仗助と育朗の冒険 BackStreet (ジョジョXバオー)   作:ヨマザル

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空条貞夫の孤闘 -2000- その2

バスを降りると、先ほどの無茶な運転が元でバスの車軸が折れ、タイヤがパンクしていたことがわかった。

つまり、ここからあの山まで歩いて行かなくてはならないという事だ。

貞夫はため息をついてバスから荷物を引っ張り出した。

こんなこともあろうかと思い携帯していた輪行袋から、貞夫はあらかじめばらしておいたマウンテンバイクの部品を引っ張り出した。レンチを片手に、マウンテンバイクを組み立てていく。

自転車でも、徒歩よりはましなはずだ。

と、

『Kuwaaaaa!』

またしても猿の声が鳴り響いた。

すぐさま、山の方から猿の黒い姿が現れた。

『Kuwyaaa!』

『Buyaaa!』

猿たちが、一斉に貞夫へ襲い掛かってきた。

「クッ」

貞夫はあわててバスの中に戻った。刀を抜いて周囲の座席を切断し、組み直して即席のバリケードを作る。

そうやって猿の侵入を防ぐと、貞夫はまたマウンテンバイクの組み立てにもどった。

バリケードの反対側に猿たちが突っ込み、喚きながらバンバンとバリケードを叩いている。

ガシャッ

時折、バリケードが反対から崩される音が聞こえる。

もう、この簡易バリケードもそう長くは持たないだろう。

急がなければ。

まずはストラップを外して部品を広げ、保護用の部品を外し、フレームとホィールを組みなおしていく。

このマウンテンバイク(MTB)は元々、ホリィと二人で富士山からのダウンヒルでも楽しもうかと、昨年買っておいたものだ。その時はたまたま演奏旅行が入ってしまったため、その計画は白紙となっていた。まさか、こんな(昔のような)荒事の場がこのMTBのお披露目になるなんて……

貞夫は苦笑した。だが『後ろめたい』ことに、この修羅場を『楽しんでいる』自分を、貞夫は確かに自覚していた。

「よし、行くぞッ」

組み立てを終えると、貞夫はバスの中でMTBにまたがった。思いっきりペダルを踏み、バリケードに突進していく。

バシュッ!

貞夫はバリケードを刀で切り開き、襲い掛かってくる猿を跳ね飛ばしながら、バス正面のガラスを突き破って外に飛び出した。

「オオラァァッッッ!」

貞夫のスタンド:ジギー・スターダストの二体がMTBのタイヤを、残った一体がMTBのギァの能力を高めていく。

「ヨシッ、行くぞォ!!」

バスの正面ガラスを蹴破って、貞夫は林道に飛び出した。華麗に着地を決め、一気に林道をMTBで駆け昇って行く。

その後ろをキーキー言いながら猿たちが追いかけてきた。だが、ジギー・スターダストの能力で強化したMTBの速度には追いつけないッ!

しばらく必死にペダルをこいだ後で、貞夫はちらっと肩越しに後方を振り返った。見る見る遠ざかっていく猿たちの姿を見て、貞夫は満足の笑みを浮かべた。

ところが、……

猿の襲撃から逃れてしばらく走ったところで、貞夫はふと周囲が妙に薄暗くなったことに気が付いた。

それも、貞夫の周りだけだ。貞夫の周りだけが、まるで小さな雲に囲まれたように妙に薄暗いのだ。

「ハッ!まさか……」

何かが襲い掛かってくる『気』を感じ取った貞夫は、とっさに背中に背負っていた刀を引き抜き、振り回すッ!

バサバサッ!

頭上で、羽音と何かが急旋回したらしい風圧を感じた。

上を見ると、今度は、空が暗くなるほどの大量のハシブトガラスが貞夫の頭上を回っているのが見える。

そのカラスが一斉に襲い掛かるッ!

『Kuwaaaaa!』

カラスが吼え声を上げるッ!まるでロケットのように、その固い嘴を貞夫に向け、恐ろしいほどの速さで、何羽も、何羽も突っ込んでくる。

「ウォラッッ」

貞夫はMTBを漕ぎながら両手をハンドルから放し、両手に刀を持った。

MTBのハンドルには、ジギー・スターダストを取りかせる。

それにより、手放し運転で敵を撃退しつつ、MTBをコントロールして山道を加速していくッ!

「オオォォォッ!」

貞夫は両手の刀を振り回し、襲い掛かるカラスを叩き落とした。

バシュッ

バシュ

バババ

まるで真っ黒い雨が貞夫の周囲だけに降っているように、嵐のようなカラスの襲撃が続く。

と、カラスを対峙し続けている貞夫の目に、林道の入り口が見えた。

「ここだ……ジギィィーッ!!山に登るぞォ」

貞夫は不意にMTBをウィリーさせ、100度以上の鋭角ターンを決めた。そして、貞夫はMTBのスピードを生かしたまま林道に入っていった。

林道に入るとカラスの襲撃は弱まった。だが、MTBをこぐ速度は落ちる。バスを襲撃した猿たちが、再び追い付いてきていた。

ヴアンッ!

木の根っこにひっかかり、MTBが跳ね、宙を飛んだ。

貞夫は空中で身をひねり、MTBを操作して空中から飛びかかってきた猿の一匹を蹴り飛ばすッ

そして、立ち木を蹴って体勢を立て直すと、MTBに乗ったまま今度は反対側の立ち木へ飛ぶッ

「ウォオオオオオッ」

貞夫は全身の力を振り絞り、MTBを加速させていく……限界までスピードを増したMTBは山道のカーブへ勢いよく全速力で侵入し、そして……谷に向かって貞夫の体を宙に躍らせた。

ゴウッ

宙を舞う貞夫の眼下20M ほど下に、細い谷川が流れているのが見えた。

目の前には切り立った崖がそびえている。その崖がグングンと近づいてくるッ!

貞夫は空中でMTBを蹴ッた!

居合の要領で背中から刀を引き抜き、360度、上下左右、前後方から襲ってくるカラスを一気に切り伏せる。

そして再び納刀すると、今度は迫りくる崖に向かってスタンドと自分の両手を伸ばした。

「!?」

高速で流れていく壁に触れた手は、上方にはじかれるッ!

貞夫はスタンドの両手を突き出させ、壁に衝突する衝撃を受け止めようとした。

スタンドの両手が弾かれた反動で体が壁から離れそうになる。だがあわや墜落と言うところを、かろうじて貞夫は壁から突き出た岩角を掴んで、落下を食い止めることに成功した。

だが、掴んだ岩角はすぐ手から離れ、貞夫の体はまたしてもがけ下に向かって落ちていく……

岩棚に酷く体を打ち付ける。

その衝撃はギリギリのところで、ジギー・スターダストの一体が支えた。

残る二体のジギー・スターダストが、崖の中腹から張り出す木にしがみつく。

―― だが木が折れる ――

「ゴブッ! オラァ!」

貞夫は刀を引き抜くと壁に突き立てた。ジギー・スターダストの能力で硬度を高めた刀は、まるでバターを斬るようにやすやと崖の岩肌に食い込み……ギリギリのところで落下を食い止めた。

「さて…いくか」

どうやらこの空中戦によって、すべてのカラスを倒したようであった。

次の敵がやってくる前に目的地に行かねば……苦労して崖をよじ登りきった貞夫は、ほとんど休むことなく、山頂を目指して再び歩き始めた。

――――――――――――――――――

山の中腹、隣の山との尾根沿いに、その『大木』がはえていた。

その木は大きくうねり、黒々とした太い根を数多く大地に突き立てていた。まるで、南方のマングローブの根に似た、小さな林のように互いに絡み合った根だ。その根元にはまるで熊が冬眠するためのねぐらのようにポッカリとうろ(穴)が開いていた。

その大木の根元近くに二匹のクズリが寝そべっていた。さらにその周りには、30匹近くの野犬がいた。皆クズリを遠巻きにしてうなっている。

のそり

クズリの一頭が立ち上がった。周囲の野犬たちがビクッと身を固くし、皆一斉に尻尾を足の間に挟んだ。クズリが動くたびに、野犬 がビクッと震え、後ずさっていく。

『さて……デザートの時間だな……お前ら……わかってるなぁ?』

クズリの一頭が犬たちを怒鳴りつけた。

「ハッはい……」

野犬の一頭が卑屈そうに笑い、暴れる三頭の子犬を連れてきた。それは、スー、ユイ、モアだ。

「よしてよッ」

スーがわめいた。スーはずっと暴れていたらしく、ところどころ血がにじんでいる。

「アンタら……チョコが絶対私たちの仇を取ってくれるから。その時になって後悔しても遅いんだからね」

ユイが、低い声で言った。

「……裏切り者」

モアは、一言ぼそっとつぶやいた。

『オウッ、肉が柔らかそうな、うまそうな子犬どもだ』

寝そべっていたもう一頭のクズリも、立ち上がった。そのクズリは小型のクマほどもある巨体だ……

『フフフ、やわらかそうな肉だな』

ペロン

巨大クズリは下品に舌で自分の鼻を舐めた。

「何よッ……この馬鹿野郎ォォ」

スーがわめいた。

「地獄に落ちろ、この醜い化け物ッ」

『この無礼者ッ、スカーストラック様に対して、何て口のききようだ!』

最初に立ち上がった小柄な方のクズリが、三匹をなじった。

『良いわステイン。餌が何を言おうと、ただ喰うだけよ』

巨大クズリ:スカーストラックは目を細め……大口を開けた。

「止めろッッ!」

そのとき、大木のうろから、制止の声が響いた。

「そんな小さな女の子たちを……恥を知れッお前たちッ。お前たちにプライドは残ってないのかよ!」

木のうろから顔をのぞかせたのは、ボロボロに痛めつけられた老犬であった。

「ぷぅーだァ!!」

その老犬の背中には、インピンがまたがっているッ

インピンは、老犬の体にからみつけられていた最後のツタを噛み切り、老犬を完全に解放させた。

自由を取り戻した老犬は、よろよろと木のうろから這い出て、野犬たちの前に立った。。

ザワッ

インピンと老犬に叱られ、クズリを取り巻く野犬たちは、老犬に睨まれると皆バツが悪そうに下を向いた。

「こんな幼い子たちを差し出して、それで拾った命に何の価値があるのだッこの馬鹿者どもッ」

老犬は、下を向く野犬たちを叱咤しつづけた。

『クックックッ』

ステインが笑った。

『なんだ、ずいぶん青臭いことをぬかすヤツがいると思ったら、負け犬共のリーダーであられるコバ様か……なんならお前から食ってやってもいいんだぞっ?』

「こッ……この悪魔め」

コバはステインをにらみつけた。

「この、卑怯者め!恥を知れィ」

「ブァ―――ッバッ」

インピンも叫んだ。

『フン……これまでは『あえて』生かしておいたが、もういいか』

貴様達には何の興味もなくなったよ。

スカーストラックがつまらなそうに言った。

『我らが来るまで、この《切り株》の《管理者》であった貴様の《能力》を知るまでは生かしておこうと思っていたんだが……もういい―――死ねッ』

「……ワシが簡単にやられると思うなよ」

コバがにらみつけた。

「ワシの『能力』が知りたいのか、ならば教えてやるッ!出ろ アカツキッッ!」

コバの体から、まるで小型のマンモスのようなビジョンが出現した。

だがそれは、周りの犬たちには見えない。これは、スタンドッ!

一方、クズリたちはそのスタンドビジョンを見て、へっと嘲った。

『なんだ、そのボロボロのスタンドは』スカーストラックが笑った。『あまりになまっちょろい。相手をする気も失せるわ』

『フフフ……スカーストラック様、少し面白い趣向を考えました』ステインが言った。

『ほう……やってみろ』

ボスの許可を得たステインが、首を回し、下を向いている野犬たちを睨み付ける。

『お前たち、その小うるさいリーダー様を牢から出して差し上げろ。そして……お前たちで殺せ。その肉を喰らえ』

キサマラにご馳走だ。久々に肉を喰わせてやる。

ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ

「!?なんだと、貴様」

コバは目を向いた。

『コバよ、貴様のお仲間に、そのご自慢の《能力》を使えるのなら、使って見せろッ』

ワッハハハハハ

スカーストラックが笑った。

そして、無造作に近くにいた野犬の一匹を踏み潰した。悲鳴を上げ続けるその犬の頭を持ち上げ……まだ生きている犬の頭を口に放り込む。

そして、その頭骨を無慈悲ににかみ砕いた。

『ほら貴様ら、あんなふうにされたくなかったら、サッサと行けよ』

ステインが野犬たちをけしかけた。

「なっ……」

「ウッ……ううううう」

「くっ悪魔め、性根がねじまがってオルッ」

コバは、涙を流しながら自分に襲いかかる犬の後ろでニヤニヤしているクズリ達を睨み付けた。

だが、スタンドは出現させないッッ

「長ッ!コバさまぁッッ!すみませんッ!!!!!!」

一匹の野犬が、絶叫を上げて長の閉じ込められている牢の扉を引きちぎった。そして、コバの首根っこを掴んで投げ飛ばした。

「皆の為に、死んでくださぁあああいいいい!」

ヒッック

うっうわあああああっ!!

野犬たちは泣きながらコバの体にかみつくッ!

その時……

「馬鹿野郎が!」

何処にいたのか、チョコとゲンペーが野犬の輪の中に飛び込み、まさに長を牙にかけようとした野犬を吹き飛ばした。

「お前たち、それでもキ ○ 玉ついてるのかよッこのオカマヤロウッ」

チョコが野犬に向かってどなりつけた。

「チョコ……いや、俺は……俺は…」

一番初めにコバに牙をむいた犬が、チョコに話しかけようとして……黙ってうつむいた。

「よりによって、長にまで……ヘドバンッ!てっめー、この大馬鹿野郎ッ」

チョコは、ヘドバンと呼んだその野犬を引き倒した。

「オマエ、……オヤジィィィッ!!……この、馬鹿野郎ッ」

「ウッ……スマン…ごめんよォ」

「うるせぇッ!お前……お前たちッ!しっかりしろよォォ」

チョコは泣きながらヘドバンを叩きつづけた。

――――――――――――――――――

一方、チョコが『元仲間たち』を怒鳴りつけている間に、ゲンペーは、ユイ・スー・モアの三匹を確保することに成功していた。

「ふぅ……もう大丈夫だぜ」

「……」

「ヘッ……信用してくれねーか。だが、無理もねーよな」

だが、ユイも、スーも、モアも、助けに来たゲンペーをうさん臭そうに眺め、なかなかゲンペーが促すように逃げようとはしてくれなかった。

ゲンペーが三匹の誘導にてこづっていると、その周りを再び犬達が取り囲もうとしてきた。

「へぇホンキで邪魔すんのかい?……消えろッ今なら見逃してやる」

ゲンペーは近寄ってくる犬達をけん制した。

その迫力に、犬達の足が止まった。

「こんなダサ坊にビビりやがって。なりこそ小せぇが、この三匹のアマっこよりも、チョコよりも、お前たちダセえな」

「……なっ何だとォ」

余所者が何を言う。犬達の目が敵意に燃えた。

「ぶ、ぶ部外者が……俺たちの事で知ったことを言うな」

「なんだとォ?仲間に牙をむけるようなクズが偉そうに言うな」

「クッ……貴様に、あの方々の恐ろしさがわかってたまるか……」

ヘッ

ゲンペーがあざけりの声を上げた。

「ばっああぁかぁ―――ッ!お前たちが『恐れている』ヤツラなんて、俺に比べりゃ雑魚だぜ。さっきも一匹殺ってやったばかりさ……」

「なんだと」

「ハッタリだ」

「あんな、大ぼら吹きの事は無視しろ」

「……だが、確かにメイデン様がいらっしゃらないぞ?」

「もしかして……」

ブシャッ!

その疑問を呈そうとした犬は、自分の推測をすべて口にする前に吹っ飛ばされた。

その犬を吹っ飛ばしたのは、先ほどの巨大クズリだった。

『小僧ッ……貴様が、キサマが メイデンをッ……許さんぞ、貴様は俺が喰らってやるわッ』

巨大クズリ:スカーストラックがゲンペーにいきり立った。

「チッ」

ゲンペーはスカーストラックをにらみつけつつ、チラッとゲンペーの背後で震えている三匹に目をやった。

「……ユイ、スー、モア、お前たちは逃げろ。コイツは、おれがひきつけといてやるぜッ!」

一撃でやってやる……

ゲンペーは、スカーストラックに牙をつきたてようとした。

「ハッ!」

スカーストラックの目が嘲笑にそまった。その直後、突然ゲンペーの足元の地面が爆裂した。宙を舞うゲンペーの体。

「なんだぁ?今のは?」

宙を舞ったゲンペーは、身をねじって頭上の枝にうまく着地した。そして、すぐさま枝から枝へと飛び移り続ける。

その飛び移った直後の枝が、まるで透明な『拳』で殴られたかのようにベリベリと折れていく。

その隙に、ユイ、スー、モアは大木の陰に身を隠した。

『やはり、貴様……視えてないか』

スカーストラックは満足げに言った。

『ではもうどうでもいい……さっさと死ね』

「うぉぉぉぉっ」

ゲンペーはフェイントを入れつつ、上下左右に細かく動きながら、スカーストラックをチョコ達から引き離した。

(くっそぉッ!こんなやつ、とっととぶった押して、チョコを助けにいかなきゃならねーのによォ――)

――――――――――――――――――

そのころ、チョコとコバの迫力に気圧されている犬達を見かぎったステインが、自ら立ち上がった。

「ハッ……役立たずどもが。もういい……俺が直接殺ってやる!」

ステインは、野犬たちを吹き飛ばしながらコバに向かって駆け寄った。

「貴様は俺が殺ってやるわッッ」

クズリはコバに襲い掛かるッ!

「ワシが簡単にやれると思うなよ」

コバが叫んだ。

だがそのコバの目の前に、一匹の子犬が立ちふさがった。またしてもチョコだ。

「ウッ!オサを殺らせるかッ負けるかぁああああっ」

コバを背中にかばい、チョコが叫ぶッ

「よせっ、チョコォ」

コバがヨロヨロと立ち上がる。

コバのスタンド:アカツキが鼻を振り上げ、チョコを持ち上げた。

「!?なっ……体が宙に浮くゾォッ」

スタンドのヴィジョンが見えないチョコは、自分の体が突然宙を浮いたことに狼狽し、驚きの声を上げた。

次の瞬間、アカツキは鼻を振り下ろし、チョコを後方に放り投げる!

「クッ!」

チョコは空中で身をよじって、両足から着地した。

「コイッ!」コバが叫んだ。「アカツキ、やつを倒せっ」

『フンッようやくスタンドを出したか』

ステインが嗤う。

『では、貴様に大サービスだ。俺のスタンドで殺してやろうッ』

と、ステインの体が突然『丸く』なった。いや、体中の毛が逆立ったのだ。

『くらぇッ我がスタンド:ヴェリー・ビーストッ』

バシュシュシュッッ!

ステインの体から無数の『毛鉤』が周囲にまきちらされた。まるで、雨のように降り注ぐ『毛鉤』が周囲の犬たちを無差別に襲うッ!

「たっ……助けてッ」

「止めて下さいッ」

長に襲い掛かろうとしていた犬達の体に、『毛鉤』が何発も命中するッ

犬達に命中した『毛鉤』は、まるで釣り餌のゴカイのように身をくねらせ、犬達の体に潜り込んでいく。

犬たちはもだえ苦しみ……もだえ狂い……そして、目が真紅に染まり、涎をまき散らし、小刻みに体を震わせ始めた。

「お…おい……」

チョコは、身を震わせて突き立った小さな針を弾き飛ばした。

不思議なことに、チョコにつき刺さった『毛鉤』は、するりと抜け落ちた。

チョコの後ろに駆け寄ってきた、ユイ・スー・モアも、コバも、同じように身を震わせ、『毛鉤』を払いおとした。

5匹に残ったのは、ノミに身体中を食われたような、むず痒い不快感だけだ。

「これは……どういう事?」

スーがくびをかしげた。

「アイツラ……まるでヒルにたかられたみたいに『毛鉤』に喰われている。でも、私達は何ともない」

お姉ちゃん。と、ユイとモアがスーにすり寄った。

だが、それ以外の犬たちは皆小刻みに身を震わせ続け……

「gYUAAAAAAAXTU!!」

意味不明の叫び声をあげ、無事だった5匹に襲い掛かるッ!

「なんじゃとぉッッ」

コバがうめいた。

「お前達ッ、どうした?正気に戻るんじゃ」

「長ッッ!無駄だよッッ」

チョコはスー達を背後にかばいつつ、コバに向かって叫んだ。

「長、逃げてェ――ッ」

「gYAXTUUUU!」

「KLYIAAAA」

「BOVC!BOC!VOC!」

《獣犬》と化したかつての仲間たちが襲い掛かってくるッ

ガブッ

コバの手足に、首に、何匹もの《獣犬》が噛みつくッ

「うぞおおおおおお」

『ははははッ 我がヴェリー・ビーストの能力は心の底から屈服させた相手を、我が命令だけを聞く『獣』に変えることよ』

ステインが嗤う。

『《獣犬》ども、あの五匹を喰いちぎれェッ!』

『Vzyuaaaaaa!』

『Vwaooooohoo!!』

『Vhoozyaaaa!!』

《獣犬》はステインの命令にこたえ、コバに向かってうなり声を上げ……襲い掛かったッ!

「いやっ」

「長ッ」

とっさに逃げ出そうとするユイ、スー、モアにさえ、《獣犬》が襲い掛かる。

「うわっ」

スーは前足を振り上げた《獣犬》の一撃をかわして、体当たりをぶつけた。

「Gzyuuaaa!」

スーの体当たりを受けた《獣犬》は、ワズカに体勢を崩した。だが、生後すぐの子犬の一撃では、《獣犬》にダメージを与えることができないッ!

体勢を立て直した《獣犬》が、再びスーに牙をむくッ

「お前たちッ!逃げろッ」

横からチョコが飛び込むッ!

バシュッ!

「チョコ姉ェ」

スーに代わって牙を受けたチョコが、吹き飛ばされた。

木の幹に叩き付けられたチョコに止めをさすために《獣犬》が一匹、背後から襲いかかろうとしていた。

だが、そのチョコに向かって飛びかかろうとしていたその一匹の動きが、急に止まった。

「!??おッ……俺は………」

その《獣犬》の目から赤色が抜けていき、やがて元の犬に戻っていく。

「お……おれはまたしても……」

「はっ!」

「みんなッッ」

チョコに襲いかかった犬だけではない。周りの《獣犬》達の何匹かも、徐々に元の犬に戻っていく。

「長ッッ!スミマセンッッ」

「お、俺達は一体なにを……」

「あぁぁ……スー、ユイ、モア、許して……こんなことをするつもりはなかったのよ」

《獣犬》に墜された犬達は、我にかえり自分たちの身になにが起こったかをさとり、動揺し、右往左往としはじめた。

「……チョコッ!」

無事か……

コバとユイ・スー・モアが、切り株に体をうちつけられたチョコの元に駆け寄った。

「小汚ない野良犬ども、その切り株から離れろ」

ステインが唸った。

「その場所は、貴様ら抵能には理解できん『価値』がある。大人しくその切り株から離れれば、優しく殺してやる」

「なんじゃと」

コバが目をむいた。

「私たちをバカにするなッッ!お前のみたいなヤツにアヤマルなんて、絶対にしないぞッ」

叫んだのは、まだ幼犬のスーだ。

「そうよッ私たちは負けないッ!」

モアも、ユイも震え声で叫んだ。

「お前達ッ……」

チョコは三匹の首を優しく舐めた。

「よく言った!…………お前達、聞いたかよ。こいつら幼犬のほうが、お前達なんぞよりよっぽど誇り高いぜ」

「……くっ………」

「だっ……だが」

犬達はそれでもなお、自分たちを正当化しようとし……失敗して黙り込んだ。

『この馬鹿どもッ!』

犬達の態度にイラついたステインは、近くにいた一匹の頭を、無造作に踏み潰した。

『バカが。切り株をたてにとれば、我がスタンドを止められるとおもったのか?だが無駄よ。単純にワレが直接貴様らを叩き潰せばいいだけよッ!』

ステインはチョコ目掛けて前肢を降り下ろそうとし……急にとまどった様に周囲を見回した。

『なっ?何処だ……何処に行った?』

ステインの目の前から、急にチョコの姿が掻き消えたのだッ!

周囲を見回したステインは、次の瞬間に目の前にいたユイが、そしてまた次の一瞬にモアが、スーが、そして最後にコバの姿が消えた。

『なっ?なんだ、これはッ』

ステインはすっかり動揺して、周囲をグルグルと見回した。

『お前たちッ奴らを見なかったかッ?』

やむを得ず、ステインは取り巻きの犬達を詰問した。

「ス……ステイン様、本当にわからないのですか?」

一匹がおずおずと尋ねた。

『貴様……貴様には奴らがどこにいるのかわかっているのかッ?』

「本当に見えないのですか?」

『くッ』

犬達の目に侮蔑の浮かんでいる事に気づいたステインは激昂した。

『ヴェリー・ビーストッ!』

目の前にいた四頭に毛鉤を撃ち込む。

『切り株を守るためにお前たちを解放してやっていたが、もう構わんッ。貴様ら、奴らを殺せッ』

「うわあああああああッ」

犬達は身を震わせ……三匹が口からあぶくを出してうなりだした。そして、一匹は文字通り尻尾を丸め……その三匹に襲い掛かった。

「お前らッ正気に返れッ!」

その一匹がさけんだ。ヘドバンだ。

『貴様ッ!』

ステインが、正気のヘドバンを噛み殺そう大口を開けた。

そのステインの背中に、突然赤い筋が走った。

『!?』

ステインは慌てて立ち止まり、周囲を見回した。

振り返ると、チョコが睨み付けていた。その口からは血が滴り落ちている。ステインの毛皮を切り裂いた時に吹き出た血だッ!

「ヘドバン……お前よく乗り越えたな」

チョコが笑った。

「さすが、親父だ」

「チョッ……チョコッ!俺は……」

いいよ、わかってる。チョコはヘドバンに方目をつむって見せると、振り返って険しい顔をステインに向けた。

「お前ッ!……お前はコイツらをもとに戻せッ!」

『はっ……』

姿が見えればこんな子犬など眼中に無いわ。

落ち着きを取り戻したステインは、今度はチョコを噛み殺そうと大口をあけ、ジリジリとにじりよった。

『おどおど隠れていられなくなったか?だが、自分から出てきたのは感心なことだ。褒美に一口で喰ってやろう」

「待てッッ!」

頭上から、コバの声が聞こえた。

ステインが慌てて上を見ると、頭上の木の上に、二匹の犬が今にも飛びかかってこようとしていた。

『コバか……』

ステインはにやりと笑った。先ほどは見逃してしまったが、こうしてまた自分から姿を見せてくれるとは好都合だ。まさにこちらの思うつぼだ。

『どうやって我の目をくらませた?貴様のスタンド能力か?』

「……そうだ……わがスタンドの能力は、対象の存在を一瞬完全に忘れさせること……」

コバが静かに言った。

コバの横に現れたスタンド、アカツキがその象のような長い鼻をコバの傍に近づけ、何かを吸い込むようにした。

すると、一瞬ステインの意識からコバの存在が消えた。そして次にスーの存在を忘れ……

次に気が付いた時には、まずコバが目の前に、そしてそのすぐ後ろにスーが宙を舞い、ステインに向かって飛び込んできているッ!

『侮るなッ!』

ステインが吠えた。

『老犬と子犬が、我の毛皮を超えてダメージを与えられるものかッ』

返り討ちよ

ステインが後足で立ち上がった。

その時、不敵な声がした。ステインの足元からだ。

「そうだな、お前の毛皮はバカ厚いぜ……だが俺の牙ならどうよ……喰らえッ!」

あわててステインが声の聞こえた足元をのぞくと、そこには、ゲンペーがいた。


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