大丈夫だ、問題しかないから。-Blue trajectory- <1st Season>   作:白鷺 葵

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2.トリオ、プラスワン

 ビリー・カタギリの研究室に足を運ぶとき、クーゴはいつも差し入れを持っていく。

 

 今日の差し入れは肉じゃがメインだ。付け合わせとして、秋刀魚の胡麻焼き、しらすと三つ葉の梅和え、シークァーサーを使ったトマトの砂糖漬けを用意した。肉じゃがの味付けが濃い目なので、さっぱりとしたものを中心に取り揃えた。

 秋刀魚の胡麻焼きは大根おろしと一緒に食べる。しらすと三つ葉の梅和えは、醤油ではなくポン酢醤油を少量かけた。トマトの砂糖漬けはレモンを使おうと思っていたのだが、部下のアキラ・タケイからシークァーサーのおすそ分けを頂いたため、レモンの代用品として使用したものだ。

 

 研究室に缶詰状態がデフォルトとなっているビリーのことを考えると、まともな食べ物を食べてなさそうである。

 親戚に研究者をやっている人がいるが、その人物も「三度の飯より研究が好き」なタイプで、食事を抜くなんて当たり前らしい。

 

 

「ところでビリー。今朝は何を食べたんだ?」

 

「ドーナッツだよ」

 

「昨日の晩御飯は?」

 

「ドーナッツだね」

 

「昨日の昼御飯は」

 

「ドーナッツだけど」

 

「お前ドーナッツ大好きだな。太るぞ」

 

「キミは時々失礼なことを言うね」

 

 

 案の定。見事なテンプレート回答である。思わずぼやいたクーゴに、ビリーはむっとした顔でこちらを見上げた。

 血糖値やメタボリックで引っかかりそうな食事内容だ。よくよく観察してみると、前より腹部がたるんでいるような、いないような。

 

 クーゴの思考回路を目ざとく読み取ったようで、ビリーの眉間の皺が数割増しになった。ジト目で見られ続けるのは居心地が悪い。さっさと本題に入る。

 

 

「まともなもの食べてなさそうだと思ってな。差し入れだ」

 

「わぁ、ありがとう! 今日も豪勢だね! おいしそうだなぁ」

 

 

 ビリーが嬉しそうに目を輝かせた。持ってきていた割り箸を彼に手渡し、来客用のテーブルの上に差し入れを並べる。予め多めに作ってきたため、あと数人分余っていた。

 保温性に優れた容器のため、開けた途端に湯気が漂う。肉じゃがの甘じょっぱい香りに、ビリーが頬を緩ませた。どうやら見た目は合格点のようだ。問題は味である。ビリーは鼻歌を歌いながら、小皿におかずを取り分ける。

 処刑台に立たされたような気分でビリーの横顔を見ていたクーゴだが、それは杞憂だったらしい。肉じゃがを一口食べたビリーは早いペースで食べ進めていく。うん、うん、と頷きながら、彼は小皿に取り分けた料理すべてを完食した。

 

 

「おいしかった。ごちそうさま」

 

「いい匂いがすると思ったのだが、やはりそうだったか。相変わらずうまそうな差し入れだのう」

 

 

 満足げに箸をおいたビリーと入れ替わるように、研究室の扉が開いた。やって来たのは、白髪が目立つ老紳士だ。

 

 彼はレイフ・エイフマン。ユニオンフラッグの開発者であり、MS開発や機械工学の権威である。教授としても名高く、優秀な教え子を多く輩出していた。ビリーも彼の教え子の1人であり、MS開発に取り組む仲間でもあった。

 エイフマンは朗らかに笑い割り箸へと手を伸ばす。ぱきん、と気持ちいい音を響かせて、割り箸が真っ二つに割れた。今日はきれいに割れたと満足げに頷き、迷うことなく肉じゃがへと箸を進めた。皿にとりわけ、ぱくりと一口。ほふ、と息が漏れた。

 

 ほくほくに煮えたじゃがいもの味を楽しみつつ、エイフマンは箸を進めていく。時折付け合わせの品に箸を伸ばしては、目を細めて頷いた。

 

 

「年寄りには少々味付けが濃すぎると思ったが、付け合わせがさっぱりとした味付けのものだからかな。思った以上に箸が進むよ」

 

「それはよかった。おかわりは充分あるので、どうぞ」

 

 

 クーゴはほっと息を吐き、肉じゃがの入ったお弁当箱を指し示した。

 刹那、ちょうどいいタイミングで、また研究室の扉が開く。

 

 

「カタギリー! グラハムフィンガーはどうなった? 打てそうか?」

 

 

 扉を吹き飛ばしかねない勢いでやってきたのは、我らがグラハム・エーカー中尉である。彼はビリーのほうへ突っ込んでいこうとし、エイフマンの姿を確認してぱっと表情を輝かせる。

 「プロフェッサー! 来ていたのですか」と笑うグラハムを見ていると、なんとも微笑ましい気分になった。この男は、『男の子』という言葉を地で行くような所がある。子どもがそのまま大人になったような、不釣り合いな姿。彼の若さはここからきているのかもしれない。

 彼はしきりに『グラハムフィンガー』を連呼する。この前見た虚憶(きょおく)に深い感銘を受けたらしく、技術者連中に『グラハムフィンガーが打ちたい。だから、それを打てるようにMSを改良してほしい』と方々に掛け合っていた。

 

 この『グラハムフィンガー』、出典元があったはずなのに、いつの間にか周囲からは『グラハムが見つけた新技』という扱いを受けている。先日の虚憶(きょおく)はすっかり忘れてしまったため、技の正式名称が思い出せない。

 虚憶(きょおく)をなくす前に、その場に居合わせたビリーへ『本当の技名』を告げていたらしいのだが、それが正式名称かと問われると答えられなかった。どうしてあのとき記録しておかなかったのか。悔やんでも後の祭りであった。

 

 このままでは始末書どころの騒ぎではない。下手すれば裁判になる。

 いいや、あの“持ち主”のことだ。MSを用いた戦いで公正な決着をつけようとするだろう。

 グラハムも、勝負の申し出を大喜びで受けて立ちそうだ。考えるだけで胃が重くなってきた。

 

 

(そういえば、AEUのほうでMSファイトが行われたらしいな)

 

 

 クーゴはふと、数日前の出来事を思い出す。身内が酔っ払いながら連絡してきたことだ。

 数日前のニュースで見た『日本発祥のMSファイトが、現在AEU内で大人気のスポーツになっている』という話題と関連している。

 

 MSファイトとは、専用のスタジアムで行われるMS同士の戦いのことだ。『頭部を破壊されたら失格』、『相手のコックピットを攻撃してはならない』などの特別なルールに従い、トーナメント形式で試合が進められていく。決勝戦はバトルロワイヤル方式になるそうだ。試合前に「MSファイト、レディーゴー!」という掛け声をかけ合って試合を開始するのが一般的だ。

 

 大手民間企業のMS開発者と会社から選出されたテストパイロットが奮闘する一般部門、軍に所属するMSパイロットの試金石を兼ねたプロ部門に分かれており、優勝すると様々な恩恵が受けられる。一般部門で入賞した企業であれば取引が増えるだろうし、プロ部門で好成績を残したパイロットの場合は未来のエース候補として注目されるといった具合にだ。

 身内にAEUの大手商社に勤める人間がいるが、彼女の勤める会社がMSファイトの一般部門に出場したそうだ。結果は文句なしの優勝。「遠距離からのバラ撃ちと零距離射撃による肉薄で意表を突く戦い方が云々」と語っていたか。確か、テストパイロットを買って出たのは(身内曰く)イケメンの営業マンだったという。

 そういえば、いつぞや行われたプロ部門の大会では、パトリック・コーラサワーというパイロットが圧勝したらしい。インターネットでヒーローインタビューを見たのだが、終始『俺はAEUの、超ウルトラスーパーなエースパイロット、パトリック・コーラサワー様だ!』云々と叫び散らしていた。彼がエースで大丈夫なんだろうか、と、AEUを本気で心配したのはここだけの話である。

 

 閑話休題。

 

 

「……そうか。まだ、実装には至らないか……」

 

 

 グラハムが肩を落す。ビリーとレイフマンから懇切丁寧に「無理だ(意訳)」と説明を受けたためだろう。

 落ち込んでいたグラハムであるが、クーゴが持ってきていた差し入れを視界に入れた途端に顔色が変わった。

 

 

「おお! 今日は和食なのだな!! ええと……」

 

「いただきます、だ」

 

「それだ。イタダキマス」

 

 

 グラハムは満面の笑みを浮かべ、手を合わせた。割り箸と皿へ手を伸ばした。べきょ、という嫌な音がした。

 きれいに割れたエイフマンとは違い、グラハムの割り箸はいびつな割れ方をしていた。彼はむっとした顔で割り箸を睨む。

 クーゴは苦笑しながら別の割り箸を差し出した。再びグラハムが割り箸を割る。べきょ。やっぱりいびつな形に割れていた。

 

 むすっとしたグラハムに、クーゴは持ってきていたすべての割り箸を差し出した。

 それを受け取ったグラハムは、再び割り箸を割り始める。

 

 べきょ、べきょ、べきょ、べきょ、べきょ、べきょ、べきょ、べきょ……。

 

 グラハムが割り箸と格闘する音をBGMにしつつ、クーゴは端末をいじった。

 インターネットのコミュニティサイトにアクセスし、メッセージに目を通す。

 

 新着メッセージが届いていた。送り主は『エトワール』。リアルタイムの媒体でないにもかかわらず、ヴィジョン共有現象を起こすことができるコーヴァレンター能力者。

 彼女と接触するため、クーゴは『夜鷹』というハンドルネームで動画を投稿している。『エトワール』との交友は、インターネットと歌声越しであるが、進んでいた。

 メールの文面から察するに、彼女は積極的に『夜鷹』であるクーゴに話しかけようとしていた。まるで、『エトワール』がクーゴと接触しようとしているかのように。

 

 最初は動画を一本投稿した後、彼女にメッセージを送ろうと思っていた。『貴女に憧れて歌い手になりました。よろしくお願いします』という内容で。しかし、それよりも、彼女がこちらにメッセージを送って来る方が早かった。

 

 

『貴方の歌声、とても素敵です。もう少し低音を丁寧に歌い上げると、もっと良くなりますよ。これからも頑張ってください。応援しています』

 

 

 思い描いていたシナリオとは違ったが、彼女と接点を持つという目標は達成できた。なんとも好調な滑り出しである。

 おまけに、『エトワール』は何を思ったのか、『夜鷹』に歌い方のレクチャーをしてくれたり、『夜鷹』の動画を宣伝し始めたりした。

 

 おかげで『夜鷹』の動画は注目を浴びるようになり、ネットユーザーから支持を得るようになった。結果、『夜鷹』は『エトワール』に次ぐ人気の歌い手へと成長してしまったのである。

 

 

(……コレジャナイ感が満載だが、仕方ないか)

 

 

 べきょ。

 

 最後の割り箸が割れる音がした。

 視界の端で、グラハムががっくりと肩を落とす。しかし、彼は諦めない。

 

 

「この程度の道理、私の無理でこじ開け「やめんか」

 

 

 何かしようとしたグラハムをたしなめる。彼が道理をこじ開けようとした場合、何が起こるかわからないからだ。それは、どんな些細なことでも当てはまる。今回は、運よく未遂で済んだらしい。

 萎れた花のように俯いた友人に、クーゴは菜箸を差し出した。エイフマンは既に肉じゃがと付け合わせを食べ終えているし、クーゴも昼ご飯を食べ終えている。だから、このお弁当に入っているのは、実質的にグラハムの分になるのだ。

 グラハムは眉間にしわを寄せて菜箸を凝視したが、諦めることにしたようだ。渋々といった調子で菜箸を受け取り、ややおぼつかない手つきで肉じゃがへと箸を伸ばす。じゃがいもが真っ二つに割れた。もう一度箸で掴もうとしたグラハムであるが、じゃがいもは4分の1サイズになっただけだった。

 

 じゃがいもはどんどん細かくなっていく。これ以上は埒が明かない。

 クーゴは苦笑した後、持ってきていた使い捨てスプーンを差し出す。

 

 

「撤退も兵法の一つだぞ、グラハム」

 

「私もまだまだ未熟。修行が足りないか……」

 

 

 グラハムは恨めしそうにため息をついた。そのままスプーンで肉じゃがを口に運ぶ。そのしかめっ面は、あっという間に笑顔に変わった。

 

 彼は恐ろしい勢いでおかずにスプーンを伸ばし、料理を口に運ぶ。料理があっという間に消えていくのは、見ていてとても気持ち良かった。

 クーゴはそれを横目に、再び端末を確認する。『エトワール』からのメッセージがディスプレイに表示されていた。

 

 

『貴方の動画、拝見しました。どんどん上手になっていきますね。貴方の歌を聴いていると元気が出ます。これからも頑張ってください、応援しています』

 

 

 そんな風に言ってもらえるだなんて。思わず表情が緩む。が、クーゴはゆるゆる首を振った。いつの間にか、本来の目的を忘れそうになっている。

 余程、自分は『エトワール』との接触に心躍らせていたのだろう。気を引き締める。トラップに引っかからないよう、細心の注意を払わなければならない。

 クーゴは睨みつけるようにして端末を凝視する。気を緩めてはいけない。薄氷を履むが如く、慎重に進まなくては。クーゴは自分自身に言い聞かせた

 

 

「ところで、『エトワール』とのコンタクトは進んでいるのかい?」

 

 

 ビリーの問いに、クーゴは曖昧に笑った。

 

 

「ぼちぼちな。この調子で交流を重ねていけば、『コラボ企画』と称してオフで会うチャンスが得られるかもしれん」

 

 

 端末にメッセージを打ち込みながら答える。思えば、メッセージ1つ考えるのに長い時間をかけるようになった。

 

 サイバー捜査官や上司に内容についてのアドバイスを仰ぎ、何度も本文を推敲し、送信ボタンを押すまで若干躊躇いを覚える。後者2つを零したら、周囲の眼差しが生暖かくなってきた。理由はよくわからない。誰に訊ねても曖昧に笑うのみであった。

 このことについて一度、グラハムが何かを言いかけたことがある。しかし、彼はその場に居合わせたビリーとエイフマンに拉致されてしまった。しばらくして戻ってきたのだが、グラハムは『やはりそれは、キミがキミ自身で考え、答えを出すべきことだ』と心底意地の悪い笑顔を浮かべていた。やけに爽やかだったのが印象に残っている。

 クーゴはちらりとグラハムを見た。彼はスプーンを置き、両手を合わせて頭を下げる。テーブルの上には空っぽになった弁当箱が鎮座していた。

 

 

「ご、ご、ゴツ……違う。ええと、ご、ゴチ……ゴチソウ、サマ? クーゴ、これで合っているのか?」

 

「ああ。正解」

 

 

 拙い発音であったが、グラハムは確かにそう言いきった。真顔で頷けば、奴は嬉々と笑った。自慢げに、何度も復唱する。

 この男、以前から日本の風習に興味があったようだ。グラハムを日本かぶれにしてしまった戦犯を挙げるとしたら、間違いなくクーゴとビリーがダントツだろう。次点でホーマー・カタギリ氏か。

 

 ビリーやホーマー氏の日本文化像は、外国人から見た脚色が多分に含まれていた。日本人であるクーゴが眉間にしわを寄せて「それは違うぞ」と苦言を呈する程に。

 

 思い込んだら突っ切ってしまいがちなグラハムに、偏った知識ほど危険なものはない。ホーマー氏の影響を多分に受けたアレンジ武士道やなんちゃって日本文化に適宜テコ入れをするのもクーゴの役割であった。

 最も、クーゴが自国の歴史を見直すようになったきっかけは、グラハムのアレンジ武士道となんちゃって日本文化の内容に度肝を抜かれたからである。おかげで随分と日本神話や日本の歴史に関する本を読み漁った。

 グラハムに偏った知識を提供してしまわぬよう、様々な文献を読み込んだものだ。ときには、彼に書籍を紹介したこともある。自他ともに我慢弱いと認められたグラハムに根気よく説明するのは、本当に骨が折れた。

 

 現在進行形で、クーゴのテコ入れは続いている。

 しかし、彼の日本関係の知識は、以前よりも大分マシになったとクーゴは思う。

 

 

「一度、きちんと言ってみたかったんだ。『イタダキマス』や『ゴチソウサマ』は、食材に宿っていた生命(いのち)に対する、最大限の敬意を表す言葉だからな」

 

 

 綺麗に発音できるぞ! と、グラハムは自慢げに胸を張った。ビリーとレイフマンは、そんな彼を見て目を細める。

 こういうところがグラハム・エーカーの魅力なのだろう。クーゴは緩やかな笑みを浮かべ、頷いたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今、自分たちの前に立ちはだかっているのは亡霊だ。同じ日本人として、けれども生きた時代の違う者として、クーゴは強くそう思う。

 オーラ力を原動力にする機体の中で、オウカ■■は一際異彩を放っている。ホウジョウ兵の■■デンより、サイズも機体性能も圧倒的に上だ。

 

 

「あのオーラ、憎しみに染まっている……」

 

「それでも、私は絶対に引かない! 私たちの帰る場所を守る!」

 

 

 聖戦士の力を有するオーラバトラーたちが戦慄した。バイストン・ウェル帰りの翔□も、ほんの一瞬だがたじろぐ。彼女はすぐに屹然とした眼差しで、核を爆発させようとするサコ□□王を睨みつけた。

 いいや、□子だけではない。竜宮島の子どもたち全員が、自身の故郷を守るために戦っている。故郷を守るためには『憎い“あん畜生”も一緒に守らねばならない』というのが癪だが、それでも彼らは引くつもりがないようだった。

 クーゴはちらりと戦艦を見る。竜宮島程度の島なら簡単に吹き飛ばせる核兵器が搭載された艦だ。島にいる者だけでなく、この場にいる者も無事では済まないだろう。核兵器を爆発させることなく“あん畜生”だけを粛清できたらいいのに。

 

 クーゴのぼやきが漏れてしまったのか、グラハムのため息が聞こえた。

 彼もまた、“あん畜生”のせいで空を飛べなかったことがある。しかし、グラハムはそんなこと関係なしに、戦艦を守るため尽力していた。

 

 

「余計なことを考えるとは、キミらしくないぞ!」

 

「お前にだけは言われたくなかったな。さっきからチラチラとア■■ィスの方ばかり見てるようだが!?」

 

 

 ちなみにこれは、ホウジョウ兵をサーベル/ブレードで切り捨てながらの会話である。

 

 どこもかしこも戦場だ。その中でも一騎当千の活躍を見せるのは、ファ■■■を駆る竜宮島の子どもたち。彼らの間を縫うようにして、エイ□□プの駆るナ■ジンと□ュ□スの駆るギム・■■ンが、□コミ□王の元へと飛び出していく。

 しかし、■■カオーは彼らに一切の興味を示さず、核兵器と“あん畜生”が乗る戦艦へと突っ込んでいった。周囲の敵の撃退に追われていたアルティメット・■■スの面々は反応が遅れてしまう。□□ミズ王を止めようとした者たちも、他の兵士たちに阻まれた。

 クーゴとグラハムの前にも兵士たちが突っ込んでくる。通信機越しに顔を見合わせた2人は、即座に操縦桿を動かした。コックピットにGがかかるが、初期のカスタムフラッグと比較すればまだマシな方だ。ホウジョウ軍の追撃を難なく躱し、機体を変形させる。そのまま、戦艦の前へと躍り出た。

 

 自分たちの機体は、高機動戦闘を得意とする設計となっていた。似たような機体では、アル□のデュ□□ダルが挙げられるだろう。

 このまま突破口を切り開く。王の足止めも兼ねてだ。クーゴとグラハムの機体は、互いに背を向け合った状態でGNビームライフルを撃ち放った。

 

 複数の敵が巻き込まれ、なぎ倒されていく。しかし、サコ□□王は真正面から砲撃を受けたにもかかわらず平然としていた。

 

 

「何っ!?」

 

 

 嘘だろおい。

 

 クーゴがその言葉を紡ぐよりも早く、オ□カオーが肉薄する。

 

 

「どけ、この売国奴がァァ!」

 

 

 太刀が振り下ろされた。防御の構えを取る間もなく、肩に一撃喰らってしまう。風圧で地面へと叩きつけられそうになったが、寸でのところで立て直した。

 DENGERの赤い文字が点滅し、けたたましい警告音が鳴り響く。どこかで火花が散る音がした。グラハムや仲間たちが名前を呼ぶ声に、どうにか返事を返す。

 視界の端に見えたのは、戦艦へと肉薄する■ウカ■ーの姿。□□サッ□の駆る■ナ■■が王の機体を追うが、もう間に合わない。

 

 戦艦に、容赦なく刀が振り下ろされる。その一撃は、飛び出してきた『盾』によって阻まれた。

 

 突然の乱入者に、サ□ミズ王は大きく目を見開く。自分の攻撃を防がれたことと、それをやってのけたのがまだ10代後半の子どもだという事実が原因だった。

 特攻隊に志願した兵士たちの年齢は、10代後半から20代ごろが多かったと言われている。もしかしたら□□ミズ王は、少年兵が飛び立つ現場に居合わせたことがあったのかもしれない。

 

 

「ダ、ダメなんだ……! あの中の核兵器が爆発したら、島までなくなっちゃう!」

 

 

 ゴウバインの仮面を外した少年の声は、みっともないほど震えている。

 しかし、彼は決して逃げなかった。王の大義と妄執に、全身全霊を持ってして立ち向かう。

 

 

「あそこには、僕の……!」

 

 

 刀と盾が激しくぶつかり合い、火花が散る。

 

 

「僕の大切な友達がいるんだッ!!」

 

 

 少年の悲痛な叫びに、サ□□ズ王は躊躇うように呻いた。子どもとやり合うのは本意でないらしい。王は少年を、切り払いで弾き飛ばす。

 王の激昂は“あん畜生”へと向けられる。少年を盾にして逃げようと画策したことは、確かに許しがたいことだ。だが、核兵器を爆発させる理由にはならない。

 “あん畜生”の弱弱しい声が聞こえた。オウカ■■が戦艦に肉薄する。怒りによってオーラを纏った太刀が、容赦なく振り下ろされる。阻むものは、今度こそ何もない。

 

 “あん畜生”が悲鳴を上げた。最悪の末路が脳裏をよぎる。

 しかし、王は寸でのところで太刀を止めた。

 

 

「誰だ……私に呼びかける者は!?」

 

 

 サ□ミズ王が問いかける。答えたのは、二度と声を聞けないと思っていた人物。昏睡状態に陥っていた『彼女』。

 

 グラハムが笑う。こうなることを予め予測していたかのように。

 ああ、だから奴はしきりに■■ヴィスを見ていたのか。理由さえわかれば、あまりにもわかりやすい行動だった。

 愛おしげに目を細めた視線の先に、青い機体が降り立つ。我慢弱い男は耐えきれなくなったのだろう。

 

 

「随分と遅いお目覚めだな、少女!」

 

 

 待ちくたびれたという気持ちを前面に押し出して、奴はいつものテンションで叫んだのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『で、どう思う?』

 

「バリバリですねー」

 

 

 端末を片手に、青年は真顔で答えた。

 

 

「潜在能力はおそらく青。その中でも、虚憶(きょおく)保持数や共有および感応能力は、青の中でも上位に入るかと思われます」

 

 

 現在、青年が視聴しているのは、『夜鷹』が投稿した動画である。彼が投稿した動画は、今回で15本目だ。

 青年もまた、共有者(コーヴァレンター)であった。特に、『同胞』を見分けたり、『同胞』の能力を正確に把握することに長けている。

 

 

「彼は『エトワール』の投稿動画を見ただけで『同胞』だと勘付いたんですよね?」

 

『ええ』

 

「歌を聞く限り、『夜鷹』氏は無自覚に能力を発現させているみたいです。『同胞』だからこそわかります」

 

 

 青年はもう一度動画を再生した。

 

 特攻隊、桜花王、オーラバトラー、あん畜生、竜宮島、ファフナー、ゴウバイン。断片的に見えた虚憶(きょおく)を確認し、もう一度記録する。

 『夜鷹』氏の能力は、確実に開花しつつあった。完全覚醒まで時間はかかりそうだが、彼の能力は最高値の青。目覚めれば、最強の一角を担う者になるだろう。

 そして彼こそが、自分たちの計画に欠かせない人物。自分たちが必死に探している人材だ。まさか、その人物の立場が『ユニオンの軍人』だとは思わなかったが。

 

 ふと、時計を見る。もうすぐスポンサーが顔を出す時間だ。

 奴の思念も近づいてくる。青年は舌打ちした。

 

 

「後で連絡します」

 

『わかった。コンサート、頑張ってね』

 

 

 連絡を終えて端末をしまう。それと入れ替わるように、扉がノックされた。

 現れたのは、スーツ姿の中年男性。ブラウンの長い髪を束ねた彼は、紳士を思わせるような微笑を浮かべて声をかけてくる。

 青年は営業スマイルで答えた。中年男性に付き従う緑色の髪の青年に会釈し、他愛もない雑談に興じる。

 

 中年男性の名前はアレハンドロ・コーナー。彼に付き従う青年は、リボンズ・アルマーク。

 2人とも、青年の歌手活動をバックアップしてくれる大切なスポンサーだ。

 

 

「テオさん、そろそろです。準備の方をお願いします」

 

「はい。今行きます」

 

 

 休憩時間は終わりだ。青年――テオ・マイヤーは立ち上がった。煌びやかなステージ衣装を身にまとい、ステージへと出陣する。

 スポンサーのアレハンドロには仮面の笑みを、奴に付き従うリボンズには悪戯っぽい笑みを送り、テオは控室を後にした。

 

 ステージに出る。スポットライトと歓声が、惜しみなくテオに向けられた。

 

 音楽が鳴り響く。ざわめく声はヒートアップし、たくさんのペンライトが激しく揺れた。

 そのすべてに答えるため、テオは満面の笑みを浮かべて腕を突き上げた。

 

 

「カイメラ隊はー?」

 

「病気ー!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 リボンズ・アルマークは、特等席に座っていた。

 はっぴにうちわとペンライト。どこからどう見ても完全装備だ。

 

 

「あんな偶像(もの)の何がいいんだか」

 

 

 隣に座らせられてしまったアレハンドロ・コーナーの愚痴が聞こえた。リボンズはあえて無視する。

 

 他の面々は戦争に負け、一番遠い席か安い席に座っていた。脳量子波を通じて、『見えない』『見にくい』『前の奴が邪魔』『双眼鏡』等、苛立ちの声が響いてくる。

 しかし、ステージが始まった瞬間、面々の声はぴたりと止んだ。脳量子波を通じて、音楽と歌詞が流れてくる。振り付けの内容もだ。

 アレハンドロがうっとおしげにステージを眺める横で、リボンズは一心不乱に声援を送った。隣の奴はどうでもいい。

 

 

「所詮は俗物か」

 

 

 忌々しげな声がした。さりげなく、リボンズはペンライトでアレハンドロの頭をはたく。流れるように自然な動作で、だ。

 アレハンドロがこちらを見上げたが、リボンズはそ知らぬ顔で踊り続けた。踊り狂うリボンズを見たアレハンドロはがっくりと肩を落とす。

 

 どうやら諦めたようだ。リボンズは鼻で笑い、ステージへと視線を向ける。

 

 

「まあいい。使えるものは使わせてもらおう」

 

 

 その言葉、そっくりそのまま返してやる。

 リボンズは心の中でそう呟き、今度は奴の足を思いっきり踏んづけてやったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 このときのクーゴ・ハガネはまだ知らなかった。

 

 

 

 

 

 

 

「お前、ボロクソに言いすぎだぞ。あのときはデザイン以外何も言わなかったじゃないか」

 

「当然だ。AEU、ひいてはOZに所属するゼクス・マーキス特尉がいる前で、流石にうかつなことなど言えんだろう」

 

「えっ? ……グラハム、OZって何だい? ゼクス特尉って……そんな人AEUにいなかったはずじゃ」

 

「ああ、彼は私の友だ。プリペンター・ウィンドを名乗っていてな」

 

 

「…………む? 私は何を言っているんだ?」

 

 

 友人に、何やら変化が起こっていることを。

 

 

 

 

 

「『不死身』……」

 

「へ?」

 

「いや、君の二つ名ではなかったかな、と……」

 

「『不死身のコーラサワー』……なんか、かっこいいな! エースパイロットの俺様にこそ相応しいっ!!」

 

「だな。自爆してもちゃんと帰ってきたんだし、傍にいた人間すら不死身にしたんだし」

 

「えっ」

「えっ」

 

 

 噂のAEUエースパイロットと、長い付き合いになることを。

 

 

 

 

 

 

「僕はね、ずっと楽しみにしていたんですよ。貴方を堂々と叩き潰せる、この瞬間を!」

 

「はじめましてこんにちわ。……そして、永遠にさようなら」

 

 

 真の監視者が、ずっと監視を続けていたことを。

 

 

 

 

 

 

 

「アタシは好きに生きるの。楽しいことをするのに、大義名分なんて必要ないでしょ?」

 

 

「アタシはね、楽しければいいの。アタシが一番になれるなら、なんだっていいの。だって、世界はアタシのために存在するんだから」

 

 

 

「こんの、ド外道がァァァァァァァッ!!」

 

 

 世の中には、どこにでも“あん畜生”と同じ人種が存在していることを。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

クーゴ・ハガネの災難が始まるまで、もう少し時間がかかるようだ。




【参照】
COOKPADより
『秋刀魚のごま焼き』(ゆうゆう0221さん)、『ヒヤッと冷たいトマトのシークァーサー漬け』(あまさもんさん)、『しらすと三つ葉の梅和え』(mikekkeさん)

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