仗助と育朗の冒険 BackStreet (ジョジョXバオー) 作:ヨマザル
1999年10月某日 [杜王町から100Kmほど北の峠道]:
爆弾を使うスタンドを持った猟奇的な殺人鬼 ――吉良吉影―― が杜王町からいなくなってから、ハヤ三ヶ月がたった。
噴上裕也は、夜の山道を、1人バイクで走り回っていた。
噴上が乗っているのは、ヤマハのバイクXJR400Rだ。最近『直った』ばかりのXJR400Rは、とても調子がよく、小気味いいエンジン音をさせながら軽快に走っている。
1人で山道を走り回り始めて、もう3日目になる。いわゆる珍走団に所属している噴上が、仲間とつるまずに1人で走っているのには訳があった。
噴上は幽霊を探していたのだ。
幽霊に、仕返しをするためであった。
つい4ヶ月ほど前、バイクを運転していた噴上は、幽霊に出会った。
そして、道の真ん中に出現した幽霊に驚き、ハンドルを切り損ねて転倒し、瀕死の重傷を負ったのだ
後でガールフレンド(スケ)の1人、アケミが話してくれた。そのとき、噴上のけがは、医者が『回復の見込みがない』と匙を投げたほどの重傷であったらしい。
幽霊には、そんな怪我をさせられた落とし前を、つけさせねばならない。
ギュルルルルッ
XJR400Rが、急カーブの連続する、見通しの悪い山道にさしかかった。
噴上は先の様子を探るために、自らのスタンド:ハイウェイ・スターを出現させた。
そして、ハイウェイ・スターをバイクの前方を走らせる。もし、対向車や『幽霊』がいたら、ハイウェイ・スターがいち早く見つけ、噴上に警告を発する……という訳だ。
この噴上に与えられた『能力:スタンド』は、事故から回復した時に手に入れたものだ。
あのとき……
事故に会い、意識不明なまま路上に倒れていた噴上は、杜王町の病院に緊急搬送された。
その病院で、噴上に奇跡が起こったのだ。
病室で、生死の境をさまよっていた噴上は、そこで不思議な矢に『選ばれ』た。
そして噴上は、矢から、ある『才能』を引き出されたのであった。
その矢が引き出した『才能』こそが、彼の精神の奥底に眠っていた、『スタンド』であった。
その、不可思議な能力、『スタンド』によって、噴上は、奇跡的に復活する事が出来たのだ。
正確には、噴上と、ぶっ壊れたXJR400Rが直ったのは、ハイウェイ・スターの能力によるものではない。それは、やはり噴上と同じスタンド使い、東方仗助と言う名の男の力によるものであった。
仗助のスタンドは、『拳で触れたものを直す』力を持っていた。その力で、治ったのだ。
(とは言え、噴上のセンスからいうと、ほぼドノーマルなダサい状態に『直され』たXJR400Rに関しては、言いたいこともあったのだが)
XJR400Rも噴上自身も、無事『直った』とは言え、噴上に新たな『能力』が手に入ったとはいえ、それは、幾重にも重なった幸運の上に成り立った結果に過ぎない。
もし矢に選ばれてスタンドが発現しなかったら、噴上は確実に死んでいたのだ。
だから噴上には、『幽霊』を許す気はなかった。
噴上はXJR400Rのスピードをさらに上げた。ヘッドライトに照らされ、道路脇の木々がまるで亡霊のようにぼうっと浮かび上がり、あっという間に後方へと流れ去っていく。
「……どこに居やがる」
今ならわかる。
あの『幽霊』は、噴上の妄想の産物でもなければ、杉本玲美のような、本物の幽霊でもないはずだ。
どちらかと言えば、例の殺人鬼の父親であった、『吉良吉廣』に近い存在だ。
吉良吉廣は、自身が死んだ後でその存在そのものをスタンドと化していた。
あれは、あの『幽霊』は、スタンドに違いなかった。
ならば、スタンドで見つけることもできるはずだ。
◆◆
深夜の山道を走り回ること3時間、噴上はついに目指していた『幽霊』を見つけた。それは、噴上と同世代の若い男だった。
『幽霊』が、生きている人間では無い事は明白だった。
男は青白い光を幽かに発し、それにその体の背後の手すりが透けていた。透き通っているのだ。
その『幽霊』は、峠のカーブに設けられた、観光客が景色を楽しむための停車場を、1人で彷徨っていた。
ジリリリリ……
停車場の隅に立てられた外灯が、噴上とXJR400Rの影を長く引き伸ばし、地面に投影した。
やはり、『幽霊』には影はなかった。
「遂に見つけたぜ。お前……何者だ」
噴上はXJR400Rに乗ったまま、自分のスタンド、ハイウェイ・スターを再び出現させた。
もし噴上の考えがあっていて、あの『幽霊』がスタンドなのだとしたら、スタンドにはスタンドでしか対抗できないからだ。
そしてバイクから降り、『幽霊』に向かってゆっくり近づいて行く。
同時に、『幽霊』から見て自分がいる方向の反対側に、そっとハイウェイ・スターを回り込ませた。
ハイウェイ・スターは、本体の動きと歩調を合わせて、『幽霊』に向かって近づけていく。
挟み撃ちだ。
『……君……僕が見えるのかい?』
幽霊は、噴上のハイウェイ・スターを見て首をかしげた。
『君たちはいったい誰だい?……ここにいる紺色の君と、バイクに乗っている君が、つながっているのが分かる……』
「……お前、何を言ってやがる。このハイウェイ・スターが見えてるんだろ?ならお前も、スタンド使いッつ――わけじゃねえか……話せ、ここで何を企んでいる!」
『僕は……君こそ、どうしてそんな力を ――超能力―― を持っているんだい?』
幽霊は、噴上とハイウェイ・スターとを指差した。
「超能力?なんだそりゃ……もしかして、スタンドの事を言っているのか?」
憤上は、両手をだらりと下げた。
「俺の名前は噴上裕也。お前よ〰〰ぅ、この名前と顔に聞き覚えはないか」
『……申し訳ないけど、君の事は知らない』
幽霊はそう答え、自分の名を名乗った。
『僕の名は《橋沢育朗》……噴上クン、落ち着いてくれ。君と僕とは、これまで縁もゆかりも無かったはず。きっと何か誤解してるんじゃなかな』
「『縁もゆかりも無ぇ』だってぇ〰〰」
噴上は、幽霊を睨み付けた。
「橋沢さんよぉ〰〰、お前が忘れていても、俺はお前をわすれねぇぞ。4ヶ月前に、お前のせいで、俺は入院させられたんだからな」
『なんだって』
幽霊が、驚いたように目を見開いた。
「おっとまて、別にお前に恨みを持ってるわけじゃねぇよ。逆に感謝してるぜ。お前に入院させられたせいで、俺は、このハイウェイ・スターを手に入れた……って訳だからなァ〰〰」
これは仕返しじゃねー。お礼だよ。お礼はたっぷりとしないとなぁ。噴上はにやりと笑った。
『ちょっと待ってくれ……噴上君、君は……』
「質問をしているのは俺だッ!答えろ、橋沢。お前は何者だ!返答次第じゃ、ただじゃおかねぇぞ!!」
噴上は、凄んで見せた。同時に、こっそり幽霊の背後に回っていたハイウェイ・スターを、動かした。
ハイウェイ・スターの右腕が、無数の足跡型に分裂した。分裂した無数の足跡たちが、幽霊におそいかかった。
『……これは……足跡が僕に取りつくッ!まさか……墳上君、これは君の能力なのか』
幽霊は、ハイウェイ・スターに取りつかれ 動きを止めた。
「今、俺は健康だから、『養分』は取らないでおいてやるよ。しかしもう、動けねーぜ」
『うううッ……体に足跡が食い込んで行く……』
「それが俺のスタンド『ハイウェイ・スター』の能力さ……あきらめなァ〰〰ッ」
胸を張った噴上は、驚いてしゃべりかけていたセリフを飲みこんだ。
信じられないことに、幽霊がハイウェイ・スターを引きはがしているのだ!
噴上の驚きをよそに、幽霊の若者は一つ一つ、ハイウェイ・スターを引きはがしていき、ついには完全にはがしてしまった。
そして幽霊は、動揺している噴上に『浮かび』よると、その腕に手をやった。
「うううっ!」
悲鳴を上げたのは、噴上だ。幽霊の体が、噴上の腕をすり抜けていたのだ。
『君……噴上君に頼みがある。君にこんな事を頼むのは筋違いなのはわかっているけど、僕は、僕は……この世に居てはいけない存在なんだ……君の能力で僕の事を殺してくれないか』
幽霊の若者は、真剣な口調で突飛もないことを噴上に訴えた。
「ハッ・ハ・ハッ……何を言ってやがる。だいたい幽霊がまた死ねるのかよ」
育朗の手を振り払い、噴上が一歩後ずさりした。
だが噴上は、幽霊:育朗の目を見て、育朗が本気で言っているのを悟っていた。
『噴…ガミ君……頼む』
育朗が、両手を上げて噴上にゆっくり近づいて行く。再び、育朗が噴上を捕まえた。
コ" コ" コ" コ" コ" コ" コ" コ" コ" コ"
「おっ……おい、よさねーかッ!そんなトンデモネー事をオレに押し付けるんじゃね――――ッ!」
ガヴォッ!!
突然、噴上の足もとの地面が爆ぜた。
「ウォッ!!」
「振り向くな!」
とっさに背後を振り向こうとした噴上は、警告を聞いて……動きを止めた。
「死にたくなきゃ、動くな。お前を拳銃が狙っているぜ……変な動きをしたら、あんさんの頭を吹っ飛ばす」
「死……なんだって……何もんだオメー」
噴上は、ようやく、背後に二名の人間がいることを匂いから知った。だが幽霊に気を取られていて、ここまで接近されるまで気が付かなかった。
うかつであった。噴上 はハイウェイ・スターを出現させ、自分の背後をこっそり確認しようとした。
ガツンッッ
次の瞬間、噴上は後頭部に激しい衝撃を受け……意識を失った。
◆◆
「橋沢育朗君だな」
拳銃の柄をぶつけて噴上を昏倒させたその男は、気取った仕草でテンガロン・ハットをかたむけ、育朗に挨拶した。
「俺の名はホル・ホース。俺達があんさんの依頼を受けてやるよ……その時が来たら、俺がお前を殺してやる。安心しな」
「おいおい、まだ子供相手に大人げないぜ、おめぇー」
もう1人の男、ポルナレフは、昏倒した噴上を抱え上げた。挑発的な言動をしたホル・ホースを睨みつける。
「さんざん言ったよな。ガキどもを痛めつけるようなまねはするなと……ここで契約を解除して、お前をぶちのめしてやってもいいんだぜ」
「相棒、そいつは勘弁してくれヤ」
ホル・ホースはポルナレフによりかかり、肩に手を回した。
「雇い主の指示は守るさ。この世界では信用がなにより大事なんだぜ」
「調子いいこと、言ってんじゃねぇぞォ」
お前は信用できないんだよ と、ポルナレフは、ホル・ホースの手を振りほどいた。
「落ち着けよ……大事な話の前に、ちょっとコイツに黙って欲しかっただけだ。大して手荒な事をしたわけじゃねぇ」
だが、もうこんなことはしない……と、ホル・ホースは付け加えた。
ポルナレフは、いかにも胡散臭そうにホル・ホースの釈明を聞きながし、育朗に向き合った。
「それはそうと橋沢君、君には俺達に付き合ってもらうぜ」
固い声であった。
――――――――――――――――――
「まず初めに確認させてもらうぜ」
ポルナレフが言った。
「君の名は橋沢育朗君だね……今から8年と少し前、君は家族とドライブ中に交通事故にあった……君は、その事故でご家族を失った。そして君の身柄はある組織に引き渡され…………生物兵器に改造された……それが君だ。間違いないかい?」
返事の代わりに、育朗は黙ってうなずいた。その脳裏に、8年前、眠りにつく前の過去の出来事が次々と去来していく。
◆◆◆◆◆
家族でドライブしている時に、交通事故にあったことを
少女によって目覚めさせられ、謎の組織の秘密車両から脱出 ――記憶の無いままに、雨の中、少女を連れてバイクを走らせたことを
自分に恐ろしい力が宿っていることを知った時の恐怖を
逃避行の末、少女を人質に取られ、独りで組織の基地に乗り込んだことを、そして強大な敵を
「ドレス!宣戦布告だ!行くぞ!お前たちのところにッ! 僕はおまえらにとって脅威の来訪者となるだろう!」
少女と再会し、基地の地下に広がる鍾乳洞で少女と……スミレと別れたことを
「育朗 ―― あんたと離れるのはいや――っ!」
「バルバルバルバルバルバル!」
崩れていく洞窟の中を渦巻いておそい掛かる濁流を
そして、気が付いたら森の中で、幽霊になっていたことを……
『こ……これはなんだ!? ここは……森? 僕は、死んでしまったのか? スミレは、どこに?』
『バカな……もうあれから8年もたってるなんて……』
◆◆◆◆◆
「……おい、あんさん話を聞いてるのか?」
育朗は、ホル・ホースの言葉にはっと我にかえり、追憶を断ち切った。
『その通りです……《生物兵器バオー》それが僕です』