前回のあらすじ……アニメ版のナレ風に~
アスガルドでの激戦を無事に終え、聖域へと舞い戻ったクライオス。
ことの成り行きを教皇へと伝えたクライオスは、その傷ついた身体と
休暇初日、神話の時代より傷ついた聖闘士が向かう地として知られるカノン島へと足を伸ばしたクライオスであったが、其処でも黄金聖闘士の魔の手は彼を執拗に追い詰める。
監督官として同行してきた
命を盾にとった両名のやり方に憤りを感じたクライオスではあったが、麓の村を救うため、自らの命を護るためにその火口へと降り立つ。
自然の作り出す灼熱の業火の前に、クライオスはその力を徐々に覚醒させていく。
※
――と、上記のようなことがあった頃。
それは目視で確認していたデスマスクとアフロディーテの二人は互いに眉間へと皺を作り、『むぅ……』と唸り声をあげていた。
「おい、見ろよ。クライオスの野郎……カミュの技を使いやがったぞ?」
「あぁ……。カミュ本人と比べれば威力はまだまだなのだろうが。まさか我々黄金聖闘士の技を真似るとはな」
「確かにアイツは結構小器用な所があったからな。カミュの野郎の技は、食料保存のため――とか言って、さっさと覚えてやがったし」
顎先を撫でながら、デスマスクは昔を思い出すようにしていた。
実際クライオスが最初に覚えた技はなにか? と言われれば、それはカミュより伝授(あの修行内容を伝授と読んでいいかは不明)された凍結拳であろう。
シャカより聖闘士としての基礎を叩きこまれ、アイオリアに依って高速拳の基礎を叩きこまれていたクライオスだが、最初に覚えた技らしい技となれば凍結拳なのだ。もっとも、その当時は精々が冷蔵庫代わりになるといった程度の能力で、とても必殺技とはいえないレベルだったのだが
今現在、それはまさしく技と呼べる段階にまで達したようである。
しかしソレは
「これは……俺達も」
「あぁ、我々も」
「「本気で技を教えこむ必要があるようだなッ!!」」
クライオスを更なる地獄に追い込むための、唯の呼び水でしかなかったのである。
※
やぁみんな、クライオスです。
前回、カノン島で決死の修行させられた俺は、見事にセブンセンシズの扉に片足を突っ込むことに成功した。
したのだが……まぁ、結論を言おう。
無理だって、あんなの。俺は只の人間だよ? 地球の、自然現象の力に太刀打ちすることなんて出来る訳ないっての。
まぁ、そりゃモノに依っては話は違ってくるよ。上から下に落ちる滝を逆流させろとか、土砂災害や雪崩から抜けだせとかさ。
でも、今回は地球の活動を押さえ込めってことだろ? 無理だって。
確かに、俺は
結果としてカノン島の噴火は一時的には収まりを見せたのだが、またチョコチョコと同じようなことをしないと落ち着きそうにはない。
いっその事大地震でも引き起こして、この辺りの
……ま、そんなことをすればまず間違いなく麓の村は地震とその影響で発生するであろう津波で壊滅してしまうだろうが。
あぁ、しかし――
「オラオラオラ! 早く動かねぇと積尸気に巻き込まれるぞ!」
「止めれッ!」
俺には、平穏無事という時間が訪れないようになっているのだろうか?
「そうら、黒薔薇の牙に食い荒らされてしまうぞ!」
「だから止めてよっ!」
飛び交うように放たれる、デスマスクの
二人の黄金聖闘士の猛攻を掻い潜りながら、俺はひたすらに作戦名『命を大事に』を敢行していた。
その動き一つ一つが光速と同等とまで言われる公式チート。
しかも生身の此方とは違い、現在の二人は
まぁ、俺の聖衣は破損中なので、着るに着れない状況なのだが。
黄金聖闘士二人の虐めをどうにか避けつつ、俺は二人の説得を行っている。
もっとも今までの経験上、その説得とやらが上手くいった試しはないのだがな。
右に避けても左に避けても、徐々に俺の行動範囲は絞られていく。
薄皮一枚といった際どさで二人の攻撃をなんとか躱しているといった具合なのだ。
(どうする……か?)
呼吸を荒く、切羽詰まった表情を浮かべて逃げ続けている俺であるが、不思議と頭の中は落ち着いている。とは言えそれは余裕の表れではなく、単純な慣れから来るモノでしか無い。
伊達に数年間を黄金聖闘士に扱かれたわけではないのだ。
まぁ、今も昔も修行風景を見られれば自慢にもならないような醜態を晒しているのだが、な。
「どわぁっ!?」
迫る燐光を大きく避け、襲いかかる黒薔薇は弾くように拳を打ち付けながら俺は状況からの打開策を考えていた。
常識的に考えれば二人の黄金聖闘士を相手にするのは不可能。
ムゥならば
『聖闘士の闘いに於いて聖衣の色は関係ない――』
といった台詞を口にするのだろうが、聖衣自体に能力の差がある以上は無関係とはいえないだろう? そもそも聖衣が関係ないならば、星矢達だって生身で戦うだろ?
……まぁ、ムゥが言いたかったことはそういう事ではないのだろうが。
「あ、そうか」
ムゥのことを考えていたからだろうか?
俺は一つの技を思い出した。
あの技ならば、今の状況を平和的に解決できるのではないだろうか?
物は試し、やってみて『損はない』と判断して俺は後方に大きく跳躍をする。
「……ニィ」
そして挑発的な笑みを浮かべてデスマスク達を見つめた。
「なんだ、クライオスの奴?」
「フン。何を企んでいるのかは知らんが、距離をとった程度この黒薔薇から逃れることは出来んぞ?」
……何だろう、アフロディーテの言葉は完全に敵に対して言う台詞ではないのだろうか? と思うのだが、しかしソレを指摘する間も惜しいので敢えてスルーをする。
しかし、俺が
「面白い、何をするつもりなのかを見せて貰おうか!」
「半端な真似したら只じゃおかねぇぞ!」
と、二人も同様に
「……」
「…………」
「…………――!」
ジワジワと高まっていく互いの
――と言うより、俺は選択肢を誤ったか?
本気ではないとは言え、黄金聖闘士を二人同時に『その気に』させてしまうとは……。
セーブデータが有るのならやり直したい。
「この白薔薇は、今までの遊び半分のモノとは全くの別物だ。心して受けたまえ――行け、ブラッディ・ローズ!」
「燐光の輝きに魅せられて、黄泉路に旅立て! 積尸気冥界波ッ!」
アフロディーテとデスマスク。
二人は高めた
とは言え、この段階まで来ておいて『やっぱりナシ』とはならないだろう。
なにせ既に技は発動しているのだから。
やるしか無いか。
「――クリスタルウォール!」
「なっ!?」
「コレは!?」
迫り来る黒薔薇と燐光を拒絶するように、高めた
もっとも、所詮は付け焼き刃の猿真似でしか無いこの技は、本家のムゥが使うモノのように相手に技を返すなんてことは出来ない。
……アレだ、ウルトラバリア的なモノだな、俺が使うと。
「俺達の技を、正面から防ぎやがった……だと?」
「確かに、全力ではなかった。だがしかし……」
正面から技を防がれたことが余程ショックだったのか、デスマスクとアフロディーテの二人は眉間に皺を刻んでいる。
まぁ、自分で使ってみても思うが、ムゥのコノ技は随分と卑怯に思える。
なにせ相手の技を殆どリスク無しで跳ね返してしまうのだから。ただ――
「――あ、ちょっと立ちくらみ……」
どうやら、俺には余り適正がないらしい。
本気で足元がフラツイている。
ムゥの真似。そのうえ超が付くくらいの劣化版の技だというのに、オーロラエクスキューションを使った時以上に
あぁ、ほら。
そうこうしている間にもクリスタルウォールが消滅してしまった。
「オイ、クライオス! さっきのは何だ?」
「随分と器用な事をしたようだが……私も少々気になるな」
ジリジリとデスマスクをその指先に燐光を、アフロディーテは何処から出したのか新たな黒薔薇に
しかし、『何だ?』って、どういうことだ?
「何って、
「
「ムゥだとぉ!」
驚いたように目を開くアフロディーテと、それとは対照的に苦虫を噛み潰したように表情を崩すデスマスク。
アレ? もしかして、其処まで黄金聖闘士たちって秘密主義だったのか?
途端にデスマスクとアフロディーテの二人は相談事でもするように、二人で向き合ってボソボソと話し始める。
聞き耳を立てると、時折に『あの野郎……』とか『我々より……』とか『ムカつく』とかいった単語が聞こえてくる。
もしかして、何か不味かったのだろうか?
……いや、もしかしたらコレがバタフライ・エフェクトに成って、将来的にとんでも無いことに――とは、さすがに考え過ぎかな?
「オイ、クライオス!」
「は、はい?」
「手加減するの止めるわ、俺等」
「へ?」
「お前という人間の成長を促すには、我々も本気で取り組むべきだと今――確信した。寧ろ手を抜くという行為自体が、お前に対する非礼であると我々は理解したのだ」
「止めてよ!なんなのよその超理論」
此方の言い分など意にも介さず、ボキボキと指を鳴らしながらデスマスクが距離を詰めてくる。思わず眉間に皺が寄るが、瞬時にアフロディーテが背後へと回って逃げ道を塞いでくる。
どうやらコレはイベント戦で、逃げるのコマンドが使えないらしい。
「それじゃあ早速――」
「本気で行くぞ!」
その瞬間、二人の眼が輝くように見えたのは俺の気のせいではないだろう。
※
一体何度違う空を見ただろうか?
修行時代にも何度も見た光景なので、最早慣れ親しんだ風景なのだが……いい加減一日の間に何度も
アレ、行くのもそうだが帰ってくるのも結構疲れるのだ。
俺がカノン島に来てから何日が経ったのか? 何度か意識を――いや、魂を飛ばしている所為で、その辺りが曖昧な気がする。
いい加減に体の方も此処で貰ったケガ以外は復調したのだから、次の目的地であるジャミールに行きたいものだ。
と、そんなふうに思っていたら、今日も俺は黄金聖闘士の攻撃を受けて空を飛んでいた。そのうち、俺の身体は聖衣が要らなくなるくらいに頑丈になるやもしれん。
「――何をしているのだ、クライオス?」
着地点付近、周囲の岩山を破壊するように落下した俺を見下ろすように、一人の人物が現れてくれた。
ソレは俺の師匠筋の中でも比較的マトモな人物。
黄金の野牛、
もっとも、比較的マトモな人物であって、決して世間一般的にはマトモな分類には入らないことを明記しておく。
「何って……
アルデバランの問に、なるべく現状を正確に把握できる言葉を選んで答えてみる。
「ム、そうか。邪魔をしたか?」
成る程。どうやらアルデバランには『修行漬け』という言葉に振ってあったルビが読めなかったようだ。
まぁ、良い。
いい加減、俺の意図することを読み取ってくれる相手が居ないことくらい理解できるように成ったからな。
「邪魔ってことはないですが、どうして此処へ?」
「何故……か。忘れたのかクライオス? お前の聖衣は修復をしなければならぬのだぞ」
「いや、それは覚えてますよ? そもそも聖衣が有るのなら、俺はもう少し怪我が少なく済んでいるはずだから」
「ん? アスガルドの時は聖衣を着ていただろ?」
「アスガルドの時の怪我じゃなくて、今現在も怪我が増えている真っ最中なんですがね」
「……?」
一生懸命に、デスマスクやアフロディーテにボコられるんですよ? とアピールをするのだが、残念なことにアルデバランには俺の真意が届かないらしい。
まぁ、良い。前述もしたが、そんなことは今に始まったことではない。
「で、聖衣の修復ってことですが――」
「何しに来やがったんだ、アルデバラン!」
アルデバランに訪問の理由を訪ねようとしたところ、不意に喧嘩腰の声を響いてくる。なんだってこう、デスマスクはチンピラみたいな態度を取るのだろうか?
「何しに――とは、随分な言い様だなデスマスク?」
「ハンッ! 俺の喋りに文句でも付けに来たのかよ、アルデバランさんよぉ?」
「ソレこそまさかだな。お前とて、俺たち黄金聖闘士が其処まで暇ではないことくらい知っていよう?」
「チッ……あぁ、そうだろうな。だが、だったら何をしに来たってんだよ?」
「それは――――」
「大方、教皇から『急ぐように』とでも命が下ったか?」
「……む、アフロディーテか」
苛立つように眉間に皺を刻んでいたデスマスク背後から、優雅な佇まいを崩さずにアフロディーテが現れた。
アフロディーテの場合は良く解らないのだが、恐らくはデスマスクほどに他人に対して攻撃的ではないのでアルデバランとの会話もなんとか成り立つであろう。
「まぁ、俺自身も金牛宮を離れるわけだからな。教皇の命でも無ければ勝手なことは出来んさ」
「そうか。それで、教皇はなんと?」
「うむ。クライオスに――ではなく。お前達に二人にだが……『直ちに
「教皇の間に、だと?」
「……新たな任務でも与えられるのか? しかし、それでも黄金聖闘士が二人同時にとは」
アルデバランから伝えられた教皇からの勅命。
その内容は普通に考えれば、ちょっと考えられないような内容であった。
大抵、教皇の間に聖闘士が呼び出しを受ける時は直接命令を伝えられる時だけである。
……まぁ、その理論で行くと殆ど全員の黄金聖闘士が絡んでいる『俺』の育成は、聖戦並みの厄介さを持った案件となってしまうのだが。
とは言え、そのことに関しては深くは考えまい。
今は常識的な観点から、二人の黄金聖闘士が喚び出されたことについて考察するべきだろう――
「――で、だ。ソレにともなって、クライオスの監督係を俺が受け持つことになった」
「はぁ!?」
「なんだと?」
「コレは他の者達と協議をした結果でも有る」
胸を張って言い放ったアルデバランに対して、やはりと言うかなんというかデスマスクとアフロディーテは表情を強ばらせてしまう。
そして『ゴゴゴゴゴ』とでも言うように、互いの中間地点に有る空間が歪んでいってしまうような感覚がした。
とは言え、だ。
俺からするとアルデバランが同行者に成ってくれるのであれば諸手を上げて賛同したい。修行内容に関してはアルデバランも他の黄金聖闘士と同じで似たり寄ったりな内容なのだが、しかし性格面のことを考慮して日常的な部分を盛り込んで考えれば俺の師匠連中の中ではダントツで常識人だろう。
まぁ、頭に『比較的』といった修飾語が付くのだが。
「まぁまぁ、二人共。アルデバランを睨んでも仕方が無いでしょう? 教皇の勅命だというのなら、基本的にはソレを順守しないと」
「そりゃそうだがな」
「クライオス、
「え? そんな、まさかぁ」
思わず溢れる笑みを隠そうともせずに、俺は二人の説得へと回る。
とは言え、説得と言っても聖闘士は教皇の命令には忠実でなければならないのだ。余程のことがない限りソレを無視することは出来ない.
そういう意味では
「――はぁ。まぁ、仕方が無いな。教皇の命令には逆らえん」
「クソ。折角興が乗ってきたってところなのによ」
文句をいうようにしながらも、取り敢えず納得をする二人。
だが、興が乗ってきたというのが俺が空を飛ぶことなのだとしたら、もう少し控えて欲しいものである。
「おい、アルデバラン! クライオスに余計なこと仕込みやがったら只じゃ置かねぇからな!」
「要らぬ心配だな。俺とて黄金聖闘士の端くれだぞ?為になることなら教えもしようが、その逆のことなど有り得ぬ」
「ふん、ソレはまた随分な自信だなアルデバラン」
「自信がなければ引き受けたりはせん」
バチバチと言葉のやり取りをする3人の黄金聖闘士。
あの連中、時折にやたら仲が良さそうに見える時もあるのに、基本的にはあんな感じだよな?
どうしてだろうか?
――――まぁ、良いや。きっと照れ隠しか何かなのだろう。
あれ?
アルデバランが来て、聖衣の修復を最初に促していたってことは、俺はコレからアルデバランとジャミールに向かうってことか?
……俺の休暇の割当は、カノン島での療養と聖衣の修復で――え?
もしかして、コレで俺の療養期間は終わりなのか?
…………え?