仗助と育朗の冒険 BackStreet (ジョジョXバオー)   作:ヨマザル

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空条貞夫の孤闘 -1982- その2

「クッ来るなッ」

ボゴッ

「こっこのぉおおおおッッ」

どれ程、意味の無い絶叫をあげながら襲い掛かって来るゾンビどもを倒したのか。

鉄パイプを持つ朋子の手は、なかなか上がらず、足腰もガクガクだ。

だけど大丈夫。

朋子は不思議な信頼感を持って、隣で戦っているJOJOのほうをチラリと見た。

 

朋子は、いい年して無駄にエネルギッシュで、ワガママ、ブシツケ、ガサツ、騒々しく、軽薄なこのヤンキーを、今は信頼できると感じていた。この男は、危険を顧みず平然と朋子を助けに来て、こんな非常識な状況でも全く動じず、平然と対応しているのだ。認めるのは癪だが、並はずれた人物なのは間違いなかった。

(なんて男なのッ)

朋子はJOJOの背後から鉄パイプをふるいつづけた。

 

「オリャッ! リーバッフ・オーバードライブッッ」

 

ブッシュウウウウッッ!

 

肘打ちを入れた怪物の顔が、煙を上げて蒸発していった。

「おりゃっ」

ひねりを入れて顔面に叩きこんだJOJOの脚が、その怪物を後方に吹っ飛ばした。

続けざまに襲ってくる別の怪物の顎を、波紋を込めたアッパーカットで跳ね上げる。

そしてまた、次の怪物に備えるッ

JOJOはこんなに絶望的な状況にもかかわらず、不敵な笑みを浮かべていた。

朋子を背後に庇いつつ、襲い掛かってくる化け物達に波紋を食らわせ続ける。

一体、また一体と拳を振るうたびに、化けモノ共の体は波紋で焼かれ、蒸発していく。

彼にとっては、(あの『究極生命体』とガチンコでやりやった時に比べれば)こんな状況はピンチでも何も無いのだ。

屍生人など、JOJOにとっては雑魚としか感じない。

 

「このッ!このッ!ドラァッ!」

東方朋子の声が、JOJOの背後から聞こえた。

 

(おおッ!ただのアーパー女子大生だと思っていたが、なかなか……)

JOJOは、自分の背後から、隙をついて鉄パイプを振りおろす朋子をチラッと見て、つい目を細めた。

「やるじゃあね―か」

 

「こっ……こう見えても剣道3段なの。警察官のお父さんに習ったのよ」

ハーハー言う荒い息を抑えながら、朋子が言った。

その言葉通り、鉄パイプを構える格好は、なかなか様になっていた。その『振り』も、素人ばなれした鋭さを持っている。

 

その様子を見て、JOJO は何故か不機嫌になった。

この場にいない、いるわけがない、ある男の事を思い出したのだ。

 

一瞬、JOJOの注意がそれた。

 

「ちょっとッ!」

と、その時、朋子がJOJOを突き飛ばした。そして、JOJOの背後に立ちふさがり……

 

ズッギュウウッン

 

朋子の肩に、ウネウネと動く触手が突き刺さった!

 

「ッ!!」

そして、朋子は悲鳴を上げる間もなく膝をつき、崩れ落ちた。

 

「あっ!朋子ォッ!…馬鹿な、俺を『かばった』のか?」

朋子に突き飛ばされたJOJOは、唖然とした。なぜあのとき余計なことを考えたのか……悔いても悔いきれない。慌てて朋子の様子を確認すると、ありがたいことに命に別状はない様だ。だが、早急な治療が必要な状態であった。

 

「……余計なことを。ダガ同じ結果よ…フフッ」

┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨

 

JOJOが目をあげると、そこには青白い顔の幽鬼のような女と、ゾンビがいた。

ゾンビの口から吐き出された触手が、朋子をおそったのだ。

女は、笑っていた。

そして、二人の背後には、朋子が気にかけていた『子供』がいた。

いや……それは『子供』ではなかったのだ。そこにいたのは、子供とほぼ同じ身長の小人であった。泣いていると思ったそれは、涙のようにペイントされた顔の模様であったようだ。

 

「オーテップ、俺はヤツに備える。だからここは、お前に任せたぞ」

小人は、その外見に不釣り合いなしわがれ声で女にそういうと、背後の闇に消えた。

見た目とは違い、女は小人にしたがっているようであった。女は闇に消えた小人の言葉に『わかりました』と丁寧に答え、朋子とJOJOに向き直った。

 

「あ……アンタはッ」

朋子が目を見張った。

朋子は、真っ青な顔で自分の肩に突き刺さりぴくぴくと震えている触手に、そっと触った。

そっと触るだけで、耐え難いほどの痛みが、触手を通して肩に送られる。

 

「アンタ……ワタシを追ってこなければ生きてられたのにね」

オーテップと呼ばれた女は、青白い顔で微笑んだ。

「ワタシ、おせっかいな人嫌いなのよ」

死んで?

オーテップは懐からナイフを取り出し、朋子に向かって投げつけたッ。

 

バシュッ!

 

だがそのナイフは、JOJOの手によってつかみ取られた。

 

「なっ……」

 

「ケッ!」

JOJOはナイフを放り投げると、朋子の肩に突き刺さっている触手を掴んだ。

そして、触手に波紋を流しこみ、一気に引き抜く。

 

『Dujiiiiiiィィッ』

波紋はゾンビに伝わり、ゾンビは一瞬にして溶けて、茶色のネトネトした水溜まりになった。

 

 

「うぅっ!」

体内に入り込もうとしていた触手を、無理矢理引き抜かれた。朋子は必死に歯をくいしばり、激痛に耐えた。

 

「朋子よォ……この借りは忘れねェぞ」

無茶しやがって……JOJOが優しく朋子の肩に触れ、波紋によって傷口を止血した。

JOJOは振り返ると、オーテップを睨みつけた。

「オイ、このクソビッチ……テメェただじゃおかねーぞ」

オーテップは、落ち着き払った仕草で、手首にバンドで止めていた『注射器』を取り出した。

『注射針』を自分のコメカミに差し、何かの薬剤を、注入していく。

「フフフフフ……さすがジョセフ・ジョースターッ!老いたとはいえ、あの究極生命体を倒した男……アンタには私の本当の姿を見せてあげるわ…ワタシの…プロト・バオーの姿を……」

オーテップが注射器を投げ捨てた。髪をかき上げ、笑う。

タラリ……と、ほんのちょっぴり、注射液がほほを伝って流れる。

笑い声はどんどんヒステリックになって行き……

 

プシュッッッ!

オーテップの肌が、ボコボコと膨れ上がった。

その青白かった肌は、血色を取り戻した。テラテラと照る、ピンク色にな変色する。

肌の下で膨れ上がった血管が、ニュルンと浮き上がる。

そして血管が膨れ上がり、オーテップは全身から赤黒い血を噴き出したッッ!

 

ドガっ

 

噴き出した血がオーテップの肌に触れ、固まっていく。

固まった血は青白く変色して行く。

頭部から、うねうねとネズミの尻尾を思わせる触手が伸び、髪の毛を巻き込んで固まっていく。

こめかみがパックリと割れ、その空間から太く、黒い触毛が顔を出した。

 

「嘘でしょ……うわあああっ…」

朋子が悲鳴をあげた。

恐怖のあまり、手にしていた鉄パイプを取り落しかけ、あわてて握り直す。

 

そこには、異形の怪物が立っていた。

「ママママ……ンムァウッ!ンムァウッ!」

怪物が、聞きづらいしわがれ声で、唸った。

その怪物はJOJOがこれまでであった怪物、屍生人、吸血鬼、夜の一族のどれとも異なる生命力に満ちていた。生臭いまでの生命力と、プレデターとしての圧倒的な殺意と歪んだ本能に支配された人獣、それが目の前にいる『レディ・プロト・バオー』であった。

「Muxuuuuu……NNmxtuu!NmaaUoaWoooxtu!!!」

生臭く、荒々しく、だがどことなく淫靡な様子で、プロト・バオーは吠え声を上げた。

 

┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨

 

「うおぉぉっ!」

 

プロト・バオーは驚くべき速度で跳躍ッ

JOJOに飛び蹴りを食らわすッ!

 

JOJOはかろうじて蹴りをかわした。

攻撃をかわす動きを繋いで、バックハンドブローを、プロト・バオーに放つ!

「ぐぉぉおおおおおっ」

 

だが、バックハンドブローを放ったJOJOの左拳に、プロト・バオーの髪の毛が、触手のように巻き付いていく。

巻き付いた髪の毛の先端が、JOJOの左拳を穿つッ!

 

「いってぇえええええ」

JOJOは、髪の毛から手を引き抜くと、痛みのあまり二転、三転して転げまわった。

(朋子の奴、さっきはこんな痛みに耐えたのかよ)

 

ドゴォオオッ

 

そのJOJOを見下ろし、プロト・バオーは、まるでフリーキックを蹴るような蹴りを何発も入れるッ!

 

「ゴっゴブゥウウッ」

到底避けられない。JOJOは体を丸めて防御姿勢をとった。プロト・バオーの蹴りのダメージを少しでも弱めようとじっと耐える。

 

「まぁむうぅっ!んんむうゥッッ!」

プロト・バオーが満足気に蹴りをいれ続けるッ。

 

だがJOJOは、プロト・バオーの攻撃タイミングを冷静にはかっていた。

タイミングよく体を伸ばすと、プロト・バオーのサッカーボールキックの威力を利用して、宙に飛び上がるッ

「調子に乗りやがって、喰らえッ、この野郎ッ!」

JOJOは空中で体をひねり、回し蹴りをプロト・バオーに放った。

 

JOJOの放った渾身の回し蹴りは、プロト・バオーにさらっとかわされる。

まるで野生の狼のような、俊敏な動きだ。

 

ブン

 

着地したJOJOを、プロト・バオーのタックルが襲うッ!

 

「うぉぉおおおおッ」

JOJOはとっさに身を沈め、プロト・バオーのタックルをさばき、柔道の巴投げの要領で放り投げた。

「ゼーゼーゼー……」

(くっそお、きついぜ。母さんは、50歳の時にカーズの野郎と正面から渡り合ったが、ワシはもう60を超えてるんだぜ……認めたくはないが、これ以上正面からやりあうのは、キツイゼ)

「ハッ!うぉおおおッ」

 

バシュッ!

 

プロト・バオーが投げた小石が、まるで弾丸のようにJOJOを襲うッ!

何とか初段をかわしたJOJOは、上着を脱ぐとそこに波紋を流した。

上着を波紋によって硬化させ、プロト・バオーの放つ次段を、何とかその上着に受け止める。

 

プロト・バオーは、続いて回し蹴りを放つッ!

 

その蹴りも、ブロックするッ

だぎJOJOは、蹴りの威力に、思わず膝と右腕を地面についてしまった。

(しまった、これじゃあとっさに動けんッ)

 

プロト・バオーは、とどめとばかりに両腕を大きくふりあげ……

 

「ンムァウッ!ンムァウッ!」

プロト・バオーの両手……その手から、忘れることは出来ないあの敵、『カーズ』の輝彩滑刀の様な鋭利な刀が現れるッ

「ンムァウッ!ンムァウッ!」

 

だが、プロト・バオーはJOJOではなく、朋子に駆け寄る。

負傷し、満足に動けない朋子に向かって、その刃をふるうッ。

 

「何よッ!私をなめるんじゃあないわよッ!」

朋子は、鉄パイプを上段にかまえ、プロト・バオーを向かい撃とうとするッ!

 

「馬ッ鹿野郎ッッ」

JOJOが叫んだ。

 

朋子の鉄パイプが、プロト・バオーに振り下ろされる。

だがプロト・バオーの刃のほうが、朋子の鉄パイプより、はるかに早い……

 

その時……

 

ガクッ

 

朋子に肉薄していたプロト・バオーが突然体勢を崩した。

プロト・バオーの足には、黒いひもが結び付けられていた。

それは、JOJOが巴投げを放った時に、抜け目なくプロト・バオーの足に結びつけておいたものだ。

JOJOはその紐に波紋を込め、渾身の力で引っ張るッッ

 

「んんがぁッッ!」

足が後方に引っ張られ、プロト・バオーの体が後方に泳いだ。

だが体勢が崩れたまま、それでもプロト・バオーは『輝彩滑刀』の刀を朋子に振るうその手を止めないッ!

 

プロト・バオーのその一撃が、父良平の得意技、『下段からの刷り上げ』に重なる。

けいこ場で、試合会場で、何度も行った父との稽古が、朋子の体を無意識に動かすッ。

 

「舐めるんじゃぁないわよッ」

朋子はとっさに鉄パイプで、輝彩滑刀の刀を叩き落とした。

 

輝彩滑刀は鉄パイプの先端を切り落とす!

…………だが、刀の矛先はずれ、朋子の肌を皮膚一枚、切り裂くだけにとどまる。

 

朋子は怯まなかった。振り切った鉄パイプを掴む手首を返し、間髪入れずにプロト・バオーの頭部へ再び一撃を放つッ!

「ドラッッ!」

朋子の一撃は狙いあやまたず、プロト・バオーの額にあらわに露出している触毛をえぐった。

 

「ンムォォォ―――ンッッ!」

プロト・バオーが、頭を抱えてよろめいた。

 

「キャアアアッ」

どこかやられたのか、朋子も鉄パイプを放り出してしゃがみこんだ。

 

「おおぉぉぉ――――ッ強えぇ」

JOJOはゴクリと唾をのみ込んだ。

「だが、残念なことに致命傷じゃあないみて――だなぁっ!後は任せな」

自信満々のJOJOが懐から取り出したものは…………

 

「ヨーヨーォ?アンタ何を考えてるのッッ」

朋子が驚いて、大きな声を上げた。

 

「おおぉぉぉ――ッと、俺は大まじめだぜぇ」

JOJOはくるっと手首を一捻りさせた。

すでに巻き上げていた二つのヨーヨーを両手に持って、プロト・バオーに向かって降り下ろすッッ!

「くらぇいッ!必殺~ゥッッ!ヨーヨー・ムーブッ!」

 

「そんなの、通じるわけないじゃないッッ」

 

朋子の嘆きをよそに、自信満々のJOJOが放ったヨーヨーがプロト・バオーに飛ぶッッ。

「Nmuoooonn!」

プロト・バオーは、腕から輝彩滑刀の刃を出現させ、ヨーヨーを断ち切ろうとしたッ。

だが

 

スカッ

 

輝彩滑刃が宙を切った。

 

ヨーヨーが、波紋の力で空中に静止したのだ。

「はっ、かかったな」

JOJOが目をキラキラさせ、右手にからげたヨーヨーの糸を拳で叩いた。

再びヨーヨーが動きだす。

 

「Vbuaruxtuuu!」

もう一度、プロト・バオーはヨーヨーを『切断』しようとした。だが、その瞬間ッ!

まるでフォークボールのように、ヨーヨーの進路がガクッと沈んだ。

先ほどJOJOがプロト・バオーの足に縛りつけていた紐を、ヨーヨーが巻き込んだのだッ

 

ベシュッ!

 

二つのヨーヨーが、プロト・バオーの腹部に命中した。

ヨーヨーはそのまま体を駆け上って行き、バオーの顔面に食い込むッ

 

ギュラルルルルッ

 

ヨーヨーは、プロト・バオーの体を縦横無尽にかけめぐった。

その後に続くヨーヨーの糸が、プロト・バオーに絡みつく。

 

プロト・バオーは、咆哮を上げて糸を引きちぎろうとした。

糸を掴む。

 

「へっ……つかむと思ったぜ、その糸をよぉ……」

JOJOもまた、糸を両手で掴んでいた。

「ヘッ 波紋入りの糸は強力だぜェッ……ブラック・バタフライ・オーバードライブッッ!」

コウォウオゥオウゥ―――――――ッッ

波紋は、まるで蝶が羽ばたく様にゆらめきながら糸を伝わっていく。

 

「Guiiiiiiiiii」

まるで高圧電流のように波紋が流れている糸に触れたプロト・バオーが、肌を焼く痛みに身をもだえさせた。

JOJOがヨーヨーを『引く』と、紐で縛り上げられたプロト・バオーも引き寄せられるッ

 

「喰らえッッ、焼き尽くす波紋ッッ!スカーレット・オーバードライブッッ」

JOJOは、身動き出来ないプロト・バオーに、赤く輝く 波紋のエネルギーをぶちこんだ。

ドボッッッ

JOJOの拳が触れている部分を起点にして、波紋がプロト・バオーの全身に広がっていく。その波紋が織り成す模様が、まるで揺らめく炎のように見えた。

 

「Nmuoooonn!」

プロト・バオーは崩れ落ちた。

倒れたプロト・バオーの体がひび割れ、その皮膚の下から元の人間の姿が現れた。

 

「……やったか…それにしても、なんだ、こいつは。吸血鬼じゃあねーみてぇだが?」

何者だ?JOJOはヒョイッとオーテップの顔を覗き込んだ。

と、その時

 

バタッ

 

JOJOの背後で、何かが倒れる物音がした。

振り返ると、朋子がうつ伏せの姿勢で倒れていた。

 

「おいっ!しっかりしろッッ 」

ジョジョは、‘朋子を抱きかかかえた。

 

「ゴボッ」

朋子が、黄色い胃液を吐いた。

「だ、大丈夫よ。ちょっと気持ちが悪くなっただけ」

 

「そんな……いや、そうだぜ、朋子ッ。すぐに良くなる」

JOJOは朋子の手を握った。その手は熱をもち、ガタガタと震えている。

JOJOの脳裏に、吸血鬼のエキスを注入されてゾンビに変わっていった哀れなもの達の姿が、浮かんだ。

「まっ、まさか……あのとき、ゾンビ野郎の『エキス』が、朋子の体にはいっちまったのかッ? 」

 

「何言ってるのよ……大丈夫だって…」

気丈な言葉とは裏腹に、朋子の顔は青ざめていた。

 

ポタ……

鮮血が、床に落ちた。

 

「オ……オイ、朋子ォ、お前」

 

「あっ…だっだから大丈夫だって……アハハハ」

朋子が、青ざめた顔で笑った。

腹部にあてている朋子の手が、血に染まっていた。

その時は鋭利すぎてわからなかったのだ。

先ほどのプロト・バオーが放った輝彩滑刃が、朋子の腹部を深く切っていたことに……

 

「馬鹿言ってるんじゃあねェッ」

JOJOは一瞬狼狽した顔になり、だがすぐに決意をこめた顔で立ち上がった。

「……時間がねぇ……朋子、オマエには『借り』があるぜ……今それを返すッ!伝えるぜ……波紋を通して俺の生命力をッ」

 

コオオォォォォ

「(究極深仙脈疾走)ディーパス・オーバードライブッッ!」

それは、100年前、彼の祖父:ジョナサン・ジョースターが彼の師匠:ウィル・O・ツェペリから引き継いだ生命の力……

JOJOは自分のありったけの生命力を絞り出し、その力を波紋に乗せた。

そして、そのパワーを惜しむことなく、東方朋子に注ぎ込んだ。

 

 

◆◆

 

ガラガラ

 

遠くで サイレンが鳴っていた。

「……バイオ・ハザードが発生、15分後に基地を破壊します」

録音された音声と思われる無機質な声が、繰り返し研究所内に流れていた。

ガラガラ

やがて、どこかで天井が崩れる音が始まった。

 

ガァアンッ ドッ ゴォオンッッ

そして、研究所の一画から爆発音が響いた。

 

 

朋子が目覚めると、目の前にはJOJOが倒れていた。

 

「……よッ…よぉ。目が覚めたか」

その声はすっかりしわがれている。

イヤ、声と髪だけではない。JOJOの顔には深いしわが刻み込まれ、肌には生気がなかった。髪も、すっかり白髪となっている。

「……傷は治した。後はこの揺れが収まったら、ここを脱出するだけだワイ」

 

「なっ……」

驚いた朋子が周囲の様子を確認すると、そこは巨大な岩やコンクリート片に囲まれた、小さな小部屋のようになった空間になっていた。

朋子が気絶している間に、JOJOが運び込んでくれたのだろう。

 

ヘッ。ワシ等の勝ちだ。やっつけてやったぜ。

JOJOは、ニヤリと朋子に笑いかけた。

 

「アンタ……なにがあったの?あの怪物にやられちゃった……の?」

 

「だから、勝ったっていったろうが。やられるものかよ。だけど、チョッピリ精力をつかいきっちまった……やりすぎて足腰がたたねー」

JOJOは、にやっと笑った。

「……おまえは次に、ちょっとッ!ふざけないでJOJO ……と、言う」

 

「ちょっとッ!ふざけないでJOJO……はっ!」

朋子は、驚いて口をふさいだ。

「アンタ……ホントに一体どうしたの。その髪……」

朋子はJOJOの頭をそっと抱え、優しく語りかけた。

「体が冷たいわよ、ジョセフ、アンタまさかッ」

 

「大丈夫、心配いらね――ぜ」

JOJOは、朋子にウィンクしてみせた。

「すぐ助けが来る」

その言葉を口にした直後、JOJOは気を失って倒れた。

 

「!?ねえ、ちょっと、しっかりしてよッッ」

 

ドガッ

ちょうど落盤が、朋子達のいる小部屋の入り口をふさいだ。

崩れた岩盤に囲まれた小さな空間は、光が一筋も入らない真の暗闇に包まれた。

 

真っ暗闇の中、朋子はJOJOを抱えて途方に暮れた。

「ちょっと、JOJO……ジョセフッ、アンタ体温がどんどん下がってるじゃない……何とか体を温めてあげないと、死んでしまうわッッ どうしよう……」

朋子は、唇をかんだ。

 

――――――――――――――――――

 

 

8月22日:北上高地山中

 

JOJOと朋子が行方不明になってから3日後、空条貞夫は二人のの足取りを追って、山林の中を歩いていた。

崩れやすい腐葉土で覆われた急峻な山を、泥だらけになって、登っていく。

山には、立木、倒木、下草や蔓植物が密集しており、その移動は困難を極めた。

 

貞夫は、事前にジョセフから聞いていた情報を元に、北上山地の奥深くに入り込んでいた。

森に踏み込んでからもう5日はたつ、本当の目的地を敵に知らせないために、足取りを偽装する必要があったためだ。

 

だが、もうあまり時間も残っていない。

 

貞夫は、義父:ジョセフ・ジョースターのことは、あまり心配していなかった。なんと言っても、彼は歴戦の猛者なのだ。

自分ごときが彼のことを心配するなど、おこがましい。

 

心配しているのは、自分に残された時間のことであった。

 

今はジョセフの相棒という触れ込みで、潜入していた波紋の一族:ジン・チャンが、『ジョセフが姿を消した場所』を偽装し、敵の目を別の場所にひきつけている。

この隙をついて、貞夫が探索を行っているのだが、チャンができる時間稼ぎも、せいぜい後数日、と言うところだろう。

それまでに探索を終えねば、DRESSはまたすべての証拠を消去し、深く地に潜ってしまう事は目に見えていた。

そうなれば、再び奴らのしっぽを掴むチャンスを得ることは、難しいであろう。

 

政府の上層にもDRESSの関係者が存在している。だが、この捜索を終えることができれば、待ち焦がれていた証拠が得られるであろう。

貞夫はそう確信していた。

この証拠を得られれば、貞夫が何年もかけて綿密に内偵を進めている成果が実を結ぶ。そうすれば、日本に潜む闇、DRESSの影響を(公的には)一掃出来るはずなのだ。

 

だが、それはもう少し先のこと、今はまだ、がまんのときだ。

(細心の注意が必要だ。DRESSはまだ侮れない、醜いファシストどもの最後の残り香だが力を持っている……)

貞夫自らが動かず、義父に探索を依頼したのも、政府の裏切り者に情報が漏れないようにする為であった。

 

空条貞夫は、世界的に知られるジャズ・ミュージシャンとしての表の顔の他に、公安委員会のエージェントとしての裏の顔を持っていた。

聴く人誰もが深く引き込まれる、素晴らしいサックスを吹く男。

だが同時に、日本ではほんの数人しか許されていない、国際的なマーダーライセンスを持つ公安委員会のトップ・シークレット・エージェントでもあった。

『牙』、『黒き天使達』と並び称される日本の力の一つ、それが空条貞夫であった。

 

◆◆

 

 

「DRESS……まさかこんなところに基地があったとはね……良くも見つけ出せたものだ。さすが、お義父さん……と言うところか」

ジョセフがくれた情報通りに探索を進めたおかげで、さほど時間もかけずに貞夫は、人知れない渓谷に崩れかけたお堂を発見することができた。

お堂の床を探ると、崩れかかった手掘りの洞窟があった。

その洞窟に入り込み、らにその奥に隠れる研究所に潜入しようとした貞夫は、一人の少年に行く手を遮られていた。

 

洞窟をこえて到達した『リノニウムで床が覆われた小さな広間』……その先に、ドアがあった。

そのドアの前で、少年が待ち受けていた。

 

┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨

 

「ダメだよ、貞夫さん……」

僕たちの邪魔をしないでくれよ。

その少年が笑みを浮かべた。

イヤ、貞夫は知っていた。彼は本当は少年ではない。彼の目は、その長い人生で色々なものを見てきた老人だけが持つ、複雑な色をうかべていた。

 

ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ

 

貞夫は、黙って刀の鯉口を切った。

目の前の男とは初めて出会う。

だが、貞夫は彼のことをよく知っていた。

男の名は、小暮大士。

彼は、目の前の少年のような見た目の男は、貞夫が調べた情報によればもう100歳を優に越える年齢のはずだ。

幕末、徳川の世が終わった直後に生を受けた怪物。

彼こそが、DRESSの真の創始者であった。

 

バリッ

 

大士が自分の顎に手をやり、べりっと剥がしていった。

あどけない少年の顔は、マスクだったのだ。

マスクの下から、大士の真の顔が現れた。

下に見えた顔は、目こそ年老いた色をおびていたが、100才を越える年齢とは思いがたい、エネルギーに溢れた若々しい顔であった。

「マスクを被っていると、少し見えづらいからね。それに貞夫さん……ここまで貴方が僕らの為に費やした努力に、少しは敬意を表しておくべきだしね……」

 

「小暮大士ッ!怪物め、そこを動くなッ……貴様を逃がさんッ」

貞夫が吠えた。

 

「僕の……ワシの名前を知っておったのか」

大士の口調が、急に年寄りのようにしわがれた。

 

「…………」

 

「怪物とは、御愛想だな」

大士の皮膚がひび割れ、崩れた。

崩れた皮膚の裏から、カサカサに乾ききったシワだらけの肌が顔を出した。

 

「この体はいらん、もうポンコツだからな……」

大士は、舌打ちして露出した肌に軟膏を塗り、顔全体をおおうように包帯をまいていく。

「でも、お前が来てくれてうれしい。ワシの治療には、その石が必要だったのじゃ……お前の持つ、イヤ……赤石の持つ、『生命のパワー』……がな」

君のお義父さんをここにおびき寄せれば、君も来てくれると思っていたよ。

小暮が言った。

さあ、それを渡しておくれよ。

小暮が両手を出した。

その背後に、揺らり と『何か』が出現した。

 

ザシュッ!

その『何か』に向かって、貞夫の居合切りが走るッ

 

だが、小暮は……小暮のスタンドは、貞夫の刀を防いだ。

「パワースレイヴッッ!」

小暮の叫び声とともに出現したスタンド。それは、ピンク色のテラテラと光るつぎはぎだらけの肌を持ち、ブクブクと肥え太った醜い外見をした、巨人であった。。

パワースレイヴが、攻撃態勢をとった。

その拳から、圧倒的なパワーを感じるッ

 

ゴアッ!

超高速の剛拳がうなる!!

 

パワースレイブの攻撃を、貞夫は落ち着いてすりぬけた。

 

ベキイッ

 

かわした拳が周囲の木々を、岩を、土塊をぶっ飛ばし、クレーターを作るッッ

「ほう……貴様………『見えている』のか?」

小暮が、睨み付けた。

「それとも、ただ殺気に反応しただけか? 」

 

┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨

 

「…………」

貞夫は黙っている。

そして八双 ――刀を左側に持って斜めに右肩に切っ先を傾ける刀の持ち方―― に構えて、ジリジリと小暮によっていった。

 

小暮が、フンと鼻を鳴らした。

「まあいい、我がスタンドの、この圧倒的なパワーに対抗出来るものならやってみるがいいッ」

再び、パワースレイブがラッシュをかけるッッ!

 

ザサュッ

 

パワースレイブの攻撃をかわしざま、貞夫はもう一度居合い抜きを放つ!

その斬撃は、今度は命中した。

 

ボトリ……と小暮の体の一部が、落ちる。

左の膝下だ。

「そうか貞夫ッ、やはり貴様『見えている』のだな?」

小暮は、切断された左膝を抱えて、笑った。

不思議なことに、その傷口からはほとんど血が流れていなかった。

「貴様、ただの剣術使いかと思ったが、スタンド使い……と言うわけか……フム……では、貴様の能力が未知な今、迂闊に近づくのはリスクが大きいか……」

小暮は、片足でピョンピョン跳ねながら後ろに下がっていく。

 

「待てッッ」

貞夫がその後を追いかける。

 

だが貞夫が小暮に追い付く前に、パワースレイブが二人の間に立っていた支柱を、へし折った。

 

ベキッッ

 

すると、支柱に支えられていた大量の土砂が、一気に崩れた。

 

ゴボッ、ゴボッッ

 

貞夫は土砂に巻き込まれないように、とっさに背後に飛びのいた。

降り注ぐ土砂が、土埃を立ち込め、周囲が見えなくなった。

やがて、立ち込める土埃が止む。

小暮の姿は、どこにもみえなかった。

 

「クソッ逃がした……千載一遇のチャンスを」

貞夫は、いらただしげに首を振った。

「イヤ……だが、今はあんな奴のことなどどうでもいい、お義父さんを探さないと」

貞夫は気を取り直すと、刀を地面に突き刺した。

床を、切り抜くッ

 

ボゴッ

 

床下の穴をのぞくと、そこには暗黒が広がっていた。

下のフロアの様子は、見えない。

手に持っていた刀を鞘に納め、貞夫は、階下に広がる暗黒の空間に身を躍らせた。その所作には、一切の躊躇が見られなかった。

階下の空間は、真の闇であった。

 

飛び降りた貞夫は、身を低くして、敵の攻撃に備えた。

暗闇の中、何かおぞましい生き物が蠢いている感覚があったのだ。

 

ふっ……と空気が動く。

同時に、空条貞夫が刀の鯉口を切った。

 

ズバアァンッ!

 

「Hjiiiiii」

「Tejerriii?Tekerrii!」

闇の向こう側にいた『何者か』が、悲鳴を上げて倒れた。

 

手ごたえあり……

貞夫は、振りぬいた刀を素早く鞘に収めた。

収めた刀の柄に、再び手をかける。

しばらくそのまま油断なく構え、いつでも抜刀できるようにする。

『何者か』の気配を探りつづける。

やがて、その『何者か』が確実に息絶えたことを確認した後で、貞夫はゆっくりと構えを解いた。

 

ライターに火をともす。山を登っているときに作った手製のたいまつに、その火を移す。

周囲を照らすと、足元には貞夫を襲った怪物が、倒れていた。

体中がブクブクに膨れた、異形の怪物だ。

完全に胴体が両断されているのに、まだ生きている。

怪物は、目をギラギラと輝かせ、這いつくばった姿勢で、貞夫に向かってズリズリと進んでくる。

 

貞夫は、たいまつを口にくわえ、刀の柄に手をやった。

次の瞬間、怪物はみじん切りにされ、今度こそ息絶えた。

 

「あまり、ゆっくりしてられないな」

怪物を処理した貞夫は、懐から『赤い石が埋め込まれたペンダント』を取り出した。その石は、エイジャと呼ばれる、波紋の一族の至宝だ。

 

そのペンダントに意識を集中させる……エイジャの赤石を持ったままぐるりと回転すると、その方角によって、赤石が熱を持ったような感覚がある向きがあった。赤石が、JOJOが放っている特殊な生命の『波紋』を感じ、反応しているのだ。

 

貞夫は、赤石の反応がでる方角を探して、暗闇の中を歩きだした。

 

「ここかな?」

貞夫は、赤石を片手に時折襲い掛かってくる怪物を切り伏せつつ、暗闇をさまよった。

小一時間ほどそうして暗闇の中を探索しただろうか。やがて貞夫は、崩れた岩壁の前で足を止めた。

『波紋の反応』は、その岩壁の向こうから来るようであった。貞夫は、再び刀の柄に手をやる……

 

ズジャァッ!

 

貞夫が刀を振るうと、岩壁が切り落とされた。その裏には、すっかり衰弱し、意識を失っている彼の義父:ジョセフ・ジョースターと、ジョセフを優しく抱きしめる若い女性が座っていた。

 

「あ……アンタは?」

すっかり弱り切った若い女性が、貞夫に向かって弱弱しく問いただした。

 

「ああ……ボクは公安のモノだよ」

貞夫が、微笑みを浮かべた。

「君と、ジョセフ・ジョースター氏を助けに来たものです。もう大丈夫ですよ」

貞夫はゆっくり近づくと、その若い女性にタオルを放った。

今目にしているとある『光景』に少々困惑しながら、貞夫はJOJOに近づいていく。

 

「……私は無事よ……でも、JOJOの意識が……」

若い女性が、すすり泣いた。

 

その時、JOJOが目を覚ました。

「サダァッ!テメェ遅ぇぞ、馬鹿野郎ッ」

ぐったりとしていたJOJOがギョロリと目を開け、貞夫に悪態をついた。

 

「お義父さん、下調べだけの約束だったじゃあないですか」

貞夫が言った。

よかった……抑えきれない笑みが、その唇に浮かぶ。

「危ないことはしないと、おっしゃっていたのに」

 

「フン……お前のような若造には任せておけんワ」

 

「……イヤ、さすが義父様です」

感服しています。貞夫は頭を下げた。

「おかげで助かりました。私一人ではこうはできませんでした」

 

「クッ……お前は俺をナメめているのか?……まぁいい……サダよ、お前に頼みごとをするのは忌々しいが…後始末はまかせたぞ」

そう言うと、JOJOはまた気を失った。


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