仗助と育朗の冒険 BackStreet (ジョジョXバオー)   作:ヨマザル

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栗沢六助とオケイ その1

1999年11月10日  夜 [K岩]:

 

「おお――い、ばあさん……オケイばあさんよぉ…わしの猟銃は、どこにやったかな?」

六助爺さんは猟銃を探して、家のあちこちを歩き回っていた。

 

「いやだワ、おじいさん」

ケイ婆さんがホホホと笑った。

「銃なら、先週ほら、スミレが来た時に持って行ったじゃあないですか……ちょっと、ボケちゃったんじゃあないでしょうね?」

 

「なんじゃと? スミレの奴、ワシの銃を持っていきおったのか?」

六助爺さんが驚いて言った。

「もちろん、先週スミレに銃を触らせたわ。だがスミレは、『チョット触るだけですぐ返す』と、言っておったんだがなぁ……あの娘は、嘘だけはつかない子なのに」

 

「あら……」

 

心配そうな顔をしたケイ婆さんを、大丈夫じゃ、そうだった確かに弾を抜いた銃を渡したワイ……と、六助爺さんはあわててごまかした。

だが、その言葉とは裏腹に、六助爺さんは真剣に心配し始めていた。

 

日本は、世界で一番銃の所持が難しい国の一つである。

そしてスミレはまだ17歳だ。――六助爺さんがたっぷり手ほどきした―― その銃の腕前から、スミレは空気銃の所持こそ特例で許されてはいたが、猟銃の所持許可を得ることが出来る年齢には達していない。

 

日本において、勝手に銃を持ち出したらどんなに大変ことになるのか、わからない子でもないだろうに。そもそも犯罪だし、今後、銃の所持許可を得ることも難しくなるだろう。

 

もちろんスミレに限って、銃を間違った目的に使うことはないとわかっていた。悪い男にだまされて、銃を持ち出す……という事もあり得ない。何か困ったことがあれば、必ず自分たち夫婦に相談してくれるはずだ……『あの少年』の事以外は。

 

そういえばあの時、猟銃を見せてくれ と頼みに来たスミレは、少し思いつめたような目をしていた。

六助爺さんは知っていた。

スミレがそういう目をするときは、必ず『あの少年』に関連したときなのだ。『あの少年』……親を殺され、得体のしれない組織によって『怪物』にされた、礼儀正しい少年:橋沢育朗に関連した何かだ。

 

六助爺さんは銃を探すのを諦め、裏庭の物置へと歩いて行った。

 

そこは、六助爺さんが初めてスミレと、育朗の二人と出会った場所であった。

 

あの朝、ケイ婆さんが、二人がここで震えているところを見つけたのだ。二人は追っ手から逃れるためにここに隠れていた。あの時の二人の疲れ切った様子は、忘れることができない。

 

六助爺さんは思い出す。

 その夜、和やかに4人で話した夕食の事を

 深夜に訪れた、『政府の人間』のふりをした襲撃者の事を

 スミレがさらわれ、彼女を助けるために1人出かけた育朗の顔を

 

そして、

 疲れ切ったスミレが ――育朗を連れずに―― 戻ってきたときの表情を……

 

自分たちの家に再び戻ってきてからずっと、スミレは育朗にいつか会えると信じているようであった。

六助爺さんとケイ婆さんは、内心、残念だが育朗は死んでしまったのだろう とあきらめていた ――表面上はスミレに合わせ、育朗が戻ってくるのを待っているふりをしていたが――

 

あの時、スミレの話を聞いた限りにおいては、状況は絶望的に思えた。

そもそもあの少年が元気だったら、8年もスミレをほうっておくはずがないのだ。

 

思いついて家に戻り、電話からスミレの携帯電話にかけてみたが、やはり不通であった。

 

スミレ…… こんな時ではあったが、六助爺さんは、この8年間 もてる愛情をたっぷり注いで育てた愛娘の事を愛らしく そして 誇らしく思いやった。

スミレは、杜王町の高校生宿舎で1人暮らしをしているのにか、ほぼ毎週のように自分たちの家に顔をだし、なにくれなく色々やってくれる。

彼女の存在が無くなった生活など、今の六助爺さんには想像もつかない事態だった。彼女が笑い、話す言葉にどれほど魅了されていたか。傷ついた心を、どれだけ救ってもらったか。

彼女は確かに血がつながった本当の子供ではない。だが、六助爺さんとケイ婆さんにとっては、実の子供以上の存在と言ってもいいかもしれなかった。

 

田舎暮らしがいやで、都会に出て行った三人の息子など、実の子供ながらまったく実家に顔を出しに来ない。長男など、風のうわさでは結婚し、孫までが生まれたらしいのに……一度も孫の顔を見せてくれたことがない。

長男のことを思い出し、六助爺さんは鬱々とした気分になった。やはり、自分はよい親ではなかったのか。

 

実はスミレにも、顔も見たくないほど嫌われているのでは……

 

子供はスミレだけではない。もしかしたら他の子にもまだ何かしてあげられることはあるかも知れない。時間がある時に、考えてみなければ。

まだまだ元気なつもりだが、もうじき67歳になるのだ。

いつまで元気でいられるのだろう? 誰にも言わないが、最近はふとそんなことを考える事も増えてきていた。

自分はともかく、気にかかるのは、ばあさんとスミレの事であった。

あと少し、あと5年も元気でマタギを続けていられれば、なんとかスミレに大学まで行かせてやる事ができる。

 

悲しい事だが、育朗のことを忘れられれば、あの子も幸せになれるだろう。もしかしたら、孫を抱くことも出来るかもしれない。

あの子が結婚するところを、この目で見たいものだ。

 

六助爺さんは独り言を呟いた。

 

なにやら気がせいてたまらなかった。

猟銃が一本なくとも、まだ武器はある。

六助爺さんは少し考えて、残っていた二本目の猟銃の手入れと、遠出の準備を始めた。

 

もう少し日が昇ったら、少し、この辺りを――海の方向でも――見回ってみよう。

 

――――――――――――――――――

 

 

1999年11月10日  夜 [R峠]:

 

まるで、美味しそうなアイスクリームに齧り付く子供の様にも見えた。

オリジナル・バオーは両手両足でアンジェラを抑え込むと、たっぷりと時間をかけて、その『匂い』を件分していた。

「バルンッ」

オリジナル・バオーが、能面のように無表情な顔をアンジェラの目の前に突き付けた。ザワザワ……額の触角器がざわめき、アンジェラの額をくすぐる。

 

「う……うっ……」

アンジェラは、圧倒的な暴力の塊が自分に触れている感覚に、自分を調べている恐怖に、必死に耐えていた。育朗の意識がない今、このオリジナル・バオーは、まさに一匹の獣も同然なのだ。

野生のライオンの群れに紛れ込んだほうが、いまの状況より遥かにマシと思えた。それは、例えれば戦車の砲身に括り付けられている様な感覚だ。

戦車の乗り手、寄生虫バオーのほんの一瞬の気紛れで、アンジェラの命が無残に終わる事は間違いなかった。

この、オリジナル・バオーに押さえつけられている自分の手足、これが次の瞬間に溶けださない保証がない……

 

「ブル……」

幸いな事に、アンジェラの匂いに満足したバオーは、アンジェラの検分を止めた。そして、今度はアンジェラからエルネストに視線を移した。

「!?」

……次の瞬間、バオーはまるで獲物におそいかかろうとする飢えた狼 のように後足をたたみ、エルネストに向って身がまえた。

 

「くっ……」

波紋でマヒしている体に鞭打って、エルネストはよろよろと立ち上がった。

身構えるバオーに対抗しようと、スタンドを出現させる。

だがエルネストのスタンド、オエコモバは現れたかと思ったら直ぐに瞬き、消えた。

「な……なんだと、スタンドが出ない」

エルネストは動揺して、その声が裏返った。

「……ばかな………こんなはずはない……お……俺は、DIO様の魂のお力を、最も強く受け取ったのだぞッ!」

 

アンジェラにはわかった。

エルネストの症状は、まさに『波紋』による神経の麻痺症状だ……おそらく、神経の麻痺により、一時的にスタンドを出現させることに支障が出ているのだ。

 

「バル……」

バオーが、今にもエルネストに飛びかかろうという様子を見せた。

先ほどのアンジェラに対する様子とは異なる、明らかに敵を倒そうという動きだ。

 

エルネストは麻痺している首をガクガクと回し、アンジェラを睨みつけた。

……そして、ゲラゲラと笑い始めた。

「ここまでか……ヒヒヒヒ」

エルネストは笑い、そして自分の腹に手をかける。

「DIO様……今お返しします」

エルネストは、熱にうなされている重病患者のように、強い酒を煽った後のアルコール中毒者のように、神を信じる狂信者のように、宙を見つめ ……

スタンドを、出現させた。

――チカチカと揺らめく、今にも消えそうなオエコモバの翼が、そっとエルネストに触れた――

 

ドヴァンッ!!

 

「ウォォォォォ!!!」

爆弾と化したエルネストの腹から、炎が噴き出した。

それにも構わず、エルネストは火を噴く自分の腹に指を突き入れ ――まるでそこに扉でもついているかのように―― 自分の腹をパックリと開いた。

 

「なっ……」

凄惨な光景に、アンジェラは目を覆った。

 

ヌプッ!

 

と、なぜかエルネストの腹から、血まみれの手が飛び出した。強大なパワーに溢れた、だが包帯に覆われた、どこか病的な印象のあるスタンドの両腕だ。

 

「ビィャアアアッ!」

全身から炎をあげ、血まみれのエルネストが叫ぶ。

「あ" あ"  あああぁツ……DIO 様、DIO様ぁぁ―――!!」

エルネストの腹から現れた腕は、二の腕まで突き出された ――そのあとに続くはずの顔は見えない―― そして、ひじを直角に曲げ、さらに手首をくるっと曲げ……そのままエルネストの胸をえぐった。

 

「あ、あ"あ"あぁぁぁ"ぁ"ぁ"アア―――――ッッ!!!!」

 

そのスタンドの腕は、エルネストの胸部をえぐってコインを奪った。そして、もう一つ、エルネストの頭部に指を突き入れ、そこから『何か』を引き抜こうとする。

 

「ウォォォォォム!」

血まみれのエルネストに、バオーがおそい掛かるッ!

 

スタンドの腕は、エルネストの頭から『何か』を引き抜いた。

そして、またエルネストの腹へ、闇へと、きえていった。

 

残されたエルネストが、迫りくるバオーを睨みつけた。

「バオーよッ!俺は貴様にはや・ら……レンッ!!!」

バオーの攻撃よりわずかに早く、再びオエコモバが出現した。

姿こそびっくりするほど小さくなっているが、今度はスタンド・ビジョンがくっきりと見えている。

そのオエコモバの翼が、まるで繭のようにエルネストの全身を覆う。

 

ボフゥン!!

 

……エルネストは、自分のスタンド能力で自らを爆破し、塵となって消えた。

 

 

 

「アンジェラ、大丈夫?」

崖の上からスミレと、橋沢育朗の幽霊:ブラック・ナイトが顔をのぞかせた。

 

『バオー、お前か?』

育朗:ブラック・ナイトが、バオーに話しかけた。

 

「ブルッ」

 

オリジナル・バオーは育朗の存在を感じると、上を見上げた。

「バルルルンッ」

 

『バオー……お前、どうやってあの土の中から脱出できたんだ……?』

 

「バルッ」

 

一瞬、まるで対話をしているかのように、育朗:ブラック・ナイトとオリジナル・バオーの視線がぶつかった。 

 

そして、オリジナル・バオーは、唐突にアームド・フェノメノンを解いた。

まるで糸を切った操り人形のように、急にガクンと崩れ落ちるバオー:育朗の体を、アンジェラはあわてて支えた。

パラパラ…… バオーのプロテクターが剥がれ、その下から育朗の肌が、素顔が現れ始めた。

 

     ◆◆

 

「……バオー・ブル・ドーズ・ブルーズ・フェノメノンッ!」

 

育朗の薬指から飛び出した小さな注射器が、アンジェラに『バオーの体液』を送り込んでいった。

注射器から染み渡る薬が、アンジェラの体を冷たくしびれさせる。だがしばらくすると、怪我をしている部位が熱く、ほてっていき……そして痛みと出血がだんだんと無くなってきた。

 

先に治療を受けていたスミレも、だいぶ気分がよくなったようだ。

酷く痛めていた右手も、治療を受けた後は随分マシになった様子であった。

 

「これで、怪我の治りが早くなるはずだよ。二人とも、ひどい怪我だ。しばらくは休むといい」

大変な目に合ったんだね……再び自分の体を取り戻した育朗が、優しくスミレたちに言った。

 

「……ありがと、いくろう……」

スミレが、モジモジと言った。

 

「どういたしまして」

だが、本当にもう無茶はやめてくれよ。

育朗はそういうと、ポム とスミレの頭をなぜた。

 

ボッ

スミレの顔が、赤くなった。

 

「ふむ……アナタが橋沢育朗クンね」

初めまして アンジェラがしげしげと育朗の顔を覗き込んだ。

「なるほど、イケメン君ね……まあ私は外見重視派じゃあないから、スミレとはかぶらないわね そうそう……ゲフッッ」

 

ちょっとッッ、

スミレはアンジェラの背中を強くたたいた。おしゃべりなアンジェラが、それ以上余計なことを口にしないように睨みつける。

 

「わかったわよ、スミレェェ……それで……育朗クン、君のその力で助けてほしい事があるのよ」

アンジェラは、よく事情が分からずニコニコしている育朗を、億泰と噴上のもとへと連れて行った。

 

「噴上クン……これは……」

育朗は、意識のない二人を見て笑顔をひっこめた。

 

すぐに育朗は、二人へブル・ドーズ・ブルーズを放った。すると、硬直していた億泰と噴上の体がしだいにに弛緩していき……やがて二人が意識を取り戻した。

 

「う……」

 

「オクヤスッ!目が覚めたのねッ。良かったあ〰〰」

スミレが億泰に飛びついた。

 

「おっおお~~」

状況を良く掴めずカチンコチンに固まっている億泰を、育朗が少し強張った笑顔で見ていた。

 

「何ぃ、億泰ぅ きさま、この裕ちゃんをさておき……」

同じく意識を取り戻した噴上が、億泰にかみついた。

 

「スミレ……億泰が困ってるよ〰〰それに、いいの?」

アンジェラがスミレを突っついた。

 

「?あら、イヤだッ」

はっと我に帰ったスミレは、億泰を突き飛ばした。

 

「ぐォッ!」

億泰はゴロリと転がり、地面に背中をぶつけ、目を白黒させた。

 

「プーダァ!」

億泰のポケットで眠っていたインピンが、抗議の声を上げて億泰の下から這い出してきた。インピンは、フンと億泰に顔を背け、スミレに飛びつくッ。

 

スミレはインピンを頭に乗せたまま、少し困った顔で、育朗、億泰、そしてアンジェラと噴上を何度も交互に見やった。そして、幸せそうに笑い出した。

その笑いに誘われるように、育朗も、億泰も、噴上も、アンジェラも笑い出した。

 

笑うたびに、その笑い声は大きくなり、楽しい気持ちが止まらなくなっていく……

 

バミィイイッン

 

だが、皆が笑っている中で、突然スミレのWitDが出現した。

不意に現れたスミレのスタンドに、皆の笑いが止まった。

 

「何?スミレ……どうしたの?」

育朗が、気遣わしげにスミレの顔を覗き込んだ。

 

スミレは、こわばった顔で指先を近くの岩 ――エルネスト達がやってきた方角だ―― に向けた。

「見えた……『彼』が来る……もうすぐよ」

 

「彼?」 もしかして……と顔を上げたアンジェラに、スミレはうなずいて見せた。

 

「そうよ……あなたの探している人よ」

 

 

 

コォオオオオオ……

アンジェラは複雑な表情で『波紋』の呼吸を再開し始めた。

「念の為……念の為よ……『波紋』をみんなに流すわ。チョッピリだけどみんな少しは回復できるはずよ……」

 

「このにおい……そうか、ヤツかよ〰〰っ」 

噴上もまた、少しおびえたように言った。

「マジか……あいつ、マジなのかよぉぉ〰〰〰 ッ」

 

バリィ!

 

突然、育朗の額の上部 髪の生え際の部分の皮膚が裂けた。そこから『バオー』の触覚器が出現した。

「……そうか……来るんだね『仗助』君が ―― 噴上くん、僕も彼の『意思』の匂いを感じたよ」

育朗は、自分が『気配を感じたい』と念じただけで『バオー』の触覚が出現したことに驚きを感じながらも、顔を引き締めた。 

スミレはもとより、アンジェラも、億泰も、噴上も 負傷が酷く戦う事は出来そうもない。

もし『仗助』が敵として現れたのなら、自分が対抗するしかないのだ。

(僕に、出来るのか……彼を『殺さず』戦闘不能にするような戦い方が)

育朗は、バオーの高すぎる殺傷能力を思い、ひそかに苦悩した。

 

「!?なんだよ、仗助がくるってのか? みんなどうしてわかるんだよ?」

億泰は、まだマヒが残る体を何とか動かそうと奮闘していた。何とか立ち上がったかと思うと、すぐによろけ、しりもちをつく。

その億泰に、アンジェラが『波紋』を電流のように流した。

億泰のマヒが、徐々に解消していく。

 

「ぷーだぁ」 

インピンは、いつの間にか舞い戻っていた億泰のポケットに波紋を流され、びっくりして飛び出すと、再びスミレの髪にへばりついた。

 

ブルンッ

 

バイクの音が聞こえてきた。

WitDの予知どおりの位置から、一台のバイクが音を立てて走ってきた。バイクとその乗り手が一行の目の前に姿を現す。

そして……

 

「億泰ゥ―それから噴上も……アンジェラも無事だったのかよォォ〰〰〰 ッ ホッとしたぜぇ」

 

「!?っ、マジだったかよ」

 

「仗助ぇ……」

 

┣¨ ┣¨ ┣¨ ┣¨ ┣¨ ┣¨ ┣¨ ┣¨ ┣¨ ┣¨

 

そこに立っていたのは、やはり東方仗助だった。

仗助はヒラリとバイクから降り、皆の前で腕を組んだ。

 

「――アンタが、予知能力が有るッて言うスミレ先輩ッスね。成程、美人っスね――」

はじめまして……仗助はペコリとスミレに挨拶をした。

「どうやら、エルネストの野郎もやられちまったかぁ――」

しかたねー奴だ。だが、お前らが相手じゃ当然かもな。

 

パシュッ

 

仗助は、懐から緑色の網を取り出した。自身のスタンド、クレイジー・ダイヤモンドの指先でそれを一行に向けて弾く。

 

だが……

「おりゃっ」

 

シュルルルッ

 

網は不意にその軌道を変え、億泰の目の前に現れ……

「ほらョッ~」

億泰のスタンド、ザ・ハンドの能力でかき消された。

 

「グレートだぜ、億泰ゥ」

仗助はヘへへッと笑って、ポケットから別の網を取り出し ―― 舌打ちして投げ捨てた。

「何だよ……チャダの奴もやられちまったのか」

でもやっぱりだな、奴はだらしがねー奴だったし、さすがはポルナレフさんッて事っすか。仗助は不敵に、そして少し嬉しそうに笑った。

「さて、これで先輩達にとって、敵はあと1人って事っスね。……残ったのはオレ独りってわけだ」

仗助が肩を回した。

「……だが、今のあんた達のなかでマトモに戦えるのは、アンタ独りだろ……こいよ……育朗クン………第二ラウンドだ」

 

┣¨ ┣¨ ┣¨ ┣¨ ┣¨ ┣¨ ┣¨ ┣¨ ┣¨ ┣¨

 

仗助は、橋沢 育朗を指差した。

 

「仗助クン……君も僕と同じように肉の芽を植え付けられているだけだ……君は敵じゃあない」

戦わない方法はないのかい?育朗は首を振り、尋ねた。

 

「!?そうよッ、仗助、私の言うことを聞い……ガフッ」

 

仗助は、何かを言いかけたアンジェラに向かって、脱いだ学ランを投げつけた。

 

思わず受け取った学ランが変形し、アンジェラはあっという間に拘束された。

 

「……口で何を言っても、無駄っすよ……アンジェラ先輩、育朗先輩」

仗助は、スタンド:クレイジー・ダイヤモンドを出現させた。

機械と鎧が融合した騎士、筋骨隆々のその姿は、それは、ただならぬほど強力なパワーを持っていることを、その姿が『見える』者達に容易に感じさせる。

 

コ” コ” コ” コ” コ” コ” コ” コ” コ” コ”

 

┣¨ ┣¨ ┣¨ ┣¨ ┣¨ ┣¨ ┣¨ ┣¨ ┣¨ ┣¨

 

「……そうだね……仗助君、第二ラウンドだ……バオー 僕に力をッ!」

育朗は両腕を顔の前でクロスさせるようにした。そして、人間とは思えないほどの跳躍力で飛び上がった。

そしてちょうど跳躍の頂点で、育朗の体からスルリと青白く光るものが抜ける。育郎のスタンド、ブラック・ナイトだ。

 

バラ……バラ・バラバラッ

 

育朗は、空中でクルリと一回転して着地した。その体は一回り大きくなっており、肌が青白く変色していた。

その肌を育朗の手がかきむしると、バラバラと肌の一部が崩れた。顔の肌の下にある黒っぽい目が、のぞいた。

 

そう、もうそこにいるのは、育朗ではなかった。

 

これが、これが、これが、バオーだッ!

 

鋭い牙をもつ肉食獣の様な、青白い異様な外見を持つ人型の生体兵器。

現代の狼男。

その姿はまさに怪物であり、ただ立っているだけで、それの持つ悪魔的な強さ、恐ろしさを周囲に感じさせていた。


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