仗助と育朗の冒険 BackStreet (ジョジョXバオー)   作:ヨマザル

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栗沢六助とオケイ その2

「バルル……バルル……」

バオーが、うなり声をあげた。

 

『今いくよ……バオー』

そこに、先ほど育朗の体から抜けた青白い光 ――育朗本体の意識と一体化したスタンド:ブラックナイト―― が入り込んだ。

ブラック・ナイトの体から無数の管が伸び、バオーとつながる。

スタンドと肉体とをつなぐその管は、どんどん短くなっていき、ブラック・ナイトとバオーの体が重なっていく。

そして、

 

キュゥイイィィ―――ンッ

 

『!?ハッ これは……』

バオーに完全に憑りついた時、これまでと異なる不思議な感覚が育朗をおそった。

 

完全に、ブラック・ナイトとバオーの体が重なっているのだ。

 

これまでは、ブラック・ナイトでバオーの体を操るといっても、行動の主導権は寄生虫バオーに依存する部分が多分にあった。それゆえ、バオーに育朗が考えた通りの精密な動きをさせる事など、もってのほかであった。

だが今は、バオーと育朗が完全に一致している感覚がある。

今では指先の一つ、一つまで育朗の意思が正確にバオーを動かす事ができた。だが同時に、相棒である寄生虫バオーもまた、『一緒にいる』事を育朗は感じていた。

 

バオーの本能的意識が育朗の精神とまざりあい、一つに溶け合っている。

 

バラバラの意識を持ちながら、しかし互いの感情・思い・感覚をハッキリと共有している。と言えばよいだろうか。

 

つい先ほど、メネシスの放つ炎を身を削って消した、そのスタンドの欠損部分さえ、もはや埋まっている感覚があった。

 

その欠損を埋めているのは、この8年ずっと共に眠りについていた『相棒』の意識だ。

…… 自分をこの過酷な運命に導き、そしてまた後30日以内に自分の命を奪うであろう死神 

…… だが 自分を救ってくれた少女を救い出す為に共に戦った『戦友』

…… 8年もの時を共に過ごした『相棒』

…… 寄生虫『バオー』の意識とその生存本能を、育朗は自分の傍らに感じていた。

 

(『バオー』……僕は自分の運命に後悔は無いよ)

育朗は自分の内部にいる、『相棒』にそっと語りかけた。

 

「準備できたな……じゃあ育朗クン、行くぜぇッ」 

育朗の感慨など関係なく、仗助が突進してきた。

 

仗助の横に立つ巨大なスタンド、クレイジー・ダイヤモンドの拳がバオーをおそうッ!

 

育朗は、リスキニハーデン・セイバーを出現させた。

(仗助君を殺したくない。刃は潰しておくんだ)

育朗の意思に呼応して、刃が丸くなって行く。

「バル、バルッ!」

バオーが、リスキニハーデン・セイバーを振るった。

幾ら刃を潰していても、バオーの怪力で振るわれた刀がまともにあたれば、一撃で仗助を戦闘不能に出来るはずだ。

 

『ドラァッ!』

だがクレイジー・ダイヤモンドは、バオーの振るう刀を、時にのぞけり、時にダッキングし、そして時に拳で払いのけた。

 

その防御のための動きの隙をぬって、容赦のない攻撃がバオーをおそう。

『ドラッ!』

『ドラララッ!』

『ドラララララァッ!!』

やはり、仗助のクレイジー・ダイヤモンドは攻撃・防御共に恐ろしい程に基本性能の高いスタンドであった。

その動きが、攻撃が、すべてが機敏・正確で、しかも恐ろしいまでのパワーを持っているのだ。

普通のスタンドやクリーチャーでは、仗助とクレイジー・ダイヤモンドを前にしてまともに立つこともできないだろう。

 

(やはり、強いッ!どうすればいい?どうすれば彼をひどく傷つけることなく、無力化できる?)

バオーに、クレイジー・ダイヤモンドの攻撃を受け流し、ガードする役を任せ、育朗は考え続けた。

 

その時……

「無駄ッ!!ドラァアアアアア」

育朗:バオーの足をクレイジー・ダイヤモンドが払った!

 

『うっ……強いっ』

 

「ガードが甘いぜ、育朗クンよぉッ」

仗助はよろめいたバオーに体当たりをぶちかまし、クレイジー・ダイヤモンドで追撃をかけた。

 

『まだまだだッ!』

バオーは身を丸め、ボクシングで言うビーカブー・スタイルを取った。そのスタイルでクレイジー・ダイヤモンドのラッシュを受け止め、 すり抜けて、近づいていき、接近戦を挑む。

仗助のふところにもぐり込む……リスキニハーデン・セイバーを振るった!

『仗助君ッッ、君を止めるッ!!』

 

「甘いッ」

クレイジー・ダイヤモンドは、バオーの刀を両手のひらで受け止め、へし折った。

そして、そのまま蹴りを放っ。

 

ボゴォツ!

バオーはクレイジー・ダイヤモンドの蹴りをまともに受け、後方に吹き飛ばされた。

 

「手加減しちゃあ、この仗助君に勝てないっスよぉ―――っ」

 

吹き飛ばされたバオーは、空中で身をひるがえした。着地と同時に四肢を地面に食いこませ、勢いを止めた。

そして、両腕をまるで鶴の翼のように頭上にかかげ……リスキニハーデン・セイバーを仗助に飛ばした。

『セイバー・オフ』「バルルッ」

 

『ドラァアアア』

仗助は、飛んでくるバオーの刃を、地面を『破壊』し、そして『作り直した』壁で防ぐ。

 

「バルバルバルッッッ」

しかし、その壁でできた死角を利用して、バオーが仗助に迫ってきた。

『仗助クン、スマナイ』

バオーの両腕が、発光する。

 

「ウォォォオオオオ 何かヤバいぜ」

クレイジー・ダイヤモンドは自身の本体である仗助を殴り、突き飛ばした。

 

ドッガラガラガラッッッ!!!!

 

その一瞬後、つい先ほどまで仗助がいた場所とバオーを結ぶ空間が白く発光した。

そして、その光の中に生えていた草木が真っ黒に炭化しているッ!

 

「あれは、バオー・ブレイク・ダーク・サンダー・フェノメノンッ」

アンジェラが叫んだ。

「SW財団の報告書を読んだことがあるわ。バオーの体細胞は強力な電気を生み出せるとッ……あれが、それッ?ちょっと、育朗ッッ やり過ぎよ……」

 

バシバシ、バザーッ

 

「痛ってぇ……しかもズボンがちょっと焦げちまった……危うく全身がハンバーグになるところだったぜぇ――。これ、『ばぁばりぃ~』で作ってもらった刺繍入りの特注品なんだぜぇ~~」

自分のスタンドに殴られ、崖下に突き落とされた仗助が顔をしかめた。

「育朗先輩……あんたマジだな」

 

『仗助クン……君のスタンドは強力すぎる。遠慮はできない』

育朗が、崖上から仗助を見下ろした。

 

「そうかいッッ」 

仗助は、自分と共に崖上から落ちてきた岩を『直した』。崖上に戻っていく岩の上に乗った仗助は、その上昇の勢いを利用してさらに高く飛び上がり、バオーの頭上から攻撃しようとするッ。

 

『甘いッ!』「バルッ」

だが、スタンドを使った仗助の跳躍をも、バオーが上回った。

 

跳躍してからのバオーの蹴りを、空中でクレイジーダイヤモンドが受けるッ。

 

追撃とばかりに、着地した隙を狙ったクレイジー・ダイヤモンドの一撃は、バオーが両手で受け止めた。

 

「バオーってあんたの本体だろ。あんた、なんで、生身でスタンドの攻撃を受け止められるんスか?」

 

『……それが、僕の……ブラック・ナイトの能力さ……そして、とどめだ』

バオーの両手が、光る。

『決まった、ブレイク・ダーク・サンダーだ。この距離からなら避けられないよ』

 

仗助君、降参してくれ。

そんな育朗の願いを、仗助は首を振って拒絶した。

「……こんなんで勝ったと思ってるんすか?いいや……また俺の勝ちだぜ」

 

ブワッッ

 

突然、バオーの周りをゴムタイヤが覆い、バオーをゴムの中に閉じ込めた。

このゴムは、メネシスが投げつけたモンスターバイクのタイヤのゴムだッ!

そのゴムをクレイジー・ダイヤモンドで作り直した『膜』がバオーを覆っていく。

 

『こんなもので……僕を止められるかッ』

バオーがゴムを溶かして出てくると、だが、すでに仗助はバオーの前にはいなかった。

 

「……勝負あったぜ、俺の勝ちだ。アンタの視界を一瞬だけ封じりゃ、それでよかったんす。俺は初めから、それだけを狙っていたゼ」

仗助が言った。

 

┣¨ ┣¨ ┣¨ ┣¨ ┣¨ ┣¨ ┣¨ ┣¨ ┣¨ ┣¨

 

仗助がスミレの背中にまわりこみ、スミレの手をクレイジー・ダイヤモンドで軽くねじりあげていた。

 

「抵抗するのはやめな」

仗助が言った。

「おれも こんなことはしたくない……でも、あんたを止めるにはほかに方法がなさそうだからよぉ――」

 

「育朗ッ、私には構わないでッ」

スミレが叫んだ。

 

「こら、育朗ッやめなさいよ……アンタはそんな男じゃあないでしょ」

ようやく、仗助が変形させた『上着』から脱出したアンジェラが、仗助にくってかかった。

「そんな、《肉の芽》なんかに、負けてんじゃあないわよ」

 

「お前、マジでスケの背中に隠れるのか?」

噴上が、信じらんれない……と言うように言った。

 

「……しかたねーッ…正しい目的のためっす。俺が泥をかぶってそれでまるくおさまるんなら……」

それでいいんだ。仗助が苦しそうに言った。

 

『……スミレ……』

バオーは、両手を上げた。

 

「!?ダメよ、育朗ッ」

 

『わかったよ仗助クン……スミレを傷付けるわけにはいかない。降参するよ』

バオ―:育朗は……アームドフェノメノンを解いた。

 

コ” コ” コ” コ” コ” コ” コ” コ” コ” コ”

 

「ねぇ仗助君、もうあきらめなさい。たとえ育朗が降参したって、あなた1人では何もできないわよ」

と、スミレが自分のスタンド、WitDを出現させた。

 

「スミレ先輩、止せよ。アンタじゃあ俺をどーこー出来ねえー」

仗助がWitD をつまんだ。

ピシッ

「あっ……」

自分のスタンドを圧迫されたスミレは顔をゆがめた。

 

「スミレ……止めてくれ、仗助君!」

 

「育朗、動くなぁッ!」

とっさに前に出ようとする育朗を見て、仗助が怒声を発した。 

「育朗クン、頼む……俺にこれ以上ひどいことをやらせないでくれ……」

 

「……仗助君、頼む」

スミレを離してくれ……何でもする。育朗が頭を垂れた。

 

仗助の顔が、ゆがむ。今にも泣きだしそうだ。

 

そのとき……

「まてよ、仗助ェ~~ッ!」

億泰が、ヨロヨロと立ち上がった。

「正気に帰りやがれ、この馬鹿野郎……がッ」

億泰は、まだ体のしびれが取りきれないままヨロヨロと歩き、仗助に自分の手が、スタンドが届くところまで近寄っていった。

 

「億泰、それ以上近づくな」

仗助が警告した。

「いくらお前が相手でも、容赦しねーぜ」

 

「……そりゃこっちのセリフだよ、バカ野郎……スミレ先輩をとっとと放せョォ」

億泰が睨みつけた。

「俺のザ・ハンドは手加減できねー。覚悟しろよ」

 

仗助はつらそうな、今にも泣きだしそうな顔を一瞬見せ……だがすぐに厳しい顔にもどった。スタンドに代わって、自らスミレの手をねじりあげ………そして、クレイジー・ダイヤモンドを億泰の目の前に出現させた。

「……いいぜェ――お前とは長い付き合いだからな……お前のスタンドをだせよ、またサシでやってやるぜ、億泰よぉ――っ」

「へぇ~~?そうかよ。だがお前みたいなアホに俺のスタンドはもったいないぜ」

億泰が言った。

「オレは確かに頭悪いがよォ~~だがそんなオレでもホントの馬鹿野郎は分かるんだよ。馬鹿野郎ってのは、自分に取って何が大事なのか、分からなくなったヤツだよ。…………今のお前や、兄貴みたいなよォ……何だぁ?、その馬鹿丸出しの髪型は?」

 

「オイ…………今、なんていった、お前?」

仗助の顔色が変わった。

仗助はスミレを、クレイジー・ダイヤモンドはWitDを、それぞれ手荒く手放し、億泰に向って拳を構えた。

 

ポン

WitD が無数に分裂して行く――

 

「仗助ェ~~~トットト杜王町に帰るぜ。それで……お前のその髪型も、何ッつ~か……あれだ、元のサOエさん見てーな カッコ悪リィヤツにもどそうぜェ~~っ」

億泰が陽気に言った。

 

プチッ!

 

「てめえェッ!!!俺の頭のこと、何て言ったあァ―――!!!!!」

仗助の血走った目……だがまだクレイジー・ダイヤモンドは動かないッ!

 

「カッコ悪いって言ったんだョ、このダボがぁ」

 

億泰が挑発する。

次の瞬間ッ!億泰の右拳 ――スタンドではなく自分の素拳―― の攻撃が 仗助の顔面をおそうッ!

 

仗助は血走った目で、億泰を睨みつけ……

「ヘッ……」

仗助は歯を食いしばり、億泰の渾身の一発を避けもせず、まともに顔面に受けた。

 

ドガッッ

 

そして、分裂したWitD が崩れ落ちる仗助の額に集まり……肉の芽を引き抜いた。

 

     ◆◆

 

そしてその10分後、肉の芽を引き抜かれ、意識を取り戻した仗助は……

皆に、まさに完璧な姿勢の、美しい土下座を披露していた。

「申し訳なィッ!!……俺はその、与太話を信じてDIOの野郎にあやつられてた……だが言い訳はしねーぜ」

仗助は両手をついた体勢から、ピョンと跳ね起きた。そして直立不動で立ち上がり、皆にズバッと頭を下げた。

「スマン!スミマセンでした! そして……『俺を止めてくれて』ありがとう……」

 

――――――――――――――――――

 

 

揺れている。

懐かしい感覚だ。

昔、子犬だった自分が河原で川の増水によって砂州に閉じ込められ逃げられなくなったことがあった。そのとき、母が自分の首を咥えて安全な場所まで運んでくれた時を思い出す。

……母の温かい匂いを思い出す……

だが今、母の匂いの代わりに周囲から漂ってきたのは、血と腐った肉の匂いだった。

 

『彼』は目を覚ました。

だが何かおかしい。体が動かない……ここは何処だ?

まるで頭に霞でもかかっているかのようなぼんやりした意識の中で、『彼』は記憶をたどり、起こった出来事を思い返そうと務めた。

そもそも自分と『彼女』は『息子』にすべての生命力を渡し、そして満足して逝ったはずだ。

なのに、なぜ目を覚ました?

まだ視界もはっきりしない。だが『彼』には強力な嗅覚があった。

周囲の匂いを嗅ぐ……さきほど嗅いだ血と腐肉の匂い、木と湿った土、草の匂い――ここは森の中らしい―― そして、すぐそばに懐かしい匂いがした。

心温まる、勇気づけられる匂い。母ではない、『彼女』だ。

『彼女』もまた何が起こったのか戸惑っているようだった。心配ないよ。僕も隣にいる。僕が君を守る。そう伝えようとしたとき、『彼』はもう1人の『男』の存在に気が付いた。 

 

そうだ、例の血と腐った肉の匂いをさせているのは、この『男』だ。

 

『男』もまた、自分たちが目を覚ましたのに気が付いた様子があった。だが、自分たちには一切構わずに森の中を走リ続けているようだ。

 

自分たちのことを危険はないと判断したのか。『彼』は気を害した。

すこしこの『男』を痛い目に合わせる必要があるかもしれない。自分は群れのリーダーだったのだ。もともと、『男』は自分の群れの部下だったのだ。 誰がリーダーか、思い知らせてやる必要がある。

だが、体が動かない。

チガウ……自分たちがその『男』の背に乗っているのだ。何故だ?必死に体を動かそうとしても、どうしても、まるで泥沼にはまったかのようにぬっぺりしたものに囲まれ、まったく体が動かせないノダ。

 

「クゥウン」

『彼女』が鳴いた。まるで子犬のような心細げな声だ。

 

子犬?

その時、『彼』は大事なことを思い出した。

そうだ、この世の何よりも、自分の命より、『彼女』よりも大切な唯一の存在がいる。

 

『息子』

 

『息子』は何処だ????????

激しい焦燥感にとらわれた『彼』は、『息子』を呼んで大声で叫んだ。隣の『彼女』も、その叫びに呼応した。

だが、返答はない。

否、『男』が反応していた。これまでは『彼』を無視していた『男』が、大声で吠える『彼』と『彼女』を感じ、イライラした敵意の匂いを向けた。

 

そして『彼』は、また何も見えなくなった。

 

――――――――――――――――――

 

 

1999年11月11日  未明 [T村]:

 

 

つい三か月前に離れた日本の地 ――母国―― にこんなに早く舞い戻る事になろうとは、まったく予想していなかった。

 

「ヤレヤレだ。まったく笑えねーぜ」

空条承太郎は乗ってきた車を降り、1人、T村の中へと入って行った。

 

東北の地方空港に到着してすぐ、SW財団と日本政府の用意した車にのって、この村に到着したのは、つい数分前のことだ。

飛行機の中で入念に睡眠時間を調整した結果、時差ボケこそほとんどないが、それでも長距離の移動は少し体にこたえていた。

 

無理もない、つい20時間前まではコスタリカで海洋の調査とともにSW財団が行っていた古代マヤ文明の遺跡調査に同行していたのだ。それが、この杜王町の北側で行われていた別の調査隊からのSOSを受け、SW財団の仕立てたチャーター機を乗り継ぎ、大急ぎで現地入りしたと言うわけだ。

ゾンビの大量発生……早急に対処し、被害が広がらないようにしなくてはならない。

 

村は壊滅していた。

 

元々は寂れた漁村だったのだろう、狭い道に家々が数件固まっており、村の通りは海へまっすぐ続いている。その通りを、承太郎はポケットに手を突っ込んだまま突き進む。

ジャリッ

 

海に至るであろう路地を進む。

 

生きた人間である承太郎が来るのを見て、あちこちから飛び出し、騒ぎ、喚く元住民たち。

「血ィイイイ」

そこかしらの路地から、屋根の上から、家の中から、元住民たちが承太郎を取り囲むように現れ……一斉に飛び掛かってきた。

 

「……スタープラチナ・ザ・ワールドッ!」

承太郎は、自身の背後に、神話の世界から現れた様な強大なエネルギーに満ちたビジョンを出現させた。

そのビジョン:スタンドに命じ、承太郎は自らの恐るべき能力:『時間停止』を発動させた。

 

一瞬にして周囲がセピア色に染まり、音一つない時間が止まった世界が承太郎を包む。

時が止まった世界で、承太郎はジックリとおそい掛かってくる元住民 ――ゾンビ―― を観察した。

おそらくゾンビになる前は皆年老いていたのだろう。つやのある肌にそぐわなず、その服装は年寄じみており、滑稽なほど体に合っていなかった。

唯一の救いは、この村が限界集落と化しており、小さな子供がいなかったことか。

 

『時』が、再び動き出した。

 

『オラオラオラオラオラオラオラオラッ!!』

承太郎は迫りくるゾンビを、スター・プラチナのラッシュで一掃した。

 

スタープラチナの一撃で頭部を破壊されたゾンビは、それでもピクピクと体を引きつかせている。

ゾンビは確かに不死身だが、頭部を破壊すれば動けなくなる。朝になれば、太陽のエネルギーによって残っている肉体もチリとなるはずだ。

 

承太郎は、陰鬱な気持ちで時折現れるゾンビを倒しながら、寂れた元農村を見て回った。

丹念に辺りを捜索し、撃ち洩らしたゾンビどもがいないかどうか、チェックしていく。犬や、猫までも、ゾンビ化していないか、注意を払う。だが、しつこく、病的なほどに念には念を入れて探しても、生きている人間は1人も存在していなかった。承太郎は、ひとしきり村の探索を済ますと、苦虫をかみつぶしたような顔で車に戻った。

 

承太郎が車に戻ると、まさに二体のゾンビが車に飛び掛かっていく所であった。

岩をも砕くゾンビの超パワーをもってすれば、車を破壊することなど造作ないはずだ。だが、承太郎はまったく焦らずに、少し離れたところからゾンビが車に飛びつくのを、落ち着いて眺めていた。

 

バチバチバチ

車は、紫色の光を帯びたスタンドの茨に覆われていた。

 

「Gbyuuuuuu!」

一体のゾンビがその茨に触れ……まるで砂でできた人形のように、崩れ落ちた。 

 

もう一体のゾンビは、相棒が塵となるのをその目で見て……うろたえ、隣の電信柱を引きちぎった。

「GuraaeeeeeI!!!」

ゾンビの超パワーでいとも簡単に電信柱が振り上げられ……またストンと落ちて、地面に転がった。

 

『オラオラオラッ!』

倒れてくる電信柱を、スタープラチナが砕くッ!

 

電信柱を拾い上げようとしたゾンビは、顔が、手足が、『紙』と化して地面に転がっていた。

 

車のドアが開き 運転席にいた男:岸部露伴が出てきた。ゾンビが『紙』となったのはこの、岸部露伴のスタンド:ヘブンズ・ドアーによるものだったのだ。岸部露伴は、ゾンビの『紙』にかかれた情報を読んで、首を振った。

「ダメだ承太郎さん……このゾンビ達は、どうやら何も知らされて無いようです」

もう少し調べてみますが……そう言うと、岸部露伴はゾンビの横に膝をつき、熱心に『紙』を読み始めた。

 

「そうか…ただの使い捨てのコマにされたってことか」

むかつくぜ。 承太郎は車の後部座席のドアを開けた。

「ジジイ、どうだ……他に撃ち漏らしはないか」

その前に口にした、生きている奴はいないか と言う質問には、黙って首が振られていた。

 

「ふむ……この村にはもうゾンビは残っとらんよ」 

車の後部座席に乗っていた老人は、空条承太郎の祖父、そして東方仗助の父、ジョセフ・ジョースターであった。

ジョゼフは自分のスタンド、ハーミット・パープルの能力を使って、車に据え付けられたカーナビのモニターに念写をしていた。

「まだ動いているヤツは、後……四ヶ所……じゃの?」

このあたりの地図上に、赤い点が四つ、ピコン、ピコンと光っている。

 

承太郎はカーナビの画面を覗き込み、今後の対応の計画を立てた。

「ふむ……大丈夫だ。この、南に向かっているヤツは、ホル・ホースにやらせよう……ちょっと信頼出来ねえが、俺が信頼するスタンド使いを行かせている。問題ないだろう。この、西のヤツはポルナレフがやる。ちと敵がてごわそーだが、そこには仗助もいる。何とかしてくれるだろう」

 

「……ワシらはこの二カ所、北の海岸線沿いと、東北自動車道の方へ逃げたヤツらを追うワケジャな……いや、待つんじゃ……」

ジョセフが何ごとかに気がつき、カーナビの画面を広域表示に変えた。

 

コ” コ” コ” コ” コ” コ” コ” コ” コ” コ”

 

「承太郎さん……もう一つだ。もう一つ、こんな所に……カーナビの画面が切れていたから分からなかった……これもヤバイ奴だ……もうすぐ、集落についてしまう」

ゾンビの『紙』の調査を切り上げ、運転席にもどっていた岸部露伴がジョセフが操作するカーナビの画面を指さした。そこには、他のと比べてひときわ大きい赤い点が瞬いていた。

 

「なんだと……マズイな」

承太郎が顔色を変えた。

「露伴クン、奴が向かっている先に、人が住んでいる所はないかい?」

 

露伴は、手元の地図をパラパラ開き、そしてあるページを見せた。

「ある……あります、承太郎さん。どうやら老夫婦が住んでいる集落の様だッッ」

 

「チッ、ここからだと間に合わねーな……1番近いのは、ポルナレフと仗助のヤツの所か……」

承太郎は携帯を取り出し、盟友、ジャン・ピエール・ポルナレフへ電話をかけた。


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