仗助と育朗の冒険 BackStreet (ジョジョXバオー)   作:ヨマザル

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ホル・ホース その2

仗助は、ポルナレフが語る話を目を丸くして聞いていた。

それは、夜の一族:柱の男達とその男達が作り出したゾンビや吸血鬼……石仮面の話であった。

それは、夜の一族と神秘の赤石をめぐる若き日の父親の冒険譚であり、ジョースター 一族とDIOと言う名の男との世紀をまたがる因縁話であった。

どれも、初めて聞く話だった。

「そうなんすか……知らなかったっすヨ……ジジイの奴からはそんな戦いがあったことさえ、聞いたこと無かったっス」

承太郎さんからも、仗助はそう言って唇をかんだ。

「こんなことを言って、慰めになるかは知らん」

ポルナレフが言った。

「だが、実は俺も、承太郎も、最近SW財団の記録を読むまでは知らなかった話なんだぜ」

「ジョースターさんはああ見えて自慢話もしないし、昔のことを話したがらない人だからな……俺の知ってることも表面的だが、あの娘、アンジェラは波紋の一族だから俺よりもっと詳しい事まで知っているかもしれん」 

 

聞いてみてくれ と言うポルナレフの一言に、仗助はあいまいにうなづいて見せた。

「それで、今の話で、ゾンビってのが 石仮面をかぶった吸血鬼 ――承太郎さんが倒したDIOみたいな―― によって作られた怪物だってことはわかったッス。その石仮面ははるか昔に夜の一族の為に作られたものだって事も」

ポルナレフはうなずいた。

「そうだ、おそらく組織がDIOの体細胞を採集し、何らかの方法でゾンビを作成するエキスやウィルスの分離・培養に成功したんだろうな」

それが、今俺たちが戦っている敵の正体だゼ。

「なるほどっス。そっちはわかりました」

仗助はギュッと両拳を握り、唇をかみしめた。 ポルナレフの目を、真っ正面から見据える。その視線の強さからは、承太郎や、ジョセフと同じパワーを感じる。まさしくジョースターの血統だ。

その顔つきは、友人達と戯れていた時とは全く違う、戦う漢の、貌であった。

(こうやって見ると、やはりジョースターさんと承太郎の血縁だな)

ポルナレフは感慨深く、仗助をみやった。

 

「それでもうひとつ教えてください。皆の話にちょくちょく出てくる……橋沢育朗クン……てヒトは何をされたんすか? ゾンビと、育朗クンに何のかかわりがあるんすか? それと、俺とのかかわりって何すか? 何がからむんすか??」

「……では話の続きに戻ろう。今の疑問に答えるため、もう少しだけ話を聞いてくれ…………ジョースターさんと戦っていたカーズの野郎が『究極生命体』になった時だ……その場に、日本帝国軍からナチス・ドイツに派遣されていた若き天才日本人研究者がいた」

「……まぁ、そんなヤローがいても不思議はないっすねー」

ポルナレフがため息をついた。

「そいつの名前は『霞の目』と言うらしいぜ。後にドレスと言われる研究組織の主任研究者となった男、マッドサイエンティストだ」

 

「へぇ……」

 

「狂った研究者だ ――いつか俺が止めをさしてやる―― 」

ポルナレフが言った。

「本当のところ、奴がどうやったのかは知らない。だが奴は、その場にほんのちょっぴり残った究極生命体の細胞を入手したらしい。奴はその細胞を培養し、バイオテクノロジーの技術でその細胞をもとに多くの生物兵器を作り出したってワケだ」

「その一つが育朗クンに植え付けられた バオーって事っすか」

「そうだ、バオーは 『霞の目』が生み出した もっとも恐ろしい生物兵器だゼ」

ドレスが生み出した生物兵器は他にもいるぜ。俺も、承太郎も、ジョースターさんもそいつらとずっと戦ってきた。

長い戦いだ、と、ポルナレフはため息をつき、話を終えた。

「さあ、戻ろう。もう皆も起きてくるころだ」

いつの間にか、すっかり辺りは明るくなっていた。

     ◆◆

ホル・ホースは、夜勤明けの眠い目をこすって早朝のキャンプ場を歩いていた。

とっとと眠りたい。 思わず出てしまった大きな欠伸をかみ殺して、宿舎(テント)に向かっていく。

 

だが、テントまでの道のりの途中で、噴上裕也とアンジェラ・チャンの話し声が、ホル・ホースの耳に入った。

(オイオイ、コーコーセーよォ、あのレディも俺のもんだぜ)

ほとんど反射的に、ホル・ホースは噴上とアンジェラの話に強引に割り込んだ。

「よォレディ、あんた、波紋使いなんだってな?」

……別に、ホルホースが見張りをしている間のほほんと寝ていた噴上が、美味い事やろうとしている事にカチンと来た訳でも、自分がいないところで若者たちが青春するのを邪魔したくなった訳でもない 。

……はずだ。

「あら、あら、モテモテトリオのお1人のホル・ホースさんじゃあないですかぁ〰〰」

アンジェラは、話しかけてきたホル・ホースに笑いかけた。

「どうしたのですか?私はあんた達のタイプじゃあないと思うんですけど……ホル・ホースさんは、シンディさんみたいな美人さんが好きなんだと思っていました」

「おいおい、誤解だぜ」

アンジェラの棘のある話し方に戸惑いながら、ホル・ホースが言った。

「俺はただ、礼儀正しい男なんだ……好みのタイプかどうかでレディへの接し方を変えるような男じゃぁないぜ」

「……あら、それは失礼な事を言っちゃいました。ゴメンなさい」

アンジェラは素直に謝った。

「いいって事よ〰〰っ。ちなみに、俺の好みのタイプは、強くてよく笑う女さ……つまり、あんたはストライクど真ん中よ、ベイビー」

じゃあ仲直りのしるしを……とアンジェラの肩に手を回そうとしたホル・ホースのみぞおちに、アンジェラは軽く肘を入れた。 しかもただの肘打ちではない。軽く波紋を込めた一撃だ。

ホル・ホースは丸々一分間息ができなくなり、真っ赤な顔になった。

「本当にあなた達には感謝していますッ……でもごめんなさい!私はもっとシャイな男がいいんです。ナンパな人はちょっと……」

アンジェラはゴメンナサイッ と頭を下げた。

「おいおい、ナンパってよぉ……それは何か、俺と相棒達のことかよ」 

ホル・ホースは、気を取り直しておどけて見せた。

「確かに相棒のポルナレフと、この噴上君はナンパ野郎と言われても仕方ないかもしれねぇ。でも、俺は違うんだぜ。俺は女を尊敬している。当たり前だよな、女がいるからこの世は回ってるのだからョ」

「ちょっと待て、この俺をオッサンたちと一緒にしないでくれ」

噴上も抗議した。 きらっと歯を光らせ、キメキメの顔でズィッとアンジェラにせまる。

「よく考えろ、俺はナンパなんてする必要さえねーんだ。ほら、俺を見ろ……どうよっ。わかるだろぉぅ?控えめに見ても、ミケランジェロの彫刻のようなこの俺、裕ちゃんをみればよぉ……」

この俺ほど美しければ、スケが勝手によってくるのよ。

 

と大真面目に話す噴上の話を、アンジェラは引き気味に聞いていた。

「そうね、すげー美しい……ですね、ミケランジェロさん。ところで教えてほしいのは、アナタのことじゃなくて仗助のことなの」

アンジェラが言った。

「仗助はどこにいるの?知ってたら教えてくれませんか」

「ああ……仗助のヤローならあそこで、ポルナレフと話をしていたぜ」

軽くあしらわれ、少し鼻白みながら、噴上が答えた。

「ホントッ?ありがとう、お二人サン」

軽くあしらわれて憤然としている噴上とホル・ホースを残して、アンジェラはイソイソと仗助のところへ走って行った。

そのあとには、ちょっと唖然とした『自称?』色男の二人が残された。

 

「オイ……ホル・ホースのおっさんよぉ〰〰っ。割り込みたぁひでえよ」

噴上は納得いかない様子で、ホル・ホースに詰め寄ろうとした。

 

「オイオイ……てめーのナンパの失敗を、他人に押し付けるんじゃねーゼ」

やってられねーぜ、相棒。

ホル・ホースは肩をすくめて噴上の抗議をうけながすと、大あくびを噛み殺しながら自分のテントの中へもぐりこんだ。

 

テントの寝袋に潜り込んだホル・ホースは、先ほどのアンジェラとの会話に触発され、11年前に出会った女、ディビーナ・ダービーのことを思い出していた。

 

     ◆◆◆◆◆

ディビーナは初めて会った時から、ずっと陰気な表情をしていた女だった。

無理もない、幼少のころから兄二人、ダニエルとテレンスに、まるで兄弟ではなく家政婦か何かのようにこき使われ、罵声を浴びせられていたのだ。

 

確かにダニエルとテレンスはスタンド使いとしては一流だった。二人とも、あのDIOから『天才』とまで言われた男たちだ。しかし、女をあそこまで追い込み、本来の美しさを封じ込ませる、クズ野郎達でもあった。後に彼らが承太郎に敗れ、再起不能となったことを知った時には、心からざまあみろと思ったものだ。

女から感情を奪ってどうする。女が笑い、子を産み、人とつながっていく事で、かろうじてこの世は存続しているのだ。女が笑うから世界には価値がある。

兄二人に無能とさげすまされ、表情のない人形のようだったディビーナ。

ホル・ホースは、そのディビーナをなにくれと気にかけ、話しかけ、微笑ませ、その無表情だった顔に表情を取り戻させてやった事を誇らしく思い返した。

     ◆◆◆◆◆

 

ホル・ホースの思考は、ディビーナの身の上から、より気になる事へと移っていく。

気になっていたのは、『ディビーナは、承太郎にやられたDIOの魂を回収・保管しているのか』であった。

ディビーナの能力は、まさしくそのための『保険』の為のモノだったのだから。

 

     ◆◆◆◆◆

あれは確か、エージェントの紹介でエジプトに渡り、DIOと面会した日の事だった。 引き合された何人かのDIO配下のスタンド使い達の中に、ディビーナがいた。

ディビーナははたから見ても一目でわかるほどオドオドし、委縮していた。そんな人間が何故DIOの近くにいられるのか、不思議に思った事を覚えている。

 

そんなディビーナが、その日のウチに自分からホル・ホースに 接触してきたのは、意外でもあり、だが想定内のことでもあった。 新しい仕事仲間の情報が必要だったホル・ホースは、渡りに船とばかりにディビーナに付き合い、問われるがままに自分の事を語った。

ディビーナが兄の差し金で送り込まれている事は 『承知の上で』だ。

「『セフィロトの樹』よ」ホル・ホースの脳裏に残る11年前のディビーナは、自分のスタンド ワン・ツリー・ヒルの秘密を恥ずかしそうにそう話していた。

「ベイビー……悪いが俺には意味が分からねー。お前ほど学がねーからよ」

あの時、クスっとディビーナは笑って、自分のスタンドを出してくれた。

「ケテル、コクマー、ビナー、ケセド、ゲブラー、ティファレト、ネツァク、ホド、イェソド、マルクト、ダアト……人間の体をセフィロトの樹にみたてて、その11か所へ金貨をおいていくの。このワン・ツリー・ヒルで精神を閉じ込めた金貨をね。そうすると、この金貨に封じ込めた魂を、別の肉体に宿らせることが出来るってわけ」

この能力はDIO様にささげたものよ ディビーナはうっとりとした口調で、そう言っていた。

「DIO様……あの方のお力になれるのなら、私はなんだって耐えられるわ」

「……そうだな、だがディビーナ、お前がただ耐えているだけでだったら……DIO様は喜ばないと思うぜ」

ホル・ホースは用心深く言った。

「DIO様は、お前も天国へ連れて行こうとされている。『本当のお前』をな……俺には分かるんだ……だから、お前はもっと本来のお前を表に出した方がいいぜ。美しいお前をな。そうすれば、DIO様のお眼鏡にかなうだろうゼ」

「フフッ、ありがとうホル・ホース」

     ◆◆◆◆◆

 

優しいのね……そう言って笑ってくれたあの時のディビーナは、確かに美しかった。

あの頃、ディビーナはすがるように、自分の存在をすべて注げるように、熱狂的にDIOに忠誠を誓っていたハズだ。

そんな女が、あのとき……ディオが殺られた時に何もせずにおとなしく引っ込んでいるだろうか?

考えれば考えるほど、ホル・ホースはディビーナがDIOの魂をコインに変えているはずだと確信を持つようになった。


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