仗助と育朗の冒険 BackStreet (ジョジョXバオー)   作:ヨマザル

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虹村億泰 その1

1999年11月3日 [杜王町、喫茶カフェ・ドゥ・マゴ]:

 

噴上裕也が森の中で『橋沢育朗』の本体を捜索していたころ、虹村億泰は、カフェ・ドゥ・マゴにいた。

 

億泰は、落ち着かない気分で、なんども気ぜわしく、目の前のコーヒーを口に運んでいた。

コーヒーはまだ熱く、あわてて飲んだ口の中が少し火傷してしまうほどだ。

 

信じられないことに、億泰の目の前には、栗沢スミレと名乗るとびきりの美人が座っていた。スミレは、億泰に熱心に語りかけてくれる。

しかも……なんとッ、スミレは、億泰の面白くもない(ハズの)話にウンウンとうなずき、時折笑ってさえくれるのだッ。

 

仗助曰く、スタンドも月までぶっ飛ぶこの衝撃。

仲間が聞いたら、みんな驚くだろう。

ざまあミロッ!

 

もちろん、スミレは億泰の彼女ではない。

自慢ではないが、この虹村億泰、生まれてこの方、一度も女性にもてたことはないのだ。

彼女ができたらどんな気分なのか、いつも女性をとっかえひっかえ自分の隣にはべらせていた兄、形兆を横目で見ながら、億泰はよく妄想していたものだ。

 

だが、今や『それ(億泰に彼女ができる事)よりも、スゴイことが起こった』と言うわけだ。

なんとッッ!今朝、いつものように高校へ向かう途中で、この美人が突然声をかけてくれたのだッ!

いわゆる逆ナンと言う奴だッ!

 

やったぜツッ!

 

もちろん億泰が、美人の誘いを断るはずもない。だからこうして億泰は、まるで彫像のように、ギココチナイ動作で、美人と二人お茶を飲んでいる という訳であった。

 

「億泰君」 

スミレはまつげをぱちぱちさせて、億泰を上目づかいに見ていた。

「初めて会った億泰君に、こんなことを頼む事が変なのは、わかってる。でも私を助けて欲しいの。私が今から言うことに、協力してくれない?」

 

「イ――ダァ」

身を乗り出したスミレの胸元から、ぴょこんとリスに似た動物が顔をだした。そのリスに似た生き物は、ぴょんとスミレの頭の上に乗っかり、スミレの髪の毛を引っ張った。

 

「ちょっと、インピン」

スミレがすこし頬を染めて、イタズラするインピンを捕まえようとした。

 

しかし、インピンは素早くスミレの手を逃れた。そしてぴょんとスミレの頭から飛び降り、さっと手の届かないテーブルの下に避難した。

その時に、テーブルの上にあったレモンスカッシュをひっくり返す というおまけつきだ。

 

「もぅ、お母さんのノッツオに怒ってもらうよッ」

スミレは、ほほを膨らませた。

 

――その様子もたまらなくカワイイ――

 

「あら、ごめんなさい……それで、いいかしら、私の頼みを聞いてくれないかな?」

スミレは億泰に向き直り、もう一度まつ毛をぱちぱちとさせた。

 

億泰には、何だかさっぱり事情が飲み込めていなかった。

だが、美人の頼みを断るわけがなかった。

もし兄貴だって、こんな人に頼まれごとをされたら、二つ返事でOKするはずだ。

「もちろんですよ。スミレさん。何すんのか知らないけれど、なんでも任せてくださいよ~~」

 

「うれしい!ありがとう」

スミレがぱぁっと笑った。

「それじゃあ、私たちは仲間ね。さっそく作戦会議をしないと……そうね、ここではチョット話しづらいから、ちょっと場所を変えましょ?」

 

「場所を変えるって、いったいどこに行くんですかぁ~」

億泰は、思いっきりデレた声で尋ねた。

 

「いい場所があるのよ……ああ、ミキタカゾ君も来た。丁度よかったわ、これで三人がそろった」

 

「……えっ……」

 

そこにやって来たのは、自称宇宙人の支倉未起隆だった。

「ああ、億泰サン」

未起隆は、いつものようにのほほんと挨拶をした。

「もう、スミレ先輩と会えたんですね。良かった」

 

「ナヌ……未起隆……オメ~いったいどういう事だよ」

億泰は、嫌な予感を覚えつつ、尋ねた。

 

「スミレ先輩は、私のいた前の学校に通ってるんです」

なぜか未起隆が、ひそひそ声で答えた。

「先輩は『私が宇宙人だ』ってことを知っているので、今回の作戦を始めるにあたって、一番初めに私に声をかけてくれたってわけです」

 

「……そりゃ……どういう事だ?大体、『作戦』って、なんだぁそりゃ?」

億泰は、ゴクリと息をのみ 緊張して 未起隆の返答を待った。

 

┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨

 

未起隆は、説明を始めた。

「作戦とは、……スミレ先輩の『大事な何か』 ――すみません、僕からその、『大事な何か』を話すことはできません―― を取り返すための、作戦です。けれど、その作戦を実施するのは、大変な危険が予想されています。だから、僕は『ボディーガードが必要』だと、……億泰さんが必要だと、先輩に話しました」

 

「な……なっぬううっ!」

億泰は、ガックリと頭をたれた。

つまり、自分はただの『ボディガード役』だった、という訳だ。逆ナンされたと思っていたのは まぼろし だったってワケだ……

 

「とても危険な、作戦です。たぶん僕とスミレ先輩の二人では、無理です。だから、凄腕のスタンド使いである億泰さんに、『ボディガード役』となって欲しいんです」

未起隆が、生真面目に言った。

 

「よろしくね。億泰君」

スミレは、にっこりと笑った。

 

「ハハハ……よろしくたのんマス」

 

キャア……ペットのリス ――スミレにインピンと呼ばれていた―― が、まるで慰めるようにやさしく鳴き、億泰の頬をなめた。

 

――――――――――――――――――

 

 

1999年11月4日 [M県K市山中 T町付近]:

 

ピユィイイ――――ッ

どこか見えないところで、これまで聞いたことがないような鳴き方で、鳥が鳴いていた。

 

億泰とスミレが出会った翌日、三人は、杜王町から遠く離れた山奥にきていた。

早朝に家を出たのだが、電車とバス、タクシーを延々と乗り継いで来たため、時刻はすでに1時を回っていた。

スミレの言う『作戦』を実行するために、三人は、『作戦』の舞台となるこの地に、のこのことやってきたのだ。

 

億泰と未起隆は、重い荷物を背負って、ヒーヒーと言いながら山道を進んでいた。

その隣で歩くスミレは、軽装であった。肩にかけた細長い渋茶の袋と、ちょっとした小物入れ以外は何も持っていない。

スミレが持ち込んだ荷物は、億泰と未起隆の優に二倍はあった。だが、それはすべてチャッカリと男たちに運ばせていたのだ。

 

山道を歩きながら、三人は、さわやかに初秋の山を楽しんでいた……その馬鹿重い荷物を運ぶこと、その重さを無視することが出来れば、目にするものすべてが美しいものだったのだ。

 

「しかし、さすがに木が多いっすねー」

重い荷物を持ってはいても、まだ余裕が残っているのか、億泰は感心したように周囲を見ながら歩いている。

「どこを見ても木しか見えね~」

 

「億泰さん……それ 当たり前すぎですよ」

 

「俺は都内で育ったからな。あまり、こういう山奥に来たことないんだよな~~」

 

「そうですね、(地球人の感覚では)これほど美しい景色を見ながら山をあるく事は、格別なんでしょうね」

 

二人の様子を見て「フフフ」とスミレが笑った。

「この探索、楽しくなりそうね」

 

「そりゃ~~あ、スミレ先輩は、身軽だから楽しいでしょうよ」

 

「何ッ?!何か言った?まさか、か弱い女の子に重い荷物を持たせて、男のアンタが楽しようなんて思ってないわよね?」

スミレは鼻を鳴らした。

 

「いやいや、何でもないっすよォ~~」

億泰は、胸をはった。

「こんな荷物ぐらいッ、この億泰にまっかせなさぁ~~~ィ」

 

「イヤ……キツイです。僕は億泰さんほど力がないんですよ」

言葉通り、未起隆は疲れ切っているようだった。いつもはポーカーフェースの 未起隆が、額の汗をぬぐって気持ち悪そうにしゃがみ込んでいる。

「いつも宇宙船に乗って行動しているからでしょうか。……僕はもっと鍛えなくてはだめですね」

 

「じゃあ、頑張って荷物を運べば、ちょっとは筋トレになるかもね」

スミレは笑った。

だがさすがにチョッピリ罪悪感を感じたのか、スミレはそそくさと小さなナップザックを未起隆の荷物から取り出し、自分で背負った。

 

しかし、ピクニック気分も、何時間も森をさまよっていれば薄れるというものだ。

三人とも半日以上も藪の中をさまよっているうちに、いつしかお互い疲れ切って、ほとんど口をきくこともなくなっていた。 よく考えれば家を出たのが朝5時半、今は昼の1時、都合8時間以上も動きっぱなしなのだ。

 

疲れ切った一行は、森の中を流れる美しい渓流を見つけ、これ幸いと昼休みを取ることにした。渓流は、手のひら一つ分程度の幅しかなかった。

だが、川の流れはとても透き通っており、冷たく、水量豊かで、ザザザザッ――と微かな音を立てて森の中を流れていた。

 

「イィィーダッ!」

インピンが、億泰のしょっているリュックから飛び出た。そして、木に登ったり、草葉の陰に隠れたりと、元気に遊び始めた。

インピンはなぜか億泰が気に入ったらしい。道中たまにスミレの髪を引っ張ったりして悪戯をする以外は、ずっと億泰のリュックの上にチョコンと乗っていた。

 

未起隆のほうは、 『ああぁ――重かった』 と、背負っていた荷物を勢いよくどさっとおろし、『もっと丁寧に扱いなさい』とスミレに怒られていた。

 

「まぁいいわ。ミキタカゾ、双眼鏡になってよ。この辺りの様子を調べたいのよ」

 

スミレが頼むと、人のいい未起隆は快くうなずき、双眼鏡に『変身』した。

『変身能力』……それが、彼の持つ不思議な異能 ――スタンドなのかも定かではない―― アース・ウィンド・アンド・ファイヤと名づけられた、『能力』であった。

 

「なぁ……スミレ先輩よぉ〰〰一体ここになにがあるって言うんすか?」

億泰も、自分が運んできた大きなリュックを降ろし、尋ねた。朝からへとへとになるまで働かされ、ようやく、一体スミレの言う『作戦』とは何か、疑問がわいてきたのだ。

 

「………探しているのは、洞窟よ」

比較的疲労の少ないスミレは、特に休むこともなく、その小さな渓流の傍の岩上に立っていた。

『未起隆が変身した双眼鏡』を熱心にのぞき、手にしたコンパスや地図と見比べて進路を確認している。

「地下水がたまっている鍾乳洞を探しているの」

 

「何すか、そこにお宝でも埋まってるんすか!?」

 

「……まあね。そんなとこよォ――」

 

「ナヌッ、すごい話じゃあないですか!どんな宝がそこにあるんすか? 」

 

「地球人の宝、僕も興味があります」

双眼鏡から声が聞こえた。未起隆の声だ。未起隆はアース・ウィンド・アンド・ファイヤを解除し、元?のイヤ、普段?の姿にもどった。

「でも……それは、前に聞いた アレ の事ですよね?……先輩の『大切なモノ』」

 

「……そうよミキタカゾ……億泰クン、話せば長い話なのよ」

少し考えさせてほしい。スミレは億泰に頼んだ。

 

「そりゃあ待ちますがよお……」

コイツは知ってるんだろ? 億泰は、少し納得いかない風で未起隆をチラッと見た。

 

「それより、ここはきれいなところですね……そろそろお昼にしませんか」

 

未起隆の提案に、二人も一も二もなく賛成した。

意外なほど手際よく、スミレがかまどを作り、木を集め、火をおこした。

そこに、さらに意外なことに億泰が湯を沸かしてコーヒーを作り、出来合いの弁当の中身をアルミホイルに包んで温めた。

言いだしっぺの未起隆は、何もできないので、水汲み係だ。

 

準備が終わると、三人はたき火の前に腰を下ろした。そして満足しながら温めた料理を食べ、アツアツのコーヒーを飲みはじめた。

 

「それにしても、億泰君は料理がうまいのね〰〰」

スミレが感心して、億泰の作ってきたローストビーフサンドイッチとタンドーリチキンをかじった。

「私なんて、じつは何にも作れないのよ」

 

「へへへぇ、俺は自炊してるんで」

億泰は、自慢げに鼻をうごめかした。

「もともとは、アニキが料理好きだったんす。俺は、アニキから料理を教わったんすよォ~~」

 

「へぇ、立派なお兄さんなのね」

スミレが無邪気に言うと、億泰が少しさびしそうな顔になった。

 

事情を知っている未起隆は、ただ黙って億泰を見ていた。

 

億泰の兄、虹村形兆は贔屓目に言っても悪人であった。

 

虹村形兆は、『弓と矢』を持っていた。

その矢に射られた者は、才能があればスタンド使いとして生き延び、才能がなければかすり傷でも死に至ってしまう、恐ろしい『弓と矢』であった。

虹村形兆は、その『弓と矢』で無差別に人々をおそい、杜王町に大量のスタンド使いを生み出した男であった。

その所業は、不死身の怪物となってしまった自分の父を『殺す』能力を持つスタンド使いを『作り出す』ためであった。だが、その結果として、数十~数百人もの『殺人』を犯したのだ。

スタンド能力の才能を持つ人間の数は、非常に限られている。ほとんどの人物は、矢が刺されてもスタンドを出現させることが出来ず、苦しみながら死んでいったはずだ。

だが彼は、ほとんどの人間が死ぬことを、理解したうえで犯行に及んでいた。彼は、役に立たないと判断したら、実の弟にさえ容赦なく攻撃が出来るような、冷酷な男だったのだ。

 

しかし、最後は自分を顧みずに弟ををかばい、弟を助け、弟の身代わりとなって死んだ。

虹村形兆とは、そんな男でもあった。

 

ふっ……と、億泰は紅葉に彩られた、遠くの山を眺めた。

「料理のとき、俺は、いつも感覚で作っちまうんです。だけどアニキは、時間や分量を几帳面に図ってましたね。いつもアニキにゃあ、俺は適当すぎるって怒られていましたよ……アニキは”料理というものは、芸術であり科学だッ!材料、時間、分量、盛りつけ、食べ方……すべてがそろって、最高の物が出来る”って口癖のように言ってました」

 

「仲のいいご兄弟『だった』のね……」

その口調から、『何か』に気が付いたスミレの口調が、優しくなった。

 

「どうなんすかね、……いつも口うるさく怒ってた。……キレルとオッカナかった。でも、おれにとっちゃぁサイコ―のアニキでしたよ……」

 

ヨシヨシ……スミレは、そっと手のひらを億泰の背中の上で往復させた。

 

「……私は孤児園で育ったの……だから血のつながった兄弟がいるって、どんなに素敵な気分がするか、よく想像したことがあるわ」

スミレが優しく言った。

「それから……私も、まるでお兄さんみたいに想っていた人と、ずっと離れ離れなのよ………だからあなたの気持ちがわかる……とまでは言えないけど、せめて……今は、隣にいてあげるわ」

 

「!?なッ……ななッ………あっ、おお……こ、これ、食ってみてくださいッ……こ、こ、こ、このタンドリーチキンは、ア…アニキの得意料理だったんすよ。試してみてください。う、う、うまいでしょ?」 

コツはレモンを聞かせる事っすよ、と 億泰が鼻をすすりながら、あわてた様に言った。

 

「うん、おいし」

スミレは、勧められた料理を口にし、それから、優しく億泰の肩を叩いた。

「そろそろ……行こうか」

 

「……そっすね」

億泰は、大きな音を立てて鼻をかみ、目をこすり、自分の顔を平手でひっぱたいて立ち上がった。

と……インピンが、渓流の反対側の茂みから顔をだした。

インピンは、ギャーっと叫び声をあげ、一番近くにいた億泰のところへ一目散に走ってきた。

そのまま億泰の肩まで、駆け上がってきた。その小さな体が、恐怖でフルフルと震えている。

 

「なんだぁ~~どうしたぁ?」

インピンをなだめようとした億泰は、『あるもの』に気が付き、突然真顔になった。

億泰は、自分のスタンド:ザ・ハンドを出現させ、インピンが出てきた茂みを睨みつけた。

 

コ" コ" コ" コ" コ" コ" コ" コ" コ" コ"

 

「インピン……億泰さん、どうしたんですか?」

未起隆が尋ねた。

 

「近くから俺たちを見ている奴がいる。その木の陰で、こそこそ隠れたのがチラッと見えたぜぇ……スタンドもなぁ~~~」

億泰は一歩前に出て、未起隆とスミレを自分の背後にかばった。


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