仗助と育朗の冒険 BackStreet (ジョジョXバオー)   作:ヨマザル

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空条貞夫の孤闘 -1991- その2

バオー解放から5日後:

 

空条貞夫は、誰も出なかった電話を下ろした。

胸元に手をやり、首から下げたペンダントを血の出るほど握りしめる。

 

先日から、ジン・チャンと連絡が取れなくなっている。

心配でたまらなかった。

 

(どうする……ここで探索をやめ、ジン・チャンと家族の様子を見に行った方がいいのではないか?)

敵は日米両政府のエリートエージェント達なのだから、何が起こっても不思議はない。

DRESSのエージェントを相手に油断すれば、自分の命さえも危うい。いや、自分の命が問題になるだけならいい。もしジン・チャンと家族に危害が及んでいたら……

 

思い悩む貞夫に、SW財団の研究員が声をかけた。

「サダさん、色々探ってみましたが……ダメです。顔も潰されており、身元不明です」

 

その報告に、貞夫は重々しくうなづいた。

「血液を採取しておいてくれ。DNA鑑定にまわしておきたい」

 

「判りました」

研究員は、ボディバックのチャックを引っ張り上げた。

バックから顔を出していた女の死体――今朝、陸中の海岸で見つかった人物だ――の無残な潰された顔が隠れていく。

彼女は……手掛かりにはならなかった。

 

だが、悲観することはない。

これまでの捜査で、育朗とスミレの足取りはだいぶ掴めていた。

二人は、まずはM市近くの無人電車に乗っていた。ここで何が起こったのか、育朗が、スミレを連れてDRESSの専用車両から脱出したと思われる。

そして、M市郊外のバス停、ガソリンスタンド、T市近くの競馬場、廃墟にも痕跡があった。

 

「栗沢家の様子は?」

栗沢家は、最後に育郎とスミレの足取りがつかめた場所だ。

 

「無事です。音沙汰無い所を見ると、DRESSの奴らは我々が警備に当たっている事に気がついたものと思われます」

「それは良かった」

あの老人達をこれ以上危険な目に合わせたく無い。貞夫は、今朝訪れた六助爺さんの、けんもほろろな様子を思いだした。

きっとあのガンコ爺さんは、少年達を守ろうとしてくれているのだ。貞夫はその事が少し嬉しかった。少なくとも、少年達は孤立無援ではないのだ。ガンコじいさんも、自分たちもいる。

 

……そうだ、自分にはやらなければならないことがあるッ

自分のわがままで、すべてを捨てて家族を優先させるわけにはいかないのだ。

貞夫は自分にそう言い聞かせた。だが、自らが発したその言葉が自分の心に響かない……

 

「サダさんッ!興味深い警察無線を傍受しましたよッ!!……場所はI市ッ。そこで、奇妙な事故が起こった模様ですッ」

 

「何だって?」

 

「目撃者である女子大生から聞き出した話では、若者が一瞬のうちにバイクを持ち上げ、そしてそのバイクが爆発したと……裏を取ってみましたが、バイクが突然爆発したのは、本当のようです」

 

「I市……そうか……距離的には、確かに彼らがいてもおかしくない……見に行くか」

二人とも無事でいてくれ。貞夫は、刀を掴んで走り出した。

 

――――――――――――――――――

 

バオー解放から6日後:

 

やっと見つけたその少年は、ビルの屋上で独り地図を見ながら何やら考えていた。

 

こうしてみると、年相応なあどけなさを残す、普通の17歳の少年にしか見えない。

(こんな、普通の少年に……『バオー』が寄生しているのか)

貞夫は、少年の横顔を見つめた。

17歳……息子の承太郎が、義父と共にエジプトで吸血鬼と死闘を繰り広げたのも、同じ17歳の頃だ。

(俺は、この少年を確保しなければならない……)

貞夫は、もやもやした気持ちを抱えたまま、少年に声をかけた。

「こんな所にいたのか、探したよ」

 

「!?誰だッ」

 

身構えた少年に、貞夫は手を広げてゆっくりと近づいていった。

「橋沢育朗君だね。僕は日本政府の者さ……君を保護しにきた」

 

「なんだって」

育朗の目がすわった。

「DRESSの追っ手かッ」

 

「まてっ!!ワタシはDRESSと敵対しているものだ」

 

「どうしてそれを信じられる?」

DRESSは日本政府が関与してできた組織だと言う話じゃないかッ ボクには、日本政府の役人であるアナタが味方になってくれるとは思えない……騙されないぞ。

育朗の目が、モノ騒がせな光を帯びた。

「ボクにはやらなければならないことがあるッ 申し訳ないけど、アナタを倒してボクは行くッ!」

育朗の皮膚が、徐々に碧く染まっていく……グッ グッ と育朗の体が、まるで自転車のチューブに空気を入れているかのように、一定のリズムで大きくなっていく。

 

「待てッ!」

貞夫は両手を上げた。

「信じてくれ、ワタシは君と戦わない。……なんならワタシの体を調べてみるかい?抵抗しないさ」

 

育朗の動きが止まった。

 

貞夫は冷や汗をかいていた。

もしバオーと対決することになったら、古武道だけでは相手にならない。

おそらく、スタンドを出す必要があるだろう。

だが、もしジギー・スターダストの封印を解き、その能力が『バオー』に働いたらどうなるのか……貞夫には、予想もつかなかった。

 

なによりも自分が、目の前の17歳の少年と戦う気になれるとは、思えない……

 

だがほっとしたことに、育朗の肌の色が徐々に元に戻っていった。

やがて、育朗は完全に人間体に戻った。

 

だが、まだ警戒心もあらわに貞夫を睨みつけている。

「警告するッッ!ピクリとでもうごいたら……」

 

「わかってるさ、だがこの肩にかけた袋は、降ろさせてくれ。これは刀だからな、君に疑われたくはない」

 

「……だめだ。動かないで……それはボクが調べる」

 

「もちろんOKだ。気のすむまでやってくれ」

 

育朗は貞夫に慎重に近づいていき、丁寧に身体検査を始めた。まずゆっくりと貞夫の肩から竹刀袋をはずし、その袋を開ける。

「これは……」

育朗は竹刀袋の中に入っていた刀を見て息をのんだ。その刀は美術品ではない。見るからに『使い込まれた』禍々しい刀であった。

 

「……ワタシは古武術をやっている。これは、万が一の護身用だ」

貞夫が言った。

 

「……」

育朗は刀を貞夫から離れたところに置き、捜索を再開した。時計、靴の中敷きの裏等をじっくりと探していく。そして、貞夫のポケットに入っていたパス――公安委員会の特別エージェントとしての身分が書かれている――を見つけ、育朗は少し安心した様子を見せた。

 

「空条さん、この刀を除けば貴方が丸腰なのはわかりました……政府の役人さんだってことも、信じます」

 

「信じてくれてありがとう」

貞夫はほっと一息ついた。

「ワタシは君たちを保護するために来たんだ、だがまずは……」

貞夫は、手早く育郎の体にスキャナーを当てていった。スキャナーは、育郎の右肩に来たところで、派手なビープ音をたてた。

 

「なんですか?これは」

 

「……発信器だ。君の体に埋め込まれていた」

貞夫は注射針を取り出すと、育郎の肌に局部麻酔を施した。そして、その肌にメスを当て、裏に隠されていた小さなチップをとりだした。

すぐさま、そのチップを踏みつぶす。

 

「僕らの居場所はずっと筒抜けだった……」

育郎は、唖然としていた。

 

「そうだ……だが、これで君の位置情報はわからなくなった。すぐここを移動して姿をくらまそう。話はそれからだ」

 

「わかりました……」

育朗は、素直にうなづいた。

 

◆◆

 

それから数時間後、二人は町はずれの林の中で、今後のことを話し合っていた。

 

「では、スミレはK崎の近くにいるって事ですね」

育朗は地図の一点を示した。

 

「そうだ。そこにDRESSの秘密基地がある。先進医療施設と言うふれこみでな。スミレちゃんは、そこに監禁されている可能性が高い」

 

「DRESSの秘密基地……そんなところにどうやって潜入すれば……」

育朗は頭を抱えた。

「正面突破しかないのか」

 

「……大丈夫だ、策はある」

貞夫が言った。

「育朗クン、後はワタシに任せなさい。絶対何とかするから。君は安全なところで、待っているといい……」

 

「いえ……僕が行きます」

育朗は首を振った。

「スミレは僕のせいでつかまっている。僕のせいで苦しんでいるんです。だから僕が助けます」

育朗は、自分の手をじっとみながら、悲しそうに言った。

「それに、ボクにとって安全な所なんてどこにもありません」

 

「……」

この少年は自分の運命を理解している。貞夫は、少年にかける言葉が見つからず、ただ黙っていた。

(……こんな時、ホリィだったら彼になんて言っただろう?)

貞夫にはわからなかった。

「……イヤ、育朗クン。DRESSとカタをつけるのは、それはワタシの仕事だよ」

貞夫は、育朗の肩に両手をかけた。

「ワタシはDRESSを潰す為に何年も奴らを追いかけてきた……」

 

目の前の少年が、ほとんど手をかけてやれなかった自分の息子:承太郎と重なる。

あの時、貞夫に代わって命がけで戦いホリイの命を救ったのは、息子と義父達であった。

貞夫は誓っていた。あの時のように、自分のやるべきことを17歳の少年に任せたりはしないと。命を懸けるべきなのは、子供ではない。大人の自分だ。

 

だが、貞夫の言葉は、思いは、育朗に届かなかった。

「ボクが行きます」

育朗は、頑固に言った。

「ボクが、スミレを助けます」

 

「……育朗君」

貞夫は、それでも何とか育朗を説得しようと言葉をさがした。だがその時、何かが近づいてくる気配を貞夫は『察知してしまった』。

(この感覚……)

手振りで育朗に静かにしているように合図すると、そっと気配がした方角を探る。

やはりそうだ。この気配には覚えがある。

貞夫は、思わずニヤリと笑った。

そこには貞夫の『仇敵』がいる。

 

「DRESSの追手ですか?発信器は取り外したはずなのに……」

育朗が訊ねた。

 

「いや、あれはワタシを追ってきたものだろう」

貞夫は痛ましい思いで育朗を見やった。この少年を助けたい。

だが、『仇敵』がやって来る。

少年をかばいながら『仇敵』と闘うのは、無理だ。

貞夫は、いぶかしげにこちらを見ている育朗に、懐に入れていたもう一つの地図と、背負っていたナップサックを放った。

 

「……これは?」

 

「このあたりの地下水脈の様子を示した地図だ……この近くから、DRESSの基地近くまで一本の地下水脈が走っているのがわかるだろう?それは人が入れる大きさなんだ」

貞夫は、手短にその地下水脈の入り口を育朗に伝えた。

「今からくる敵は、ワタシがけりをつけなければならない相手だ……君は先に行け、ワタシも後から追いかける」

 

「わかりました」

ご無事で。

育朗は、貞夫にペコリと頭を下げると、森の中に消えていった。

 

◆◆

 

「空条貞夫、久しぶりだな」

目の前に現れた小男は尊大な口調で言った。

 

貞夫は、にやりと笑った。

この日を待ちわびていた。こうして、この男と会いまみえる日を。

今、決着をつけるのだ。

 

「ところでお前、ドンキホーテを読んだ事あるか?」

男が慣れ慣れしく話しかけてきた。

「まさに、今のお前だな……下らん理想を夢見て政府の方針に逆らい、すべてを捨ててわがDRESSに歯向かい……その結果、お前は何を手に入れた?家族には愛想を尽かされ……音楽で身を立てる夢を失い……あわれな男だ」

男は嘲笑う。

「聞いてるぞぅ。4年前、奥さんが生死の境をさまよってたらしいじゃあないか。でも、それでも家族の所に帰らなかったのだろ?俺を倒すために……」

そこまで思ってもらえて、光栄だよ。

 

「小暮……」

貞夫は黙って刀を抜いた。この怪物と話をする必要は一切無い。ただ切って捨てるのみ、だ。

 

「そして、とうぜん家族からは愛想をつかされ、今また仕事仲間さえも失おうとしてるって訳だ」

小暮大士が指をぱちんとうち鳴らす。

 

「ほら、キリキリ歩きなさいヨッ」

どこかで聞いた事のある女の声だ。小暮の背後から出てきたその女は、背中がせむしのように曲がり、フードを頭からかぶっている。

その女が、引っ立てて来たのは……

 

「ジン……ジン・チャンッ!」

 

「サダ……」

ジン・チャンが笑った。その顔は真っ黒に腫れ上がり、一見すると本人には見えないほどだ。

「ドジっちまった。スマン」

プッ

ジン・チャンが、口から、血と歯の交じった唾を吐いた。

 

「月並みだけど、『お仲間の命を守りたければ』武器を捨てなさいヨ」

女が言った。女はフードを脱ぎ、その銀髪と真っ白な肌、ロシア系のはっきりした顔立ちをさらした。

 

「……オーテップ………貴様、まだ生きていたのか」

 

あらご挨拶ね。

オーテップが笑い………そのカギ指を ジン・チャンの左胸に潜り込ませた。

 

「ぐっ!ううぉぉぉっ!!」

ジン・チャンが苦悶の声を上げた。

 

「待てッ!わかったッ」

武器を捨てるよ。貞夫が手にしていた日本刀を投げ捨てようとしたとき……

 

「サダッ!よせッッ……コイツラのいう事を聞いたって無駄だッ」

ジン・チャンが叫んだ。

「サダ、良くわかってるだろう?コイツ等の事を」

 

「俺は、お前を見捨てん……」

 

ヘッ……ジン・チャンは苦笑して

「後は頼んだぞ」と言った。

そして……

コォォオオオッッ

ジン・チャンは、苦しそうに顔をゆがめながら、不思議なリズムの呼吸を始めた。

心なしか、そのジン・チャンの外見が少し、『光った』ように見えた。それは、『波紋』の光だ。

 

「おい……オイッ、よせ」

もしや……覚悟を決めたジン・チャンの表情を見て、貞夫は動揺した。

 

「頼んだぞ、一族を……娘を……」

ジン・チャンは、もう一度貞夫に笑いかけた。

「俺に後悔はない。お前とも出会えた。いい人生だったよ……だが俺はここまでだ。妻と息子と、天から見守っているぜ」

そしてジン・チャンは……自分の胸に手を当て、

自ら心臓を停止させた。

 

「ジン・チャンッッ」

貞夫の顔が怒りで歪んだ。あまりの怒りにぼやけていく景色。

 

ぼやけた景色の中、気のせいであろうか……崩れ逝くジン・チャンの体から、もう一つのジン・チャンが顔を出したように感じた

 

(これは……ジン・チャンの霊?)

 

フフフとジン・チャンの霊が笑った。

(サダ……妻と両親に愛してると伝えてくれ………それから、娘に………アンジェラに幸せになるんだと、俺はお前のことを見守っていると、伝えてくれ)

ジン・チャンは貞夫に親指を立てて見せ、そして昇って逝った。

 

「チッ」

オーテップがジン・チャンの遺体を蹴り飛ばした。

「人質は死んじゃったけど、まぁ良いわ」

わたしがアンタをぶっ殺せば良いだけですものね。

オーテップは拳銃を貞夫に向けた。

 

バシュッ

 

放たれた銃弾は、貞夫に到達する前に弾き飛ばされた。一瞬、貞夫の背後に現れたビジョンが、弾丸を弾き飛ばしたのだ。

「大サービスだ、貴様らに我がスタンドの名と姿を教えてやるッ 出ろッッ」

涙を流しながら、貞夫が叫ぶ。

「ジギィー・スターダストッッ」

 

貞夫の傍らにスタンド:ジギー・スターダストが現れ、吠えた。

それは、パワーに満ち溢れた『荒神』であった。その身を古式の大鎧で覆い、甲冑の隙間からのぞくその肌は、赤茶けた剛毛を生やしていた。兜の下にあるのは、牙をガチガチとかみしめる獣だ。

金色と、赤色の派手な色遣いの、そのスタンド:ジギー・スターダストは涎をまき散らし…………貞夫に殴りかかったッ!

 

ボゴッ!

 

「うぉおおおッ」

貞夫は、自分のスタンドの拳をかろうじて刀で受け止めた。だが、その強烈なパワーに吹っ飛ばされるッ!

「!?ハッハハハ」

貴様、自分のスタンドが制御できないのかッ

小暮が笑った。

「物凄いパワーのスタンドの様だが、それでは宝の持ち腐れって奴だな」

 

『ギュルルルルッ』

ジギー・スターダストは貞夫を吹っ飛ばすと、物凄い速度でオーテップに駆け寄る。

 

『Gzyuaaaaaa!』

小暮のパワー・スレイブがジギー・スターダストに殴りかかる。

 

暴走したスタンドは、オーテップに背を向け、パワースレイブを吹き飛ばすッ

「ぐぉおおおッ」

辛うじてガードしたパワースレイブがぐらりと揺れ、小暮は膝をついた。

「恐ろしいパワーだ……だが、ただ暴れるだけだ。やりようはあるッ」

パワー・スレイブは地面を殴りつけたッ

 

ボゴォオンッ!

 

土煙が舞い上がる。そして、周囲の視界を覆い隠したパワースレイブは、ジギー・スターダストの背後に回り込み、渾身の一撃をたたきこんだ。

 

『ギャルゥッ』

「うぉおおおっ」

パワースレイブの拳を喰らったジギー・スターダストと貞夫が吹き飛ぶッ

二人は、森林の奥に吹っ飛び、小暮達が移動に使っていた車の側壁に、激突した。

 

「頑丈だな……」

致命傷を与えられないのか……小暮が悔しそうな顔をした。

 

「とどめよッ」

オーテップは、倒れた貞夫に向かって銃を向けた。

 

だがその時……

ブォロロロッロッ!!

突然、エンジンが大音量を奏で、車が走り出した。乗り手のいない車が、オーテップに向かって突っ込んでくる。

 

「なっ」

 

慌てて突っ込んでくる車をよけたオーテップは、突っ込んできた貞夫に、拳銃を押さえつけられた。

 

『ギャルルルルッ』

辺り構わず暴れようとしたジギー・スターダストが、その拳銃に触れる……すると……

 

バシュッババババババアアアアッ!!!!!

拳銃が、まるでマシンガンのように弾丸を周囲にまき散らしたッ

 

「キャアアアッ」

 

「ウォッ」

 

「ぬぅううッ」

 

オーテップ、小暮、そして貞夫までもが、銃弾をその身に喰らうッ

 

「貞夫ッッそのスタンドッ!」

小暮が怒鳴った。

「答えろッ!貴様のスタンドの能力をッッ……」

 

パワースレイブが、ジギー・スターダストに組み付いた。

巨大なスタンド:パワースレイブ……

だが、自分より一回りは大きいスタンドを、ジギー・スターダストはちょっと身を震わせ、弾き飛ばした。

そして、ジギー・スターダストは、ラッシュを……足元の地面に向けて、放つッ!

 

ボガァッ!

 

スタンドのパワーで地面が割れ、土砂が散乱した。

 

その隙に、貞夫は立ち上がった。

「……」

立ち上がった貞夫は、小暮に向かって、ゆっくりと歩きだした。その足元からは、拳銃の銃創から流れ落ちる血が、点々と続く。

 

ジギー・スターダストが貞夫を見つけ……襲い掛かったッ!

 

「クッ!」

貞夫は、自らのスタンド:ジギー・スターダストの拳をからめ捕り、足払いをかけた。

思わず転びかけるジギー・スターダスト。

その隙に、貞夫は暴れ続けているジギー・スターダストを、押さえつけた。

 

「頼むッ!元に戻ってくれッ」

 

 

 

「貴様のスタンド、そうか……『暴走させること』それが貴様のスタンド能力だな」

小暮が言った。

「貴様のスタンドが出来るのは、『能力』も『行動』も暴走するだけか……」

クダラナイ。小暮は嘲笑った。

 

貞夫は、無言で刀を振り上げた。

バシュッ

 

ジギー・スターダストが貞夫の刀と、それから貞夫の背中を殴ったッ

 

「グッ!」

だが、貞夫は自分のスタンドから受けた攻撃を耐えた。そして、刀を小暮に向けるッ

 

バシュ!

刀がその長さを増し、小暮の肩を貫くッ!

貞夫のスタンド能力で、刀の性能が飛躍的に向上したからだ。

 

ボムっ

 

だが次の瞬間、貞夫の刀が柄から爆発した。刀の強度を超える『強化』をした報いだ。

「グッ……消えてろ、ジギー」

貞夫は刀をとり落とし、自分のスタンドを消した。

 

「フフフ……なあんだ。『暴走させる能力』ね、私には見えないけど、確かに使えない能力だわね」

あんた、自分自身でさえ制御できないんじゃない。

そういうと、オーテップは首に巻いたスカーフを取った。

そのスカーフの下には、まるでせむしのような瘤が二つ、蠢いているッ!

 

「?!」

 

「………ワタシ醜いでしょ」

オーテップは鋭い目を貞夫に向けた。

「……私はね……親に『売られた』子供だったのよ。実験動物としてね」

 

「お前は優秀な被験者だ。オーテップ」

 

小暮の言葉に、ありがとうございます と、オーテップは優雅に頭を下げた。

「私はね…イクロウとは違うの。自分がどんな人間だかよくわかってるのよ。

私は道具。私は人類が先に進むための人柱よ。この体を差出し、改造し続けていただくことだけに私の価値があるのよ」

 

フフフ

オーテップが笑った。

「私には親なんていない、要らないワ……そうね、もしかしたらアンタの息子も私と同じことを思ってるかもね」

 

「……」

 

「フフフ……でも私はね、後悔してないの。この体を差し出したおかげで、素晴らしい力を手に入れたのよ。貞夫、私は能力が制御できないアンタやイクロウとは違う……私は小暮様のおかげで、バオーを制御できるようになったのッ!この疑似脳のおかげでねェッッ」

オーテップが懐から二本の注射器を取り出した。その注射針を瘤に打ち込むッ!

 

「あうぅぅううつ!」

オーテップが大きくのぞけり、白目をむき、絶叫した。

反り返った体が青白くそまり、ボコボコと膨れていく。

銀髪が逆立ち、同じく絵の具を吸ったかのように根元からすっと青白く染まり、固まっていく。

 

「!?何だかわからんが、今のうちだ」

オーテップが絶叫している隙に、貞夫は懐から二本目の刀をとりだし、オーテップの懐へ突っ込んでいった

だが、まさに居合をはなとうと踏み込んだ貞夫の前に、小暮のスタンド:パワースレイブが襲いかかった。

 

「くっ!」

貞夫は刀を閃かせ、かろうじてパワースレイブの拳を受け止めた。

だが、その圧倒的なパワーに貞夫の体は後方に持っていかれ、危うく吹っ飛ばされそうになる。

 

その直後ッッ!

 

「ヴァルッヴァルヴァルヴァルッッ」

背後から吼え声が聞こえた。

貞夫はとっさに地面を転がって、回避行動をとった。

 

バゴッ

 

なんと、パワースレイブが飛び込んできたレディ・バオー(オーテップが『変身』したもの)を受け止め、貞夫に投げつけたのだッ!

 

「クッ」

 

レディ・バオーが空中で、両腕と頭から湾曲した刀状の武器を出現させた。

それは、オリジナル・バオーとは異なる、禍々しい、まるで鋸のような刺々しい刀であった。

キュゥワワワワッ

鋸の小さな歯がキュワキュワと互いに擦れ、気味の悪い不協和音を奏でるッ

 

再びスタンドを出現させる余裕さえ無いッ

何とか身を立て直した貞夫とレディ・バオーとが、正面から切り結ぶッ!

貞夫とレディ・バオーがつばぜり合いの形になるッ!

 

同時に、二人の側面からパワースレイブが突撃してきた。

『Gyisaaaaaaa!』

パワースレイブの拳が貞夫めがけてうなりを上げるッ

 

「!?チッ」

間一髪、貞夫はつばぜり合いの刃を外した。

身をひるがえしざま、一瞬だけジギー・スターダストの拳だけを出現させ、レディ・バオーを押し返した。

そして身をまるめ、パワースレイブの拳を避けるッ!

 

だが、貞夫の姿が消えても、パワースレイブの拳は止められないッ

「何だとォォ」

小暮が驚愕の叫びを漏らす。

 

ドゴォオオッ

 

貞夫に代わって……パワースレイブの拳がレディ・バオーに突き刺さった。

 

「ヴォォオオオンンッ」

 

ベリッベリッッ

レディ・バオーの体が杉の立ち木をへし折りながらぶっ飛んでいく。

 

「終りだ、ウォオオオオオッ」

地面に寝そべっていた貞夫は、起き上がりざまにパワースレイブの胴を薙ぐッ

 

だが

 

パキン……

 

パワースレイブの胴体に食い込みかけた刀が、折れた。

貞夫は、パワースレイブの蹴りをまともに喰らい、吹っ飛んだ。

 

「ガッ……クソッ」

 

「ほう?とっさに急所を外したのか?やるな、思ったより粘るものだ……感心したよ。だが、刀が折れてはもう手はあるまい。そんなちっぽけなスタンドなど、どんな能力だろうと俺の敵になれるとは思えないしな。それから……」

小暮が笑った。地面に伏しているジン・チャンの頭を踏みにじる。

「このジン・チャンは、お前の家族を警護していたのだろう?そりゃあ、まずいンンじゃあないかぁぁ?」

 

「何が言いたい?」

 

「わかるだろぅ?家族を警護しているものが誰もいないってことの意味を?」

 

ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ

 

「わかるな、貞夫。『家族の命を守りたくば』自殺しろ」

ヒャハハハハハッッ

小暮が笑った。

 

「……腐りきった野郎だ………」

 

リリリリ

 

と、ちょうどその時、小暮のポケットベルが鳴った。

 

「……フン」

小暮はポケットベルの表示を確認すると、懐からトランシーバーを取り出し、貞夫に放った。

「貴様の家に送っておいた部下からだ……出てみろ」

 

「……」

貞夫は言われるがままにトランシーバーの通話ボタンを押した。

 

「……親父か……」

電話口から聞こえたのは、息子の声であった。

 

その声を聴いた途端、それまで保っていた貞夫のポーカーフェィスが崩壊した。

「承太郎……ッ けがはないのか?母さんは無事かッ」

トランシーバーにかみつきかねない勢いで、貞夫が叫ぶッ

 

「?……ああ、無事だぜ」

 

 「……スマンッッ!絶対お前たちを守り切るはずだった。決してお前たちを………」

 

「おうッ……だが、アンタが今まで何をやっていたのか……おかげで理解できたよ」

 

「スマン!許してくれッ」

 

ヤレヤレだぜ。と承太郎が笑った。

「おい……何を誤解してやがる?俺たちは無事だといったろう」

 

「えっ?」

 

「フン、襲ってきた馬鹿どもはすべて俺がぶっ飛ばしてやったゼ……今、ジジイが襲ってきた奴らを締め上げて、アンタの話を聞いたところだ」

 

「えっ?なんだって……」

 

と、承太郎の声が途切れ、無線機の先で話している人物が交代した。

「サダ君、聞いたよ」ホリィの声だった。「……ゴメンね、サダ君が一生懸命私たちを守ろうとして事、知っちゃった。それから、サダ君のお友達の事も聞いたわ。私たち、彼に一人で戦わせてしまっていたのね……」

 

「ホリィ……君は…」

貞夫は、ふっ と無線機の先からホリィがほほ笑んだ気配を感じた。

 

「サダ君、でもね……アナタが重いものを抱えて一人で戦ってたのはずっと感じてたよ」

わかるのよ……子供の時からお父さんのことをずっと見てたからね。

 

バリバリバリ……無線機から、何か、透明なツルの様なものが生えた。そのツルは、今にも消えそうな様子で、頼りなく瞬いている。

「これは、もしかして義父さんの……」

これは、ジョセフのハーミット・パープルのビジョンのようであった。しかし、いかにハーミット・パープルとは言え、電波越しの発現では微かなビジョンしか出せないようであった。

 

『サダよ、ホリイと承太郎が貴様を許すといっておるからのォ、ワシも手伝ってやろう……いいか、ハーミット・パープルに流れる波紋を貴様の『気』で、廻せ』

電話ごしに、ジョセフの声が聞こえた。

 

言われたままに、ツタを流れる『波紋』の『気』をつかみ、体内で練りなおしてふたび『ツタ』に戻す。

貞夫は『波紋』を使うことはできない。だが、古武道の『気』の応用ととらえて、すでにある『波紋』を体内で収束させたり、逆に発散させることができるのだ。

 

『波紋』を収束させ、再びハーミット・パープルに戻す。

すると、消えかかっていた『ツタ』がノロノロと貞夫の腕を登り……赤石に触れた。

 

ブォオオオンン!

ハーミット・パープルが赤石に触れると、赤石が震えだした。

その震えが、貞夫の体とハーミットパープルに伝達していく。

 

(これは……波紋ッ?)

赤石の震えが伝わるたびに、ハーミット・パープルのビジョンがくっきりと見え、力を増していく。

同時に、貞夫の体に波紋のエネルギーが流れ込んでいく。

波紋は、貞夫の体に染み渡り……体に溜った疲労を追い出していく……

 

「!?これは……まさかッ」

そのハーミット・パープルの蔦に絡まって、もう一本、まるでイチゴの茎のようなスタンドの『植物』が現れた。その『植物』はあっという間にその数を増し、やがて束なり、小さなリスの姿になった。

そのスタンドが伝える魂の形は、色は、その香りは、貞夫が良く知っているものであった。

間違いなく、それはホリィの魂の力であった。

 

「これは……」

 

『これはね、私のスタンドよ……ツリートップって名付けたの』

お父さんの能力に乗せて、君に送るわ。無線機越しに、ホリィが言った。

 

「ばかな……君にもスタンドが……一体いつから?」

 

『……4年前からかな』

 

「そうか、あの時か……」

貞夫は唇をかんだ。

4年前、ホリィはディオと言うジョースター家にあだなす吸血鬼の影響で生死の境をさまよった。

だが……そんな一大事にも関わらず、そのとき貞夫はDRESSの南米支部をつぶすために奮闘していた。ホリィの横にいてやることさえしなかったのだ。

それは、後で思い返しても、貞夫にとっては悔いても悔いきれない『痛み』であった。

「あの時、俺は……」

 

うまく言葉が出ず、立ちすくむ貞夫にリス=ホリィがクスッと笑った。

『わかってるわよ。サダ君、もうあの事を悔いるのはやめて……私のキモチを、今伝えるわ……』

 

ツリートップの『リス』が、その手に持っていたスタンドの『イチゴ』を貞夫の唇に押し付けた。

 

「これは……」

 

その『イチゴ』を通して、ホリィの魂と精神の力が貞夫のスタンドに流れ込む。

貞夫の精神が、悔いが、浄化されていく……

 

「ああ……」貞夫は涙を流した。

「伝わるよ……わかるよ……ホリィ」

 

『……サダ君、応援してるよ。がんばってッッ……』

薄れゆくホリィのスタンドが、最後に貞夫にそっとささやく……

 

チクリと、ジョセフのスタンドの刺が貞夫をつつき……消えた。

 

◆◆

 

「?何だ、今のスタンドは……」

小暮は、展開が変わったことに気が付いた。

こんなはずではなかった。貞夫が鳴きながら自殺するのを楽しみにしていたのに……その上で、しあげに奴の家族をバラバラにしてやる予定だったのに……

だが、先ほど無線機から飛び出した光の植物のようなスタンドが貞夫に力を与えているのか、貞夫から恐ろしいほどの『凄味』が発せられているッ!

 

「……ジギー・スターダスト」

貞夫が自分のスタンドを再び出現させた。

その姿は、だが先ほどとは異なっていた。

貞夫の傍らには、5歳児程度の大きさのビジョンが、3体現れていた。そのどれもが甲冑を着込んだ、荒神の様な外観をしていた。姿はこれまでとほぼ同じ外見、だが三体の小柄なスタンドに分裂しているのだ。

 

そのジギー・スターダストのビジョンが、貞夫の体にしがみついた。一体が貞夫の右肩に、もう一体が左肩に、そして残った一体は心臓の上に、それぞれ顔だけを出して体内に潜り込むッ

 

「ヴァルッヴァルッヴァアアアルゥウウウッッ」

レディ・バオーが再び飛び込んでくる。

今度は、何百本ものビースス・シュティンガーを放ちながらだッ

 

だが、貞夫は手にした折れた刀を両手で掴むと、その両肩のスタンドが吼え声をあげ……

 

キュイ――――ンンンンッッ

 

その刀を『強化』した。

 

間髪入れず、貞夫は『強化』された刀を目まぐるしく振り回したッ!

折れた刀は、貞夫めがけて放たれた無数のシューティングビースス・シュティンガーをあっという間に叩き落とした。

さらに貞夫は、手裏剣を懐から取り出して、突進してくるレディ・バオーに投げつけるッ

 

レディ・バオーはその手裏剣を掴みとろうと両手の平を突き出した。だが……

 

ブシュュッ

 

突き出した両手を突き破り、手裏剣がレディ・バオーに突き刺さるッ

 

「ヴァアッルンッッ」

レディ・バオーがバランスを崩した。

 

『オラアアアッ!』

貞夫と、貞夫の体に顔を出したジギー・スターダストが叫ぶッ

貞夫は折れた刀を振り回し……レディ・バオーの心臓を、突き通した。

 

 

「何だとォオオオッ」

小暮は、恐慌にかられた顔でパワースレイブを構えた。

「貴様、スタンドをコントロールできるようになったのかッ」

 

「パワースレイブ……強力かつ超高速の破壊力を持つスタンド、しかも殴った対象を破壊するか、精神を屈服させ従えるか、選択できる能力を持つ」

組織を作るのには最適のスタンドだよな。

貞夫は折れた刀を放り投げ、落ちていた木の枝を二本、拾った。先ほど使っていた『折れた刀』は、レディ・バオーの体を貫いた際に、ついに砕けてしまったのだ。

「その力で政府内にDressのシンパを集めていたという訳か……だが、それももう終わりだ」

 

「ふざけるなぁあああああああああああ」

パワースレイブの渾身のラッシュッ!

 

だが、すでに貞夫は手にした二本の枝に ホリィによって精神力を強化されたジギー・スターダストのパワーを送り込み、その枝の破壊力を最大限に高めていた。

パワースレイブのパワーを、二本の棒はしっかりと正面から受け止めた。だが、折れないッ

二本の普通の枝が、白く、激しく、熱く輝くッ

『オラァッ!』

貞夫はその枝を、パワースレイブに叩きつけるッ

そして、パワースレイブのラッシュと真正面からぶつかり

 

ヴぇッリィイイインンンッ!!

 

貞夫は、そのスタンドを真正面から打ち砕いた。

 

「ばっばかなッ日本の闇を牛耳るこの俺がッ!!」

小暮は両手をついた。その手が、まるでカサカサに乾いた土くれのようにパラパラと崩れていく。

 

「……もう退場すべき時が来たってわけだ。小暮大士」

貞夫は崩れゆく小暮にそう言い捨てた。

「そうだ、お前……『赤石』がほしいって言ってたな……じゃあ選別にくれてやるよ『赤石』のパワーを」

 

貞夫は、古武道の呼吸法で気を『練った』。

その気が右手に集まっていく。

その右手には『赤石』が輝いていた。『赤石』は太陽の光/『波紋』の力を増幅させることが出来るのだ。

もちろん、武道の気は『波紋』のエネルギーとしては似て非なるものである。『波紋』の代わりにはならない。だが、ジョセフから授かった『波紋』は、まだ貞夫の中に微かに残っていた。その『波紋』を『気』が絡みとっていき、『気』の流れにからみとられた『波紋』のエネルギーが『赤石』に集まっていく。

 

「ジギー・スターダストッ!」

貞夫のスタンドが三体とも『赤石』に触れた。

 

バシュッ!!

『太陽のエネルギー』が、能力が強化された『赤石』よりほとばしり……

小暮の眉間を打ち抜いた。

 

(終わったッ)

貞夫は、傍らに倒れているジン・チャン・チャンの体をそっと抱きかかえた。

(ジン・チャン……『終わった』よ。ありがとう……)

貞夫の目から涙があふれた。

(俺、この件が落ち着いたらすぐに台湾に行くよ。行って、お前の一族に会ってくるよ……)

 

――――――――――――――――――

 

8日後:

 

ウッ…ウッ……

 

海岸線で泣いている少女を見つけ、貞夫はゆっくりと近づいて行った。

その海岸線の向こうには、炎に包まれたDRESSの基地が見えた。つい先ほど、貞夫が潜入したところだ。

貞夫が潜入したころには、DRESSの基地は完全に壊滅していた。

数人の生き残りを尋問したところ、バオーこと橋沢育朗と凄腕のスタンド使いであるウォーケン、それからバオーの開発者の霞ノ目博士の三体が地下水脈に落ちたことを知った。

その後に起こった激しい爆発と水蒸気から、三人とも落盤に巻き込まれて死亡したものと考えらえていた。

 

つまり、貞夫はまた『間に合わなかった』のだ。

 

「……スミレさんだね?」

 

「……アンタ…誰?」

泣いていた少女が、警戒心もあらわに貞夫を睨みつけた。なかなか気の強そうな少女だ。この少女が、橋沢育朗と共にDRESSから逃走中であった高野スミレに違いなかった。

 

「ワタシは……空条貞夫だ。日本政府のエージェントみたいなものさ」

 

「日本政府のッ!?アタシをどうしようって言うのよッ」

 

「君を助けに来たんだ」……それから、君に謝りたかったんだ。

「間に合わなくて、悪かった」

貞夫は目の前の少女に土下座した。

「ワタシは育朗クンの力になろうと思ったのに……彼の……橋沢育朗君の手助けに間に合わなかった」

 

「なっ……なによ、そんな事を言われても……私にどうしろって言うのよォォォッ」

ウッウッ……

スミレが目を真っ赤にしながら貞夫に殴りかかった。

「育朗はどこッ!彼が死ぬわけないわッ!彼を助けてよぉぉ――――ッッ!!」

 

貞夫は、スミレの拳を避ける事も、防御する事もしなかった。ただスミレに殴られるに任せていた。

「あの火が消えたら……もう一度彼を探すよ」

貞夫は対岸に燃え広がる炎を見ながら言った。

おそらく、手遅れだろう。あの火にまかれたのであれば、橋沢育朗君がまだ無事でいられるとは到底思えなかった。

 

「育朗クンを救い出すのが間に合わなくて、悪かった」

貞夫はスミレに殴られながら、青い、青い空を見上げる。

(ジン・チャン……育朗クン……俺の力がもっと強かったら君たちを助けられた……スマンそして、ありがとう。終わったよ)

自分たちは大きなものを失った。だがたしかに、DRESSをつぶしたのだ。

生き残った者は、彼らの思いを引き継ぎ、前に進まねばならない。

 

 

 

やがて貞夫は、泣きつかれたスミレをそっとおぶり、再び歩き始めた。




スタンド名:ジギー・スターダスト
本体:空条貞夫
外観:甲冑を着込んだ小柄(100cm位)な荒神のような見た目(三体いる)
タイプ:近距離・群体・パワー型
性能:破壊力 -B/ スピード -C/射程距離 -E/ 持続力 -C/ 精密動作性 -D/ 成長性 -E
能力:本体が手にした物の力を、スタンド一体につきかっきり30%上昇させる。
剣を手に持てば切れ味が、携帯を手に取れば電波の送受信能力が、PCを触れば処理速度が、車に乗ればその排気量が、そして楽器を手に取ればその音圧が増強する。
ただし、その増強された物を操作するのは、あくまで貞夫本体である。
また、例えば車の排気量を増大させても、タイヤの性能や、車体の剛性などは上がらないため、使い方次第では極めて危険な事態にもなりえる。

ホリィのよって貞夫のわだかまりが消えるまでは、スタンドは暴走状態にあった。その能力も、触れたものを『暴走させる』能力であった。


スタンド名:ツリートップ
本体:空条ホリィ
外観:イチゴのような長い茎を持つ植物。(その植物が束なるとリスのような外観になる)
タイプ:長距離・特殊型
性能:破壊力 -E/ スピード -D/射程距離 -A/ 持続力 -C/ 精密動作性 -D/ 成長性 -E
能力:人の心を癒す。癒された人が、心に傷を抱えたスタンド使いだった場合、その心が癒されることで心の力が高まり、スタンドの能力を強くすることが可能。
また、本人に『治った』と思いこませることで、対象者の傷や病を少しだけ治すことが可能


スタンド名:パワースレイブ
本体:小暮大士
外観:まるで粘土を張り付けて作ったような不気味な外観の巨人
タイプ:近距離パワー型
性能:破壊力 -A/ スピード -A/射程距離 -D/ 持続力 -A/ 精密動作性 -D/ 成長性 -E
能力:殴った相手を破壊するか、それとも自分の命令を聞く従順な奴隷にするか、選ぶことができる。

クリーチャー名:レディ・バオー
寄生者:オーテップ
外観:バオーに酷似した外観。ただし頭部はまるで鼠のしっぽを思わせる触手の塊であり、頭部の感覚器は触毛が密生している。また、口部に牙が生えている。背中に二つの瘤がある。
性能:破壊力 -B/ スピード -A/射程距離 -C/ 持続力 -D/ 精密動作性 -C/ 成長性 -E
能力:プロト・バオーを手術し、脳幹にいたアドバンスド・プラーガを除去し、代わりに背中に二つの疑似脳幹をこぶ状に背中に移植した姿。
変身のたびに、瘤にバオーの刺激剤を注射する必要がある。

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