仗助と育朗の冒険 BackStreet (ジョジョXバオー)   作:ヨマザル

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栗沢スミレ その3

もうすぐ会える。もう少しだ。

お願いだから、無事でいなさい。アンタは強いから、大丈夫よね。

この岩を取り除けば、顔が見える……

……だが、違っていた………

現れた顔は、育朗では無かった。

救出したその男が着ているのは、背中に大きくSWとロゴが貼られた、た作業服だった。

そもそも男は、日本人でさえなさそうだった。茶色がかった髪、鼻筋の通った目鼻立ち、こんな時でなければなかなかハンサム?と思えるような渋いオジサンだ。

男は完全に気を失っていた。スミレは折れそうな心を励ましながら、苦労して男を瓦礫の隙間から引きずり出した。

近くを流れる渓流の水を汲んで口に含ませると、その男はゆっくりと目を覚ました。

 

「ううっ……君が助けてくれたのか。ありがとう」

助け出された男が感謝のことばを述べた。英語だった。

「あなたは……?」

「……僕はピーター。SW財団と言う財団に努める……研究者さ」

ピーターは、頭が痛む と言う風に自分のこめかみを抑えた。

「こ…この森には研究のために来たんだけど……いや、ひどい目にあったよ」

(SW財団? 確かミキタカゾがそんなような財団のことを口にしたことを聞いたことがあるような気がする)

この男は誰なのか?信用できるのか?DRESSの人間とは思えないが……スミレは状況を飲み込めず、少し混乱していた。

(もしミキタカゾに関連しているってのなら、洒落がわかって、たぶんUFOの研究なんかしている、少し左巻きの財団なのかも?でも、どうしてそんな関係なさそーな財団がこんな危険なところに来たの?……育朗、あなたは何処にいるの? )

少し頭がはっきりしてきたピーターが、スミレの手をつかんだ。切迫した口調で、スミレに警告する。

「君、ここは危険だ。出会わなかったか? ――恐ろしい怪物がこの辺りをうろついているんだ―― 早く、この森から脱出しないとッ!」

ピーターの言う怪物とは、さっきスミレにおそい掛かってきたあの怪物のことだろうか。

「怪物って、なんですか。ここで何があったの?」

スミレの質問に、ピーターが顔をしかめた。

「……すまない、君に余計な危険を呼び込みたくない。だから詳しいことは話せないんだ。だが、君こそどうしてこんな山奥にいるんだい?」

と、WitDがスミレの額に出現した。

すると、スミレの脳裏に、ピーターがミキタカゾや億康と一緒にいた光景が浮かんだ。三人は、他の仲間と一緒に 木で作った船のようなものに乗っている。

だが、その船が怪物に襲われ、ピーターの目の前に怪物が現れ……

ビジョンが消えた。

だが、今のビジョンを見てピーターがミキタカゾと億泰の味方だと言う事が、はっきりとわかった。ならば、味方のはずだ。

スミレは心を決めた。 本当の事を話そう。

「私の名前は、スミレって言います。S市の高校に通う、ガクセーです。この森には 仲間……やっぱり同じコーコーセーの ミキタカゾ くんと 億泰 くんと一緒に来たわ」

スミレは、これまでに起こったことをかいつまんでピーターに話した。

「そうか、君がスミレさんか」

ピーターが目をぱちくりとさせ、そして顔を暗くした。

「そうか……ならば話のつじつまが合う」

「お願いです。ここで何があったか、教えてください」

「………わかった」

ピーターは大きく何度も息をすって、自分が経験したことを、スミレに話してきかせた。

 

元々、この地のとある『怪異』を調査するために、このあたりでキャンプをしていたこと。

突然、怪物に襲われたこと。

丸木車を作って、海まで脱出しようとしたこと。

脱出の途中で怪物に襲われ、丸木車から落ちたこと。

怪物に襲われ瀕死の重傷を負った自分を、東方仗助が助けてくれたこと。

……そして、東方仗助と橋沢育朗が戦ったことを、ピーターは話した。

スミレは、ミキタカゾと億泰が無事だったことを知って顔をほころばせ、育朗が元気な姿を見せたことを知って一瞬涙を溢れさせ、そして二人の戦いを聞いて真っ青な顔になった。

「育朗と……仗助君が戦った?」

あの伝説のヤンキーと……育朗が?

「そんな……それで今、育朗はどこにいるんですか?」

育朗と戦ったという仗助は、傷だらけで倒れていた。ならば、育朗は今どこにいるの?

スミレの質問に、ピーターは顔をゆがめた。

「……育朗君も……ここにいるよ」

「えっ……」

 

コ” コ” コ” コ” コ” コ” コ” コ” コ” コ”

そう言ってピーターが指差したのは、爆心地の中心に転がる巨大な岩の下だ。

その岩は地面に半分うずまっている巨大な岩で、2階だての民家ほどもある大きさがあった。

 

「……爆発が起こったときに、育朗君がこの、『大岩』に押しつぶされるのを見たよ……この岩は今は横倒しになっているけど、爆発が起こる前は、今見える崩落した所の端、この渓流の横に直立していたんだ……」

「ちょっと、うそでしょ……」

スミレは呆然として、横倒しになり、半分地面にうずまっている巨大な岩を眺めた。

「いく、ろぉ……」

――――――――――――――――――

1999年 11月 9日 夕刻[M県K市 屍人崎近く]:

 

ポルナレフ達と別れた後、早人達はホル・ホースの先導で順調に海岸へ向って進み、夕刻には海岸近くを走る細い県道に到達していた。周囲に人の気配がないとはいえ、文明の、人の住んでいる気配がする所についに到達した一行は、緊張から解放され、ほっと安心して息をついたところだった。

「助かったわね……」

喜ぶアリッサに、ホル・ホースはニヤッとうなずいた。

「そうだな、ベイビー。ついに文明がある所に近づいてきたってわけだ」

ホル・ホースは地図を開いて、一行に見せた。

「周りの地形を見るに、今いるところは大体この辺だ。だが、この辺りはほとんど民家がねーな」

「でも噂だと、この道路はほとんど使われていないはずです」

未起隆が、ポンと早人の靴から元の姿に戻って言った。

「確か途中の道が狭くて、状態も悪いので、一週間に一回、車が通ればいい方だと」

未起隆は声を潜め、しかもこの道路には幽霊がいるという噂もあるんですよ。と低い声で付け足した。

「へッ」ホル・ホースが笑った。

「俺たちには宇宙人がついてるんだぜ、幽霊なんて怖くねーだろ」

イヤイヤ、宇宙人だって幽霊は怖いです。未起隆が首を振った。

「それで、どうしますか」

シンディが尋ねた。

「まだ、無線も携帯電話もつながらないみたいです。 ここで車が来るのを待ってますか、それとも……」

「その『それとも』の方だな」

ホル・ホースが地図上の一点を示した。そこにはぽつんと民家が書かれている。

「どんな物好きかしらねーがよ、こんな所にポツンと住んでるやつがいる、そこに行こうぜ。電話ぐれーあるだろ。何、あとたった1Kmくれーよ……なんて場所だ?シニンザキィ?」

その、屍人崎という地名の意味を聞いて、ホル・ホースはうげぇ……と心底嫌そうな顔をした。

「そうね……縁起が悪そうな名前だけれど、道もない山を進むより、はるかに楽ね」

アリッサがため息をついた。

「半端に休むより、動き続けていた方がいいわね……さっそく出発よ」

     ◆◆

一行は、ホル・ホースの提案通り、県道を辿って進んでいった。

県道とはいえ道は細く、曲がりくねり、あちこちに急坂があった。舗装されていない砂利道や、ところどころでは少し崩れている所さえもあった。だが、それでも道なき山を進むより、はるかに道中は楽であった。

一行は順調に進み、小一時間ほど歩いた後、無事目指す民家に到達する事が出来た。

そこは、『県道から森の中へ伸びる細い道の行き止まり』にぽつんと立つ農家で、今時珍しい純和風の建物だった。困ったことに、早人達がいくら大声を上げて呼びかけても、農家からは誰も出てこようとしなかった。

「誰も出てこないわね……車はある、でも人の気配がしないわ」

アリッサが言った。

「これは……マズイかも知れませんね……これ以上近づく前に、もう少し調べてみましょう」

未起隆が、ポンと双眼鏡に化けた。

その双眼鏡をホル・ホースがつかみ、周囲の様子を調べた。時折舌打ちをしながら、丹念に周囲を探っていく。

もう、周囲は随分と薄暗くなってきていた。もうすぐ、日も沈むだろう。

メギャンッ

ホル・ホースは双眼鏡を放り投げると、自分のスタンドを出現させた。

「あなた、何やってるの?」

アリッサが尋ねた。

スタンドは一般人には見えない。だが、まるで子供の戦いゴッコの様に人差し指を突出し、手を拳銃の形にしているホル・ホースを見れば、彼が自分のスタンドを出現させていることぐらいは、一般人でも予想がつく。

「この民家は何かヤバい、静かすぎるぜ」

ホル・ホースは、黙って待機しているよう一行に指示して、1人、農家へ入って行った。

ホル・ホースが探索をしている間、未起隆は、表面を岩に擬態した空間を作り、一行をその中に隠した。

しばらくして、ホル・ホースが門をくぐって出てきた。肩をすくめ、首を振っている。

「誰もいねー……だがどうやら、ゾンビが『どこから来た』のか解ったぜ」

ホル・ホースが言った。

「ドレスの奴らは、このあたりの村を一つ壊滅させやがったに違いねー。そして、村人を全員ゾンビにして周囲の家や俺たちを襲わせたんだ。おそらく、この家の連中は奴らに『喰われ』た」

「どうしてそう思うの?」

アリッサの問いに、ホル・ホースは首をすくめた。

「この家に住んでいた家族らしい死体を、見つけたぜ。それからこの家だが、表から見ると普通だが、裏はめちゃめちゃにぶっ壊れているぜ。こんなにも家をぶっ壊せる奴はよぉ……重機でも使わない限り、ゾンビか超パワーのスタンド使いぐらいなもんよ」

「そう……所で、今のところ危険な奴らは近くにいないのね」

「ああ……この周囲にはいないね。プロの俺様が念入りにチェックしたんだ。間違いねぇ」

ホル・ホースは懐から葉巻を取出し、カッコつけた動作で火をつけた。

「じゃあ安全って事ね。私も見てくるわ」

アリッサが言った。

「何か役に立つ情報があるかもしれない」

「オイオイ、中はひどいありさまだぞ、危険はないから止めねーが……中に入ったら何を見る事になるか、覚悟していけよ」

「わかったわ」

アリッサは、シンディと未起隆を連れて、農家の門をくぐった。

だが早人は、三人の後をついていこうとしたところで、ホル・ホースに首根っこを引っ掴まれた。

 

「ボーズはだめだ。この奥にアンサンが見ていいモノなんかねー」

「どうしてですか」

「家族の死体があるって言ったろ?」

 

「……ひどいものを見る、覚悟はできてます」

 

「ダメだ……こりゃあ、覚悟のもんだいじゃあねぇ……ガキが見るもんなんざ、この奥にゃぁ、なにもねぇ――ゼ」

ホル・ホースが首を振った。

 

早人は、ホル・ホースが妥協する気が無いのを見て取って、三人の後を追う事を、あきらめた。

「……そうですか、納得はできないけど、わかりました」

 

早人はホル・ホースに向き合った。と、言っても、特に話すこともない。

世代が違いすぎるし、これまで暮らしてきた環境も違いすぎる。そう思って少し気まずい思いをしていると、ホル・ホースがポンと早人の頭を撫でた。

「兄ちゃん、さっきは ――『自分達を置いて、ジョースケを助けてくれ』って言ったのは――かっこよかったぜェ。あんさん、肝っ玉の太い、かなりヤル小学生だなぁ……いろいろ武勇伝も聞いてるぜぇ」

ホル・ホースは拙い日本語で、早人に話しかけた。

「武勇伝だなんて」

早人は、うつむいて言った。

「……そんなものないですよ。僕なんて、成績も、運動神経も、なんのとりがらの無い普通の小学生です。僕はただ、必死だっただけです。ただ、父さんと、母さんと、仲良く暮らしたかっただけ……」 

でも、お父さんは殺されてしまった。早人はゴシゴシと目をこすった。そして、だからこそ母さんは僕が絶対守るんです と力強く、言った。

「そうか ボーズ、お前は残されたお母さんを、守りたいか」

ホル・ホースが、いつになく真摯に言った。

「当たり前です」

「母さんを幸せにしたいのか」

「ええ……」

早人は少しむっとしていった。

「母さんには僕しかいないんです。僕が父さんの代わりに母さんを守るし、幸せにするんだ」

「ヒヒヒッ。立派なことで。末恐ろしいガキだな」

ホル・ホースは、ふっと煙草の煙を空中に吹いた。

「……だがな、ボーズ。お前は間違ってると、俺は思うぜ」

「なんですって?」

早人が怒った声で聞き返した。

「お前の母さんはよォ〰〰お前の親なんだよ」

ホル・ホースが言った。

「いいか、『親』なんだ。話をきいてりゃ、ずいぶん立派な母さんじゃねーか ――尊敬するぜ―― そしてお前は『子供』だ」

「わかってますよ……何を当たり前のことを言ってるんですか?」

早人は、ぷいっとホル・ホースに背を向けた。

「ヘッ」

肝心な事を言う前に嫌われちまったかな……とホル・ホースは苦笑いした。

「ダメだな、日本語じゃあ上手く話せね――。イイや、違うな。やっぱりガラじねーんだ。ガキに偉そうな口をきくなんてよ。ヒヒッ」

ガキが元気で幸せじゃねーと、親は幸せになれねーんだぜ……

ホル・ホースが言わんとしたその言葉は、ついに口にされる事は無かった。


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