仗助と育朗の冒険 BackStreet (ジョジョXバオー)   作:ヨマザル

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ヌ・ミキタカゾ・ンシ(支倉未起隆) その1

1999年11月4日 [M県K市、A山山麓]:

 

バシュッ!

ボワゥンッ!

スミレと億泰は、枝から枝へ、まるで猿のように飛び跳ねながら、森の中を進んでいた。

その一歩一歩は、不自然なほどに大きい。その歩みは、まるで月面か、トランポリンの上を走っているかのようだ。

その動きは、未起隆のスタンド:アース・ウィンド・アンド・ファイヤの力によるものであった。

 

アース・ウィンド・アンド・ファイヤは、未起隆の体を任意の物体に変身させることが出来る。未起隆はその力を使い、4個の靴に変身・分裂して、スミレと億泰の足を覆っていたのだ。

スミレと億泰が足に力を入れるたびに、タイミングを合わせて未起隆が二人に力を貸す。すると、二人の脚力に未起隆の力が加わり、1.5人分の力で軽快に先を進むことができる……と言う訳だ。

 

三人は、ネリビルが操るネズミによる捜索を可能な限り避けるために、木の上を移動することにしたのであった。

 

半ば無意識に分裂と変身とを維持しながら、未起隆は、前の高校でスミレと初めて会った時のことを思い出していた。

 

    ◆◆◆◆◆

それは今から3年前のこと、未起隆の転校前の出来事であった。

 

その日、未起隆は放課後の教室に1人残っていた。1人で、自分の所属するバンドの新譜を、読みこんでいるところだった。

明日はバンドのメンバー全員で集まって、この新譜の音合わせをすることになっている。未起隆はボーカルを務めており、長くて発音が難しい英語の歌詞を間違わずに歌い切るために、その日中に、歌詞を全部頭に入れておかなくてはならなかった。

 

『スパイダーズ・フロム・アストロイド』

それが、半年ほど前から未起隆が所属しているバンドの、名前であった。メンバーすべてが同じ高校のクラスメートからなる、Hip Hop, Hard Rock, Heavy Metal 洋楽全般なんでもござれ、と言う感じのコピーバンドだ。

 

バンド活動は、とても面白かった。胸を鳴らすドラムの音、頭の中ではじける、ギターの大音量………音楽をやっているときは、何もかも忘れられた。しばらく仲間の宇宙人に出会っていない孤独も、『本当に自分は宇宙人なのか?』と、時折心に湧く疑惑も……。

 

いつしか、未起隆はすっかりバンド活動にはまっていた。

はまっているからこそ、時がたつのも忘れて、夢中で新譜を読んでいく。気が付けば、いつの間にか外が薄暗くなっていた。

 

突然、未起隆が没頭して読み込んでいた新譜が、ヒョイと取り上げられた。

未起隆が驚いて顔を上げると、そこには、ニヤニヤと笑う美少女が立っていた。その美少女の顔は、知っていた。

 

「アナタは……栗沢 スミレさん?」 

それまで、未起隆はスミレと一言も口を聞いたことはなかった。

しかしスミレの噂はよく耳にしていた。校内一の美女と名高い、しかし校内一の口の悪さを誇るスミレは、学校の有名人だったのだ。

「僕に何か用ですか?それから、その新譜は返してください、まだ発表前の物なので」

 

「ミキタカくん?」

スミレはニヤニヤしたまま、新譜を返してよこした。

 

その態度に、温厚な未起隆も少しだけ反感を覚えた。だが、続けて口にされたスミレの言葉に驚愕し、そのかすかに覚えた反感は、すぐにどこかに消えていった。

 

「支倉未起隆クンだっけ?……それとも、本名のヌ・ミキタカゾ・ヌシ君って呼んだ方が、いいかしら?」

 

「なっ……なんですって?……ボクはそんな名前じゃあないですよ、僕はモーリス・シャイニングスターです」

 

とっさにバンドのボーカルとしての名前を口にして、誤魔化そうとした未起隆の口を抑え、スミレは 未起隆の『本当の名前』をささやいた。

「それは『設定』でしょ、ヌ・ミキタカゾ・ヌシ君」

 

「……」

図星をつかれ、未起隆は口ごもった。

 

もともと、未起隆がバンドをはじめたのは、実は理由があった。

それは、自分が『宇宙人である事』、をごまかすためであったのだ。

未起隆は、『宇宙人である事』をごまかすために、『バンドの《設定》としてあえて宇宙人を名乗っている』という事にしていたのだ。

学校では、未起隆は、宇宙から来た伝説のスター ジギー・スターダストの弟の友達の知り合い…………のモーリス・シャイニングスター という設定であった。

だから、未起隆の本当の名前を知る人は、いないはずだったのに……

 

観念した未起隆は、スミレにその『秘密』を黙っていてくれるように頼んだ、

スミレは快諾した。

 

そして、そのときから、二人の『奇妙な』友人関係が始まった。

 

少々意外だったことに、スミレは未起隆を『普通の友人』として付き合ってくれた。未起隆が宇宙人だという事をまっすぐに受け止め、でもだからと言って地球人相手とかわらない態度で、接してくれたのだ。

 

二人は、いつしか親友といえるまでに仲良くなっていた。

何といっても、これまで自分の中だけに秘めていた、他の人とは共有するすべもない『秘密』を互いに共有したのだ。仲良くなるのも当たり前だった。

二人は、未起隆のバンド活動の合間をぬって互いの近況を交換したり、先日見た映画の事や、受験の事、気に入った音楽の話、時にはコクサイジョーセー等を語り合った。

 

スミレは未起隆に、彼女の驚くべき『秘密』を色々と打ち明けてくれた。

今まで両親代わりのお爺さんとお婆さんにさえ話したことのない、その孤独な過去を、未来が見えると言うその能力の事を。

 

未起隆も、彼女に色々な事を話した。

(最近よく怒られるが)地球人の仮の「父」と「母」の事をどれだけ大事に思っているのか

好きな音楽

空から見る星の美しさ

星を見たときに1人この星にいると感じる孤独

そして思ったものに変身できるスタンド能力:アース・ウィンド・アンド・ファイヤの事を。

 

スミレは、彼女の最も大事な秘密『予言』の事さえも、未起隆に話してくれた。

17歳になったら「騎士」が迎えに来る……

その予言は一見、現実と想像の世界の区別もつけられなくなった、夢見がちな女の子の『痛い』妄想のようだ。

 

だが、未起隆はそのスミレの言葉を信じた。

それは、彼女の「能力」を知っていたからであり、そして、スミレが未起隆が宇宙人だという事を、信じてくれているからでもあった。

 

スミレ先輩が同じ高校にいてくれたおかげで、どれだけ楽しかったか。

 

だがそんな『楽しい』日々は、ある放課後、『サイレンの音に気持ちが悪くなって未起隆が変身した所』を、うっかりファンの子に見られてしまった事で、簡単に終わりを告げた。運の悪いことに、未起隆の『変身』を見た女の子が校内一のおしゃべりで……

    ◆◆◆◆◆

 

もう止そう。

未起隆は、不快な記憶を頭から追い払った。

あの時の事は思い出したくない。思い出しても仕方がない。

 

なんといっても、今の未起隆には信頼出来る仲間が大勢いるのだ。

今の未起隆の仲間には、東方仗助、虹村億泰、広瀬康一……その他、気のいい、そして頼りになるスタンド使いが大勢いた。彼らもまた、スミレと同様に安心して未起隆の秘密を明かすことができる、仲間たちだ。

 

ちなみに、前回の反省をこめ、今回の学校ではスタンド使い以外には軽い洗脳をかけている。それは未起隆が宇宙人だと言っても、変身するところを見られても、それはすべて見間違いか冗談だと感じさせるための洗脳であった。

 

と、上の方から億泰の声が聞こえた。気がつくと二人の足も止まっているようだ。未起隆は物思いを中断させ、スミレと億泰との会話に意識を戻した。

     ◆◆

 

「なんだぁ、この小屋は」

億泰は、眼下に見える無残に破壊された小屋を見て、首を傾げた。

「一体何が起こったんだろうな……俺にゃあわからねぇが」

 

億泰とスミレは樹上から飛び降り、その小屋の近くに立った。

 

その小屋は、天井がぐしゃりとつぶれ、ドアが細切れの木片にされて地面に散らばっていた。壁の所々に硬い物を突き刺したような穴が開いているのはなんでだろうか? 所々焦げた所もある。

 

「私にもわかりません……何か、恐ろしい戦いが起こった後のようにも思えますね」

二人の靴からは、未起隆の声が出た。自分の足元から、人の声が聞こえるのは不思議な感覚であった。

「ここ……別荘だったのでしょうか、家具とか、照明とか、色々豪華な物がありますね」

 

「なんであれ、あのおばさんの仕業ではないわ」

スミレが言った。

「なら、ほっておいていいわよ。先を急ぎましょ」

 

「WitDが教えてくれたわ」

スミレが言った。

「私たちが目指す場所は、あと半日もかからずに着くはずよ。きっと今夜中につけるわ!……こんなところでぐずぐずしないで、先を急ぎましょ」

 

ところが、スミレの提案に反対するように、ブルンとスミレと億泰のはいていたシューズが震え、未起隆は、本来の姿に戻った。

「僕は、これ以上進むのは反対です。……スミレさん、今日はここで休みましょう」

未起隆が言った。

 

「ちょっとォ、そんなわけにはいかないわよォ」

せっかくここまで来たのよ、とスミレが言った。

「もう少しだけ……もう少し、進もうよ」

 

「スミレ先輩、あせる気持ちはわかります」

未起隆は諭すように言った。

「でも、考えてみてください。僕らには追っ手がいるんです。ここなら、少し補強すればいい守りができます。僕は、今日はここで休むのが、いい考えだと思います」

 

「でも、ネズミ対策はどうするのよ」

スミレが食い下がった。

「こんなところに隠れたって、絶対ネズミに見つかるわよ。それより、先を急いで『彼』に会いたいわ」

 

「確かに、ネズミから何時までも隠れることは、できません」

未起隆が言った。

「もうすでに見つかってるかもしれません……でも、どうせ見つかってしまうなら、防御に適したところで、あのオバサンを待ち受けるのがいいと思うんです」

 

スミレはお手上げ、と言うように頭を振ると、億泰の方を向いた。

「……億泰、ミキタカゾはああ言っているけど、億泰はどう思う?やっぱり、先にどんどん行くのがいいわよねぇ」

 

「スミレ先輩……俺は頭悪いから、どっちがいいかわかんねぇ~~」

億泰が言った。

「だがよォ~~もうすぐ暗くなるぜ。この先ちょっと進んだくらいで、ここよりもっといい場所なんか見つからね~かも知らねーぜ」

 

「…………2対1ね。わかったわよッ!」

スミレがぷんとむくれて言った。

「じゃあ、早速その補強って奴をやってしまいましょ……で、何すればいいの?」

 

「まずは壁と天井を直して……それから落とし穴が要りますね」

未起隆が考え、考え、言った。

 

「どうやって直すの?作るの?」

 

「そうですねぇ……宇宙で待機している本部に相談してみましょうか。あー本船・本船・応答セヨ」

未起隆は、右手首についている時計に向かって話しかけ、しばらく時計に耳を寄せた後、真面目 な顔で、しかし少し困ったように……

「宇宙船 本船からの支援は受けられません。自分たちで何とか考えるしかないようです………どうしましょうか?」

と、言った。

 

「ちょっと!」

 

「ああ……壁はあの崩れているレンガを積みなおせば、いいですね」

未起隆は、のほほんと言うと、壁に煉瓦を積み始めた。

「億泰さんは……」

 

「わかってるぜぇ~。落とし穴を『削り取れば』いいんだろ」

そう言う仕事は、おれのスタンドに任せろ。億泰はそう言って、張り切って建物の周囲に深い落とし穴を作り始めた。

 

「もうっ」

スミレは腰に手をあてて、二人を睨みつけた。

「もともと、ノーアイデアだったんでしょ……まあいいわ……天井にレンガを貼り直すのは無理ね……私は天井を塞いでみるわ。折れた木か何かで」

 

「プーダァ!」

インピンがスミレの懐から飛び出して、ふわりと床に着地した。

 

     ◆◆

 

ゴスッ!

 

その夜。屋根の上で見張り役を務めていた未起隆の耳に、何かが落とし穴に落ちたような音が聞こえた。

未起隆は緊張し、身をこわばらせながらしばらく耳を澄ました。すると、かすかにののしり声が聞こえてきた。

 

やはり侵入者だ。未起隆は、屋根をふさいでいた木の枝を持ち上げた。開いた隙間から、するりと建物の中に入り込む。 緊張のあまり、心臓がバクバクと悲鳴を上げていた。

 

スミレは未起隆が起こす前に目覚めていた。すでに月明かりの下で猟銃に弾を込めている。スミレもまた、緊張のあまり、すっかり青ざめた顔であった。

 

億泰も、未起隆がつつくとあっという間に目を覚ました。

事情を呑み込んだ億泰は、険しい顔で窓を睨みつけていた。

 

「危険が迫っているビジョンが観えたわ。敵は一昨日のおばさんだけじゃあない、もっと恐ろしい奴が一緒に来てるみたい……」

スミレの額には、三つ目のような、それとも蝶のようなスタンドビジョンが張り付いていた。それは、洋楽好きの未起隆がウィスパー・イン・ザ・ダーク(WitD)と命名した、スミレのスタンドだ。そのスタンドの能力は、予知だ。

 

WitDはパタパタと飛び、……地面の砂に何やら模様を描いた。

WitDが描いた模様には三人の人間が、一匹の犬のような怪物を連れている様子が描かれていた。そのうち1人の人間は、他の二人の二倍は背が高かった。

 

「ほら、アナタたちにも見えるでしょ……これが敵よ」

 

「なるほどぉ~、とにかくこいつらを倒せばいいんすね」

億泰は、バンバンと、派手に自分の顔を叩たき、気合いを入れた。

「俺はもう小屋の外に出るぜ、奴らを迎え撃ってやらぁ」

やってやるぜ。億泰は至って真剣な表情で、小屋を出ていった。

 

「ミキタカゾ、私たちも手筈通りにやろう」

スミレは未起隆を連れ、億泰を追って小屋の外へ出た。

 

外は真っ暗で、だが雲の切れ間から月明かりがうっすらとさしていた。

ゴウゴゥと、三人が寝ていた小屋を囲む木々が揺れている。

昼間は美しく思えた木々の梢が、今はどうしてこんなにも、恐ろしく見えるのだろうか?

     ◆◆

 

待機の時間は、さほど長くはなかった。

スミレ達が小屋の外に出てから約10分後、待ち構えていた億泰の前に、大きな影が姿を見せた。

ネリビルと、ネリビルが操るクリーチャーだ。

「今度はまた、ずいぶんでかいペットちゃんだなぁ~~」

あの犬っころは連れてこなかったのかよ。 億泰は現れたネリビルに言った。

 

ネリビルは、巨大なマンドリルの頭の上に載っていた。

バオー・ドッグにやられて失った両腕には、銀色に輝く義手をつけていた。


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