仗助と育朗の冒険 BackStreet (ジョジョXバオー) 作:ヨマザル
【報告書】
【被追跡者プロファイリング】
【聞き取り調査結果】
被調査者番号:BA1593
「ああ、いくちゃんね?懐かしいわね……かわいそうに、交通事故でお父さんとお母さんと一緒に死んじゃった子よね。ウチの子の一つ上だったかしら?そう……もし生きていたら、もう25歳になるのね……」
被調査者幼少時の友人の母親(51才)
「えっ、あの育ちゃんの話が聞きたいの?ふぅん? いいわよ………そうね、あの子は『いい子』だったわよ。大人しくて優しい子でね。うちの子もよく遊んでもらってたわ。そうそう、仮面ライダーのお話が怖いってね、結構怖がりな子だったわ……ほかに何か、聞きたいことある?」
被調査者の友人の母親(54才)
「そうね…………ちょっと出来過ぎな感じ?何でもソツなく出来て」
被調査者の友人(24)
「ああ、あの氷の張った池に落っこちゃった子ね…………そうね、偉い子だったわ。あの子、池に落ちて怖かっただろうに、全然それを周りに言わないのよ。でももしかしたら、色んなストレスをため込んじゃうタイプかもね。それで、突然に爆発するタイプ」
被調査者が旅行中に泊まったホテルの女将(62)
「育朗?おーっ……あいつは『イイ奴』だったのによ――何つーか。あれだ……自分から何かする奴じゃなかったな。でも黙っていても皆から一目置かれるっつーか」
被調査者の友人(24)
「こんな事があったよ。僕が上級生にいじめられている時、たまたま通りかかった育朗クンが、一緒に殴られてくれたんだ」
被調査者の友人(24)
「あいつは、シャイな奴でよー……でも打ち解けると気さくで面白い奴だったぜ――。真面目な顔でつまんねーオヤジギャグを連発したりよぉ。だが、ギターはあまり上手くなかったな。俺のほうが全然うまかった」
被調査者のバンド仲間(28)
「えっ……あの人、無事なんですか?あの人は私を命がけで助けてくれたのに、優しく気遣ってくれて……いい思い出です」
被調査者と最後に接触したと思われる一般女生(30)
被調査者番号:CD59983
「ジョースケか、あの子優しい子だったよね。意地悪されても全然怒らないの」
被調査者幼少時の友人の母親(45)
「そうよ、今のあの子の髪形を見たらびっくりするくらい、温厚な子供だったわよ……でも、お母さんッ子でね。お母さんから全然離れないのよ」
被調査者が通った幼稚園の保母(36)
「ジョースケ君はイイ子だったわ、いっつもニコニコして……だけど、自分が大切にしているモノをバカにされると、そりゃあもう、人が違ったように怒り出してねぇ」
被調査者が通った小学校の同級生(16)
「ひっ…………」恐怖のあまりコメントを拒否。
被調査者が通う高校の近隣の不良グループのリーダー(19)
「おおっジョースケは俺のライバルだぜ。アイツはツエェ――。でも、格ゲーじゃあ、25勝20敗で、俺が勝っているんだぜッ!」
近隣の小学生(11)
「ポッ♡」
近隣の女子中学生(14)
「男気があるっす!あの人が立てた伝説の数々は物凄いッスよ。超ヤバッす。しかも、普段は滅茶苦茶に優しいーのに、何か理由があって怒り出すと超怖いッス。そこがカッケーッス!あこがれるウッス!」
近隣の男子中学生(14)
「頼りになる奴だ。ちょっとのんびりしておるが、同級生からも人望がある」
被調査者の高校の担任(57)
「……アイツはちょっと危ない所もあるが、だが良い奴だよ」
近隣の警察官:後日被調査者の祖父であったことが判明(1999年に故人となる)
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1999年11月6日 [DRESSの基地]:
頬にあたるコンクリートのざらつく感触に気が付き、スミレは目を覚ました……
目を覚ましたはずだ。しかし、目を開けても何も見えない。
当然だ。周囲は墨を流したような真の暗闇で、自分の手足さえ欠片も見えないのだから。
スミレは当惑して、耳を澄まして周囲の気配を探った。昔の記憶がふっと蘇る。確か8年前、ドレスの研究所が崩壊した時の鍾乳洞も、同じくらい暗かったような気がしたのだ。
(ここはどこだろう )
「ミキタカゾ、億泰 」
暗闇の中、スミレは仲間の名を呼んでみた。
だがその声はスミレが思っていたよりも大きく響いた。そしてその音が止んだ時、完全な闇が再びスミレを包んだ。完全な暗黒、完全な静寂……時間感覚も、スミレは自分が誰なのかも忘れてしまいそうな程の、『完全な孤独』の中にいた。
(いくらミキタカゾと億泰を呼んでも一切返事がない。どういうこと?)
しばらくして、ようやくスミレは何が起こったのか、自分が森の中で襲撃者と遭遇してさらわれた事を思い出した。
そう、億泰とミキタカゾ、そしてスミレは森の中にあった廃墟の近くで、DRESSを名乗る二人のスタンド使いの襲撃者と戦ったのだ。
DRESS……スミレ達の人生を狂わせたその忌まわしき組織、そして恐るべき生物兵器:バオー……
スミレは昔、自分をDRESSから救ってっくれた少年、橋沢育朗の事を思い出した。彼……育朗も、DRESSにバオーとして体を改造されていた。
だが彼はその強力な力で、自分を助けてくれた……自分自身を犠牲にしてまで。
億泰とミキタカゾ、二人とも無事だろうか。
スミレは、育朗の探索に二人を誘ったことを、実は激しく後悔していた。
もともとあの二人は、ドレスとは縁もゆかりもないのだ。もし、スミレが声をかけなかったら、今頃は二人とも杜王町で、いつも道理の平穏な日々を過ごしていたはずだ。
あの二人を、育朗のような目に合わせてはいけないのだ。
(お願い……二人とも無事でいてちょうだい……)
スミレは心から二人の無事を願った。
……そして、もう少しで育朗に会えたことを、思い出した。思わず悔しくて、思いっきり拳を床に叩きつけるッ 手加減抜きで叩きつけた手は、まるで骨折でもしたかと思うくらい、激しく、傷んだ。
だがその痛みが、『完全な孤独と後悔』に飲み込まれそうになっていたスミレの気力を、再びよみがえらせた。
コ" コ" コ" コ" コ" コ" コ" コ" コ" コ"
「そうよ、もうあの時とは違うわ……もう何もできずにつかまっているだけの私じゃあないのよ……何があっても、ここから脱出して見せるッ」
真暗の中、スミレはあちこち手探りをしながら立ち上がった。そして、自分のスタンド、ウィスパー・イン・ザ・ダーク(WitD)を出現させた。
WitDが、つまりスミレのスタンドは、額から飛び出すとクルリとスミレの周囲を一蹴した。
黒い蝶のビジョンを持つスタンドが、ぼんやりとあたりを照らしながら部屋の中を飛びまわる。
周囲は真の闇に覆われており、スミレの裸眼では何も見えなかった。だがスタンドの視界を通せば、暗闇でも、周囲の様子が手に取るようにわかるのだ。
WitDによる探索の結果、ここは、完全にコンクリートで覆われた、窓ひとつない密室であることも分かった。
ドアらしき壁の切れ目はある。だが部屋の内側には、ドアノブもなく、どんなに押してもピクリともしなかった。
やっとの事で探し出した通風孔も小さく、スミレがその中に入って部屋から脱出する役には、たたなそうだ。
つまり、ここは完全な密室だった。
しかし、あきらめるわけには、いかなかった。
スミレは、自分を奮い立たせた。
自分は、もう無力だった9歳のころと同じではないのだ。
ただ育朗が助けてくれるのを待っていた、あの時のようには、できない。スミレは、ミキタカゾと億泰君、そして多分、育朗に助けてもらうまで、ただ待っているつもりはなかった。
それに、もし自分のせいでまたしても育朗が……そしてあの二人が、無謀な戦いを強いられることになったらたまらない。
もし戦いの結果、取り返しのつかない事が起こってしまったら……スミレはそう思うと、じっと助けを待つことなど出来なかった。
むしろ、自分があの三人を助けるのだ。
自分には、それだけの力があるはずだ。
六助爺さんと圭婆さんのところで過ごした8年間を、思い出せ。
幼少のころ、スミレが可能な限りマタギの六助爺さんの狩りに同行していたのは、いつか育朗と再会し、サバイバルの日々に戻ったときに備えるため……だったハズだ。
六助爺さんは、そんなスミレの思いを分かったうえで、それでも後継ぎができたと喜んでくれたのだ。そして辛抱強く、スミレに自分のマタギの技すべてを教えこむ努力をしてくれたのだ。
だから、今のスミレは、昔と比べられ無いほどたくましく成長した……ハズだ。
例えばマッチ一本で、森の中で火をおこすことが出来る。そればかりか、狩りをしたり、山にあるものを食べたりして、1人でひと月以上を生き抜くことも出来るだろう。
ツキノワグマと一対一で正対しても、猟銃の一発で撃ち殺すことができる自信さえ、ある。
だから、出来るハズ。
スミレは目を閉じ、WitDの操作に意識を集中させた。そして、その能力で壁の向こうを、未来を、探り始めた。
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1999年11月6日 [M県K市名もなき高原]:
「くそぉ……救えなかったぜ〰〰」
夕暮れ時、意に反して、デビットとヨーコ・ゾンビを倒したショックから立ち直れず、仗助は1人、キャンプの隅でがっくりと肩を落としていた。
そんな仗助を見ていられず、早人がココアを差し入れてくれた。
「仗助さん……ヨーコさんの事は仕方ないよ」
「おー」
仗助は、ココアを受け取りながらも、心ここに非ずといった風にぼうっとしていた。
「仗助さんがいなかったら、僕等は全滅していたよ」
「おー」
「みんな、仗助さんを頼りにしているんだよ。感謝もしてる」
「おー」
「……」
「お〰〰」
「…………所で…………仗助さんはアンジェラの事が好きなの?」
「お〰〰いやッ早人、おめー何を言っているんだッ」
ぼーっとしていた仗助は、早人の言葉にあわてて手を振った。
「お前、ホントに油断も隙もネーな」
「……ねぇ仗助さん、聞いてほしいことが、あるんだ」
早人が、真剣な口調で言った。
その口調に、仗助も態度を改めた。仗助は、早人の正面で足を組んで胡坐をかいた。顔の高さをも早人に合わせ、仗助は、正面からまっすぐ早人に向き合った。
「なんだよ?」
「明日の朝、本当に助けが来ると思う?」
早人は、不安そうに尋ねた。
「あったりめーだぜ。俺たちは、全員安全な杜王町に脱出する」
ニカっと、仗助はわらい、早人の肩をたたいた。
「きっと明日の昼過ぎには、お前は、母さんと一緒に昼飯を食ってると、俺は思うぜェェ」
「でも……ねぇ仗助さん、本当にいいのかな。本当に僕たちが、ここから逃げちゃっても」
早人は、顔を引き締めた。
「あのゾンビたちは、人を食べてゾンビに変えちゃうんでしょ………じゃあ、もしこのままほっておいたら、ゾンビ映画みたいに、この世がゾンビだらけになっちゃうんじゃあないかって、僕は心配なんだ」
「もちろんゾンビ共に、そんな事を許す訳にはいかねーすよ。だからゾンビどもは、ここで全滅させなきゃなんねー」
「やっぱり、仗助さんもそう思うでしょ。だったら、僕たちだけ逃げるわけにはいかないよ」
勢い込む早人の肩を、仗助がポンとたたいた。
「……早人よぉ、おめーが一番にやらなきゃいけないのは、自分の母さんを守る事だ。違うか」
「……もちろんだよ」
「じゃあ、お前は母さんのそばにいてやれ。それがお前が一番にやるべき事っすよ」
「でも、もしゾンビが近くの町や……杜王町まで来たら、大変なことになるよ」
「もちろんそんなことはさせねーっすよ。この仗助君が」
任せとけ と、仗助は胸をはった。
「……じゃあ、もしかして、仗助さんは僕たちと一緒に逃げないで、ここに残るっていうの」
早人は、泣きそうな顔になった。
「おぉ〰〰〰っ。ヤッパリそれは、俺がやらなきゃならない事だと思うんスよ」
仗助は、ニカッと歯を見せた。
「じゃあ、やっぱり僕も残るよ。仗助さんだけを残しておけないよ」
早人は、仗助にしがみついた。
仗助は、優しく早人の手をはずし、早人の両肩をグっとつかんだ。中腰になり、再び視線を合わせる。
「違うぜ早人ォ〰〰さっきも言ったがよぉ――、お前の仕事は、おふくろさんを守る事だぜぇ〰〰それに、お前には大事な頼みがあるッスよ。……杜王町に帰ったら、億泰や康一にこの件を話してくれないっすか?俺がこっちで戦っている間に、近隣の村や杜王町にゾンビが入り込むのを、アイツらに防いでもらわなきゃならね――」
「でも……」
「早人、頼む。お前や俺のお袋達を守ってくれ」
仗助が、手を合わせた。
「お前だけが頼りだ」
仗助に、いつまでも頭を下げさせたくない。早人は、不承不承うなずいた。
「……わかりました。……でも、仗助さん、気を付けてよ」
任せておけ。仗助は早人と固い握手をかわした。
◆◆
翌朝未明、キャンプの救援にSW財団から派遣されたという男たちの姿を見て、仗助と早人は目を丸くした。
「グレート……お前たち、億泰、噴上、それに未起隆じゃねーっすか。お前ら、何やってんだ。どうしてこんな所にいる?」
「仗助~~お前こそ、どうしてここに居るんだ……しかも、早人の奴もいっしょかよ」
億泰が、ニヤッとしながら、答えた。
「それにゃあ深いわけがあるんだが…………!?……ちょっと待てェお前たち……ひでぇー怪我をしてるじゃねーッスか!今直してやるッスよ」
仗助は笑みを引っ込めた。億泰も、未起隆も、そして噴上も、全身傷だらけなのだ。
仗助はスタンド:クレイジー・ダイヤモンドを出現させ、順番に三人に触れていった……すると、三人の怪我は、一瞬にして『治った』。
その様子を、ポルナレフとホル・ホースが興味深げに見ていた。
「ずいぶん、パワーがありそうだな……俺の知っている『アイツ等』のスタンドに似てやがる……」
「そうか、あれが噂の『治す』スタンドか……助かったぜ」
ポルナレフが、仗助に話しかけた。
「君は、この三人の知り合いかい?」
「そうです、ところで事情はよくわかりませんが、アンタ達がこの三人を助けてくれたんスか」
仗助は、ありがとうございました。 と、ポルナレフとホル・ホースに頭を下げ、自分の名前を名乗った。
「そうか、君が東方仗助クン……ジョースターさんの……お子さんかぁ」
ポルナレフは、仗助をまぶしそうに見た。そして、手を差し伸べた。
「俺の名はジャン・ピエール・ポルナレフ……ショースターさんや承太郎とは、あ――……昔の旅仲間って奴だ。ヨロシクな」
「ハァ……初めまして……東方仗助ッス」
仗助は、ぺコリと頭を下げた。