仗助と育朗の冒険 BackStreet (ジョジョXバオー)   作:ヨマザル

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スタンド図鑑

スタンド名:ファイヤー・ガーデン
本体:グレッグ・ミューラー(メネシス)
外観:本体一体型
タイプ:特殊能力型
破壊力 - B / スピード - C /射程距離 - E / 持続力 - A / 精密動作性 - E / 成長性 - E
能力:暴走しており、体から常時炎を出し続けるスタンド。本体は焼かれ続けるが、このスタンドで受けた傷に限り負傷とほぼ同時に傷が治っていく。(つまり、自分のスタンド能力で死ぬことはない)本体から出た炎は燃え方を操る事ができる。


スタンド名:コールドプレイ
本体:モニカ・デュバル(メネシス)
外観:本体一体型
タイプ:特殊能力型
破壊力 - C / スピード - C /射程距離 - D / 持続力 - A / 精密動作性 - E / 成長性 - E
能力:触れたところや近くの空中に氷を作る能力だが半分暴走しており、本体が触れたものの温度はすべて零度になってしまう。空中に作れる氷は大きめのスイカ程度。ちなみに、凍らせるだけで溶かす能力はない。



寄生虫バオー その3

「やだやだ……あの子、まだ開き直れてないようねェ」

仗助の後姿を見ながら、マキシムがわざとらしく笑い声をあげた。同意を求め、隣のチャダに話しかける。

「……あんた?ちょっとは返事しなさいよ」

 

チャダは話しかけてくるマキシムを無視して、ポケットから何かを取り出した。

それはコインだった。

チャダは一枚のコインを、つい先ほど仗助が出て行ったドアに張りつけ……そのドアを開けた。

すると、理屈に合わないことにそのドアの先には『南国の昼間の景色』が広がっていた。

ドアの先には、プールと、さらにその先に、海まで見える。

 

(!?なんだ、こりゃあ?)

ポルナレフは首をかしげた。なんとなく、なんとなくだが、その景色に見覚えがある気がする。

 

「チャダ……だからアンタ、いったい何をしてるのよ?」

眩しそうにマキシムが言った。

 

「何って、コインの回収ですよぉ」

チャダはそう言うとピーターの体を確認して、舌打ちした。

「あらら、コインがありませんね。ジョースケが彼の怪我を直したときに、コインも一緒に戻ってくると思ったんですがねぇ――」

フン……ホルホースさん達のポケットにもないみたいですねェェ。どうしましょうか?

 

チャダは携帯を取出し、ピーターの体にコインが残っていないことを話し相手に伝えた。そして、首を横に振り振りマキシムの方を向いた。

「さてと……ピーターのコインは残念でしたが、あと一つ回収できそうなコインがここにありますね……」

チャダはマキシムに向ってニタニタと笑いながら手を伸ばした。

 

「ちょっと……あんた、まさか……私のコインを奪おうっていうの?」

マキシムは警戒心もあらわにチャダの手の届かないところに飛びのき、自分のスタンド:イエロー・テンパランスを出現させた。

「……警告しておくわよ。私に少しでも触れようとしたら、あんたの体を喰ってやるわ」 

コインは渡さない。マキシムは歯をむき出しにした。

 

「何言ってるんですか?」

チャダが首を左右に振った。

「マキシムさん、ワタシのスタンドは無機物と同一化するスタンド、生物を喰らうアナタのスタンド能力の対象外じゃあないですか」

それに、あなたのスタンドには興味ありません。

 

「うるさい!近づくなッ」

マキシムは先手必勝とばかりに、イエロー・テンパランスをチャダに飛ばした!

「DIO様のお印を渡すものかッ!」

 

だが、チャダのスタンド:プライマル・スクリームは、すでにマキシムの足元まで侵食していた。

チャダ本体がイエロー・テンパランスを喰らうよりも早く、プライマル・スクリームはマキシムを拘束した。そして扉の向こう ――太陽の元へ―― 放り飛ばした。

 

ブワン!

ザザザザァァ……

 

「Dummmmmmmn!」

マキシムが、悲痛な絶叫をあげた。

扉の向こうの『強烈な日光』に照らされたマキシムの体が崩れていく。髪が、頭皮が、塵となり、その奥に隠れていた白い頭蓋骨が露出していく。その頭がい骨さえも、グズグズと崩れていく。

「XaXXXzuaDebzat!!!!!!!」

マキシムは両手をついてはいずり、何とか日陰に行こうとした。だがその両手が、あっという間に塵となってくずれ……空しく陽がサンサンと当たる地面をのたうちまわる。

そして、あっけなく全身が塵になり、マキシムは消えた。

 

最後には、コインだけが地面に転がり、太陽の光を反射して輝いていた。

 

残ったそのコインを、扉の向こうにいた人物が回収するのが見えた。

――だが、逆光で顔は確認できない――

 

扉がしまった。

 

「あれまぁー、きれいさっぱり消えちゃいましたね……さてと、ワタシはゆっくりしますか」

チャダは何の感情もなく、マキシムが消えるのを見終えて大きく伸びをした。

 

と……

 

パシュッ!!

 

「アギィッ!?」

 

振り返ったチャダの脳天に、チャリオッツのレイピアが突き刺さった。

ポルナレフの最後の奥の手だ。チャリオッツのもつレイピアの剣先を、チャダに向けて飛ばしたのだ。

 

「俺たちを舐めたな、馬鹿な奴だ」

ポルナレフが言った。

 

「あぐうぅ」

後向きに倒れかかったチャダは、運の悪いことに、ホル・ホースが構えていた銃口の真正面に、その身をさらした。

 

――――――――――――――――――

 

 

1999年11月10日  夜 [R峠]:

 

「!?」

スミレはWitD の予知に従って、地面に飛びこむように前周り受け身を取った。

 

ついさっきまでスミレが立っていた所を、グレッグの炎の鞭が抉った。

地面に飛び込んだ衝撃で、 またもや右腕に激しい痛みがおそう。

 

ガガッガッガッ!

 

激しい痛みをつとめて無視して、スミレは拳銃でグレッグの頭を狙撃した。

ポルナレフから受け取っていた、二丁目の拳銃だ。

 

弾丸の元々の狙いは確かだった。

だが、グレッグの周囲を渦巻く激しい上昇気流によってその軌道はそらされた。

グレッグのスタンド:ファイヤーガーデンの吹き出す炎が周囲の空気を暖め、激しい上昇気流を作っているのだ。

グレッグの肉体は、自身のスタンドが出す熱により焼け爛れ、どんどん炭化し、蒸発していく。……だが、その同じスタンドの能力なのか、その肉体は燃えていくのとほぼ同じ速度で回復していく。

そのため、たとえ命中しても、弾丸の威力は上昇気流の壁と、熱によって弾が溶かされていることで、威力が半減しているのだった。

加えて、超回復力により、銃撃によって受けた傷もどんどん治っていく……

 

だが、たとえ威力は半減していたとしても、どんどん回復されたとしても、スミレにできるのは銃撃を続けることだけだ。

銃弾は確実にグレッグの急所をとらえ、着弾のたびにグレッグをよろめかせてはいるのだ。

撃ち続けるしかない。

 

(少しは効いてるッ? やっぱり止めをさすには、どうにかしてあの炎を止めないと……でもどうやって?思いつかない……アンジェラを待つ?駄目よ、アンジェラは1人で二人を相手にしているのよ。私が助けに行かないと)

 

どのくらいこうやって戦っているのか、もしかしたら、まだ大して時間は経っていないのかもしれない。

だが、スミレはすでに疲労困憊だった。 

酸欠で目がチカチカする。銃を撃つたびに鈍器で骨を殴られたような衝撃が右腕をおそう。

 

ガッ ガガガッ

 

それでも尚、スミレは震える手で銃を構え、必死でグレッグの攻撃を避けつつ、弾丸を送り込み続けた。

そして……

 

「Gaxtuuuu」

遂にグレッグが膝をついた。

グレッグは絶叫を上げながら体を掻き毟り、その肌の奥の肉を露出させ……そして、肉があふれ始めた。

全身が膨れ上がったグレッグは、のたうち回りながらもその体をどんどん増殖させていく。

両手など、まるで熊手のように巨大に膨れ上がっている……

 

「Gwyeee!」

咆哮とともに、グレッグが再び立ち上がった。

膨れ上がった体は、もはや人間の原型をとどめないほどの異形と化している。

異形の怪物はスミレに吠え掛かり、一歩一歩、ゆっくりと近づいてきた。

 

「……」

絶望的な状況

だがすでに、スミレの感情はすっかり麻痺していた。

スミレは無表情に弾丸を再装填し、再び銃口をグレッグに向け、機械的に引き金を引く。

弾丸はグレッグの周囲を覆う炎に、からめ捕られていく。

 

「Buooooh!」

グレッグが、まだホンのチョッピリだけ原形を留めているその右手で、刀を振り上げた。

刀からも、炎が吹き上がる……

炎の熱で空気が揺らめき、景色が歪む。

 

(ああ……クッソッ!!…これは避けられないわ。 もう少しだったのに……育朗、ゴメンッ)

炎をまとった刀が、スミレにまさに振り下ろされようとする――― その時だッッ。

 

ジュワッッッ

 

……スミレが思わず閉じていた目を開くと、目の前には、まるで幽霊のように透き通った青年の『ビジョン』があった。

青年の『ビジョン』が、グレッグの持つ炎の刃を両手のひらで抑えているのが見えた。

 

『ウォオオオおっ』

その青年は炎の刃をグレッグから簡単に刀をひねりとり、未だ燃えているその刀身を、叩き折った。

 

その声は???

 

スミレの胸が、トクン と鳴った。

 

「Gsxyaaaa!」

グレッグの拳が、青年をおそうッ。

だがメネシスの拳は、何の障害も、ダメージを与えることも無く、青年の幽体をただ突き抜けた。

 

一方で、その腕から吹き上がる炎は、青年の幽体を焼いた。

青年は、苦悶の喘ぎ声を上げた。

苦悶の声を上げながらも、青年はその苦しみに怯むこと無くグレッグに取りつき、その体で噴き出る炎を叩き消そうとしていた。

『撃て、スミレッ!!』

その幽霊の青年、橋沢育朗が、スミレの方をシッカリと振り向き、叫んだ。

 

「!?はいッ!」

スミレは拳銃を構え、育朗が抑えているグレッグの眉間に弾丸を送り込んだ。

 

バシュッ!

 

「Agiiiiiiixtu !」

炎の障壁を失ったグレッグは、眉間を正確に打ち抜かれ、静かにたおれた。

 

「育朗ッ!!」

スミレは育朗の幽霊に両手を伸ばした。

懐かしい育朗の笑顔、シッカリと肉のついた体、手

……だがスミレの手は、育朗の体を突き抜けて、ただ空を掴んだ。

「あぁああ……」

 

育朗は少し困った様に、まるで泣いているかのように顔をくしゃくしゃにして、笑いかけた。

『スミレ……かい?』

 

スミレは、ゴシゴシと強く目をこすった。

眼をパチパチさせ、大きく息を吸って……にっこり笑った。

「……久しぶりねッ! 橋沢育朗クン」

 

『スミレ、やっぱり……大きくなったね』

まるで満月が山影から顔を出すように、育朗の顔がみるみると明るくなった。

 

「ちょっとッ、大きくなった、だってぇ?」

スミレは髪の毛をかき上げながらむくれて見せ、すぐに真顔になった。

「ねえ、むちゃくちゃしないで……メネシスの炎をその……ゆ……スタンドの体で消そうなんてさ」

 

『他に方法が無かったからね』

育朗が肩を竦めた。

炎に炙られた育朗の体は、幽霊の体にも関わらず黒く焦げ、ところどころが欠落していた。

 

当然、育朗は酷くダメージを受けていた。

育朗の声の端々からは隠し切れない苦しさが漏れていた。そして育朗の幽体自体も、まるで壊れかけたテレビに映る画像の様にその像が薄れ、時折チカチカとまたたく。

 

「ホント――バカなヤツ……無茶しないで」

スミレは両手で包み込むように、そっと育朗の顔の輪郭――幽体の――をなぞった。

 

『いつだって、支えるさ』

今は君に触れられないけどね。

育朗はそういうと幽体の手を伸ばし、スミレの頭をそっとパフパフした。スミレの髪が育朗の手を突き抜け、ピョコンと反対側に飛び出す。

 

「コラ、ジョシコーセーに『触る』ですってェ」 

それはセクハラよぉ。スミレは涙でぐしょぐしょの顔を無理やり歪めて、笑い顔を作った。

「………」

両手で丸く輪を作った。

そしてそっと、目を閉じる。

 

『スミレ……』

スミレが作った腕輪の中に、育朗の幽体が入った。

育朗も手を伸ばし、スミレを包み込んだ。

 

育朗のオデコとスミレのオデコが、ゆっくりと近づいていく――

 

と、スミレがブルブルッと首を振った。

「イケナイワッ!ダメ、駄目ヨ、今……この下でアンジェラが戦っているの。早く助けに行ってあげないと」

 

『そうだね……』

育朗は、にっこり笑った。

 

――――――――――――――――――

 

 

(これが育朗クン?……違うわね ――育朗クンの意識はないみたい―― 動きが人っていうより、動物っぽいわ)

アンジェラは、オリジナル・バオーの背中を見ていた。絶体絶命の危機を脱したことを、いまだに信じられない気分が続いている。

(でも育朗クンの意識がないとしたら、どうして、オリジナル・バオーが私を助けるわけ?そもそも、どうやって大岩の下から脱出できたの?)

今、目の前で起こっていることが、よく理解できない……

 

パスンッ!

 

突然、オリジナル・バオーのリスキニハーデン・セイバーが煙と化した。

アンジェラを庇ったため、代わってオエコモバに爆破されたのだ。

 

「バルッ」

バオーにはスタンドは見えない。

しかし、エルネストの殺意の匂いを嗅ぎとることは出来る。

嫌いな殺意のニオイが再び強くなるのを感じ、バオーは、身構えた。

 

「バオー!!懲りずに現れたか……今度は塵一つ残さん!」

貴様は用済みだ。すでに貴様を超える素体を回収してるのだよ。

エルネストが叫んだ。

エルネストの叫びに呼応して背中の翼が大きく広がり、オリジナル・バオーに向かって打ち下ろされたッッ。

 

バオーには、その翼の攻撃は見えていない……

 

ガシンッ

 

だが、オエコモバの翼による一撃は、アンジェラによって弾かれた。

 

「よそ見するんじゃあ無いわよ……アンタの相手は、ワタシ」

 

「馬鹿なッ。貴様、我がスタンドに触れておきながら、何故爆弾化せん?」

エルネストが戸惑ったように言った。

 

「フフフフ……知りたいの?……種明かしは、弾く波紋よ。弾く波紋でアンタの能力を弾き返してやったわ」

へへへっとアンジェラが笑った。

「そうよ……信じるべきは『汗』、流した『涙』、『努力』の量よ………アンタを倒すのは『波紋』だったんだわ。スタンドの操作に使っていた集中力を、より強い『波紋』を錬ることに使う……覚悟しなさいよ」

 

コォオオオオオォォォオオオオオォォオッ!!!

アンジェラの体が、うっすらと光り輝き始めた。

 

「バルバルバルバルバルンッ!」

その横で、バオーは確かに感じていた。

強烈な悪意の匂いを。そして、それに対抗しようとしている黄金のような美しい匂いをッ、太陽の様な生命力溢れる匂いをッッ。

目の前には『キライな悪意の匂い』をはなつ敵がいる事も、わかっていた。

だがバオーは思った。

(この悪意の匂いを止めるのは、自分ではない) と

自分の敵は、嫌いな匂いは、まだ他にもあった。

バオーは、すぐそばのもう一つの『腐臭に満ちた悪意の匂い』に向き合った。

(そうだ、自分の敵はコイツだ。この嫌な匂いを止めてやるッ)

バオーは思った。

 

「ハハハ」

エルネストは、バオーがくるりと自分に背を向け、モニカ におそい掛かるのを見て笑い声を上げた。

「馬鹿が、二人同時に攻撃してくれば貴様らにもチャンスもあったものを……ほんのチョピリだけ現れた逆転のチャンスを、自分達でフイにしおって」

 

プッッ

 

エルネストは懐から水筒を取り出し、グイと一口クチに含んだ。

それを、霧吹きの要領で吐き出すッ!

 

宙を舞う水滴を、オエコモバの翼がアンジェラへ向かってはたき飛ばした。

オエコモバの能力、爆弾化ッ。その能力で、水滴の一つ一つにスタンド爆弾の信管を付けるッ!

 

「ヒャッヒヤッ!!跡形も無く吹き飛べッ」

エルネストが笑った。

 

コォォォオオゥ

 

だがアンジェラは引かないッ。

スケーター・ボーイを出現させ、水滴で出来た爆弾の霧に、むしろ自分から突っ込んでいく。

 

ガキィィ!!

 

爆弾の霧がアンジェラに触れた。霧の粒が集まってより大きな水滴となり……

 

プルンッ

 

水滴爆弾は、まるでゼリーの様に震え……爆発しなかった。

 

「馬鹿な」

エルネストが唖然とし、あわてて自分の身を守ろうと防御の姿勢を取る。

だが、遅い!

 

コォォォオオ―――――オオッッ

 

「ふるえるハート!燃えつきるほどヒ――――――ト!!喰らえ、サンライト・イエロー(山吹色の)・オーバードライブッッ!!!」

懐に入り込んだアンジェラの拳での一撃が、エルネストの周囲を覆う翼:スタンド、オエコモバを粉砕ッ

アンジェラの拳は翼を突き抜け、エルネスト本体に届き ――波紋をエルネスト本体に流したッ!

 

グウィイイイイインンッッ

 

「ギィィィイッッッッッッ!」

全身に波紋を流され、スタンドを粉砕されたエルネストは、全身から血を噴き出した。

 

「ヒーッヒ――……ヒー」

アンジェラは跪いた。

両手を地面につき、何とかして呼吸を整えようとする。

「どう、波紋は流れたのかしら……こっ……これが限界……」

 

エルネストがもがいているすぐ隣で、アンジェラは、まるで電池が切れたオモチャの人形のようにぐったりとしゃがみ込んだ。

 

     ◆◆

 

「バルバルバルバルッ!」

一方オリジナル・バオーは、もう一体の敵と戦っていた。

オリジナル・バオーの相手は、DRESSが作り出したバイオロジカル・ウェポンの最高傑作であるメネシス、その最後の一体であるモニカであった。

 

「Uruuuuuu!」

モニカは何やら意味不明な叫び声をあげ、その強大な力で、手に取り付けた鉄球を振り回していた。

その鉄球の速度、威力は絶大であることは、たまに鉄球が地面や立木にあった際に、対象を文字通り粉砕してしまう事からも知れる。

幾らバオーが驚異的な回復力を持っているとしても、それはあくまでも生物 としてのそれだ。もし一瞬で身を砕き、体を粉砕するレベルの直撃を急所に受けてしまえば、命が危ういのだ。

 

「バルッ」

ジャルンッ!

そんな状況を知ってか知らずか、バオーは両手、両足を上手く使って俊敏に鉄球を躱していた。

そしてその捕食動物的な本能で、隙を見つけて蹴りや拳、鉤爪の一撃を単発ながら確実にモニカに当てていた。

 

いまのところ、バオーにはモニカの攻撃が当たっていない。

 

だが、状況はバオーに不利であった。

 

モニカの身には氷のプロテクターが覆っており、単発攻撃が致命傷となるのを防いでいた。

それにより、攻撃を当てた側のバオーの手足のほうが冷気によって凍り、傷つき始めていたのだ。

 

「バルッ!」

何度かの無駄に終わった攻撃の後、バオーは隙は少ないが威力に劣る単発の拳や蹴りの連打は『効果が薄い』ことを本能で理解した。

そして、バオーはモニカの胴体に飛びついた。

メルテッディン・パルムの強酸でモニカを溶かそうとするッ!

 

「Uruuuuuu !!」 

バリュゥゥンッ!

だが、モニカの体を溶かす前に、メルテッディン・パルムの強酸さえもが凍らされた。

さらには強酸を作り出しているバオーの左手までもが、凍り始めるッッ!

 

「バルンッ」

 

ガ・ガッ・ガッ!ボボッ

 

「Uryxaaaaaaa!」

とっさに氷をシューティングビースス・スティンガーで溶かして距離を取ったバオーに対して、モニカは左腕の鉄球をバオーに叩きつけた。

鉄球はスタンドによって凍らされていた。

そのため、それは触れるだけで深刻なダメージを受ける程危険なしろものとなっているッ!

 

ベリィッッ!

 

バオーはリスキニハーデン・セイバーを出現させ、真正面から鉄球を叩き斬ろうとした。

……だが、鉄球にわずか刃が食い込みはしたものの、鎖から伝わる猛烈な冷気によってリスキニハーデン・セイバーが凍りつき――パキンと刃が折れた。

 

鉄球は、バオーのリスキニハーデン・セイバーによって狙いがそれ、むなしく地面を叩いた。

 

「SDaaaaaaaa!」

モニカが叫んだ。

モニカはその能力で空中に氷の塊を出現させ、それを再び振り上げた鉄球で叩き壊すッ!

 

バシュッ!!!!

 

無数に砕けた氷の鋭い粒がバオーをおそうッ!!

 

「スウォオオオオム!」

モニカに呼応するように、バオーが叫んだ。

 

パシュッ、バシュッ!

バオーの頭部からシューティングビースス・スティンガーが放たれた。

バオーが放つ毛針は、嵐の中で吹き付ける雨粒の様に激しくモニカに降り注ぐッ。

 

ジュウウッ

 

氷の粒が、シューティングビースス・スティンガーに撃ち落とされ、そしてモニカに突き刺さっていく………

燃え上がるシューティングビースス・スティンガー、だがそれは、燃え上がるのとほぼ同時にモニカの能力で一本、一本と凍りついていく。

 

「バルバルバルバル!!!」

 

だが、一本の毛針を凍らせると、すぐさま二本のシューティングビースス・スティンガーが突き刺さる!

 

「Guryyaaaaaa!」

 

「バルバルバルバルバルバルバルバルバル!!!!」

 

しだいに、凍らせるよりスピードよりも早く、次から次へと炎をあげるシューティングビースス・スティンガーがモニカをおそう!

 

「ShyaaaaaaeeeeeAAAAA!!!!!!!!」

やがて、モニカは全身から炎を吹き出し、絶叫を上げて崩れ落ちた。

 

否、まだ戦いは終わっていない。

(まだ嫌なにおいは消えないッ)

バオーは武装化現象を解かず、構えた。

 

「Aaaaaa」

バオーの本能は、正しかった。まるで炎の塊のようになって、モニカが再び立ち上がったのだ。

全身が燃え上がり、生身の部位が骨と内蔵と体内の軟組織の一部、そして筋肉だけとなった状態であったにもかかわらず、モニカは地面を転げまわって炎を消す事に成功していたのだ。

火が消えると、傷ついた部位が剥がれ、そしてまるで風船を膨らませているようにピンク色の肉が膨れ上がり、逆にモニカの体が大きくなっていった。

 

スタンド能力のためか、ピンク色の肉は直ぐにぬらぬらと光る銀灰色に変わり、辺りの温度も急激に下がり始めた。

 

「Aaaaaa!」

モニカはのたうちまわる。

その体からぬらりと尻尾が生え、耳が蝙蝠のように大きくなり、背中から無数の突起が出現した。

 

「Aaaaaa!!」

モニカの顔がまるでサイのように顔が細長く引き伸ばされ、鼻先から角が生える。

 

「Aaaaaaaaaaa!!!!」

モニカは、人型の原形をとどめない程に、まるで恐竜のように変形した。そして、口を大きく開け、イソギンチャクの様に複数のピンク色の触手をウネウネと吐き出し続ける……

その触手が鞭の様にしなり、バオーに高速でおそいかかった。

 

「バルッ」

だが、バオーは四足で岩から岩へと飛び回り、高速の触手の攻撃をあっさりと避した。モニカを切り刻んだ。

そしてモニカに飛びつくと簡単に引き倒し、あっさりと喉を食い破った。

さらに、バオーの両手、両足で暴れるモニカを押さえつけた。

すると、押さえ付けられている処を起点として、モニカの体がグズグズと溶けていく……

 

「Gsxyaaaa!」

モニカはうめき、両手を宙に伸ばそうとして果たせず――息絶えた――

 

「ブルルゥゥ」

モニカを倒したバオーはブルっと身を震わせると、ゆっくりとアンジェラの方を振り向き、大きく口を開いた。

バオーの口は噛み千切ったメネシスの血で、赤黒く染まっている。

 

(ヒィッ)

アンジェラは、思わず上げそうになった悲鳴を必死に押し殺した。

(駄目、大人しくしてバオーを刺激しない様にするのよ。攻撃的な感情を消すの。匂いを探知されないように)

 

そんなアンジェラの思いまで感知している様に、バオーの頭部に生えた触角がワサワサと揺れた。

 

斜面の上からは、立て続けに拳銃の発射音が聞こえている。

(スミレ……ゴメン、まだアナタを助けにいけないわ)

アンジェラは、崖の上でたった1人でメネシスと対自しているスミレの事を思った。確かにスミレはタフな女の子ではあったが、そのスタンド能力はおよそ戦闘向きではない、独りでメネシスと対決させるのは荷が重いはずだ。

(やっぱりゴメンナサイ、私には貴女を助けられないかも……)

 

その時、銃声が響いた。

 

銃声を感じたバオーはピタッと立ち止まった。

バオーは少しの間上を見上げ、銃声がした方角を確認するそぶりを見せた。その後、ピョンと飛び上がり、無造作にアンジェラの上に着地した。


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