仗助と育朗の冒険 BackStreet (ジョジョXバオー) 作:ヨマザル
ブ――――ン
バチパチバチッ
ジョセフ・ジョースターのスタンド、ハーミット・パープルが紫色の光を放って病室を照らしていた。
だが、その光は育朗とジョセフにだけ見えている。病室にいる他の人間 ――自衛隊、アメリカ海軍それぞれから派遣された医師と、SW財団のお抱え研究者―― には見えない。
彼らはスタンド使いではないからだ。そのため、スタンドの放つ光も見えないのだ。
彼らは、ただ病室の壁をじっと見つめていた。
その顔は皆、固い。
「……準備okよ」
「了解だ、そろそろ始めるかのォ〰〰」
ケイト教授の合図で、ジョセフの左手から伸びるハーミット・パープルの茨が 育朗の全身を包み込んだ。
そして、右手から伸びる茨は、テーブルの上に置かれたプロジェクターに伸びていく。
ブ――ン
ハーミット・パープルが強い光を放つ。
それと同時に低い音がして、プロジェクターが自然に起動した。プロジェクターは、医師たちが見つめる壁に、ある写真を出現させた。
照らし出された写真を確認して、その意味を理解すると、医師達は一斉にざわめき始めた。
「これは……」
ケイトは、その写真を見て パーッと晴れ上がったような笑みを浮かべた。
「信じられない、これは奇跡よッッ」
――――――――――――――――――
「雲一つない、い〰〰〰いッ天気だのぉ」
六助爺さんは空を仰いで元気よく言った後、すぐに似合わないため息をついた。
まさに、旅立ちに相応しい日だ。だが、まだ早過ぎる。もう少し、もう少しだけ出発を遅らせたっていいじゃあないか。 六助爺さんは、少し恨めし気に出発の準備をする若者に近づいて行った。
杜王病院の駐車場では、ようやく診察から解放された育朗がバイクにまたがっていた。
バイクの後部にはSW財団から送られたテントや何やらがくくりつけられている。育朗は、近づいてきた六助爺さんをみて、顔をほころばせた。
これから、育朗が出発する所であった。一緒に同行するのは、ホル・ホースであった。
スミレではない。
育朗の出発の意思は、SW財団の関係者と、六助爺さんにだけ伝えていた。仗助たち杜王町のコーコーセーと……スミレには伝えていない。別れがつらくなるからだ。
「オイ、本当にいいのかよ」
ホル・ホースの言葉に、育朗は晴れやかな顔で頷いた。
「いいんです……もう十分に」
「精密検査の結果によると、アンサンの中の寄生虫バオーが卵を産む確率は20%しか無いんだぞ……助かる可能性が高いんだと、諦めが良過ぎねーか?」
ホル・ホースが肩をすくめた。
「でも、僕がいる限りDRESSが僕を狙い続けるに決まっています……やっぱり、僕はここを離れた方がいいんです」
自分に残された時間がどれほどあるかはわからない。だからこそ、スミレには自分のことなど忘れ、幸せになってほしいんです。
そう言って微笑む育朗を、六助爺さんはきつく抱きしめた。
「育朗……お前が決めた事なら、わしゃ何も言わん」
六助爺さんは、育朗の目をまっすぐ見て言った。
「スミレの事は心配するな。まだまだわしも元気じゃからのぉ」
そう言いながらも、置いて行かれるスミレの気持ちを想像して、チクリと心が痛んだ。
「お爺さん……」
本当にいろいろありがとうございました。育朗は深々と六助爺さんに頭を下げた。
「……じゃあ、行くぜ」
ブルンッ
ホル・ホースはバイクのエンジンを始動させた。
「わかりました……」
お爺さん、お元気で。
育朗はもう一度六助爺さんと握手をすると、バイクにまたがり、エンジンを始動させた。
ブルンッ
キュルッ キュルッ キュル……
「!?おい、こりゃあ……」
だが、育朗とホル・ホースがアクセルをいくら吹かしても、全く バイクが動かなかった。
よく見ると、髪の毛のようなものがバイクを持ち上げ、後輪を空転させている。
「!?……なんだい…………これは……髪の毛……」
育朗が唖然としている間に、バイクを覆う髪の毛はどんどんその数を増やしていた。
「そこだッ!」
だが、気配を感じて育朗が投げた石は、木の陰からスルスルっと現れた髪の毛に阻まれた。
そして……もの陰から現れたのは、山岸由花子だった。彼女は、自身のスタンド:ラブ・デラックスの能力によって髪の毛を動かし、バイクを止めていたのだ。
「……行かさないわ」
由花子は、そう呟いた。
「あなた……カッコ良くないわよ……女の子を置いてこっそり出ていこうとするなんて……」
コ” コ” コ” コ” コ” コ” コ” コ” コ” コ”
「君ッ――お願いだ。このまま僕を行かせてくれ」
育朗が、バイクから降りた。
バリッ!
右手に刃を……リスキニ・ハーデン・セイバーを出現させ、バイクにからみつく『髪の毛』を断ち切る。
「見てわかるだろ……僕は……普通の人間じゃあない。ここにいてはいけない人間なんだ……頼む」
「駄目よ」
由花子は育朗の頼みをきっぱりと断った。
「アナタの体が普通じゃあない?―――それは私たちスタンド使いだって同じことよ。そんな『クダラナイ』ことを気にしてるのなら、あなたやっぱり杜王町にいるべきよ…………………それに、アナタが話すべきなのは私じゃぁないわ……」
ジャリッ
┣¨ ┣¨ ┣¨ ┣¨ ┣¨ ┣¨ ┣¨ ┣¨ ┣¨ ┣¨
育朗が振り返ると、そこには目を怒らせたスミレが立っていた。
「あら、橋沢育朗クン……貴方は、どちらに行かれるおつもりなのでせうか?」
まぁ、私には『関係ない』質問かも知れませんケドォッ!
ジャリィッッ!!
危機を察知し、ホル・ホースと六助爺さんがこっそり育朗を置いて逃げ出して行く……
残された育朗は、困った顔で立ち尽くした。
「スミレ……わかってくれ、僕は……」
「何ッ!? 貴方まさか、逃げようとしてたわけじゃあないでしょうねェ??」
スミレは育朗の正面に立ち、腕組みをした。
「貴方……私の『覚悟』を見くびってないでしょうねェ!!!!」
「いや……スミレ……さん。そのォ…………」
「何ィッ!?」
スミレが、またしてもキッと育朗をにらみつけた。
「アンタの体の事ならとっくに知ってるわ……だから、こそ もう独りで抱え込んだり、独りになろうとしないでッ……」
私が、アンタのそばにいてあげる。
聞いてる?
何があっても、私はアンタの横にいるわ
ツツッ―――――――
スミレの頬を一筋、涙が流れた。
古来女の涙は幾多の英雄を陥落させてきた。ましては普段は強気な女の涙……
「ゴメン……僕が間違っていました」
橋沢育朗は、その破壊力に『完敗』した。
――――――――――――――――――
仗助が目を覚ますと、真っ先に目に入ったのは 川尻 早人の笑顔だった。
「仗助兄ちゃんッ!」
「おおぉ、早人 無事に脱出できたか」
仗助は飛びついてきた早人の頭をグチャっと撫でた。
「……息子がお世話になりました」早人の母、しのぶ が仗助に頭を下げた。
しのぶは愛おしげにアミを抱っこしている。
「ニィーちゃんッ」
アミが早人のまねをして、仗助にくっついた。
「おっおおぉ〰〰〰ッ 早人のイモートだなッ げんきじゃねェぇか」
仗助はにっこり笑ってアミの体を持ち上げた。
「そうだよ。僕の妹さッ」
早人は胸を張った。
結局、アミのスタンド能力は判からないままであった。その能力が今後どうなるかも不明だ。
SW財団のケイト教授が言うには、アミのスタンドは、おそらく彼女がもっと成長したころに自然に表れるはずだという事だった。でも、精神的に安定した生活が続くことで、結局は発現しない可能性もあるのだそうだ。
結局、この先どうなるのかはよくわからないという事だ。
それでいいと早人は思っていた。
未来は、わからないほうがいい。
アミは、早人にすっかりなついている事を考慮され、川尻家で引き取られることになった。
また、母親とジョセフが話しているのを立ち聞きしたところによると、アミの養育費と言う名目でSW財団からそれなりの金額が月々支払われることになっているようだった。
愛くるしいアミに母親はもうメロメロな様子だったし、これでいいのだ。もしかしたらアミのおかげで父親の事で苦しんでいる母親の心も、少し楽になるかもしれない。
早人は、少しだけこの先の希望が大きくなったのを感じていた。
「早人、しばらく仗助さんとお話しててね……わたしは朋子さんを呼びに行くわ」
しのぶはそんな息子の様子を眩しそうにながめ、病室を出て行った。
◆◆
「目が覚めたようだな」
仗助が早人と話していると、ガチャリと病室のドアが開き、ジョセフ・ジョースターが姿を現した。
「……オヤジ……」
「仗助……ワシの頼んだ仕事で、迷惑をかけたな」
ジョセフが仗助の手を握った。
「しかし、良くやってくれた、頑張ったな」
「いや…俺は……」
シュルルルルッ……
握った手を伝わって、ジョセフのスタンド:ハーミット・パープルの茨が仗助を包んだ。その茨を通してジョセフの波紋がじんわりと仗助の体を温めていく……
「……ジジイ……オヤジ……わざわざ来てくれたのか……ありがとう」
「何、丁度ホリィに会いに日本に来ておったからの」
「……言いにくいケド、早人の母さんがお袋を呼びに言ったぜ」
「……ああ……わかっとる、あまり長くゆっくりはしておれん……な」
「!?僕、母さんを引き留めてくるよッ!」
バタバタっと足音を立て、早人が病室から出て行った。
そして、病室には父と息子……ジョセフと仗助の二人だけが残された。
「……何か飲むかい?」
「いいよ……済まんがここに来る前に夕食をすませておってな」
「そっ……そーっすか」
二人は少しの間黙っていた。だが、それは必ずしも気まずいだけではない、穏やかな、互いを思いやる暖かな時間だった。
「……それで、育朗たちはどうしたっすか」
沈黙を破ったのは、仗助からであった。
「ああ……あの青年か」
ジョセフが言った。
「彼なら無事じゃよ、今回の件でお前に礼が言いたいといっておったがのォ」
「いや、俺は」
仗助が頭をかいた。
「俺は何もしてないっすよ」
「そんなことはない。お前がいなければSW財団の研究部隊は全滅してたじゃろう。それに、あの若者たちも、組織につかまってひどい目にあっていたじゃろう」
「仗助ェッ」
バタン と勢いよくドアを開けて、アンジェラが飛びついてきた。
「よかった。心配したのよ……」
「おお……アンジェラ……その……悪かったな。あの時は俺が俺でなかったからな……許してくれるか」
「フフフ……一度デートしてね」
そうしたら許してあげるわ アンジェラが仗助の頬にキスをした。
バチッ!!
その瞬間、波紋 ――ジョセフのものより生命力に溢れる―― が仗助の頬から全身を駆け巡るッッ
「おッ……おおー」
まるで電気ショックを受けたように、仗助はピンと体を伸ばした。
「フフ……すぐ元気になりそうね…………」
「……オホン」ジョセフが咳払いした。
キャッ ごめんなさいッ! お師匠さまッ! アンジェラが顔を赤くして、病室から駆け出して行った。
そのあとには、少し唖然とした親子が残された。
「……お前たち、こんなことを聞くのはなんだが……付き合ってるのか?」
「なッッ……そんなわけねぇぇ〰〰ッッス!」
ジョセフの問いを、仗助は顔を真っ赤にして否定した。
「ア……アイツの事はよく知らねェェ――んス。付き合うとか、それ以前の問題ッスよォ」
「そぉ〰〰かぁ?」
ジョセフはニヤッと笑い、そして話題を元に戻した。
「お前たちのおかげで事件が終息したんじゃ、あそこでお前たちが奴らを食い止めなければ、大変な被害が出ておった所じゃ」
胸を張りなさい。ジョセフの言葉に仗助は、はにかんだような微笑みを返した。
「…………オヤジ……あの、それで奴らは一体何もんだったんすか、あのゾンビは……」
「ゾンビどもはすべて退治したよ。安心しなさい……あの者たちは、我々の敵じゃ。 かつて我々と戦ったDIO という男を信奉している者どもだ……だが、奴らも追い払った。杜王町はまた安全な場所になったワイ」
「じゃあ……これで、一件落着ってわけっすね」
┣¨ ┣¨ ┣¨ ┣¨ ┣¨ ┣¨ ┣¨ ┣¨ ┣¨ ┣¨
「それがな……」
ジョセフが不意に真顔になった。
「お前に、言わなければならん事があるんじゃよ」
┣¨ ┣¨ ┣¨ ┣¨ ┣¨ ┣¨ ┣¨ ┣¨ ┣¨ ┣¨
「ゴクッ……なんすか……」
「仗助、いいか……落ち着いて聞いてほしいんじゃがぁ……」
真顔で説明しようとしているジョセフの耳が、背後から突然ひねられた。
「イタタタタタタ」
「……お父さん、いつまで待たせるのよ」
そこには、5人の女性が立っていた。1人はジョセフとほぼ同じ年代の白人女性、もう1人はその女性が抱っこしている赤ん坊、そしてジョセフの耳をつねっているのは40代後半の美しい白人女性だッ!
赤ん坊には見覚えがあった。あれは、ジョセフが杜王町で出会った透明な赤ん坊、静だ。
そしてさらにその後ろに、アジア系の美女と、その女性が手を引いている4・5歳の幼女が立っていた。
「オマエがジョースケかッ?」
なぜか幼女が仗助を睨みつけてくる。
「おっおおお〰〰そうだぜェェ?」
「ジョリーンッッ、初対面の人にはコンニチワでショッ ……仗助クン、夫が色々お世話になったみたいね」
幼女の手を引いていた美女が、仗助に手を差し伸べた。
「えっ?夫って……もしかして……」
仗助は、目を白黒させたまま美女の手を握り返した。
「わかったわよ、ママ……よろしくなッジョースケッッ」
ジョリーンが、ふてくされたように言った。そして、パシッと、仗助とその美女の握手をしている手をはたいた。
「ジョォリィィ――ンンッッッちゃんとアイサツしなさいッッ」
美女が目を三角にして、ジョリーンをしかりつけた。だがジョリーンも一歩も引かず、美女に何やら早口で言い返している。
仗助は、あっけにとられてその様子を見えていた。
突然英語交じりの日本語で話しかけられ、その直後に母娘が遠慮なしに繰り広げる口げんかを間近で見させられているのだ。
一体何が起こっているのか、よく状況に適応できていないまま仗助が呆然としていると、ジョセフの耳をつねっていた白人女性が仗助に話しかけてきた。
「初めまして……会いたかったわ……弟クン」
温かい、聞いていると心が安らいでくるような声であった。
「あなたは……」
「息子が世話になってるわね。私は空条ホリィよ」
ホリイと名乗る女性は、ハウ アー ユー!と陽気に挨拶して、仗助に手を差し出した。
「よッよろしくッス……ってことは……」
えっ?仗助は口げんかをしている母娘を見る。あれは、やっぱり、もしかして……
そして、静を抱っこしているおばあさんは、もしや……
ちらっと隣のジョセフを見ると、ジョセフはその大柄な体を可能な限りちぢこませ、もじもじとしている。
「なるほどね……あなた、お父さんの若いころにそっくりよ」
ホリイが、少し満足げに言った。
えっ? 仗助が鏡を見る……そこにいたのは、ピンピンと長髪を無造作に伸ばした青年の姿だった。
金髪に染めた髪を黒く染め直しているので、髪の色はこげ茶色だ。
仗助はわかっていないが、その色がまた、仗助をジョセフの若いころに似せていた。
「そう、そっくりよ」
そういうと、ホリィは 植物を編みこんでできたリスのようなビジョンのスタンドを出現させた。
「それから……アナタのスタンドも、私のスタンドと能力が似ているわね」
そのリスからイチゴのツタのようなものが伸び、仗助の周りを包んだ。
そのイチゴから立ち上る香りに、ジョースター家の女性陣に囲まれていた仗助の緊張が、すっと溶けていく……
でも今は能力を使うべきときじゃあないわよね。ホリィはニッコリ微笑んでチラッと見せたスタンドを引っ込めた。
「そうそう、私がスタンドを使う事は、男達には内緒よ」
ホリィが父と弟をジロリと見据えた。
「これは、むしろ男達を守るためよ」
はい……仗助とジョセフは神妙にうなずいた。
「ホリィ……姉さん……ッスか……すると……」
仗助は恐る恐るホリイの隣の老女の様子をうかがった。
老女は微笑んでいた。
「初めまして、スージーQと申します。そう……あなたがジョウスケ ね」
ようやくあえたわ。スージーQは破顔した。
「これまでの話は聞きました。あなたのお母様は、あなたを素晴らしい人に育てたようね」
「……いや、その……なんていったらいいか……」
(うぉおおおおお……別に俺が何かした訳じゃねーのに気まじィっス)
「貴方が私のことを何も気にする必要はないわ」
スージーQは優しく仗助に語りかけた。
「馬鹿な夫が迷惑かけました……勝手なのは承知ですが、あなたとどうしてもお知り合いになりたかったの」
そして、勝手だけどアナタにも私たちのことを 許し、受け入れて欲しいの ――アナタのお母さんがそうしてくれたように―― スージーQはそう付け加えた。
パタン
ドアが開き、母親が、東方朋子が満面の笑みを浮かべて部屋に入って来た。
「仗助ッ!目がさめたか?」母親が朗らかに笑った。
「うぅッ……」
母親を見たとたん、不覚にも仗助の視界がぼやけた。
その仗助の隣では、彼の父親:ジョセフ・ジョースターが、彼が日本で覚えた最大級の謝罪を示すポーズ:MAX土下座を敢行していた。