億泰はせせら笑った。

「おりゃぁ、子どものころ、トムとジェリーって話が好きでよう。町を歩いている猫やなんかと話が出来たらいいなぁって、 ずうっと思ってたぜぇ。お前、うらやましいスタンドをもってんなぁ~~~」

 

「そぉよねっ。やっぱりアナタも、そう思うでしょう〰〰」

キャーっと、ネリビルが嬉しそうな叫び声をあげた。その直後に、 邪魔するなら許さないわよ と、冷酷さを剥き出しに、億泰を睨み付けた。

 

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「それはこっちのセリフだぜ ぇ」

億泰は、ザ・ハンドを再び出現させた。

「犬っころを引っ込めろ。大人しく言う事を聞きゃあ、削らないでやるぜ」

 

「フフフ。甘く見ないでね」

 

《ギィイイイイッ!!》

カントリーグラマーが叫び声をあげた。

 

「バォーよ、目覚めなさいッ!」

ネリビルの命令に、3匹の犬が一斉に体を震わせた。

 

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「え……『バオー』ですってぇ!?嘘でしょ……」

スミレが、木の上で身をこわばらせた。

 

「オイオイ、たかが犬っころを操る能力で、このザ・ハンドをどうかできるって思ってるのかよォ~~」

億泰は笑って、一歩下がると、渓流の水面を蹴った。

飛び散るしぶきが犬たちの目に入る。

目つぶしだ。

そして億泰は、ネリビル目がけて走り出す。

 

「もちろん、はなからアンタみたいな筋肉バカと、直接やりあおうなんて、思ってないわよッ」

ネリビルは、カントリーグラマーを肩に乗せた。

そして、ネリビルは億泰に向って、パチッと言う音が聞えそうなほど大げさにウィンクを決めた。

体を震わせている犬達の背後に、隠れる。

 

「おいッ。よさねーか……犬を足止めにするなんて、卑怯な奴だなぁ、お前はよお~」

億泰が苛立たしげに言った。

 

「あら、アナタこそ、この子達の戦闘力を甘く見ているんじゃあない?」

ネルビルは、もう一度ウィンクを億泰に決めて、嘲った。

 

ドンッ!

 

犬達は億泰たちの見ている間に、見る見るとその姿を変えていった。

四肢が、胴体が、首が、犬達の体が、大きく盛り上がっていく。

「Gryuuuuuuuruuu!」

まるで何かにかみつくように、犬が口を大きく開けた。

口の中で牙が伸びていくのが、見えた。

「Barururururu!」

犬たちの額、首、四肢の毛皮がまるで風船のように膨れ、弾けた。

その下から、硬質の甲羅のようなものが現れるッ!

 

「……嘘ッ、本当にこの子達は、『バオー』なの……」

目の前で起こっていることをようやく受け入れ、スミレが喘いだ。

「億泰君、逃げてッ!!」

 

「なんじゃあ、こいつら?……しかしやることにゃ変わりねーゼ」

 

ガオンッ

 

億泰はザ・ハンドで空間を削り、3匹の近くに瞬間移動した。

「かわいそうだが、今度はこっちから行くぜぇ~~」

 

「ダメッ!」

スミレが叫んだ。

「億泰君、絶対にその犬達に触れてはだめよ!体が溶かされるわッ」

 

「喰らえ!」

しかし、スミレの警告は、億泰に届かない。

億泰のザ・ハンドが、犬達を削ろうと右手を振り上げるッ!

 

ビュウンッ!

 

「!?ウォッ!」

 

ザ・ハンドによる攻撃を繰り出そうという直前、その3匹が、同時におそってきた。

 

かろうじてザ・ハンドで身を守ったものの、億泰は先ほどとはまるで次元の違う、そのスピードに冷や汗をかいた。

手加減はできないッ! 

 

ガオンッ!

 

再びおそってきた一頭 ――白犬だ―― の腹を、ザ・ハンドの右腕が削り取った。

 

Gyan!!

白犬が悲鳴を上げた。

「くそ、やっちまったぜ……」

億泰が嘆いた。

 

ところが……

 

腹を削り取られた白犬が、平然と立ち上がった。

 

ブチュツ、ビュ、ビチチ…チ……ィ

 

見ると、ザ・ハンドが『削った』白犬の腹から、大量のピンク色の触手が飛び出していた。

触手はうねり、のたうち、白犬の腹の傷をふさいでいく。

白犬の傷が、グングン再生していく ……

 

「なんだぁ?こりゃ~」

この犬もスタンド使いかよ、と億泰は毒づいた。

 

「気を付けて……この犬はもう『バオー』っていう……恐ろしい生物兵器に改造されているの……また来るわよッ!」

木の上からスミレが叫んだ。

 

「ヴァルルル。ヴァルッ!」

億泰に向かって、バオー・ドッグが一斉に飛びかかってきた。

 

バシャンッ! 

「うぉっ!しまった……」

億泰は飛び掛かってくるバオー・ドッグ達を迎え撃とうとして、……足を滑らせ、渓流に尻もちをついたッ!

 

「うぉおおおおおお!」

動けない億泰をかばって、ザ・ハンドが三匹のバオーの前に立ちふさがるッ!

一匹目ッ!近づいてくる前に蹴り飛ばすッ

二匹目ツ!右手で削り取るッ

三匹目ッ!間に合わない!

 

「ぐぉおおおおおおおおおッ」

 

「ギャアルルルッ」

 

「うぉおおおッ、あっぶねェェェ~~ッ」

ギリギリのところで、ザ・ハンドは、最後の黒犬の突進をまともに受け止めることに成功していた。

 

だが、最初に蹴り飛ばされた一匹、黒犬:バオー・ドッグが再び立ち上がった。

大口を開けて、億泰にかみつこうとするッ!

 

「億泰ッ!イヤアァ」

 

「うぉぉおおおお!」

だが、あわや億泰の顔面がかじり取られる寸前、ザ・ハンドは黒犬を捕まえ、空中に引っこ抜いた。

 

「追撃だぜ」

億泰が放り投げた黒犬の両足を、ザ・ハンドで削るッ。

 

「Gyiiyaaaaaaaaaaa!」

両後足を削られた黒犬が前足だけでもがき、立ち上がろうとする。

 

「……おいおいおい、まだ立ち上がるのかよ」

億泰が、嫌そうな顔をした。

 

白犬と同じだ。

黒犬の、ザ・ハンドに両足を削られた傷が、見る見る『治っていく』のだ。

失った後足の傷口が盛り上がり、足に代わって『ピンク色をしたタコの触手のようなもの』が生えてきていた。

 

「こうなりゃ、完全に削り取る必要があるワケだな……厄介だぜ……」

 

「ああぁあ、どうすればいいのぉ」

木の上のスミレは、武器となるものを取り出そうと、大急ぎで抱えていた荷物をほどき始めた。

「こうなったら、私が何とかしないと……」

 

と、スミレの動きを、未起隆が止めた。

「待ってください、いい手を思いつきましたよ」

未起隆はそういうと、木から飛び降りた。手には、スミレの痴漢撃退用スプレーをにぎっているッ!

「億泰さん、鼻をつまんでくださいッ!」

未起隆は億泰とバオー達の間に飛び込み、バオーの鼻先ににスプレーを振りかけた。

 

プシュゥウウウウウウッ!

 

「ギャルルルルゥゥゥゥゥ!」

スプレーをまともに喰らったバオー達が、悲鳴を上げて跳ね回る。

 

「今のうちです」

未起隆は億泰を捕まえると、再びロープに変身して、グイッと木の上に引っ張り上げた。

 

「こらっ、落ち着きなさい」

ネリビルが、鞭を振り上げた。

「お前たちッ!……カントリー・グラマーが優しく命令するだけじゃ、だめなの?だったら、この鞭を食らわせてあげるわよ」

 

ところが、すっかり混乱した一匹が、ネリビルの腕に噛みつき、……手首を引きちぎった。

 

「◆$#@!!!! いぁああああああああッ!!!!!」

ネリビルが絶叫を上げて、倒れた。

すると、もう一匹もクルリと振り向き、ネリビルに唸り声を上げた。

 

「私を守りなさいッ!」

ネリビルの悲鳴に、残った一匹は反応した。

 

その一匹が、他の2匹におそい掛かった。

三頭のバオー・ドッグは、互いに戦い始めた。

 

「いってぇ、どういう事だ」

億泰が、首をかしげた。

 

「同士討ちよ」

スミレが言った。

「ミキタカゾ……あれは…… 」

 

「そうです。スミレ先輩が持っていた熊除けのスプレーです。犬は感覚が鋭いから、きっと効果があると思っていましたよ」

 

「おおお……、未起隆、なんだかわからねぇが、ありがとうよ。助かったぜェ」

億泰が礼を言った。

 

 

「イヤアァァァ!!」

と、背後から、ネリビルの悲鳴が再び響いた。

 

「おい、見ろよ……いや、スミレ先輩は目をつぶってくれ」

 

「うっわぁ……クソババァの腕が溶かされている…………あれは……あれは、バオーの能力の一つよ」

スミレは億泰の警告を無視し、ネリビルを見た。目にした凄惨な光景に吐き気を覚え、口を押えた。


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