仗助と育朗の冒険 BackStreet (ジョジョXバオー)   作:ヨマザル

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ジャン・ピエール・ポルナレフ その2

1999年 11月 9日 日没直後[M県K市 屍人崎近く]:

 

「君、大丈夫?」

 

早人が声をかけると、幼児は腹の底から絞り出したような大声で泣き始めた。

「おかあぁぁぁさぁぁん!!!おかあさんッ。おかあさんッ!おっがあぁぁぁざあぁぁぁんっ」

 

「どっどうしたの、泣かないで……もう大丈夫だよ!」

 

「おがあぁさんどごッ!アミぢゃんッあ”いだい!!!!!」

アミと名乗った幼児は、ズビビと鼻をすすった。涙と鼻水とでぐちゃぐちゃになった顔をすり寄せ、早人に思いっきりしがみつく。

 

「アミちゃん、落ち着いてッ!もう大丈夫だからッ!!」

早人はすっかり動揺して、その子を抱いたままピョンと二階の屋根から飛び降りた。

 

ますます火がついたように大声で泣き始める幼児。あわてて、シンディに泣き叫ぶ幼児を押し付け、早人は何が起こったかをシンディに説明しようとした。

 

ところがシンディが幼児を抱くと、その子はますますヒステリックに暴れ始めた。

 

「ギィヤアアアアア!」

 

「大丈夫よ……落ち着いて! キャァ!」

思いっきりのけぞった幼児が、シンディの手から飛び出す。

 

「危ないっ」

間一髪、幼児が地面にぶつかる前に、早人が体を投げ出してその子を抱きしめた。年が少しでも近いからか、早人が抱きしめていると、幼児が少しづつ落ち着いていくのがわかった。

 

だが、シンディが近寄るとまたその幼児はヒク ヒクと大泣きをする兆候を見せた。

「よしよし……頑張ったな、もう大丈夫だよぉ~~お兄ちゃんが守ってやるからなぁ~~」

早人は、優しく幼児を抱きしめた。そしてシンディとアリッサに、『しばらく自分にまかせるように』と目で合図をした。

 

アリッサが困ったように頭をかきむしり、そしてシンディに話しかけ、また家の中に入って行くのがちらりと見えた。

 

「ヒン……ヒン」

やがて、泣き疲れた幼児が目を閉じた。

 

アリッサが、建物からいくつかの荷物を抱えて戻ってきた。

「当面の紙おむつとか、タオルとか、その子の着替えとか、それからおんぶ紐を持ってきたわ……元々この子のものなのだから、ちょっと拝借しても、泥棒にはならないわよね」

アリッサは、「でも これどうやって使うのかしら?」と、おんぶ紐を見て首をかしげている。

シンディも、どうすればいいか戸惑っているようだった。

未起隆も、もちろん早人も、おんぶ紐の使い方など知らなかった。

一行は、いったいどうすればいいのか、と頭を抱えた。

 

「あ……」

早人は、アミが『ジョジョジョとズボンを濡らしていること』に気が付いた。

恐ろしいことに、未起隆の変身したスーツにも、何か『黄色い液体』がついている……

「こっ……これは……」

 

コ" コ" コ" コ" コ" コ" コ" コ" コ" コ"

 

『……早人さん、この子のオムツを変えてあげてください』

未起隆が、観念したような悲痛な声で言った。

 

「……アミちゃん、おしっこ 出た」

わたし、何にもしてないよ? と言わんばかりに、アミがつぶらな瞳を見開いて、言った。

 

「どうしよう……オムツなんて替えたことないよ」 

早人が言うと、私たちもよと、アリッサとシンディも顔を見合わせている。

「こ、これはピンチだよ」

 

だが、いつも助けは、意外なところからやってくると相場が決まっている。

今回のピンチに最も役に立ったのは、本当に意外な人物であった。

 

「オイオイ……ベイビー、こいつはおれの出番じゃねーか?」

おぼつかない手つきのシンディや早人を、見ていられなかったのだろう。ホル・ホースが二人を押しのけてアミを抱きあげた。そして、慣れた手つきであっという間におむつを取り替えてしまった。

 

「えっ?」

 

驚く仲間をしり目に、ホル・ホースは手早くおんぶ紐を、アミに装着した。そして、そっとおんぶ紐を担ぎ上げると、アミを優しく背中に担ぎ上げた。

アミは抱き上げられた一瞬愚図ったが、誰もがぞっとしたその一瞬を乗り越えると、あっという間にスヤスヤと眠りに落ちた。

 

「よし、いい子供だな……先を行こうや」 

ホル・ホースは、チュッとアミのほっぺにキスをした。

 

「スゴイ……尊敬します」

 

「あんた、どうしてそんなに手馴れているの?」

 

「お子さんがいらっしゃったんですか?」

 

「……子供はいね――ッ!だが、昔子連れの女と付き合った事があるんだよ。じっと見てんじゃねーぞ、さっさと先を行くぞ」

おんぶ紐を身に着け、背中に幼児を背負った子連れガンマンは、どう贔屓目に見ても似合ってなかった。

ホル・ホースは、煙草を吸おうと胸ポケットを手さぐりして……アミを背負っていることを思い出して、不承不承その手を止めた。その顔が、不満げにぷっと膨れた。

 

「……ぷっ……」

「フフフ……」

 

思わず失笑する女性陣に、ホル・ホースはいかにも不本意 といった風に顔を曇らせた。

その顔が、さらに笑いを生む……

 

だが、その時だ。

 

「血ィイイイイ!」

突然、叫び声が県道の方角から聞こえた。

「血の匂いだぁ!腹いっぱい吸ってやるぜぇ」

 

声は次第に大きくなる。

 

「ねぇ……プロの人が確認したから、この辺りには危険なものはいないんじゃなかったっけ」

アリッサがホル・ホースを睨んだ。

 

「あれだけ泣き声がすれば、そりゃ聞きつけてやってくるだろーよ」

ホル・ホースがため息をついた。

「下がってろ」

 

「ギシャアアアア!!」

家の門をくぐって、ゾンビ達が現れた。

 

「おらぁッ」

すかさず子連れガンマンがエンペラーを連射っ、あらわれたゾンビを瞬殺するッ!

 

「……すごい」

 

「ヘッ『簡単』だぜ、ベイビー」

ホル・ホースは、気取ったポーズでシンディの手を取った。だがその時、ホル・ホースの背中の幼児が、カッと、目を開いたッ!

「あっ……」

ホル・ホースがしまった……と、言った表情で、アミを見た。

アミと、ホル・ホースの視線が、ぶつかる。

 

┣¨ ┣¨ ┣¨ ┣¨ ┣¨ ┣¨ ┣¨ ┣¨ ┣¨ ┣¨

 

「ヒッ……ヒギー!」

アミは胸いっぱいに息を吸い込み、大声で泣き始めた。

 

「まっ まじーぜッ……落ち着け、アミちゃんよぉー。ホラホラ、ブーブー・バァーブーブー・バァー」

あせるホル・ホースの背後に、新たなゾンビが迫るッ。

「しまった、エンペラーの防御が間に合わねー」

ホル・ホースが硬直した。

 

「うゎあああああああああ!」

間一髪ッ! ホル・ホースに飛び掛かかろうとしたゾンビの前に、早人が飛びこんだ。

早人は空中で、怪物の頭を蹴りつけるッ!

 

不意打ちの攻撃を受けたゾンビが、吹き飛ぶ。

だが、吹き飛ばされたゾンビは何事もなかったように起き上がった。今度は、早人に向ってゆっくりと向きなおる。

「このガキ……やってくれたなぁぁ~~」

「小僧ッ、まずはお前の血から、先にいただくぜぇ!」

 

「うっ……うわぁぁ」

ゆっくりと迫り来るゾンビに、早人は1歩、後ずさった。

 

ホル・ホースは、まだアミにかかりっきりだ。

 

『早人君、大丈夫です。ボクがついてます』

早人のイヤホンから、未起隆の声が聞えた。

『ゾンビは、頭を潰せば、倒せます………ボクの力を貸します……大丈夫、できますよ』

 

「うっ、うん……わかってる」

 

早人の右腕に被さっていた『未起隆スーツ』が、バラリと離れた。離れた服が、再びまとまって、未起隆の右腕になった。

その右腕の一部が、鉄の棒に変化した。

 

早人が鉄の棒を受け取ると、未起隆の右腕は再び『未起隆スーツ』となって、早人の腕を覆った。

 

『この鉄棒を使ってください……これで、ゾンビを叩きますよ……大丈夫、君なら簡単です。』

未起隆は、早人を鼓舞した。

『勇気を出して、素早く、断固としてやらなくては』

 

「小僧ッ!」

ゾンビが早人におそい掛かるッ!

 

「うっうっうわあああああああ!」

早人は、高くジャンプしてゾンビの攻撃を避けた。

そして鉄棒を思いっきり振りかぶって、ゾンビの頭部を殴りつけた。

すかさず、横殴りに鉄棒を薙ぎはらい、もう一体のゾンビの頭を刈るッ!

 

「Juuuuuu………」

「Gi Gi Gi Gi」

頭を吹っ飛ばされ、ゾンビは倒れた。

 

「うっ………」

その凄惨な光景に、早人は口を抑えた。

 

『……早人サン……辛いでしょうが、今は耐えて下さい』

未起隆が、優しく言った。

 

ターン!

 

遅ればせながらアリッサとシンディも銃を取出し、近くのゾンビに狙撃を始めた。

ゾンビたちは全身に銃弾を浴び、一体、一体と倒されていく。

 

「ふー!ふうーッ」

アミが大きな声で唸る。

 

「ちょっと、その子黙らせられないの!」

アリッサがわめいた。

「その子の泣き声がゾンビを呼ぶのよッ」

 

「じゃかましいぃ」

ホル・ホースはおんぶ紐を外すと、アミが凄惨な光景を見ないで済むよう、暴れる幼児の目をふさいだ。

「早人ォ、未起隆ァ、この子を連れて先に行きやがれ!後は俺が始末するぜ」

 

「わかったっ」

早人は、ホル・ホースからアミちゃんを受け取ると、出来る限り優しく抱っこした。そして、海に向って一目散に駆け出した。

 

――――――――――――――――――

 

 

1999年11月9日  夜 [A山近郊]:

 

ここから3Km、山の稜線を北西に行ったところだ。そこに古い病院後の様な廃墟がある。仗助もそこに囚われているはずだ。

 

ハイウェイ・スターは、一行に 近くの高台に廃墟があること、廃墟の中から仗助のにおいを見つけたことを説明した。

仗助の近くには、他にも4人の人間 ――おそらくスタンド使い―― がいることを伝えた。

それから、クリーチャーが無数に廃墟の中を徘徊していることも。

 

「二手に分かれるか」

噴上が提案した。

「陽動作戦だ。どちらかが正面突破。もう一方は裏口からまわって攻撃するっていうのはどうよ?」

 

「どうかしら」

アンジェラが首をかしげた。

「一緒にまとまって行動したほうがいいんじゃない?陽動作戦なんて、かっこいいけど私たちは5人しかいないのよ。バラバラに動いたら、危険よ」

 

ポルナレフは、噴上の考えに賛成した。

「二手に分かれるのは悪い考えじゃあないぞ。だが、やるのは陽動作戦じゃあない。挟み撃ちだ。今晩、俺が1人で忍び込んで仗助を取り戻す。お前たちは正面からこの施設を攻略してくれ……」

 

「正面からぁ?どうやるんだ」

噴上が尋ねた。

 

「噴上クン、キミのハイウェイ・スターに、連絡係をやってもらう。俺は仗助を確保したら。建物から敵を追い出してやる」

 

「おお……悪くねぇな」

アンジェラに翻訳してもらい、ようやく話についてきた億泰が、うなずいた。

「俺は正面から乗り込んで、奴らをノシながら行けばいいんだろォ?わかりやすくていいぜ」

 

「悪いわよッ」

アンジェラはノンノンと、指を振った。

「ポルナレフさん……いくら凄腕のポルナレフさんでも、1人じゃあ無理だと思います。私のスケーター・ボーイも遠くまで行けて偵察に向いています。だから潜入するのは、私とポルナレフさんの二人にしませんか」

 

「しかし……」

 

反対しかけたポルナレフを、億康が止めた。

「いいぜぇ……ポルナレフさん、アンジェラを連れていきなよ……残った俺達だけで問題ねぇぜ。キッチリ正面突破してやるよ~~」

 

「そうよ、単独行動は危険よ」

あなたまでやられて、肉の芽を植えつけられたら、ヤバイわ。スミレがズケズケと言った。

 

だが君たちが危険だ……そう言おうとしたポルナレフは、ふと宙を見つめ……やがて苦笑して頷いた。

「……そうだな、単独行動は危険だな……わかってるよ……」

だがお前達、勝手な行動をとって命を無駄にするなよ。ポルナレフは、 優しく――しかし正直気味い声色で―― 付け加えた。

 

「お、おっお――……俺のスタンドは時速60kMで遠くまで走れる。ハイウェイ・スターだからな。奴らを引っ掻き回してやるぜぇー」

 

「私も、自分の身は自分で守るわよ」

スミレが言った。スミレは、サバイバルナイフを腰に差し、ピーターから受け取った拳銃を手に持っている。

「銃弾の数には制限があるけど、ナイフもあるし、私にはWitDの予知能力もあるわ」

 

「銃なら俺達が持ってきたのもある。潜入には使えないから、スミレが持っていると良いだろう」

ポルナレフはそういうと、スミレに自分とアンジェラが持っていた二丁の拳銃をホルダーごと手渡した。

「重くなるが、銃ごともってきな」

 

「……ありがとう……」

 

「だけどスミレ先輩よ~、あんたは別に、仗助の救出に絡む義理は無いんだぜぇ」

億泰が、心配そうに言った。

 

「あら、そんなこと無いわよ」

スミレは、自分の為に体を張ってくれた億泰とミキタカゾの為にやるのだ。と言った。

「もう……私の『用事』は終わってしまったし」

と、スミレは哀しげに付け足した。

 

「………」

皆が黙り込む。

 

「!?待って。まだあきらめる必要はないわッ。仗助さえ助け出せれば、きっと大丈夫よ」

アンジェラが、スミレの手を取った。

「岩が崩れているのなら、仗助のスタンド、クレイジー・ダイヤモンドで元の状態に『直せば』いいのよッ」

 

「あっ……」

スミレの顔が、みるみる明るくなった。

 

「そう、仗助なら、育朗クンの上に覆いかぶさっている岩を取り除けるわ……まだきっと間に合うわよ。育朗クンは助けられるわッ」

 

「そうね……そう、次は私が育朗を助ける番なのよ」

スミレがうなずいた。スミレの声は話すたびに力が宿り、そしてはずんでいった。

 

「よぉし、じゃあそろそろ行くぜ。覚悟はいいな」

ポルナレフは、億泰、噴上、そしてスミレの肩をどやしつけた。

「おとりの役目は、お前たちに任せるからな。億泰、噴上、スミレ、気合入れろよぉー……だがいいな。無理するなよ。ヤバくなったら、絶対に逃げろ……」

(俺の仲間の、かつてのコーコーセードモに負けるなよ……)

ポルナレフは、もう一度三人の肩を力いっぱいドヤした。

(なんだか俺はコーコーセー達に弱いらしいな)

 ポルナレフの脳裏では、かつて共に旅した『仲間』の面影が、三人の上にかぶっていた。

 

-――――――――――――――――――

 

 

『彼』と『彼女』は、家族であった。

彼らは互いがまだ幼いころに出会い、そして同じ過酷な運命を共に過ごしてきた群れの一員だった。

周囲には彼らと同じ運命を背負った群れの仲間が他にも大勢いた。だが、『彼』にとって『彼女』が、『彼女』にとっては『彼』が、他と比較できない特別な存在であった。理由などない、それは、二人が幼い時からわかっていた事実だった。

二人は過酷な運命を共に甘受し、励ましあい、よりそって生きてきたのだ。

 

そして、二人の間に『子供』が生まれた。子供の笑い声、走り回る声……子供のすべてが、彼らの『灰色の生』を、色とりどりの美しい世界に変えた。

 

幸せだった。

だが、それももう終わりか。

 

『彼』は自分達の生命がもうすぐ終わることを知っていた。まだちょっぴり生きてはいる。だが、いつまで持たないだろう。

 

暗闇の中、少し体を動かすと、愛する『彼女』と、『息子』に触れる事が出来た。

『彼女』も『彼』同様息も絶え絶えだった。あの崩れ落ちる岩の下敷きになる『息子』をまもるために、二人は身を投げ出したのだ。だが二人ともまだ生きている。

『彼女』もまだ生きており、『彼』と『息子』を気遣っているのが感覚として伝わっていた。

『彼』はなんとかして『彼女』を力づけたいと願ったが、だが『彼』に出来る事はほとんど残されていないのは、良く理解していた。

 

――『息子』の息はだんだん弱くなり、その生命力の匂いが今にも消えそうになっていた。

――『彼』の全てを託すべき存在が、いま、消え去ろうとしていた。

 

もし、願いがかなうなら、自分が『息子』の怪我を引き受けられたなら……

何とかして、自分のこの残された命の力を、自分に移植された“何か”の生命エネルギーの力を『息子』にあげる事が出来ないのか。『彼』は心の奥底から願った。『彼女』もまた、『彼』と同じ考えであることはわかっていた。自分達の命を我が『息子』へ……

 

ズルリ

そして、『彼』の思いに応えるような、奇跡が起こった。

ここは魔法の土地だったのか、この土地が、自分の生命力を吸い出し、そして『息子』の元へ流れていくのが解る。代わりに『息子』の傷が、痛みが『彼』に流れ込んでくる。

その痛みは望むところだ。その痛みは、『息子』を守っている実感を与えてくれるものだ。

ときおり意識が遠くなり、『彼』は自分の命が消えていくのを確かに感じていた。だが、『彼』には恐怖はなかった。それは『息子』に生命力が戻るのを、命が助かるのを感じているからだ。 彼が感じているのは、歓喜であった。

 

『彼』―― バオー・ドッグ ――が最後に感じたのは、心温まる『息子』と『彼女』の匂い、そして自分の体から『何か』がぬるりと出て行く感覚だった。

 

――――――――――――――――――

 

 

1999年11月9日  深夜 [A山近郊の廃墟]:

 

夜になった。

ポルナレフとアンジェラは、一言も口を聞かず、こっそり こっそりと動いた。ハンターやゾンビの目を逃れて物陰から物陰に身を隠しながら、進む。

幸いな事に、周囲には壊れたコンクリートブロックやら、繁茂した背の高い雑草やら、あちらこちらにあった。姿を隠す場所には事欠かなかった。

たっぷりと時間をかけ、話し合い通りに目指す廃墟へ到達したところで、ようやく二人は一息ついた。

 

「ポルナレフさん……右手の壁の後ろに、ハンターが一匹いるわ。でもその周りには誰もいないみたいです」

アンジェラが囁いた。アンジェラは右手に水をたたえたコップを持ち、コップの表面の波紋を見ている。

「そろそろですよ……ポルナレフさん」

 

「よしッ」

ポルナレフは、タイミングを計って、壁の向こうにチャリオッツを出現させた。

 

バシュンッ

 

シルバーチャリオッツは、本人の視界が無いところで、何かを見ることはできない。見えない状態で、壁の向こうの気配だけを頼りに、剣をふるった。

 

壁の向こうで、チャリオッツのレイピアが、何かを切り裂く感覚があった。

「手ごたえあったぜ、殺ったか?」

アンジェラがコップの波紋を見てうなずく。

それを見て、ポルナレフは満足げにチャリオッツを収納した。

 

「スケーターボーイは、すでにあたりの探索を終えてます……近くにはもう何も敵はいないようです」

 

「そうか……じゃあ、行くか。俺が殺ったハンターが見つかる前に、仗助を探しだすぞ」

ポルナレフとアンジェラは、隠れていた壁から離れた。そして、目指す施設に向かって堂々と歩いて行った。

 

壁の裏には、先ほどポルナレフが倒したハンターの死体がぴくぴくと動いている。ハンターはポルナレフによって、一撃で首を刈り取られていた。恐ろしいまでの剣のさえだ。

 

「さてと、どこから入るかね――そうだなぁ、このあたりにすッカ」

ポルナレフはチャリオッツの剣で、建物の壁に小さな穴をあけた。

 

その穴に、アンジェラのスタンド:スケーターボーイがするりと入り込んだ。建物の中を、偵察するのだ。

 

スケーターボーイが入り込んだ先は、暗い、狭い、廊下であった。

近くには、何もいないようだ。

ゆっくりとスケーターボーイが周囲を見回すと、廊下を折れた先に、扉があるのが見えた。

残念ながらスケーターボーイの力では、ドアを開けることもできない。だが空気取り入れ口から中の様子を除くと、奥は広い部屋になっており、なにやら動き回る人影が見えた。話し声も聞こえる。

 

「ぁあああ、あったかい血がほしいぜ。あのお方が探している娘っこの血を飲んだら、うんめぇ――――だろうなぁ。あの小僧もだ」

 

「バカッ、黙れッ あの方々の耳に聞こえたら……」

 

「だがよぉ、あの小僧の変な頭を見てッと、ヒヒッ………ど・どうも、か、か、か齧りたくなんねーか?」

 

「ガガガガッ チゲーネェ……」

 

うげ……

アンジェラはゲッソリした。

扉の奥にいるのは、間違いなくゾンビだ、そして、たぶん仗助の事を話している……アンジェラはスタンドをひっこめ、建物の中で聞いたことをポルナレフに報告した。

「わかったわ、どこかはわからないけど、仗助はこの建物のどこかにいるみたい」

アンジェラは、ポルナレフに言った。

「それから、建物の中にゾンビがいるわ」

 

「わかった。ではさっさと侵入して、仗助を助けようか」

 

バシュッッ!

 

ポルナレフは今度は壁の穴を大きく切り取り、自ら建物の中に入っていった。

「そのゾンビは、どっちだ」

 

「……こっちです……気を付けてください」

 

「なるほど……」

ポルナレフはアンジェラの警告に耳も貸さず、無造作に建物を突き進んでいく。

そして、迷うことなく突き当りのドアを、ドカンと蹴り開けた。

 

ガァアンッ!

 

「な……なんだオメッ」

 

ブシュッ!

 

「ァ…ア・ゴッ!」

チャリオッツは、そこにいたゾンビを問答無用で切り刻んだ。

「もう一匹は、どこにいやがる?」 

 

「危ないッ!」

 

残ったゾンビは、部屋の物陰に隠れていた。

そのゾンビは、ちょうど自分に背を向けて探索しているポルナレフを背後から襲おうとしているッ!

 

「ポルナレフ先輩ッ!避けてくださいッ」

アンジェラはゾンビにむけて、波紋を帯びた飛び蹴りを放つ!

 

「XGyeeeek!」

アンジェラの波紋をまともに食らったゾンビは、まるで熱湯をかけられた雪だるまのように、白い煙を上げて……溶けていった。

 

助かったぜ。

ポルナレフはアンジェラに親指を立てると、興味深げに侵入した部屋の様子を調べていった。

「ふん……ここはなんだ。管制室か何かかぁ?」

 

二人が入った部屋は、円形をしていた。壁面には、たくさんのモニターや操作パネルなどがところ狭しと据え付けられている。

コンソールに積もった埃の厚みを見ると、あまり使われていないようだった。だが、まだ主要機器の電源は生きていた。

 

「これ、検視カメラのモニターかしら」

アンジェラが適当に選んだスイッチを切り替えると、目の前のモニターには外部の様子が次々と切り替わった。

「便利ねぇ……あたりの様子がよくわかるわ」

アンジェラはモニターをぱちぱちと切り替えていき、やがて、目指すものを見つけた。


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