仗助と育朗の冒険 BackStreet (ジョジョXバオー) 作:ヨマザル
1999年 11月 9日 日没直後[M県K市 名もなき高原]:
◆◆◆◆◆
そこは砂漠であった。ポルナレフは、墜落しているヘリコプターの近くに落ちている水筒を見ていた。
「ポルナレフ 水筒を攻撃しろ」
「……いやだぜ *** お前が……くらわしてやりゃあいいじゃねーか」
「ぼくだっていやだ!」
「自分がいやなものを人にやらせるなッ! どおーゆー性格してんだてめーッ」
◆◆◆◆◆
山の尾根を上る丸木車の上で、ふとポルナレフは昔のことを思い出していた。
あのつらく、厳しく、だが振り返ると楽しかった旅のことを。当時の事を思い出すと、今でも夜に寝れなくなるほど後悔に襲われたり、ニヤニヤが止まらなかったり、顔が赤くなったりする。
本当に、いろいろな出来事があった旅であった。
「ポルナレフさん、どうしたんですか? ニヤニヤして……失礼ですけど、ちょっと気味が悪いですよ」
隣で、そんなポルナレフの様子を見ていたアンジェラが、恐る恐る指摘した。
「へっ?」
ポルナレフは追憶をやめ、あわててこれからのことに意識を引き戻した。
「イヤ、すまん。ちょっと考え事をしていた……それより噴上クン、そろそろ『ハイウェイ・スター』を探索に出してくれないか?」
噴上は、ポルナレフの指示に素直にうなずいた。
「了解だぜ。ポルナレフのおっさん。探索に出すのは50メートル先、でいいか?」
「いや、もっと先だ。500メートルくらい先を探ってくれ」
「其処まで行くと、自動操縦モードになっちまう。大まかな位置しかわからねーが、良いのか」
「構わない。やってくれ」
「了解っす、ポルナレフさん……だが億泰ッ、コイツはグースカ寝やがって、いい気なもんだ、ムカつくぜ」
噴上は、だらしなく眠っている億泰を見てチッと舌打ちした。だが、ポルナレフの指示通りハイウェイ・スターを出現させ、丸木車の前方を走らせる。
億泰の方は、今の内に出来るだけ休養を取れと言うポルナレフの言葉を文字通りに受け取り、少しでも深く休むために、丸木車の上で大口をあけて眠っている。
ポルナレフは、涎を垂らしてだらしなく眠っている億泰を見て、またニヤッと笑った。このコーコーセー達は、一緒に旅をした『奴ら』よりも見た目はアホそうだ。だが、もしかすると性根は『奴ら』よりも真っ直ぐ、純朴で、イイヤツ等なのかもしれない。
それは単にもしかしたら、地方都市のガクセーと、日本屈指のオサレ都市である湘南地方のガクセーとの違いかもしれない。
確か、コイツラは当時の『奴ら』より、年齢もちょっと下か。
そう考えて、ポルナレフは苦笑した。当時の『奴ら』も、今ここにいる『彼ら』も、今の自分の半分以下の年齢なのだ。
気を引き締めねば。
自分はもう、ただ『彼らの仲間』なだけではいられないのだ。当時のジョースターさんのように、自分がリーダーとして『彼ら』を導き、先輩としてのアドバイスをしなくてはならないのだ。勝手に動いていい立場じゃあない。
ガラじゃあない。
がらじゃあないが、自分がリーダーって奴をやらなければ。
「!!スピードを落としてくれッ、『ハイウェイ・スター』が何か嗅ぎ付けたゼ」
噴上が、後方のアンジェラに声をかけた。
「了解ィッ」
アンジェラがスピードを緩め、ゆっくりと丸木車を動かしていく。
すると、先行していた噴上の『ハイウェイ・スター』が、走って戻ってきた。ハイウェイ・スターは、丸木車を小さな森の広間 ――『行き』に、多数のハンターを始末した戦いの跡地 ―― へと案内していった。
「感知したぜ……このあたりに、仗助のポマードの匂いがプンプンしやがる」
噴上は、丸木車が下ってきた道とは異なる、別の狭い木々の切れ目を指差した。
「ハンターどもの匂いが多すぎてよくわからねーが……ここを何体かのハンターが上がっていったようだぜ。仗助の匂いもここにある……悪いが、ピーターのおっさんの匂いはしねーな」
「仗助が捕まっちまった、と言う事だろうな」
ポルナレフが言った。
「噴上クン、他の人間の匂いはしないか?」
「ああ、匂いがあるぜ。人数はよく把握できねーが、確かにハンターとも、仗助とも違う臭いの持ち主が何人かいるぜ」
「……よし、俺たちも後を追うぞ。丸木車はここにおいていく。噴上君は引き続き 『ハイウェイ・スター』を前方に出して周囲を偵察してくれ……『十分気を付けてな』……あ――先頭を行くのは アンジェラ、君だ。その次が億泰、噴上 そして俺がしんがりだ。イイな」
ポルナレフは、億泰をたたき起こし状況を説明すると、アンジェラの後ろに付かせた。
「アンジェラ、真っ直ぐだ。しばらく真っ直ぐ丸木車を走らせろ。奴らが近づいてきたら、ハイウェイ・スターが感知して、お前に知らせる。だから合図があるまでは真っ直ぐだ……お前たち、先をいく事ばかりに集中しすぎるなよ……ハンターや仗助を倒したスタンド使いが、途中で俺たちをおそってくるかもしれん。それを忘れるなよ」
「……うっす」
周囲がうんざりする程こまごまとした指示を出していたポルナレフを、噴上が遮った。
「ポルナレフのおっさん……近づいてい来るやつがいるぜ……悪いッ 仗助の匂いに集中しすぎて、気づくのが遅れちまった。来るぜ!」
「何人だ?」
ポルナレフは、噴上が指し示す方向に自分のスタンドを出現させた。
「1人だ」
んっ? と 噴上が微妙な表情を一瞬見せた。
「この匂い?」
そして……
ガサッ
草木をかき分け、何者かが近づいてくる……
待ち構えていたポルナレフ達の前に現れたのは、スミレであった。
「億泰ッ!」
姿を現したスミレは、億泰の元気な姿を見て、顔をほころばせた。
「こんなところでまた会えるなんて、思ってなかったわ。元気そうで良かった……ところでミキタカゾは?」
「スミレ先輩じゃあないっすかぁ~」
億泰は歓声をあげてスミレの手を握りブンブンと振った。
「逃げられたんですね。良かったッス。心配したんすよ」
「お、億泰も元気そうね……それで、ミキタカゾは?」
「訳があって別行動してますが、アイツも元気っすよお~」
億泰の返答に、スミレは良かったぁ とニッコリ笑った。
「あなたが栗沢スミレ さんか」
初めまして とポルナレフが手を差し出した。
「貴方は……」
「俺の名は、ジャン・ピエール・ポルナレフ……アメリカ政府に雇われた、エージェントだ」
「!?……アメリカ政府のッ」
スミレが、さっと顔を曇らせ、ポルナレフから距離を取った。
「……いや、誤解するな……俺は、彼を助けたいんだ」
ポルナレフは、スミレにこれまでの事情を話し始めた。
二人が話しているとき、噴上がスミレの手を勝手にとって、その手の甲に自分の唇の辺りを近づけた。
パンッ!
「ちょっとおっ、あんた何者?何すんのよッ!」
とっさのことに、スミレはその手を振り払い、噴上のほほを張った。
パシッとほほを張られた噴上は、もう一発、と目を三角にして手を振り上げたスミレを見て、まってくれ とあわてて両手を挙げた。
「まッ待ってくれ。誤解だッ、おれはただ匂いを確認しただけだッッ」
「何ですってえ?」
スミレの眉がキリリと上がった。
「匂い好きの変態ってわけ?」
「ちょッ……待ってくれ。あんた、育朗の探してたス……人だろ?」
噴上の言葉に、スミレは目を丸くした。噴上の襟をつかみ、激しくゆする。
「育朗?アナタは育朗を知っているの?どうして?」
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1999年 11月 9日 日没直後[M県K市 屍人崎近く]:
農家の中に入ったアリッサ達が戻ってきたのは、それから約半時間後だった。
アリッサも、シンディも、そして未起隆も、農家の中でホル・ホースの警告通りの惨状 ――血だらけで真っ赤に染まった部屋の真ん中に、腹と頭を噛み千切られた男女の遺体が積み上げられている―― を目にして、皆青ざめた表情で、吐き出しそうになっていた。三人とも、ついさっき悪夢から覚めたかのような、顔だ。
「警告したろう、素人にはきついってな」
ホル・ホースはそう言うと、優しくシンディとアリッサの二人の手を引いて、芝生の上に座らせた。当然、男である未起隆は、どんなにしんどそうでも完璧に無視だ。
「見たか?あの死体を」
ホル・ホースの質問に、アリッサとシンディは顔を強張らせながら、うなずいた。
「対して収穫はなかったわ。わかったことは……」
三人の中でいち早く震えを止め、シンディが説明しはじめた。
「……ここの主人は植松 秀彰さん 今年50歳の壮年の男性で、最近結婚した奥様と 赤ちゃん……アミちゃんって名前だったらしいわ……そして年老いたご両親の5人家族だったようね」
シンディは、ブルッと体を震わせた。
「赤ちゃん以外の死体はすべて確認したわ。赤ちゃんは見つからなかった……食べられたのかも……」
「アナログ式の腕時計が、2時を指していたわ」
アリッサが言った。
「襲撃は朝2時に行われたようね、それから電話線が切られている……当然NETもないし、携帯の電波も届かないわ」
それから、車も破壊されていたわ と、アリッサが付け加えた。
「持ち物を見る限りでは、ここのご一家はあまり裕福な暮らしではなかったようですね……強盗の犯行ではないようです。少しあった貴金属やお金はそのまま残ってましたから」
未起隆も、青白い顔で言った。
「ゾンビだ……」
早人が言った。
「ホル・ホースさんの言うとおり、この家は、ゾンビに襲われたのに違いないよ」
ホル・ホースが、うなずいた。
「そうだな、俺もこの家がゾンビに襲われたと思うぜ。計画変更だ。もうひと頑張りして、この家の裏山を越えた先にある海岸まで行くとしよう。ここはお宅たちには、チョイと危険すぎる場所だぜぇ」
アリッサ達はうなずいた。
「そうね、しんどいけれどもう一頑張りしましょう」
「早人クン、もう少し頑張れる?」
シンディの質問に、早人はうなずいた。
「……もちろんです、頑張りましょうッ!」
「いや、早人君はずいぶん頑張りました。だから、少し僕が手伝いますよ」
未起隆は、そう言うと ポンッ とその姿を変えた。
変身した未起隆は、早人の体を、包んでいく。早人の足の上には新しい靴として、ズボンの上に新しいズボンとして、上着を、そしてゴーグルのようなものが付いたヘルメットとして、形を変え、早人を包んだ。
「なっ!」
驚いている早人の耳元に、未起隆の声が聞こえた。聞こえてくるのは、早人の耳に装着されたイヤホンからだ。
『突然スミマセン。これはなんと、僕達が宇宙船で着ているパワード・スーツをまねたものなのですッ。もちろん僕はパワード・スーツそのものの機能を再現ではないのですが、僕の力を早人君に貸すことができます』
これで、楽に歩けるようになりますよ……と、未起隆は満足げに言った。
「あ……ありがとうございます、でも イイですよ。こんなにしてもらったら 未起隆さんに悪いですよ」
(まるで漫画ヒーローのコスチュームじゃあないか。正直恥ずかしい……うわぁ、シンディ姉さんがあきれてみている……)
早人があわてて元に戻ってくれと頼んでも、未起隆はどこ吹く風だ。
早人は恥ずかしさのあまり、早くアリッサとシンディの視線から逃れたいと願った。そして小走りに駆けて、先を行くホル・ホースに追いつこうとした。
そのとき、軽く走ったはずの早人の体が、ピョンと空を飛んだ。そして、たった一歩でホル・ホースのもとへと到着した。
「何だぁ」
拳銃を構えたホル・ホースが目を丸くしている。
……拳銃?早人も、目を丸くした。これが、もしや……ホル・ホースのスタンド、エンペラーではないのか。
そう思ってホル・ホースを見ていると、今度はゴーグルが上に跳ね上がった。すると、ホル・ホースが手をピストルの形にしているように見える。 ――拳銃は見えない―― だが、再びゴーグルが下りてくると、拳銃が見える。
「これは……」
『そうです。私の能力を貸すと言ったでしょ……これで、早人クンにも、私が見えているもの……スタンドを見る事が、出来るようになったのです』
未起隆が誇らしげに言った。
「スゴイや」
早人は興奮した。
「じゃ未起隆さんが手伝ってくれたら、僕も仗助さんや億泰さんのスタンドが見れるんだ」
はしゃぐ早人の耳に、微かに何かが聞こえた。
誰の泣き声だ?
「ちょっと静かにして、何か聞こえるよ?」
早人が耳を澄ませると、それは2階の屋根から聞こえてくるようだった。
先ほどと同じ要領で、力を込めてポンと飛び上がると、早人は簡単に二階の屋根に飛びつくことができた。
そして……屋根の上に登ってみると、そこの雨どいに丸められた布団が引っかかっていた。泣き声は、そこから聞こえてくるように思えた。
(まさか……)
『早人サン、行ってみましょう』
早人&未起隆は、屋根の上を走って雨どいのところまで行った。そこにあったのは、青地に泳ぐ魚がプリントされた子供用の布団だった。
ガムテープで乱雑に留められている布団を開くと、その中には、3歳くらいの小さな幼児がくるまれていた。