仗助と育朗の冒険 BackStreet (ジョジョXバオー)   作:ヨマザル

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東方仗助と橋沢育朗 その3

1999年11月7日 [M県K市名もなき高原]:

 

杜王町の高校生達は、キャンプ場から少し離れた空き地に集まっていた。それぞれに激しい戦いをくぐり抜け、久しぶりに出会った彼らは……

 

「ぎゃはははは、お前マジかよ」

 

「ひー腹がいてえ……イッイヤ、グレートだぜ」

 

「ナヌッ……」

 

「億泰さん……これで良いんですよ……そう思えば、どうって事無いんです」

 

「よぉー……そこのコーヒー、取ってくれよ〰〰」

 

 ……ただ だべっていた。

 

「仗助よぉ~~。俺ぁ、嬉しかったんだぜぇ~」

飲み干した缶コーヒーを真っ平らに踏み潰しながら、億泰がこぼした。

 

「お―――ッ……わかるぜぇ、億泰ゥ〰〰。そりゃぁ、うれしいよなァ――」

仗助は、腕組みをしてウンウンと、うなずいた。

「そんな美人が話しかけてくれりゃあ、誰だってうれしいよ」

 

「そうだろう、俺達は頑張ったんだぜ~」

 

「ええ、億泰さんは大活躍でしたよ」

未起隆は、至極マジメにうなずいた。

「億泰さんが体を張ってくれなければ、僕らは助かりませんでした」

 

「チッ」

噴上は、不満げに舌打ちした。

「そうは言っても、お前達、育朗のスケを助けられなかったじゃねーかョ」

 

「ナヌ?」

 

「大体、何を勘違いしてやがったんだ」

噴上は鼻で笑った。

「スミレは育朗のスケで、おめ〰〰のスケじゃねーだろうが、この色ボケ野郎……鏡を見ろっんだ」

 

「よせよ。そりゃー言い過ぎっても……」

 

ドガッ

 

あわてた仗助がとりなす前に、億泰は噴上を殴りつけた。

「あぁああん?偉そうな口をきいてんじゃね~ぞ、僕チンよ~~泣かすぞォ?」

 

「ああぁ〰〰?おめーみてーな阿呆が何言ってんだ」

みぞおちに一発入れられた噴上は、痛ぇな……とむせながら億泰に詰めよった。

 

億泰と噴上はにらみ合った。……が、突然、億泰はがっくりと肩を落として、しゃがみ込んだ。

 

「そぉだよなぁああ」

億泰はなげいた。

「スミレ先輩は、捕まっちまった……だから俺らぁ、どうすればいいかわからね~~よ……俺はただ、目の前の奴らとやりあっただけだ。未起隆が頑張ってくれなけりゃ、俺達も、奴らにつかまってたろ~しよぉ」

 

「おぅー……しかし、しかたねーぜ。俺たち全員、グレートにヘビーな状況だったんだからよォー」

仗助は、さりげなく億泰と噴上の間に入った。

「聞いた話じゃあ、かなりヤバい能力のスタンド使いとやりあったんじゃねーか。……お前たちじゃなきゃ、対抗できなかったと、俺は思うぜ」

 

「おお……だが、スミレ先輩を助け出さなきゃならねぇ……」

 

こんな時、アニキならどうすんだろうなぁ~

ぼそっと口にされた億泰の言葉を、仗助達は皆、聞こえなかったフリをした。

 

「今、私の仲間も宇宙から探しているのですが……」

未起隆が、真剣に言った。

「どうしてもスミレ先輩が、見つからないんです」

 

「……仗助、どうやってこの状況に落とし前をつけるつもりだよ」

噴上が尋ねた。

「この状況、ヤバすぎるぜ……爆弾使いのスタンド使いに、ゾンビ……しかも育朗の奴までドレスの連中についちまったかもしれねー」

 

「そりゃあ―グレートな状況ッスね……それで、その育朗クンってどんな奴っスか」

 

「優等生クンだよ、仗助……俺やお前とは、人種が違う野郎だ……真面目で、誠実、イケメンって奴だしよォ~」

ダチになるようなやつじゃねぇ……億泰は、鼻息荒くいった。

「……だが、奴は強ぇえぞ。あの『バオー』ってのはヤバい能力だぜぇ~~」

 

「僕達も見ました、育朗さんが変身した『バオー』が、敵を掴むところを。……『バオー』がその手で、ただ掴んだだけで、その掴んだものがドロドロに溶けてしまいました。……それに『バオー』が、体から電撃を放って敵を黒こげにしたのも、確かに見ました」

未起隆はブルッと体を震わせ、あんな人は宇宙のどこにもいなかった と付け足した。

 

「グレートォ……」

『変身』するのかよ、仮面ライダーみてぇだな。仗助が、真剣な顔で腕を組んだ。

 

「育朗は、その スミレってスケを追って行っちまった。そのスケの為なら何でもやりそうだったからな……もしかしたら育朗は、スケを人質にとられて、俺たちの敵に回るかもしれネ〰〰ッ」

噴上は顎をかいた。

「ヤバすぎるぜ、育朗と、いや『バオー』と戦うのはよォ……アイツは強えぇ――ッ……しかも、相当気合いが入ってやがる。なんつーか、『スケが助かるんなら自分の事なんてどーでもイイッ』、て思いつめてやがる」

 

「彼は……育朗さんは、ドレスって組織によって、その『バオーに変身する能力』を与えられたって、言っていました。ドレスっていう人たちは、一体何者なんでしょうか?」

今の地球人の技術力でできる事とは、思えませんよ。と未起隆が言った。

 

「俺にゃあわからね~~だが、ドレスの連中は因縁的に、全員俺の敵だぜぇ~」

億泰は、つぶしたコーヒーの缶を、ザ・ハンドでかき消しながら言った。

「あのババァは、オヤジのことを笑いやがった……それは、『俺やアニキの生き方』を嘲笑ったのと、同じことだぜぇ、絶対許さね~~」

 

「お前だけじゃねー。ドレスは俺たち全員の敵だぜ、億泰よぉー」

ところで、爆弾のスタンド使いは、確かに吉良じゃなかったんだな?仗助は、噴上に確認した。

 

「なんっつ――か、……俺が思うに、カギはやっぱり、その育朗って人だと思うッスよ」

仗助が言った。

「その『美人のスミレ先輩』は、きっと無事だぜ。だって、育朗クンを味方にするためにゃあ、スミレ先輩に手を付けるわけにゃあいかね〰〰もんなぁ。……だからよォ――」

 

仗助は、噴上を見た。

「噴上裕也、まずはおめーだぜェ。おめーが育朗クンを探せ……その間に、俺たちは、早人達を安全な場所に連れてかなきゃならねー」

 

「それで、どうすんだよ」

 

「それから、反撃開始よ〰〰」

仗助は、クレイジー・ダイヤモンドを出現させ、近くの石をぶっ壊した。壊れた石は、クレイジーダイヤモンドの力で、まるで芸術作品のようにひん曲がって再修復された。

「このキャンプをおそって、人を殺したのも奴らの仕業に違いねー。奴らを全員まとめて叩き潰してやるぜ」

 

ボンッ!

 

気がつくと仗助の髪型が崩れていた。まるで、腹の底から湧き出る様な仗助の怒りが、発散されたため、髪が逆立ったかのようだ。

 

「……」

仗助はくしを取出し、細心の注意を払って、丁寧に髪型を整え始めた。

 

ジリリリンッ!

 

そのとき突然、警報がひびきわたった。アリッサが仕掛けた、『ゾンビの侵入を感知するためのトラップ』に、何かが引っかかった音だ。

仗助逹は、顔を見合わせた。

 

「さっそくゾンビがお越しになったぜ……気合い入れろよぉ―――」

それから、絶対ゾンビにかまれるな と、仗助は付け加えた。

「 奴らにかまれたら、自分たちもゾンビになっちまうっすよぉ。そうなっちまったら、俺でも『直せ』ねぇ」

 

「おお……なんだかよくわからね~が、要するに、やられる前に削っちめぇば、いいんだな」

億泰がうなずいた。

 

「……仗助、向うだ。向こうから……肉が腐ったみてーな強烈なニオイを感じるぜ……偵察に行くぜ」

噴上は、 ハイウェイ・スターを出現させ、嫌なニオイの元へ送りこんだ。

ニオイのもとは、キャンプ地すぐ近くの草むらに、大勢潜んでいた。

人間?

だが感じるのは、強烈に腐敗したニオイ、生臭い血のニオイ――ゾンビだッ!

「居やがったぜ!ゾンビだ」

ハイウェイ・スターは体を分裂させ、手近なところにいたゾンビにとりついたッ!

「とりあえず、一体倒しておくぜ。たっぷり養分を吸い取ってやる…………なっ……」

 

グゲゲゲゲッ

 

噴上は、急に込み上げてきた吐気に勝てず、地面に昼飯の残りをぶちまけた。

養分ではなく、『とてつもなくどす黒いもの』が、スタンドを通して送られてきたのだ。それは、『全身が徐々に腐っていく』ような、そんな感覚のモノであった。

 

「ぎゃあああああ!」

ゾンビたちが、一斉にキャンプをおそう。

「晩飯の時間だぜぇ……食事を、血ぃぃぃいいいいいいをよこせぃ!」

 

「噴上さん……」

未起隆が、地面にうずくまっていた噴上に駆け寄った。

「大丈夫ですか?」

 

「……宇宙人野郎か……お、俺は、大……丈夫だ……」

噴上は、再びスタンドを出した。

ハイウェイ・スターで、近づいてくるゾンビを殴りつけるッ。

 

しかしゾンビは、ハイウェイ・スターの攻撃などものともせず、二人に迫ってくる。

「血ぃぃいいい!血袋ども待ってろぉぉぉ!!」

ゾンビが拳を振り上げ、殴り掛かってきたッ

 

「くそっ」

やむを得ず、噴上はゾンビの攻撃をハイウェイ・スターに受け止めさせた。

しかし、ゾンビの怪力はハイウェイ・スターよりもはるかに強い。

噴上はハイウェイ・スターごと、吹っ飛ばされた。背後にいた未起隆もろとも、地面をゴロゴロと転がる。

「ぐあああああ!」

起き上がった噴上の目の前に、ゾンビの拳が迫るッ

 

「お前の血ィイイ、くれぇええええ!」

 

「うぉおおおおおおおっ!」

だめだ、助からねェ……噴上は、目をつぶった。

 

「おりゃっ!こっちに、こいっ」

間一髪!

噴上と未起隆に止めを刺そうとしたゾンビは、その直前に後方に引っ張られた。億泰のザ・ハンドによって、引き寄せられたのだ。

 

待ち構えていた仗助と億泰が、ゾンビを迎え撃つ。

「さぁて……グレートに……ぶちかますぜッ」

そしてゾンビは、二人のスタンドにボコボコに殴られ……瞬殺された。

 

「……億康ぅ……仗助ぇ」

噴上は、悔しさと安心感とであふれ出た涙を、強引に拭った。

 

「噴上裕也、未起隆、おめぇ逹のスタンドは近距離の戦闘向きじゃねぇ、無理すんなよ」

仗助が言った。

 

「チッ」

噴上は歯噛みし、ヨロヨロと立ち上がった。

 

その噴上めがけ、またしてもゾンビが一体襲い掛かるッ

 

「ゴブッ」

噴上はかろうじて、ハイウェイ・スターでゾンビの一撃を受け止めた。

だが、噴上は再びパワー負けし、再び未起隆の足元まで吹っ飛ばされた。

 

『ドラララッ!』

仗助のクレイジー・ダイヤモンドが、再びゾンビを粉砕した。

 

「ちっ……ちくしょう」

やっぱり、自分には戦えないのか……噴上は、苦い思いをかみしめた。

 

「噴上さん!」

未起隆が、自分の能力、アース・ウィンド・アンド・ファイアーで『二本の金属バット』に変身した。バットは二本とも、噴上の手の中に飛び込んだ。

「武器になりました。これで、奴らを倒してください」

 

「お前、そんなものに変身して、本当に大丈夫なのか?」

噴上が尋ねた。

 

いくら金属バットとは言え、ゾンビの頭を殴れば凹みもするし、下手すれば折れるかもしれない。

そうなったら、本体である未起隆にとっても、ただでは済まないはずだ。

 

「もちろんです。ちょっとぐらい傷づいたって『平気』なんです」

金属バットの一本がしゃべった。

バットの表面から、未起隆のミニュチュア版の小さな顔がのぞいた。

「さあ……遠慮はいりません。僕を使って思いっきりやっちゃってください、仗助さんと億泰さんに任せっきりじゃだめです。僕たちも戦うんです!」

 

「だっ、だがッ……」

参戦をちゅうちょしている噴上を、未起隆は黙って見つめた。

 

┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨

 

「……わかったぜ〰〰っ。未起隆よォ」

噴上は二本のバットをつかみ、一本は自分、もう一本をハイウェイ・スターに持たせた。

「お前に乗せられてやる……戦うよ、未起隆。……お前を使ってやるぜ。だが……お前も覚悟を決めろよ」

 

「勿論です」

ワタシだって、みんなの役に立たずに、『ただ隠れてる』なんて、できないんです。

未起隆が、真剣な口調で言った。

 

『ウオオオオォオオァ!』

ハイウェイ・スターと噴上は、(未起隆のアース・ウィンド・アンド・ファイヤーが変化した)金属バットを、振り回した。

それぞれの両手でバットをふるい、ゾンビの頭を破壊していく。

 

『このやろう、くたばりやがれ。俺たちに近づくんじゃねー!』

「おおぉぉおおおお!」

ハイウェイ・スターと噴上、それからバットに変身した未起隆は、悲鳴にも似た雄たけびを上げた。

 

「おおっ……あいつ、弱っちいくせに意外と根性出しているじゃね~か」

億泰は、暴れる噴上を見て目を丸くした。

「チョットだけ心配だったかが、未起隆の奴がうまくサポートしてんな」

 

「おー、グレートだぜ……あの分ならあんまり心配いらねーな」

仗助もクレイジー・ダイヤモンドでゾンビを蹴散らしながら、言った。

「億泰、俺達も行くぜ〰〰早人やSW財団の人たちが心配だからよぉ」

 

「お~よ」

億泰が、ゾンビの頭部を削り取った。

「この仗助、億泰コンビの破壊力を、このダボ共に思い知らせてやろ~ぜぇ~~」

 

「もう誰も死なせやしねー。……いいか億泰、俺逹がみんなを守るんだぜ」

仗助が言った。

 

――――――――――――――――――

 

 

1999年11月8日 [DRESSの基地]:

 

 スタンド(幽波紋)、それは生命エネルギーが作り出すパワーを持った像。それは守護霊のように『傍らに立ち』(Stand by me)、『困難に立ち向かう』(Stand up to)ためのもの。

 

スミレは何度も何度も失敗した挙句、ついにドアの向う側に自らのスタンド:WitDを出現させる事に、成功した。

 

今、スミレの脳裏には、『扉の向こう側に出現させたWitDがパタパタと羽を羽ばたかせて、ゆっくりと扉の反対側を旋回する』はっきりしたイメージが浮かんでいた。それは非常にはっきりしたイメージであり、ただ想像しているときに心に浮かぶイメージとは、明らかに質が異なっていた。

 

今、スミレは思うようにWitDを動かせていた。そして、同時に、WitDはスミレに、未来のビジョンを送り続けていた。

 

『未来のビジョンを見ること』は、スタンドが発言していない、幼少期よりできていた。子供のころには、『心を滑らす』と呼んでいた技だ。

スタンドとは、幼い頃に身につけた『心を滑らす』能力の、さら先にある モノであることを、スミレは理解しつつあった。

億泰とミキタカゾの能力を知り、スタンドの概念を理解したことで発現したWitDは、実は気が付かなかっただけで、スミレが子供のころからずっと傍にいたのだ。

 

「やった……WitDが、扉の向うにドアノブを見つけたわ」

スタンドの操作に集中するために目を閉じていたスミレは、無意識の内に独り言を漏らしていた。

「WitDで回せるかしら……ダメだわ……そもそもノブには鍵がかかってる…… 鍵はどこ……」

スミレは、WitDを操作して鍵を探し始めた。 WitDがスミレの脳裏に送ってきた映像によると、スミレが閉じ込められているのは、どうやらドレスの研究所あとの、一つのようだった。

 

パタパタ……WitDが、蝶が飛んでいく。

WitDが飛ぶ廊下は、薄暗く、がらんとしていて、ほとんど明かりもない状態だった。

 

廊下はL字型に曲がっており、時折ポツン・ポツンと鍵のかかったドアがあった。しかし、それらのドアの奥には、人の気配が一切しなかった。

廊下の奥へ進んでいくと、パスコード付きのドアが見えた。

パスコードを入力するためのコンソールを見て、スミレの心臓が高鳴った。

パスコードならコードを『予知』して、カギを開けることができる。

そうだ……こうやって列車のドアを封じるパスコードを『予知』して、その『扉を開いた』ことによって、スミレは育朗に出会ったのだ。

このパスコードを予知できれば、きっとまた育朗に会える。

 

今度は、私が彼を助けるのだ。

 

さらに何度か集中することで、スミレはWitD越しに『心を滑らせる』事に成功した。

心を滑らせ、パスコードの番号を予知する。このドアを開けることは可能だ。

 

しかし、WitDを使ってパスコードを入力しようとしたまさにその時、WitDがスミレに、とあるビジョンを見せた。

スミレはそのビジョンを見て、息をのんだ。

ドアの向こうに狂暴な怪物が徘徊している姿が、ビジョンとして見えたのだ。

それは、緑色の皮膚‐鱗‐を持った人間を上下に押しつぶしたような怪物であった。

屍生人(ゾンビ)ではなさそうだ。だがスミレは、もし自分がこのドアを開けたら、あっという間にこの怪物に食われてしまう事を察知した。

 

ダメだ。他の部屋を試さなければ。

スミレはがっかりして、WitDに廊下を引き返させようとした。

 

ところがその時、スミレは、WitDを通して誰かの話し声を聞いた。その声は、パスコードの部屋から聞こえるようであった。

(誰?)

スミレは、WitDをドアの空気取り入れ口に止まらせた。空気取り入れ口の小さな隙間からは、とぎれとぎれではあったが、その人物の話す声がかすかに聞こえていた。

パスコードの部屋にいる人物は、どうやら電話越しに誰かと話をしているようだった。

「イェッサー……報告がありました。そうです。モーリンは、やられる前に必要な仕事を終えていました。目指すものはもうすぐ手に入りそうです。ええ、オルダスが対応して……」

ドアの空気取り入れ口から中を除くと、気弱そうな少年が、何か電話のように物を持って話し込んでいるのが、ちらりと見えた。

「ええ……予知の女のスタンドも奪います。もちろんです。手筈は整っています……彼女の力を奪えれば、ボスに抵抗できるものはいません……ええ、わかっています……」

 

話はまだ続いていたが、スミレはぞっとして、WitDをドアから離れさせた。

『予知の女』とは、自分のことに違いなかった。どうするのかは知らないが、誰かが私の『予知』の力を欲している。

狙われているは、育朗だけではなかったのだ。

 

このドアからは逃げられないことがはっきりしたが、WitDを使ってまだやることはあるはずだ。

たとえば、先ほど通り過ぎたいくつかの部屋の中を、調べてみるのもよさそうだ。

 

組織が自分の能力も狙っているのならば、絶対に脱出しなければならない。

自分の能力を奪われ、育朗たちを倒すのにこの力が悪用されるようなことは、あってはいけないのだ。

思いつくことは、できる事は、何でもやってやらなければ……

 

どのドアにも、空気取り入れ口を兼ねた鉄格子付きの小窓が取り付けられていた。 WitDが通り抜けるのに、ちょうど良い大きさだ。WitDは適当に選んだドアの小窓を通り抜け、部屋を一つ、一つ丁寧に調べて回った。

どれも家具ひとつない殺風景な空き部屋だった。しかし3つ目の部屋を調べたところで、スミレは、ついに目指すものを見つけたと、思った。

 

その部屋は物置として使われていたようだった。正体不明の瓶やら、ノートやら、不気味な標本などが、棚いっぱいに並べられていた。

そこに紛れて、小さなクリップの針金がきらりと光っていた。

部屋の窓にも鉄格子がはまっていたが、天井には、空調ダクトの吹き出し口が見える。スミレが入れそうな大きさだ。

 

何とかこの部屋まで行ければ、空調を通って脱出できるかもしれない。

 

と、スタンドを通して見るビジョンが、急激に薄くなり……スミレは、自分が真っ暗闇の中、汗だくで床に倒れていたことを知った。

コンクリートの粒が汗で体にへばりつき、たまらなく不快だった。


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