仗助と育朗の冒険 BackStreet (ジョジョXバオー)   作:ヨマザル

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スタンド図鑑

スタンド名:ソロウ
本体:ジョージ・ハミルトン
外観:人型
タイプ:近距離 パワー型
性能:()内は特殊能力の性能
破壊力 - C / スピード - B(A) /射程距離 - D / 持続力 - C(E) / 精密動作性 - C / 成長性 - E
能力:自分の時間だけを一瞬(0.5秒だけ)超加速させる能力。尚、0.5秒と言うのは周りから見た時間で、本人にとっては5秒程の時間が経過している。尚、時を加速させなくともギリギリ弾丸を叩き落とす(1・2発なら)程の速度がある。時の加速は連発できず、2秒程度のインターバルが必要。


山岸由花子 その4

「チッ……しぶとい」

ポルナレフは舌打ちした。エルネストと仗助に備えながら、隣のハンターをちらりと見る。

「『育朗』……ハンターは完全にお前の制御下にあるのか?」

 

『ええ、僕の思うように動かせます――ところで……さっきちらっと見たあの子、あの子――スミレですよね』

クシャッと育朗の顔が歪んだ。

『大きくなった……でも確かに面影がある……すぐわかった……』

 

二人が話している間に、仗助がエルネストの手を取り、引っ張り上げた。

仗助のクレイジー・ダイヤモンドに触れられたエルネストは、一瞬でその怪我が『治った』。

「エルネストよォ……次は、俺がいくぜ。お前は俺の指示に従え、いいな」

仗助が言った。

 

「フッ」

エルネストは苦笑した。

「わかったよ、東方仗助、お前の言う事を聞こう」

 

(……あれが仗助クンの能力…… 僕たちは 『爆弾の破壊』 と 『壊れたものを直す』 スタンドを同時に相手にしてるのか)

育朗は、仗助の恐るべき『治す』能力を改めて目にし、顔を引き締めた。

 

ポルナレフも、二人をにらみつけていた。

「……『破壊』と『再生』のスタンドの組み合わせ――厄介だよな」

 

だが、先に相手にすべきは仗助だ。

『強力なスタンド使い二人を相手取ること』

『仗助に致命傷を与えず無力化すること』

この二つを同時に実行することが、自分に出来るだろうか?

ポルナレフは、またチラリとハンターから顔を出している『育朗』の顔を見た。

真剣な育朗の貌。

本来ならこんな戦いの螺旋に巻き込むべきではない、真面目な好青年の戦う貌。

 

ポルナレフの心が、決まった。

「育朗……ここは俺に任せろ――君はスミレに会いに行け」

 

『!?えっ?』

育朗は、きょとんとした顔をした。

 

「お前は、時間を大事にしろ。だからここは俺に任せて、一刻も早くスミレに会ってこい」

ポルナレフがニヤッと笑った。チャリオッツの左手で、親しげに育朗の肩を叩く。

 

「イヤ……悪いけど、そうは行かないっすよ……」

仗助は、壁のかけらをクレイジー・ダイヤモンドに拾わせた。

「この壁を……『直す』!」

壁のかけらを、クレイジー・ダイヤモンドが投げつけた!

ものすごい速度だ。

 

「危ないッ」

ポルナレフと『育朗』は左右に別れ、飛んだ。

二人の間を、壁のかけらが唸りをあげて通りすぎる。

 

ベシャッ……

 

高速で飛んできた壁のかけらは、轟音をたてて二人の背後の壁に衝突した。

が、破片が飛び散る前に、クレイジー・ダイヤモンドの『直す』能力が働く。

壁の欠片は砕け、再びくっつき、まるで粘土のように、ポルナレフが開けた壁の穴を、ふさいだ。

 

「まだまだッスよぉー」

仗助が釘を拾った。

Tシャツの裾を千切った。それは、ポルナレフの返り血がこびりついたTシャツだ。

その血を、釘に塗りこむ。

 

「仗助、私も手伝おうか」

仗助の前にスタンド、オエコモバが浮かんだ。

 

ビュンッ! 

クレイジー・ダイヤモンドが、釘をオエコモバの足元ギリギリをかすめるように撃つッ 

 

『GaaaaaA!』

オエコモバが鳴く。

そして、オエコモバの足元を飛びぬけた釘には――手りゅう弾のピンのようなモノが取り付けられていた。

その、手りゅう弾付の釘に付着した血が『直され』、ポルナレフに向かって飛んでいくッ!

 

「ウォオオオ」

ポルナレフはなんとか避けようと、近くのコンテナの陰に隠れた。

だが、釘はヌルっと飛行する方向を変えた。

ポルナレフ達が隠れたコンテナの方向に真っ直ぐに飛んでくるッ!

自動追尾爆弾だッ!

 

しかも、一発ではない。

仗助は、立て続けに三発の、自動追尾爆弾を放っていた。

 

三発の自動追尾爆弾が、それぞれ異なる軌跡を描いてポルナレフを襲うッ!

 

(ヤバいゼ」

ポルナレフの額に、汗が吹き出る。

シルバー・チャリオッツが、迎撃しようとレイピアを構える。

 

『イヤッ……ポルナレフさん、ここは僕に任せてッ!』

そのとき、『育朗』が動いた。

『育朗』のスタンド:ブラック・ナイトが、ポルナレフの前に立つッ!

 

バシュッ

釘が、スタンドの幽霊であるブラック・ナイトを通り抜ける。

だが、通り抜けるときに、スタンドの影響か、釘についていた信管が外れたッ

 

バフンッ!

 

「馬鹿なッ」

ポルナレフは爆発の直前、カッチュウをはずしたチャリオッツで、『育朗』をハンターの方向へ蹴り飛ばした。

 

そして猛スピードでレイピアを振り回し、信管の外れた爆弾と自分の手前の空気を切り刻んだ。

爆風の前の空気を切り裂き、爆炎を弾き返すッ!

 

ドッグゴォォ――ン!

 

「ウォオオオ!」

自分たちに向かって跳ね返ってきた爆炎を、仗助とオエコモバは必死に避けた。

 

「……ポルナレフさん……イヤ、マジで尊敬するッす」

仗助が言った。

「さすがはDIO様もみとめたスタンド使いっすねー」

 

「はっ、言ってろ……」

 

そのとき……

 

ぐにゃりっ

 

突然、ポルナレフ達の背後の壁がゆがみ、膨れ上がった。

壁は、まるで焼きかけのホットケーキから浮き上がってきた泡のように、膨らみ、破裂した。

その泡から、スタンド:プライマル・スクリームが顔を出した。

続けて、チャダのとぼけた顔が、壁の穴からピョコンと飛び出した。

 

「……おいチャダ、貴様 予知の少女はどうした?あの波紋少女は殺せと言ったが、予知の少女を殺すことは許さんぞ……」

エルネストの言葉に、仗助は眉をしかめた。

 

「スマン、エルネスト様……逃げられてしまいました」

チャダが、おずおずと言った。そしてすぐに、まるでスキャットのように、自分がいかに頑張ったか、だがいかに運がなかったのか、言い訳をまくし立て始めた。

 

エルネストはチャダの言い分を完全に無視しながら、眉をひそめている仗助の肩を、ポンと叩いた。

「仗助、怒るな。あの波紋使いが……いや、その一族がDIO様の天敵になり得る……そのことは、わかっているだろ」

 

「ああ……だがよぉ……」

気にくわねぇ……仗助が低い声で言った。

 

エルネストはその様子をじっと観察し、やがて言った。

「……わかった。波紋の少女にお前がこだわるのなら、お前が責任を持つのなら その女の始末は、お前に任そう」

 

「勝手なことをぬかすなァ!!」

『育朗』の操るハンターと、ポルナレフが、三人におそい掛かった。

 

『Gyaaaaaaaaaaa!』

すかさずプライマル・スクリームが、二人の前に壁をつくる。

だが、壁が伸びあがってくる速度は、『育朗』と、ポルナレフのスピードに追い付けない。

 

「遅いッ!」

二人は壁を飛びこし――

 

ブッチィィ

 

『何だ?』

イヤ、二人が壁を飛び越そうとした瞬間だ。そのとき、壁が、二人の方向へ千切れ飛んでいった。恐ろしいスピードだ。

中にいた二人は、なすすべもなく壁に跳ね飛ばされた。そして、その『プライマル・スクリームの壁』にあっという間に取り囲こまれていく。

 

「グッ……ばかな……」

『これは……仗助クンの能力の応用か?』

 

「そうっす、床に付いていたアンタたちの『血』を直したッス……」

仗助が、なぜか少しホットしたように言った。

「よかったッス。お二人を傷つけずに、捕まえられて」

 

『クッ……ハンターを動かせられない』

育朗は、必死にハンターを抵抗させていた。。

 

その様子を、ポルナレフはじっと見ていた。

「『育朗』、お前は行け……」

 

『!?ポルナレフさん?……でも、僕はッ!』

 

「このガキッ、いいからさっさと行けェ!」

ポルナレフはチャリオッツを上半身だけ出現させた。チャリオッツの上半身は、まだ拘束されていなかったのだ。

下半身を固定されたチャリオッツは、クルリと身をひるがえしてハンターの方を向き、エメラルド・ソードを、育朗もろともハンターめがけて振り下ろすッ!

 

ザッシャアッ!

 

『な……』

 

エメラルド・ソードは育朗のスタンドをすり抜け、ハンターの肉体だけを切り裂いた。

「Gyaaaaaa!」

ハンターの上半身と下半身が切断され、プライマル・スクリームに掴まれていなかったハンターの上半身が、床に崩れ落ちた。

そして、ハンターの上半身にとりついていた『橋沢育朗』は、再び自由の身になっていた。

 

――――――――――――――――――

 

 

1999年11月10日  日没後 [屍人崎]:

 

日が沈みかけたころ、ようやく海岸線沿いに近づく車が、見えた。

 

「あれは?」

 

「……SW財団の車に違いないわ」

シンディが、元気な声で言った。シンディは先日の未起隆の手当てのおかげか、大分体調も回復してきたようだった。

「私たち、助かったのね……」

シンディはクィッと立ち上がると、道路脇へと歩き始めた。

「迎えに行ってくるわ」

 

 

「ちょっと、あんたも怪我してるのよ……無理しないで」

アリッサが、弱弱しくいった。

脇腹を抑える手の隙間から、血がにじんでいるのが見える。自ら撃った弾を弾き返され、負傷したのだ。

 

「大丈夫よ。もうすっかりよくなったわ……今はアリッサ、アナタの方が怪我がひどいのヨ、あなたこそ静かにしていて」

シンディは道路の横に立ち、大声を出しながら大きく手を振り続けた。

 

(やった………これで、僕たちは助かるんだ)

早人は心底ほっとしていた。

ガクッと全身の力が、抜けた。

これで、アミを安全なところに連れて行くことが出来る。SW財団の本部にも連絡が取れた。今頃は杜王町の他のスタンド使いの人達も、町を守るための行動を開始してくれているハズだ。――仗助さんも、スミレさんも、みんなきっと無事だ。

 

早人は、がんじがらめに縛られているピーターを悲しげに見やった。

がっくりとうなだれているピーターの胸には、三つの傷口が見えた。ホル・ホースがピーターの胸に埋め込まれていたコインを、無理やり取り出した跡だ。

 

そのホル・ホースはピーターから少し離れたところに立っており、時々コインを眺め、また、ピーターを見つめている。

 

キキーッ

車がシンディを見つけ、停まった。

 

(ついに助かるんだ……)

早人の心が、泡立つ。

 

アリッサが、歓声を上げた。

 

ガチャリ

シンディがドアノブに手をかけ、ドアを開く……

開かれたドアから出てきたのは、金髪の大男だった。

 

その男は……

 

「仗助サン!」

その男を見たとたん、早人は安心感で胸がいっぱいになった。

 

「早人……」

なぜか、東方仗助は早人を見つけて 少したじろいだ様子だった。

「そうか、無事だったかよ。そりゃあよかったぜ………ホッとしたよ。だがよぉ……」

仗助の目から、笑みが消えた。

そして、仗助の背後からゆらり、とスタンド:クレイジー・ダイヤモンドを出現させた。

 

何故、スタンドを出すんだろう?

それに、何故こだわりの髪型を変えたの……

早人は、フッと心に浮かんだ疑問を、必死に押し殺そうとした。

 

その時……

「動くなぁあッ!!」

ホル・ホースが怒鳴った。

 

メギャンッ!バシュッ!

 

ホル・ホースは叫ぶと同時に、自身のスタンド:エンペラーの弾丸を発射した。

エンペラーの弾丸は、大きく弧を描いて飛び、仗助の頭部を打ち抜ぬこうとした。

 

ホル・ホースが放った銃弾は、クレイジー・ダイヤモンドがとっさに投げつけた岩と正面衝突した。

空中で岩が破裂し、辺りに破片を振り撒くッ!

 

「えっ?仗助さん!!……ホル・ホースさん、どうして?」

早人はすっかり面喰っていた。

 

┣¨ ┣¨ ┣¨ ┣¨ ┣¨ ┣¨ ┣¨ ┣¨ ┣¨ ┣¨

 

「突然危ないっすよ、ホル・ホースさんよォ――」

仗助は、エンペラーの銃弾を拳で撃ち落とした。

 

「仗助……貴様……なんで裏切った。コノヤロー」

ホル・ホースが吠えた。

 

オイ……テメ――……そのドアの後ろは何だ?まさかと思うが……そのドアの向こうに見えてるのは、奴らの基地じゃあないだろーな」

 

「そうだと言ったら、どうするんすか?」

仗助が、サラッと尋ねた。

 

「……シンディ、仗助から逃げろッ! そして仗助ェッ!テメェ――わっ、ぶっ殺すっ!」

ホル・ホースが、立て続けにエンペラーの弾丸を放つ。

 

『ドララッ!』

だが、エンペラーの弾丸はまたしても、すべて仗助のスタンド:クレイジー・ダイヤモンドに撃ち落された。

「ホル・ホース先輩よぉ……こんなコーゲキ、『無駄』だぜぇ?……それに、アンタが『裏切り者』を非難すんのかい?」

仗助は、懐から櫛を取り出し、丁寧に金髪に櫛を入れていく。

 

「お、おりゃあ、奴との契約はとっくに終わってる。別に裏切っちゃいねぇ――ッ」

ホル・ホースが言った。

「俺が何をしようと、奴とは関係ネ――ぜ」

 

「なるほどね――。ビジネスライクな関係って奴ッスかァ?」

 

『ドラッ!』

仗助は、クレイジー・ダイヤモンドで地面を殴った。

拳圧で、岩と、土が吹き飛び、ホル・ホースに向かって飛んでいくッ!

「おおおお――ぉぉっ!」

ホル・ホースは必死にエンペラーの弾幕をまき散らした。飛んでくる土砂の威力を少しでも相殺させようと、足掻く。

だが、無数の泥、岩、土に打たれ、ホル・ホースは膝をついた。

「シンディ、なにしてるッ。俺がひきつけているうちにさっさと逃げやがれッ」

ホル・ホースは銃を連射させながら、叫んだ。

だが……

 

「クッ クッ クッ……」

苦戦するホル・ホースをあざ笑うかのような、押し殺した笑い声が響く――シンディからだ。

「クッくっくっ ムダムダ無駄ァ!」

眼の奥に狂気の色をたたえたシンディが……叫ぶ。

 

ドグシャッ!

 

叫び声とともに、まるで『ろうそくを溶かすように』シンディの体がドロドロと崩れていった。

 

「シ……シンディさん……」

うそだ……早人は、目の前の光景が信じられず、唖然としていた。

あの優しかったシンディが……

 

そして、崩れたシンディの体の中から現れたのは――マキシムの顔だ。

だが、マキシムの貌は醜く、赤く、腫れあがり……そして下半身と両腕が無くなっているッ!

マキシムが顔を出すと、『シンディ』であった体は一気に崩た。

そして、黄色のスライム状になり……SW財団の車を覆った。

 

「何だとぉ?」

ホル・ホースが唇をゆがめた。

「クッ、いつの間に入れ替わっていやがったッ」

 

「仗助さん、逃げてッ」

早人は無我夢中で叫んだ。

まさか、『裏切り者』が、もう1人いるなんて 

――しかもシンディさんが――

早人には、まるで悪夢の中の出来事のように思えた。

一体、いつの間に入れ替わったんだろう?あの優しかったシンディさんは、何処に……

これが『夢』ならばよかったのに……

 

そして、なぜ自分たちが仗助サンと戦わなければならないの?

酷すぎる……

早人は、にじむ目をこすり、叫んだ。

「仗助さんも、ホル・ホースさんも止めてッ!二人が戦うなんて、相手を間違っているよッ」

 

「早人ォ、騙されるなッ!今は、こいつもDIOの手下なんだよぉッ」

ホル・ホースが、仗助を襲撃した。

 

だが、またしてもホル・ホースの弾丸を、仗助はあっさりと跳ね飛ばした。

「ホル・ホース先輩。アンタのスタンドは接近戦じゃ何もできねー。やられちまいなァ」

仗助が走るッ!

 

「へっ、やられるかよ……皇帝……Act2 サタニック・マジェスティーだッ!」

ホル・ホースは皇帝をかまえ、体にプロテクターを出現させた。

 

『ドラララッ!』

 

「ガッ ガボッ! ゲフゥッ!」

 

ホル・ホースは、クレイジー・ダイヤモンドの攻撃をプロテクターで受け流した。

超強力なクレイジー・ダイヤモンドの攻撃を、歯を食いしばって受け流す。

そして、エンペラーを構え、至近距離から、皇帝の弾を仗助のドテッパラにぶち込むッ!

 

「こうすりゃあ、俺だって接近戦もできるんだよ。なめんなよッ!!」

ホル・ホースは、防御に集中しておろそかになっていた仗助の足を、払った。

そして、バランスを崩した仗助の頭部に、弾丸の雨を降らせようとした。

 

『ドララララッ!』

だが、クレイジー・ダイヤモンドは先ほどのピーターがしたよりも簡単に、エンペラーの弾丸を全て叩き落とす。

そして……

 

「グオッ!」

叩き落とされた弾丸が、『直って』ホル・ホースの顔面をおそうッ! 

間一髪のところでスタンドを消したものの、一瞬目を回したすきに、懐にもぐり込んだ仗助の生身のラッシュがホル・ホースをおそった。

 

「ウゴォ!」

ホル・ホースが吹き飛ぶッ!

そして仗助が、ゆっくりと一行の方を向いた。

 

┣¨ ┣¨ ┣¨ ┣¨ ┣¨ ┣¨ ┣¨ ┣¨ ┣¨ ┣¨

 

「さて、皆にはもう一度戻ってもらうッスヨ」

仗助が一行に言った。

 

「ナッ?」

「うっ……」

 

プシュッ

 

クレイジー・ダイヤモンドが、手に持った『何か』を一行に向かって弾き飛ばした。

 

「クッ!」

「アアアッ!」

「チッ!」

 

高速で飛んでくるその緑色のものが当たると、たちまちそれが『網』に変わった。

『網』の中に、1人1人、拘束されていく。

アリッサ達は何もできないまま、仗助が開いたドアの中に次から次へと引き込まれた。

 

いや、仗助の投げた『網』を避けたものがいた。

アミ

アミを抱っこした早人

そして未起隆の三人だ。

未起隆は早人のプロテクターとなっていた。

そのため、未起隆スーツの力をかり、網が早人にかかる一瞬前に、『アミを抱っこしたまま飛び下がる』ことが出来たのだった。

 

「未起隆、早人……そうだよな、お前たちが、いたな」

仗助は肩を落とした。

すぐさま、クレイジー・ダイヤモンドが早人たちめがけて、緑色の『網』を撃つ。

 

バシュッ

 

「うぅぅ……ウォオオオ!」

とっさに、早人は、足元に転がっていた石を放った。

 

パシュッ

『網』は石に絡まり、そしてスルスルとドアの中に引きこまれる。

 

「仗助さんッ!お願いだよッ、やめてよッ」

どういうことだかわからず、混乱したまま、早人は仗助に背を向けて走り始めた。

 

「グレートだぜ………」

少し躊躇した後、仗助は走っていく早人を見逃した。

唇をゆがめて、走り行く早人に背を向けた。

「後を追うのは止めたゼ。逃がしてやるッス………アバヨ、早人ォ、未起隆ァ」 

心なしか、その声はどこか満足げであった。

 

「いいの?」

アンタがやらないなら、私が……そう言いかけたマキシムは、仗助の目つきを見て、あわてて言葉を濁した。

 

「帰るぜ」

そう言い捨て、仗助は『ドアーズ』のコインが貼られた車のドアノブに、手をかけた。

 

その時、車の中にいた本当の『乗員』が行動を起こした。

 

ドジュウッ!

 

『音』が響く。

まるで、その『音』にはじかれたかのように、車をくまなく覆っていたイエロー・テンパランスが、突然吹き飛んだ。

 

ドサッ

 

「なっ!何っ?」

スタンドのフィードバックにより、マキシムも吹き飛ぶ。

無様に吹っ飛んだマキシムの上に、『岩』が落ちてきた。

 

「グッ」

マキシマムはわずかに身に残していたイエロー・テンパランスで、岩の直撃を防いだ。だが……

「なっ……止められないッ……岩が……迫ってくる……どうしてよッ!」

マキシマムが支える岩がどんどん重みを増していく。

そして、イエロー・テンパランスの防御膜をじわじわと浸食していく……

「ちょっ、仗助 助けてッ」

 

「ダメだ。そりゃあできねー。その能力を解除しようとするにゃあ、俺も命を懸けなきゃいけないっすからね〰〰」

そんなつもりはねーっす 仗助の冷たい言葉が返ってきた。

 

「ガッ!……ガ」

話している間にも、岩はどんどん圧力を増していく。

そのうちに、岩の重さが、イエローテンパランスの防御力を超えていく。

……やがて、マキシムは岩に押しつぶされ、今度こそ意識をうしなった。

 

バタン!

 

車の反対側のドアが開き、出てきたのは二人のスタンド使いだった。

広瀬康一と山岸由花子の二人だ。

 

『S H I T 命令通り 石を重くしてゾンビのスタンド使いを倒しましタ』

小柄な人型のスタンド 『エコーズACT3』が広瀬康一のところに戻って、報告した。

『これで、残る《敵》のスタンド使いは後1人デス』

 

コ” コ” コ” コ” コ” コ” コ” コ” コ” コ”

 

「仗助クン?」

康一は変わり果てた仗助を見て、口ごもった。

何と言っていいかわからず、ただ仗助を指差した。

 

「おー……コーイチにユカコじゃねーかぁー」

こりゃあー杜王町のスタンド使いが勢ぞろいだな 仗助は唇をゆがめた。

 

「由花子さん……どういう事なんだろう?」

下がっていて、僕が……そう言って由花子の前に出ようとする康一を、由花子が引き留めた。

 

「……わからないわ、でも……」

ザワザワ……由花子の髪の毛がザワメキ、しなり、延びていく。

由花子の髪はミルミルうちに腰まで伸び、足首まで伸びる。

そしてザワザワとうごめき、ギュギュギュッと互いにこすれあいながら地面を這うように動き、仗助に向かってまるで蛇の様に近づいていく。

 

ラブ・デラックスの髪の毛は、ギュッと固まり、小柄なヒト型を取る。

自身の髪の毛を自由自在に操るスタンド、由花子のラブ・デラックスが仗助をおそうッ!

 

『ギュギュ……ギュラ…ギュララッッ!!』

ラブ・デラックスの『髪の毛の拳』がクレイジー・ダイヤモンドに殴り掛かった。

 

『ドラァッ!』

対するクレイジー・ダイヤモンドが、迎撃する。

『史上最高のスタンド』スタープラチナのガードさえも弾き飛ばすことができる、超強力な拳が、ラブ・デラックスの『髪の毛の拳』に襲い掛かるッ

 

ビシャッ

 

「ぐぅッ……こ…こりゃあ、まじーぜ」

仗助が、顔をゆがめた。

 

『髪の毛の拳』は、クレイジー・ダイヤモンドの拳に触れた途端、『ばらけた』のだ。

ばらけた髪の毛は、あっという間に伸びて、瞬く間に仗助とスタンド:クレイジー・ダイヤモンドの両腕を拘束した。

「知ってる?髪の毛って、一本で150g位は支えられるのよ。この髪を何千本かまとめれば、3~500Kgf位の引っ張り強度があるってわけ」

私の髪は、普通の髪の10倍は強いわ。

アナタのスタンドで引きちぎれるかしら?

由花子が嘲った。

 

「くっ…………やるじゃんか。ユカコよぉ」

 

「気安く呼び捨てにするんじゃあ無いわょォッ!」

それまで氷の様に冷たい態度だった由花子が、突然絶叫した。

同時に由花子の髪の毛がいっそう仗助を締め付けるッ!

「がんじがらめにした後で、思いっきり締め落とす。そして、口からチ〇ポコを引きずりだしてやるわ、このチ〇〇コ野郎ッ!」

 

「いっ………いやだなぁ、由花子さんってばぁ〰〰」

…………康一の言葉は、(幸い?)由花子の耳にはとどいていなかった。

 

「その首をねじ切ってやるわ。東方仗助ッ」

由花子は目を怒らせ、吐き捨てるよな口調で言った。

その目元、眼輪筋がピクピクと痙攣している………

 

「グッ……」

仗助の首に由花子の髪の毛が巻き付いた。すぐさま、締め上げにかかる。

 

仗助の顔が、どす黒く染まった。

 

「ちょっと、由花子さん!」

 

「グッ……康一……俺の事なら心配無用だぜぇ」

仗助は、ニヤリと笑って見せた。

そしてチョッピリだけ、かろうじて動かせたクレイジー・ダイヤモンドの左手に、自分の上着のボタンを千切らせた。

 

そのボタンを潰し、改めて鋭利な刃に変化させる。

 

「これは、ボタン・カッターだぜぇ〰〰」

 

バシュッ

 

次の瞬間、カッターが髪の毛を切り落とした。

クレイジー・ダイヤモンドの右手が、あっという間に解放される。

「無意味よ、そんなあがきでこの『ラブ・デラックス』から逃れることはできないわよッ」

 

「ヘッ……」 『ドララァッ!』

次の瞬間、自由になった右手で、クレイジー・ダイヤモンドが自分の左腕めがけラッシュを放った。

 

クレイジー・ダイヤモンドの腕に殴られたラブ・デラックスの『髪の毛』が元の長さに戻っていく

……すぐに左手も自由になった。

 

『ドララララァ――ッッッ!!!』

クレイジー・ダイヤモンドは止まらない。両腕で益々高速の――数千もの――ラッシュを放った。

その腕に触れた ラブ・デラックスの『髪の毛』を、超高速で次から次へと元の長さに『直って』いく。

 

そして、ラブ・デラックスは完全に仗助から離れた。

「なっ……なんですってェ」

由花子は気勢をそがれ、無意識に一歩、後ずさった。

 

「ふ―――っ。やっぱり今はお前たちとやりたくねーな。じゃあなァ。コーイチ、ユカコ」

仗助は朗らかにそういうと、ドアーズの『扉』に飛び込み、姿を消した。


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