仗助と育朗の冒険 BackStreet (ジョジョXバオー)   作:ヨマザル

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東方仗助と橋沢育朗 その2

そこへ、アリッサが顔を出した。

「貴方たちが、ポルナレフさんとホル・ホースさんですね……SW財団からの『救援』として、助けに来て下さって、ありがとうございます……」

口では礼を言いながらも、 アリッサの口調からは落胆の色が隠せなかった。

「私は、SW財団がヘリか何か、ここから脱出するための『手段』を送ってくれる事を、期待していたのですが……」

 

「ベイビー、お前の落胆は良くわかるぜぇ」

ホル・ホースが、アリッサの手を取った。

「しかし安心しな。俺が来たからには、もう何も恐れることはないぜ。ヒヒヒィ……」

 

「そうなのでしょう……アナタがたほどの腕前なら、ゾンビ等など恐れないのでしょうね」

アリッサは、さりげなく腰に手を回そうとするホル・ホースから脱出した。腕を組み、ポルナレフとホル・ホースをニラミみつける。

「でも、我々はほとんどが非戦闘員なの。 失礼だけど、あなた達だけでここに居る学生たちと、SW財団の非戦闘員全員を守りきれるとは、思えないわ」

 

「レディ、あんたの懸念はもっともだ」

いつの間にか、ちゃっかりシンディと話していたポルナレフが、今度はホル・ホースとアリッサとの会話に、割り込んだ。

「正直な所、俺たちは、『たまたま別件でこの近くで仕事をしていた』のさ。ここには、近いから当座の救援としてやって来たッツ――訳よ。だから今頃は、俺たちとは別に、SW財団からの援護部隊が手配されているはずだぜ」

 

「そうだぜ、ベイビー……だがアンタはラッキーだぜ。俺と相棒のコンビは無敵だからよォ。……安心しな。それに……このコーコーセイの相棒達も、かなりやるぜぇー」

 

そうですか

アリッサは力なくいった。うなだれながらも軽くバックステップして、今度は、ポルナレフが手をつなごうとするのをかわした。

「つまり我々は、もうしばらくここで耐えなくてはいけない、と言う事ですね」

 

「残念だがそうだ……だが、これで働きづめだった二人のスタンド使いが、ようやく休息をとれるっつー訳だ。戦力も増強された。俺たちが来たことで、状況はぐんと良くなったと、俺は思うぜ」

ポルナレフが言った。

 

「……もちろんおっしゃる通りです。助けていただいて、ありがとうございます」

アリッサが、頭を下げた。

 

と、突然、アンジェラが、ポルナレフの目の前ににゅっと顔を出した。

「あ……あの、あなたJ・P・ポルナレフさんですね、お話は師匠から聞いていましたッ。ジョセフ師匠と共に旅したほど凄腕のスタンド使いの、ポルナレフさんが来ていただけるなんて、光栄ですぅ。夢みたいですぅ。……あっ……スミマセン!私、アンジェラと言います。ジョセフ師匠から……」

 

「おっおい……」

『頭と下半身がはっきり分離している性格』のはずのポルナレフが、突然のアンジェラの早口に、目を白黒させた。

「御嬢さん、初めまして……」

 

アンジェラのおしゃべりは、止まらない。

「もしよかったら、師匠との旅の話を聞かせてくれませんか……あっ、実は私もスタンド使いなんですぅ〰〰〰ポルナレフさんは、スタンドの操作方法を修行されたんですよね、いったいどんな修行をされたんですかぁ?実は私は、波紋も修行しているんです。だから、どんな修行が効果あるのかちょっと教えてほしいんですけど……もちろん、ポルナレフさんが良かったらですけどォ………私のスタンドはお見せします、かわいい子なんですよ。能力は………」

アンジェラの口調は、どんどん早くなって行く。ポルナレフにしてみれば、まるで、『至近距離からマシンガンを撃ちまくられている』ようだ。

結局アンジェラは、マシンガントークにぽかんとしているポルナレフを押し出すようにして、キャンプの隅へ引っ張り、連れて行ってしまった。

 

その様子を見て、ヒヒヒッとホル・ホースが笑った。

 

アリッサは、深く、深く、ため息をついた。

 

――――――――――――――――――

 

 

1999年11月7日 [とある廃墟]:

その出で立ちからは、生真面目さと、優しさが感じられる。

 

「駄目だ……行かせないよ」

その日の深夜。

マキシムとネリビルの前に、育朗が立ちはだかった。

そこは、隠れ家としていた古い廃墟の、出口であった。

 

外は、月ひとつない漆黒の闇だ。

人工の明かりも、全くない。空を見れば、きっと天の川が良く見えているのが、わかったはずだ。

だが、育朗も、マキシムとネリビルも、まったく空を見上げることはなかった。

空を仰ぎ見る代わりに、三人は睨み合っていた。

 

育朗が、マキシムとネリビルを見つけたのは、二人が、こっそり仗助達のいるキャンプに攻撃をしかけようとしていた姿であった。二人は、口うるさい育朗が寝入った?隙に、こっそりと行こうとしたのだ。

 

「あら?あなた何を言ってるのかしら?誤解してない?」

私たちは二人で、ただ外に月を見に行くだけよ。

 

マキシムの下手な言い訳を、育朗は冷たい目で睨みつけた。

「彼等の所には行かせないよ……君たちは約束したはずだぞ、彼等には手を出さないと……スミレに逢わせると……あの時君たちは、僕に嘘をついたのかッ」

 

今すぐ引き返せ、さもないと……と険しい顔で迫る育朗を、二人は能面のような無表情で見ていた。

 

「悪いけど、あなたを、そして『われらの組織についてあそこまで知っている人間』達を、野放しにするわけにはいかないの」

マキシムが言った。

 

「それにねェ……我々は、彼らのせいで、『ニンゲン』をやめなければならなくなったわけ……もう太陽を見ることは出来ない……それがどれだけ悲しいことか、わかる?私たちは落とし前もつけないわけには、いかないのよ」

わかるでしょ? ネリビルが、自分の義手を眺めながら言った。

「アンタも、彼等の事なんて、気にする必要ないわよ。元々あんな人間はいなかったってね。忘れてしまえばいいわ」

 

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「忘れちゃえばいいのよ……私たちと敵対するなって、バカな考えはやめなさい」

 

「育朗くん……君はスミレに会いたいんでしょ……ちょっとだけ我慢すれば、すぐに会えるわよ……アナタが『ニンゲン』を止めて、私たちのお願い通りに行動してくれれば……の話だけど」

 

だから、そこをどいて。 ネリビルが、育朗の横を通り抜けようとした。

 

そのネリビルの義手を、育朗がつかんだ。

「待てって……言ったろ」

まるで別人の様な、ドライアイスのように冷たく、硬い口調で、育朗が囁いた。

 

「……あんた、本気ィ?」

ネリビルの目が、酷薄に光った。ちょっとお灸をすえてあげる必要があるわ。

ネリビルはゾンビの怪力を利用して、育朗の手を振り払おうとした。

 

だが、育朗の手はゾンビの怪力をもおさえ込み、逆にネリビルを一歩も歩けないようにしていた。育朗の目が、漆黒の色をおびて、光る。

 

┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨

 

「今更そんなことで、僕を脅したって無駄さ……だめだよ、僕たちを助けてくれようとした人たちを踏み台にして、僕だけが『チョッピリ長く』生きたって仕方ないじゃあないかッ!」

どうせ、先が決まった命なんだ。

育朗の目が、もの騒がせな光を帯びた。

 

「そう……ならアンタは、望み通りにサッサと死になさいッッ」

マキシムが、手につけたスライム:イエロー・テンパランスを投げつけた。 

黄色いアメーバ―のようなスタンドが、育朗の肉を喰らおうと飛んでくるっ!

 

「させないッ!」

育朗は、とっさに腕を交差させて、ジャンプした。

空中で、育朗は心身宙返りのように宙に舞い、マキシムの投げつけたイエロー・テンパランスの塊を避けた。

しかも、育朗の体は空中にいる間にも、見る見ると一回り大きくなっていった。

育朗は、バオーに変身しているのだ。

 

「ハッ……殺せはしないわよ。アロマ・バットッ!」

ネリビルのスタンド、カントリー・グラマーが金切り声をあげた。

その金切り声が、空中の蝙蝠を呼び寄せた。

蝙蝠達は、ネリビルの指令に従い、育朗にむかって飛びかかったッ。

 

グラリ

 

「バルルルッ」

無事に着地したバオー=育朗は、石を拾い上げて、アロマ・バットに投げつけた。

狙い過たず、石は、何体かのアロマ・バットを撃ち落とした。

 

残ったアロマ・バットは、キィキィと興奮しながら、バオーに向かって口を開いた。

……すると不思議なことに、何のダメージも受けていないハズのバオーが、膝をついた。

 

効いたみたいね。ネリビルが、満足げに言った。

「アロマ・バットの放つ芳香は、バオーの感覚器を狂わせるの……これでもう、あんたは手も足も出ないでしょ」

 

「バルッッ」

しかし、バオーはすぐさま跳ね起きた。

そして、まるで猿のように四足で木々を飛び回り、空中にいるアロマ・バットを難なく切り刻んでいく。

 

「えっ……嘘でしょ?」

ネリビルが、右手を口にくわえた。

 

『効かないよ……たとえバオーが感覚を狂わせられても、僕がバオーの眼になればいい』

育朗のブラック・ナイトが、バオーの胸から顔を出し、言った。

バオーは、着地後の隙を狙ってきたイエロー・テンパランスの攻撃も、横っ飛びでかわすッ!!

 

「早いわッ!捕まえきれない……」

 

『覚悟っ!』

 

「やるわね……」

ネリビルが笑った。

「でも私が操っていたのは、アロマ・バットだけじゃあないのよ。ようやく『囲み』終わったわ、あんた……対抗できるかしらね」

ネリビルは、再びカントリー・グラマーを出現させた。

 

カントリー・グラマーは、まるで断殺魔の声のような叫びを、あたりに響き渡らせた。

 

ザワザワ……バオーは、自分が『悪意の匂い』に囲まれているのを感じ、身構えた。

 

ザワザワ……

 

『こッ……これは』

育朗の顔が、『嫌悪』にゆがむ。

いつの間にか、バオーの周囲は、蠢く黒い『海』が覆い尽くしていた。

否、それは『海』ではないッ

ネズミだッ!

周囲を覆いつくす何千匹ものネズミが、バオーに一斉におそいかかるッ

 

「ハハハハハ」

ネリビルがあざ笑った。

「スゴイでしょ……小さくても、幾千もの爪よ、歯よ、かじり取られておしまいッ。アマゾン川でピラニアに襲われた牛みたいに、骨になるまで齧られてしまうといいわァ」

 

ネズミたちが、バオーの肌にその小さな爪を、歯を、突き立てるッ!

一つ一つの攻撃は、小さい。だが、その小さな攻撃が幾千にも重なり合えば、それはものすごい破壊力を秘めている。

 

「バルバルバルバルバルバルバルッ!」

バオーが吠え、戦う。

牙爪でッ 蹴りでッ そしてシューティングビースス・スティンガーで……

バオーは、どんどんネズミを打ち払っていった。

打ち払えば、すぐに次のネズミが取りつくッ!

だが、バオーはひるむことなく戦い続けた。そしてついに、バオーの激しい攻撃により、いつしかバオーの周りだけ、ぽっかりとネズミのいない空間ができあがっていた。

 

ネリビルは、始めのうちこそ笑いながら、ネズミとバオーの戦いを見ていた。

だがいつの間にか、その笑みが止まった。戦いは、徐々に『バオー有利』に傾いていたのだ。

いったん有利になると、後はもうひたすら戦い続けるだけだ。

 

いつしかネリビルは、バオーの一方的な戦いにあんぐりと口を開け、恐怖に身を震わせていた。

「ちょっと……嘘でしょ?これだけのネズミを相手にしているのよ」 

なんて戦闘力、とネリビルは畏怖したかのように、言った。

 

一方、バオーは休むことなく動き回り、その牙爪を振り回していた。

「バルバルバッバッバッッ!」

バオーの牙爪は、まるで海を切り開くモーゼのように、押し寄せるネズミの大群を切り裂き続けるッ

だが、どれほど戦っても、多勢に無勢では勝てない。

 

「キャワワワワッ」

ついに一匹のネズミが、バオーの攻撃をかいくぐって、バオーの足に、深く、深く噛みつく事に成功した。 その肌から、青黒い 寄生虫バオーの体液があふれた。

それを契機に、もう一匹、もう一匹 と、ネズミたちが集まってきた。そして瞬く間に、ネズミがバオーを覆い尽くしていく。

 

「バルバルバルバルッ」

バオーは、あっという間にネズミにまとわりつかれ、すぐに頭までネズミに覆われた。

それでもしばらくは、バオーの手だけがかろうじてネズミの山から飛び出ていた。

だが、すぐにその手も、山に覆われ、見えなくなった。

 

「キャハハッ……そうよねぇ、いつまでも抵抗できるわけがないのよ」

ネリビルが、少しほっとしたようにはしゃいだ。

「ネズミどもッ、今度こそバオーを食べ尽くすのよ!」

 

キワァーッと言う、ネズミ達が興奮してあげる声が響いた。

 

「ちょっと……何考えてんのよッ!あの男、ネズミなんかにあげるにゃもったいないわよ」

マキシムが言った。

「あのイケメンの血……美味しそうじゃあない?」

 

「何言ってるのアンタ。チャンスに手を緩められるほど、オリジナル・バオーは甘い相手じゃあないでしょ」

やれるときにとことんやるのよ。と、ネリビルが目を向いた。

 

だが……

 

グチャヤアアアアッ!

 

突然、バオーを覆っていたネズミの山が、『溶解』した。

『溶解』したネズミの山が盛り上がり、そして

 

ヌポゥウウッ

 

『溶解した肉』から、手が生えた。

その手が交差し、ネズミの山を引き裂いた。その山から、悠然とバオーが現れる。

 

「ヴォォォム!」

溶けたネズミの山の上で、バオーが咆哮を上げた。

その様は、餓えきった野生の捕食獣に酷似していた。

 

育朗=バオーが着ていた服は、あちこちネズミに噛まれ、ボロボロに千切れていた。

しかし、肌には傷一つついていない。 ネズミの歯では、バオーの硬質化された肌を食い破ることは、できないのだッ!

 

「……やんなっちゃう……あなた、もしかしてかすり傷一つ付いてないって、ワケぇ」

ネリビルが、肩をすくめた。

 

「ちょっと……どうするのよ。あのコ、予想以上の規格外っぷりじゃあない」

マキシムが、ネリビルの背中を蹴った。

 

「まだまだ手はあるわよ」

ネリビルはうなった。

「マキシム、あんたちょっと時間を稼いでなッ」

 

「なっ……」

マキシムは一瞬怒りで顔を青ざめ――そしてすぐに、『ひどく冷静な顔』でうなずいた。

「フン……わかった。私がやるわ……あんたは、しばらく引っ込んでなさい。むしろ、あんたが来る前に片づけてやるわ……」

マキシムはスタンドで自分の体を覆った。その能力で、着ていた上着を、自ら溶かす。

すると……上着の下から、『全身を覆うブルーラバーのボディスーツ』 が現れた。

マキシムは、背中に垂れ下がっていたフードを被り、ジッパーを降ろし、ゴーグルをはめた。

所謂ド級の、ボンデージファッションだ。

 

「マキシム……あんたゾンビのくせに変態?そういう性癖だったわけぇ?」

その様子を見て、ネリビルが、呆れ気味に言った。

「アンタみたいな変態を相手にしなきゃならないなんて、育朗君もかわいそうねぇ」

 

「アハハハハ……」

マキシムは、乾いた笑い声を上げた。

「セクシーでしょ……これが私のプロテクターよ。これで私は完ぺきなの、何とでも、好きに言うがいいわ」

 

再び出現したイエロー・テンパランスが、マキシムのボディ・スーツの上に覆いかぶさる。

 

「ガガガガガガァ!」

マキシムは、奇体な雄叫びを上げながらバオーを襲うッ!

「バオーッ!私(ゾンビ)のフルパワーを、受け止められるかしらぁ?」

メギョォオンッ

 

マキシムは、野球ボール大のイエロー・テンパランスの固まりを作ると、バオー目がけて投げつけたッ

 

しかしバオーは、その攻撃を簡単にさけた。

「バルッ」 

 

「そう……当然あんたは避ける。……でも、ほんのチョッピリ体勢がくずれたわよ」

 

バオーがスライムをよけた所を、素早く踏み込んだマキシムのパンチがおそうッ。

 

「そして……体勢がくずれたあんたは、私のパンチをブロックするしかない……全てが予定通りだわ」

 

マキシムの言葉通り、たまらずバオーがパンチを受け止めた。

 

そして次の瞬間、マキシムを覆っていたイエロー・テンパランスが バオーに降りかかった。

イエロー・テンパランスが、バオーの体を浸食していく。

 

「だから、この攻撃が本命ってわけぇ」

マキシムが、クククっと嗤った。

 

『馬鹿な……僕の体が、スライムに喰われていく……』

育朗が、焦ったように言った。

 

「ホントは、直接あんたの体を喰い千切りたいけどぉ……スタンドごしで我慢するわぁ…………降参しなさい」

そうすれば腕一本くらいで、許してあげる。

マキシムは、上唇を舐めた。

 

しかし、マキシムの提案を、育朗は一蹴した。

『僕はどんな事があってもスミレを守るッ!……噴上君達もだ……』

育朗の言葉とともに、バオーの体を構成する細胞が、微弱な電流を発生させ始めた。

バオーの一つ一つの細胞が生んだ電気は、体内を駆け巡り、互いに混ざり合い、強力な電気を放電するッ!。

 

グォ――ン!

 

バオーの体から発せられた電気が、イエロー・テンパランスを焼くッ

マキシムは。電気ショックで一瞬体を硬直させた。

だがマキシムは、全身から煙をたなびかせながらも、まるで何事もなかった様に立ち上がり、再びバオーに組みついた。

 

「アハハハハ……我慢比べよ。楽しいッ」

煙を吐きながらも、焼け残ったスライムがバオーを再び覆うッ

 

『くっ……もう一度だ……ブレイク・ダーク・サンダー!』

 

グォ―――ン!

 

「アハハハハ」

 

グォ――ン!

 

『もう一度だ!』

 

グォオオオオ――ン!

 

「アハハハハァ」

 

『これでどうだ!』

 

グウォォオオオオ――――――ン!!

 

「アッハハハハハハッ」

何度電撃を喰らっても、マキシムは恍惚の表情を浮かべ続けていた。

だがその一方で、マキシムのゴーグルの隙間から、血が吹き出始めていた。

噴き出た血は、ブルーのラバースーツの上にかかり、まるで血の涙を流しているようにも、見えた。

 

(ううっ……マズイッ……ブレイク・ダーク・サンダーは一発撃つ度に激しく体力を消耗する……ラバースーツのせいで電撃の効果も弱い。しかも相手はゾンビ……我慢比べは此方の分が悪い、このままでは僕の体が徐々に喰われてしまう……ならば……)

「バルンッ!」

バオーはゾンビの怪力をものともせず、マキシムを押さえつけた。……そして、なんと……メルテッディン・パルム・フェノメノンの強酸液を、一気に噴出させたッ!!

 

『グウゥッ!』

跳ね返った強酸液をかぶったバオーの皮膚が、煙を上げていく。

 

「アアアアアッッ!イータァイィ!!」

一方、まともに強酸液をあびたマキシムは、絶叫を上げながらのたうちまわる。

「イイ、イイイイィッ!」

バオーにより、身に着けていたボディスーツがドロドロに溶け、ところどころ素肌と一体化している。スタンドである、イエロー・テンパランスさえも溶かされているのだ。

一体化していない皮膚は、グズグズにただれ、皮膚の下の赤い肉がむき出しになっている。

 

その様子を見て、ネリビルが楽しそうに嗤いだした。

「フフフ。マキシム、よかったわねぇ~あなた、肌がすっかり溶けて……きれいになったじゃあない」

スベスベよ、とネリビルが笑った。

「……アンタよくやったわ。これであの子を呼ぶのに必要な時間が、稼げたわ」

 

「ぎやあああああああああああああああああああああああああああああああ!」

ネリビルは、足元でのたうちまわっているマキシムを、容赦なく踏みつけた。

 

笑うネリビルの隣に、2体のクリーチャーがヌッと現れた。

一体は巨大なマンドリル・マーチン!そしてもう一匹は……

 

「ちょっと遅れちゃったけど、あなたのお友達が来たわ……紹介するわね……彼が、モディレイテッド・バオー……レッド・ヘルムよッ!」

ネリビルが、高らかに言った。

 

現れたのは、通常の大きさ3倍近い、巨大なヒグマだ!

熊はネリビルの命令により、その体に眠る寄生虫バオーを目覚めさせた。アームド・フェノメノンを発現させ、その姿かたちを変身させる。

ただでさえ巨大なヒグマが、モディレイテッド・バオーの影響でさらに巨大化していく……

 

「フフフ……オリジナル・バオー対モディレイテッド・バオー……一体、どちらが勝つのかしらねぇ」

楽しみだわ? ネリビルが、楽しそうに言った。


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