仗助と育朗の冒険 BackStreet (ジョジョXバオー) 作:ヨマザル
「アンタよ、アンタに決まっているわッ!!」
アリッサがホル・ホースを怒鳴りつけた。
「この裏切り者ッ 何が 『女を尊敬してる』よ、馬鹿にすんじゃあないわよ、この、エセ フェミニストッ!」
アリッサの右手が、腰に触れた。そこには拳銃があることを、皆は知っていた。
「まてよ、僕はこの未起隆の方が怪しいと思う。宇宙人だなんて、頭のネジが切れたふりをして、俺たちをけむに巻いているんだッ」
「イヤイヤ、宇宙人だからって、頭の中にネジは入ってないですよ。それではロボットです」
「バッ…馬鹿にするなぁッッ!」
「二人とも動かないでッ!!!!」
口論は、いつしか怒鳴りあいに変わっていた。
(いけない、これじゃあ『裏切り者』に倒される前に、僕たちは自滅してしまう)
早人は唇をかんだ。でも、どうすればいいんだ。思いつかない……
そのとき…………
「ダメッ!!!」
いつの間に目を覚ましていたのか、アミが早人の腕の中から叫んだ。
「みんな、おっちゃメッ。なかよくしなさいッ!」
「アミちゃん……」
SW職員とホル・ホースには日本語のアミの言葉は分からない。だが言っている意味は伝わったのだろう、年長者達は皆、ばつが悪そうに黙り込んだ。
アミは、ぴょんと早人の手から飛び降りると、腰に手を当て、大人たちに指をつきつけた。
「メッ。おっきなコエださないのッ……わかった? ケンカしないの? バンバンのおじちゃんも、おっきなお人形をもってるおじちゃんも……わかった?」
アミはそういうと、おぼつかない手つきで早人が持っていた哺乳瓶をひったくった。中のミルクを、ゴクゴクとうまそうに飲みほす。腰に手を当てた、堂々たる飲みっぷりだ。
「プッ」
その光景を見たアリッサが、くすっと笑った。その笑い声を皮切りにして、皆の言葉が再び穏やかにかわっていく。
「おっ……おう」
「そうね、私としたことが……」
「これは、一本取られたね。この子に教えられたよ」
皆が穏やかさを取り戻していく。
だがその中……
日本語で話されたアミの言葉、その意味を完全に理解していた早人と未起隆だけが、顔色を変えていた。
二人は、アミの言う『おっきなお人形を持ったおじちゃん』……ピーターを睨みつけた。
「どうした?『僕の貌』に、なにかついているのかい?」
ピーターが、心なしか低い声で、言った。
コ” コ” コ” コ” コ” コ” コ” コ” コ” コ”
「……ピーターさんに質問があります」
早人が尋ねた。
「アナタは、どうやって裏切り者がいるってわかったんですか?それに、なんでシャツが血に塗れてるんですか?あなたは自分の血だって言ってたけど、そんなわけないんです。だって、仗助さんの能力なら、血も一緒に治しちゃうはずなんです」
「ねえ……さっきアミちゃんに怒られたばっかりでしょ。やめましょう」
「そうはいかないんです」
シンディの言葉を、未起隆が遮った。
「……ったく。せっかく仲間割れの危機が回避出来そうだったのに。子供はこれだから」
アリッサがわざとらしくため息をついた。
「アリッサ、シンディ、ありがとう。でもちょっと待ってくれよ。子供が言ってる事さ、ムキになる必要も無いよ」
ピーターがへへへっと笑った。
「僕が裏切り者?そんなわけあり得ないでしょ。もし僕がに裏切り者だったら、みんなに警告なんてしないよ」
だが……その笑みはこれまでピーターが見せたことがない、下卑た笑みだった。
立っていることにつかれたアミが、抱っこして と早人に両手を開いた。
(この子……アミちゃんがスタンドを見れることを言っちゃダメだ)
求められるままに抱っこをしながら、早人は思った。
(アミちゃんの身が危ないし、もしかしたら……この子が疑われちゃうかもしれない)
未起隆が首を振った。険しい顔だ。
「ピーターさん……早人クンの質問に、答えてください。ピーターさんは、なぜ裏切り者がいると、わかったんですか? そして、なんでシャツが血に濡れてるんですか?」
「…………この血は、僕たちをおそった怪物の血だよ」
「なるほど。それで、『裏切り者』がいると知ったのは、どうやってですか?」
「あ……あの男だよ――僕たちのキャンプをおそった男が、仗助クンと戦っているときに裏切り者がいると言ったのを聞いたんだッ!」
ピーターは腕組みをして、未起隆を挑発的に睨みつけた。
「つまり……ピーターは裏切り者じゃあないって事よ」
シンディが言った。
「そうよ、そもそもSW財団の研究員は本当に厳正な身元Checkを受けているのよ。しかも、一回じゃあないの――抜き打ちのCheckは、私たちも知らないタイミングで年に何度も行われているのよ」
さっきは感情的になっちゃったけど、やっぱり論理的に考えると、怪しいのはSW財団の研究員以外の人じゃあないかしら…… アリッサは、疑わしげにホル・ホース、未起隆、早人、そしてアミを眺めた。
(マズイよ……アミちゃんがスタンド使いだってことを隠したままで、ピーター……さん……がスタンド使いだってことを、どうやって伝えればいいんだろう……)
早人は唇をかんだ。
――――――――――――――――――
1999年11月10日 朝 [A山近郊の廃墟]:
「クッ!チャリオッツ!!」
ポルナレフは、チャリオッツの足が新たなスタンド:プライマル・スクリームの能力によって、がっちり拘束されている事に気が付いた。
それはまさに11年前、船と一体化したスタンドに拘束されたのとそっくりの感覚だった。
「チャダのスタンドは超強力っス」
仗助が言った。
「一旦掴まれたら、もう逃げれませんよォ――」
バシュバシュ!プシュッ!ピスッ!ギャッギャッ!
「抜かせ!」
ポルナレフはチャリオッツの剣を、目も留まらぬ速さで足元のスタンドに何度も突き入れた。チャリオッツの剣は、ポルナレフを掴む壁を粉々に砕いた。
「こんなモノで俺を止められるかッ!」
「逃げるなッ」
チャダがスミレとアンジェラを捕まえている壁から、自分のスタンド プライマル・スクリームの本体を出現させた。
それは、通常のスタンドの優に二倍はある、巨大な石の塊のようなスタンドだった。
『GyaaaaaaaaaaAAAAAA!』
プライマル・スクリームはその名の通り、耳がつぶれそうなほどの大音量で絶叫を上げながら、ポルナレフに殴りかかった。
「フン、とろいぜ」
だが、チャリオッツは。素早い動きで、その拳をあっさりと避けた。
逆に、左手のエメラルド・ソードでプライマル・スクリームの腕を切り落とすッ!
『GyaaaaaaaaaaAAAAAA!』
スタンドの利き腕を切り落とされた、チャダの腕から、血が噴き出た。あまりの痛みに、チャダが絶叫する。
すると、スタンドの制御が弱まったのか、アンジェラとスミレが解放された。
そして、プライマル・スクリームがその名の通り、超大音量で絶叫しながら、暴れ出す……
そのあまりの音圧に、ポルナレフ達は耳を抑え、うずくまった。
うずくまるポルナレフと、アンジェラ、スミレ……その三人に向かって、プライマル・スクリームがさらなる吠え声をあげ、拳を振り上げた……
そのとき、仗助がチャダの腕を、『触った』。仗助のスタンド:クレイジーダイヤモンドが、一瞬だけあらわれ、消えた。
次の瞬間、プライマリー・スクリームの切り離された腕が再びくっついた。
――チャダとプライマリー・スクリームは、きょとんとして、叫ぶのを止めた。
「やるっすねぇーポルナレフさん」
仗助が、ぱちぱちと手を叩いた。
「でも、この後どうするッすか?チャダのヤツはとろいから、なんとでもなるッすが、俺に同じ手は、通じないっすよォ――」
やっぱり降参してください。一緒に天国への道を探しましょう。
仗助が言った。
「天国?お前は、天国とは何か、理解してるのか?」
仗助の言葉を無視し、ポルナレフが嘲笑った。
「天国への道が知りたきゃ神に祈れッ、教会へ行け、聖書を読め、馬鹿野郎ッ」
「そうっすよね……俺も、ポルナレフ先輩が理解してくれるとは、あんまり思ってなかったっす………ポルナレフ先輩にわかってもらう方法は、一つだけっすよね」
仗助は髪の毛をかきあげ――スタンド:クレイジー・ダイヤモンドを出現させた。
「チャダ、エルネスト……アンタたちは他の方々が逃げるのを抑えろ。ポルナレフさんは俺が相手するッす!」
そういうと、仗助がポルナレフに迫るッ!
「チッ……ちょっとだけマジィ――状況だゼ……アンジェラ、スミレ、お前たちは逃げろ」
シャリッンン
ポルナレフはスミレとアンジェラを背中にかばうと、背後の壁に丸く穴をあけた。
「悔しいが……いくら俺でも、あの三人を同時に相手に勝つのはチト難しいゼ。一度引く………俺が時間を稼ぐ隙に、逃げろッ!」
「なっ、そんなこと出来ないわよ」
スミレは首を振り、この場から逃げ出すことを拒否した。
「オリャアア!」
チャリオッツは8体に分身、片手にレイピア、片手にエメラルド・ソードを持っておそい掛かるッ
8体の分身から繰り出される、16振りの剣撃ッ!
『ドララララッッ!』
クレイジー・ダイヤモンドの拳が迎え撃つ
「分身なんて、全部迎え撃っちまえば問題ないっすねェェェ―――――ッッ!!!」
仗助が嗤う。
「フン、無駄ッ!」
同時に、エルネストがオエコモバを出した。シャツのボタンを外し、そのボタンをオエコモバに近づける・・・爆弾を作るためだ。
ザシュッ!
「させるかよぉッ!」
チャリオッツの分身の一体がすかさずエルネストの前に現れ、エルネストの右手を切り飛ばすッ!
「甘いぜッ……おめートロ過ぎだァッ! 俺と仗助の勝負を邪魔すんじゃねェ――ッッ」
「グォッ!!Urryyyyyyyy!!」
右手を切られたエルネストが血をまき散らし、傷口を抑えて絶叫した。
だがエルネストは、絶叫しながらも、切り落とされた自分の右手首をポルナレフめがけて蹴りだしたッ!
「何?……ハッ……マズイゼッ!」
ポルナレフは、『蹴り飛ばされた右手首』に、爆弾の信管が付いているのを見た。
(げえっ、ヤロー正気か?自分の体を爆弾に変える何てよぉ。マジーぜッ。チャリオッツが間に合うか、ギリギリだぜ)
ポルナレフは身をひるがえし、アンジェラとスミに向かって飛んでいく『爆弾』に手を伸ばすッ。
その手が、空を切った。
(だっ・・・だめか、間にあわねーー)
アンジェラとスミレの驚愕した顔が、目に飛び込んできた。
その時、ポルナレフがあけた穴から何か、『影』が飛び出した。
その『影』は、アンジェラとスミレを、自分が入ってきた穴の向う側に押しやった。
そして、『爆弾』を掴むッッ
ドガンッ!!!!!!
『爆弾』が、白煙を上げ、爆発した。
ポルナレフは、爆風によって全身を床に叩き付けられた。
アンジェラとスミレは、『影』によって爆風をさえぎられ、無事であった。
「Guiiiiiiiixtu!」
アンジェラとスミレを助けた『影』は、ハンターであった。
『爆弾』をまともに掴んだハンターも、生きていた。何とハンターは、『爆弾』を掴んだ片手を自ら切り落とし、オエコモバに投げ返したのだッ!
「えっ?ハンターが……私たちを……どうして?」
スミレが、困惑したように言った。
まさか……壁穴の向う側から確かめるようにハンターの背中に手を伸ばすスミレを、立ち上がったポルナレフがひっ捕まえた。
「とっとと逃げろッ!」
ポルナレフはチャリオッツを使って、スミレとアンジェラの二人を無理やり壁の穴から遠くへ押し出た。
「ちょっとぉ!」
「いいから行けッ!」
ポルナレフは二人にそう怒鳴ると、くるりと振り返って背後の敵に備えた。
『爆弾』を投げかえされたエルネストもまた、無事であった。
爆発の直後、ほぼ同時に、仗助がエルネストの右腕を治していたからだ。
「エルネストよォ――、オメェ――無茶するんじゃあねーぜ。完全に爆散しちまった後だと、俺の能力でも、もとに戻せねーんだぜ」
仗助が言った。その声には、怒りがこもっている。
┣¨ ┣¨ ┣¨ ┣¨ ┣¨ ┣¨ ┣¨ ┣¨ ┣¨ ┣¨
「しかもオメェ――、スミレとアンジェラが巻き込まれるのを承知で、やりやがったろ!」
仗助は エルネストの襟を掴み、持ち上げた。
「貴様こそ、余計なことをしおって……俺の怪我など無視するのでべきだった。そうすれば、爆弾を完全に爆発させられた。少なくとも、あのハンターは始末出来たッ!」
DIO様に身をささげた俺が、体を失う事にためらうかッ!
エルネストもまた、怒っていた。
激昂するエルネストは、仗助の手を乱暴に振り払った。
「チッ……ふざけんなよ、テメェ――」
仗助は肩を怒らせ、エルネストを真っ向から睨みつけた。
――――――――――――――――――
一方、壁の外に押しやられたスミレは、まだぐずぐずと立ち止まっていた。
壁の向こうに突然現れたハンターの姿を、何とか確認しようとして必死に穴の向こうの気配を探っている。
そのスミレの手を、アンジェラが強く引っ張った。
「行くわよッ、早く億泰達を連れてこないと」
「ちょっと、待って。お願いッ!」
スミレが首を振った。
もしかして……今の『黒い影』は……
「気持ちは良くわかるわ………でもダメよ。私たちが早く億泰を連れて帰らないと、ポルナレフさんが!」
アンジェラは、嫌がるスミレの手を引き、強引に先を急がせた。
(!?あれは、もしかして……育朗?育朗、な、の……まさか?)
アンジェラに手を引かれて走りながら、スミレは後ろをチラチラと振り返っていた。
ゴォオオオン!
不意に背後の壁が膨れ上がり、爆発した。
天井が崩れ、がれきで、廊下が塞がった。
そして、塞がった壁がブロック状にバラバラと砕け、チャダが顔を出した。
『GyaaaaaaaaaaAAAAAA!』
チャダに続き、壁からプライマル・スクリームが顔をだし、大声を上げた。
「!? 来るわよ、何か投げてくる。気を付けてッ!」
スミレの額にWitDが閃光のように輝いた。WitDがスミレに、『未来のVision』を、一瞬だけ届けたのだ。
『GzyuaEWE!!!!!!!」
プライマル・スクリームは壁の一部をむしり取り、絶叫を上げながら、二人に向って投げつけてきたッ。
「ッ!」
アンジェラは、とっさにスミレを肩口に担ぎ上げ、飛び上がった。
波紋のエネルギーを両足に集めるッッ
ドゴォォンンンッ!!
アンジェラは空中で身をひるがえし、チャダが投げてきた壁の一部に、両足で着地するッ
波紋のエネルギーで、壁にくっつくッ!
その瞬間、アンジェラの足に、強烈な衝撃が伝わり、二人をおそった。
「ああぁぁッ!」
アンジェラは苦痛のうめき声を上げた。
スミレは、肺からすべての空気を掃出してしまった。目の前が、一瞬暗くなる。
二人の乗った『壁』が、廊下をぶっ飛んでいく。
「グハッ!! ……ううっ、スケーター・ボーイッ!」
アンジェラは、プライマル・スクリームの投げつけた壁に、スタンドの車輪を出現させた。
二人を乗せた『壁』は、廊下の行き当たりに向かって、グングン進む。まるで、吹っ飛んでいるような、ものすごいスピードだ。
ギュウィィィ――――ンッ!
アンジェラは、『壁』の上で身をひねった。まるでスケボーに乗っているかのような、自在な動きだ。
廊下の天井に、スケーター・ボーイで作った車輪がくっつく。『壁』の動きが制御できる‼
二人は、まるで上下が逆転したかのように、天井を滑っていく。
「くっつく『波紋』よ――絶対私から手を離さないでねッ!!」
アンジェラは、抱えていたスミレに、どなった。
突然、スミレがどなった。
「!?アンジェラ、右に避けてッ」
「!?ッ 了解っ!!」
ドゴゴォオオン!
スミレの言葉に従い、アンジェラが少しだけ右に移動した直後、プライマル・スクリームの投げた石隗が二人のすぐ左を通り過ぎるッ
「次、左、それから、もう少し左ッ」
「わかったわッ」
ボゴッ!
ドガガッ!
ジェラとスミレはWitDの予知に従い、プライマル・スクリームが投げる石塊を右に、左にと、小刻みに避けながら、天井を滑っていく。
が、目の前で廊下が右に曲がっている。
二人の目前に、ぐんぐんと壁が近づいてくるッ!
「このままだと、激突するわ!」
スミレがうめいた。
「大丈夫よ、しっかりつかまってて!!」
アンジェラが、スミレの手をしっかりと握って、言った。
グウギィャアアアア――ン!!!
『壁』に乗った二人は、廊下の曲がり角に猛スピードで侵入していった。
まるでジェットコースターのように、天井から壁、床、壁、そしてまた天井へと、グルッと回転していく。
ガガガッ!ジジジジッ!
二人がボード代わりに乗っている『壁』が、擦れ、ガタガタと跳ね回る。
「クゥウウッ!ずれる――グリップがッ!」
遠心力で頭に血が上り、目が回るッ!
意識が飛びそうになるッ!
廊下を曲がったすぐ先に、ドアがあったッ!
「キッキャアアッ!」
「まだまだぁッ!」
アンジェラは悲鳴を上げるスミレを小脇にかかえ、身をひねった。
スケボー代わりの『壁』を、全身の力をこめてドアに蹴りだすッ!
ボッゴオォ――ンッ!
ドアは砕け、二人は建物の外に投げ出された。
「……逃げられたデスか」
もうプライマル・スクリームの速度では、追いつけない。
チャダは舌打ちをして、視界から消えた二人に向かって唾を吐いた。
――――――――――――――――――
1999年11月10日 午後 [屍人崎]:
「本当です」
シンディが言った。
「SW財団の身元は厳重にCheckされているのよ、ホル・ホースさんの言うとおり、11年前にDIO……の仲間にもぐりこまれた事件の反省から、今は本当に検査が厳しくなっているんです」
「そうよ……だから、怪しいのは『私たちではない』、怪しいのは、アナタと未起隆――それから――早人クンかアミちゃん ってワケよ」
アリッサが言った。
「ツマリ、僕らこそ裏切り者だと言いたいのですか?」
未起隆がゆっくり、ゆっくり尋ねた。
「いくらなんでも、早人クンやアミちゃんまで疑うなんて、本気で言ってるのですか?」
「確率の問題よ……それに、先に私たちの仲間を裏切りモノ呼ばわりしたのは、早人君とアンタじゃあないの」
「……僕らには、理由があるんです」
「そう?でも、私たちにも理由があるわけ……ピーターが裏切り者とは思えない理由がね」
アリッサが言った。
「ワタシには、あんた達スタンド使いたちの方が、よっぽど怪しく思えるわッ!特にホル・ホース……あんたよ。アンタ、元々DIOの部下だったじゃない。いつまた裏切っても、全然おかしくないわッ」
「フン、さっきから言ってくれるねぇ……だが、いいことを思いついたゼ」
ホル・ホースが腕を組んで、仲間をぐるりと見回した。
「お前たちを試す、いい方法がなぁ!」
ホル・ホースは、右手を未起隆に向けたッ!
メギャンッ!
ホル・ホースの右手から、スタンド:皇帝が姿を表す。
皇帝の銃口が、未起隆に向くッ!
「!?何をするんです?」
未起隆が叫びながら、地面に伏せた。
「皆、伏せてくださいッ!」
バシュッ、ギャン、ギャン、ギャンッ!
ホル・ホースはスタンド:エンペラーの銃口を他の仲間に順繰りに向かけ、弾丸を連射したッ!
エンペラーの弾丸が、未起隆、アリッサ、シンディ、ピーター そして 早人に向って高速で飛んでいくッ!
「逃げてくださぃッ!!」
未起隆は必死に叫んだ。
だが、超音速の弾丸は、未起隆の警告がみなに伝わり、理解されるよりも早く標的に着弾するッ!
その時……
「アミチャン、大丈夫?ダメだよ気を付けないと、」
早人は弾丸に気が付かず、尻餅をついて泣きそうになっているアミを抱っこしようとしていた。
「!?アナタ、なにをやってるの、なんで伏せてるの?」
アリッサは、必死に叫ぶ未起隆を見て、首をかしげている。
「あああッ……水が飲みたいわ」
シンディは苦しそうに頭をかかえてしゃがみ、目を閉じた。
「フン!」
「うわぁあああああッ」
未起隆は、目をつぶった。
パシュッッ
だが、エンペラーの弾丸は、5人に命中する直前に消滅した。
「!?これは?」
恐る恐る目を開けた未起隆は、自分も含め、皆が無事でいるのを見つけ、あっけにとられた。
コ” コ” コ” コ” コ” コ” コ” コ” コ” コ”
「……見つけたぜ、やっぱりお前じゃねーか、この………マッチポンプ野郎がぁッ」
ホル・ホースが、『ある人物』を睨みつけた。
「覚悟はいいな、オメ――、ただじゃおかねぇ――ゼ」
「……そうかッ、そういう事だったんですね」
やっぱり と状況を理解した未起隆がうなずいた。
「ホル・ホースさん、未起隆さん、どうしたんですか?」
「あなた、何をしたの?」
「怪しいとは思っちゃぁいたが、まさか言い出しっぺが、本当は裏切り者だったってかァ――」
ホル・ホースが、その『男』を指さした。
「早人と宇宙人野郎が正しかったって事かよ……」
コ” コ” コ” コ” コ” コ” コ” コ” コ” コ”
その男とは、ピーターであった。
ピーターの背後から、巨大なスタンドの腕が出現していた。そのスタンドが、エンペラーの弾丸をつまんでいる……
「ホル・ホース………貴様、よくもやってくれた」
ピーターが、ふらりと立ち上がった。その目は黄色く血走り、今までの理知的な見た目など、もう何処にも見つからなかった。
「もう少しで、もう少しで、『お前達全員が、同士討ちを始めるところが見れる』と、楽しみにしていたものを……ホル・ホース、俺は貴様を、昔からほんのチョッピリだけ目をかけていたのに、残念だ。殺さなくてはならないとはなッ」
ヴォォ――ン!!
ピーターの体から、チラリと強大な、禍々しいビジョンが全身を現した。
「!?全員、ピーターから離れろォ!」
ホル・ホースが怒鳴った。そう言ったホル・ホース自身が真っ先に走り出し、この場を離れていく。
「ふっ……いきなり逃げ出すか……だがまぁ、あながち間違った判断でもないな。普通ならな……だが、この私に背を向けるなど……愚か者よッ!」
ピーターがホル・ホースを追って、走り出すッ!
ザシュッ!
走っていたホル・ホースは、不意に姿勢を落とした。走る勢いそのままに、地面に向かって飛びこむ。
岩だらけの地面を、サタニック・マジェスティーのプロテクタ―で防御し、前周りに一回転する。
その直後、ブンッと何かが飛び、それまでホル・ホースが走っていた地面が、吹っ飛んだ。
ピーターのスタンドが投げた岩が、地面をえぐったのだ。
ホル・ホースは受け身をとった反動でくるりと半回転して、右手をピーターに向けた。
「死んじまいなッ」
ホル・ホースが嗤うッ。
だが、何故かその言葉を機に、ホル・ホースの体に無数の細い擦り傷が現れ始めるッ。
キュィン!ザシュッ!バキッ!
ホル・ホースとピーターの周囲の岩が、次々にはじけ、細かい破片が飛び散っていくッ!
まるで弾丸のように、破片が早人たちのまわりに飛んで来る‼
「早人クン!!」
とっさに未起隆が早人の上におおい被さり、飛び散る岩の破片から、早人の身を守った。そのまま再び『変身』して、早人の体を覆っていく。
早人の体の上に、見る見るプロテクターが取り付けられた。そして、ヘルメットに取り付けられた『バイザー』が早人の目を覆っていく。
すると、早人の目に ホル・ホースがエンペラーの弾丸を何発も打ち込み、ピーターがそれをはじき返しているのが幽かに見えた。
ちらっと見える巨大な腕が、ピーターのスタンドなのか。
良く見えない。
あまりの速さで行われる攻防を、早人の目では捉えきれないのだ。
メギャン!バシュッ!
ガンッ カンッ!
ピーターが跳ね返した弾丸は、ほぼすべてが跳弾となってホル・ホースに跳ね返っていく。
たいていの跳弾は、ホル・ホースの手元に来るはるか前に消されていた。エンペラーの弾丸は、ホル・ホースの意思で出し入れ自由なのだ。
消すのが間に合わなかった一部の弾丸は、ホル・ホースにあたる直前に急に方向を変える。ホル・ホースを避け、後方に飛んでいく。
さらにいくつかの弾丸は、ホル・ホースの全身を覆うプロテクターにあたり、致命傷こそ与えないまでも肌に無数の切り傷を作っていた。
「こ、この、エンペラーAct2サタニック・マジェスティーは、よぉ……11年前に自分のスタンドを喰らって入院した時に『完成』したのよ……二度と、自分のスタンドを喰らって、大怪我しちまわないためになぁ」
だからお前、弾丸を跳ね返したって、無駄だぜ。
ホル・ホースは雨のように弾丸をピーターにぶち込みながら、ヒャヒャヒャッと笑った。
(ホル・ホースさん、頑張って……)
早人は息をころしながら、二人の戦いを見守っていた。
ふとアミに目をやると、食い入るようにホル・ホースとピーターのやり取りを見ている。
やはり、アミにもスタンドが見えているのだ。
「早人さん、みんなを安全なところに……」
早人の耳に、未起隆の声が響いた。
早人は我に返り、アミを懐に抱えると、近くにいたアリッサのところにジャンプした。
「!?早人クン、何が起こっているの?」
アリッサとシンディは、すっかり戸惑った様子でピーターとホル・ホースの対峙を見ていた。
「SW財団の人間は、みんな厳密な審査を経た上で採用されているって言ったでしょ。それなのに、一体ホル・ホースは何をしているの?」
彼を止めないと……と、シンディが言った。
「アリッサさん、シンディさん、こっちに」
早人は、二人の手を必死に引いた。ピーターから離れたところに誘導する。
「ピーターさんが『スタンド使い』だったんだ。あの人が……裏切り者だったんだよ」
「何を言っているの?」
アリッサが呆れたように、言った。
『……私が見ました……ピーターさん……のスタンドを』
早人の胸が急に盛り上がり、未起隆の顔が浮き出た。その顔が口を開き、そう言った。
『ピーター……さんは、そのスタンドで、僕たちを殺そうとしています』
バシュッ!
バシッ!
バッ、バッ、バッ!!
狭い空間に銃弾が飛び交うッ!
「ウォオオオオオオオッ!」
雨あられと降り注ぐホル・ホースの弾丸。
だがその弾丸を、ピーターはことごとく打ち返すッ!
(チッ、らちが明かねーぜ……だが攻撃を止めら、それこそおしまいだぜぇ)
一見冷静にピーターを牽制しているように見せて、ホル・ホースは、実は内心冷や汗をかいていた 。
防御の方にも能力を割り振った状態では、弾丸の威力が落ちる。だから今、エンペラーの『弾丸』が打ち返されていても、それはある意味、当然であった。
だが、もし防御を捨てて攻撃して、万が一弾丸を跳ね返されたら、そこでゲームオーバーだ。
ホル・ホースには、防御を捨てて攻撃する覚悟は、なかった。
「貴様こそ、無駄なあがきよ……」
ピーターは、余裕たっぷりに言った。
「このまま近づいて、お前のどてっ腹に風穴を開けてやろう……プロテクターなど何の役にも立たん」